32 / 114
32.逃げてる気なんかねーよ!
しおりを挟む全員でケーキを注文して、テーブルの上にいくつもそれが並ぶと、何をしにきたのかすっかり忘れてしまいそうだ。
ディゲーアは、このあたりの美味いケーキの店をいくつも知っていて、それを俺らに教えてくれた。
こんなことしていると、目の前でケーキ食ってる奴が、あのムカつく国王のところから来たなんて、信じられなくなりそう。
「なあ、ディゲーア!! お前、なんであんな奴に仕えてるんだ?」
「あんな奴と言うな。国王陛下だぞ。王城なら不敬罪になっている」
「ここは温泉で、城じゃねーからいいだろ?」
「城でなければいいというわけではない……」
「それに俺、とっくにすげー無礼だし!! なあ!! お前も今日ここに泊まるのか?」
「その予定だ。それよりお前たち、逃げ切れると思っているのか? 今投降すれば、惨たらしい処刑だけは避けられるかもしれない。俺と共に王城に来い」
「飲み物何にする? 紅茶にコーヒー……ジュースにするか……」
「……食事の話はいい。逃げ切れるはずがない。投降しろ」
「なーんで逃げ切れないなんて分かるんだよ。お前、国王から逃げたことねーくせに」
「……確かにないが、お前は人族で、ヴァンケズは魔力を封じられている。いずれ追っ手も増える。王城で爆破を起こしたお前を、陛下は決してお許しにならない。今すぐに王城に戻り、罪を認めて謝罪しろ。そうすれば、拷問は避けられるかもしれない」
「なんで俺が謝るんだよ? ヴァンケズをなぶり殺しにしようとした奴に、俺は死んでも頭なんか下げねーよ」
「…………」
「それに、さっきから逃げ切れる、とか言ってるけど、俺、別に逃げてる気ねーし。俺はただ、好きなように生きてるだけだ! せっかくここに来たんだからな!!」
「……今は見逃す。朝までに、ゆっくり考えるといい…………」
「もう考えた。行かねえ」
「もう少し考えろ!! 俺と王城に来ると言うなら手荒な真似はしないし、陛下にも減刑を進言すると約束する!!」
カッとなったのか、ディゲーアはテーブルをたたいて立ち上がる。
当然、俺も応戦して掴みかかった。
「じゅーぶん考えた!! これ以上考えらんねーー!! だいたい、手荒な真似はしないって、おかしいだろ! フィエズート使って俺らを襲ったの、お前だろーが!!」
「ちょっと……! やめろよ!! 他のお客さんに迷惑!」
フィエズートに言われて、俺もディゲーアも座った。
だけど、俺らが大声出してるのに、周りの客は全くの無視。まるで聞こえてないみたいだ。
不思議に思っていると、ヴァンケズがにっこり笑って言った。
「この席の周りに結界を張った。二人の声は、この席についた俺たち以外には聞こえないから、大丈夫だよ」
「ヴァンケズ……」
「リューオ、絶対騒ぐと思った」
ヴァンケズにそう微笑んで言われると、少し恥ずかしい。そんなことまで見透かされていたのか……
ディゲーアも席について、今度は声を小さくして言った。
「……フィエズートを使ったのは、ヴァンケズの封印を確かめたかったからだ。そして分かった。お前たちに勝ち目はない。明日の朝まで待つ……よく考えるといい」
「すっげー考えた。あのムカつく国王にヴァンケズはやらねー」
俺が即断ると、そいつは嫌な顔をするが、何度言われても俺は絶対に戻らないし、ヴァンケズもあの城になんか連れて行かない。
「俺は行かねえよ! 帰ってあのムカつくクソ国王にそう伝えろ!」
「お前たちを拘束するまで帰れない! もっと考えろ!!」
「あんな奴のために、なんで俺が考えなきゃならねーんだよ!! めんどくせえ!」
「面倒くさくても考えておけ! 後少しでいいから!!」
そう言って、ディゲーアは立ち上がり、伝票を手に取った。
「……ここは俺が持つ」
「あ? なんでだよ?」
俺が聞くと、そいつは俺たちに背を向けた。
「……王城に行けば、こんなこともできなくなる……今のうちに楽しんでおけ…………」
言いたいことだけ言って、そいつはカフェを出て行った。
「なんだよ……あいつ…………やっぱりいい奴だな!!」
俺が言うと、ヴァンケズは苦い顔で首を横に振る。
「なんでそうなるの……? あいつは俺たちのこと、拘束しにきたんだよ?」
「だけど、無理矢理連れて行こうとしたり、襲って来たりしねーじゃねーか。それに、お前のこと、心配してんじゃねーのか?」
「……」
「それに俺ら、誰が来ても何言われても拘束なんかされねーし!! 城にも戻らねー!! だろ? ヴァンケズ!」
「……全く、リューオは…………そういうところがいいんだけど。そろそろお風呂、行こうか。温泉、入るんだろ?」
「そうだな! 行こうぜ! フィエズート!!」
俺が立ち上がると、フィエズートも少し戸惑った様子で立ち上がる。
「お前、本当に能天気……あいつも王家の魔法使いなのに……なんでそんなに危機感ないの……」
「そんなの、危機じゃねーからに決まってるだろ! 行くぞ!! ヴァンケズ!!」
今度はヴァンケズに振り向くと、彼はいつもみたいに微笑んで「うん」って言ってくれた。
134
お気に入りに追加
399
あなたにおすすめの小説
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
竜の溺愛が国を救います(物理)
東院さち
BL
エーリッヒは次代の竜のための後宮で働いている唯一の男だ。本来、竜が番を娶るための後宮は女しか住むことができない。けれど、竜であるリュシオンが許してくれたお陰で楽しい日々を暮らしていた。
ある日大人になったリュシオンに「エーリッヒ、これからは私の相手をしてもらう。竜の気は放置しておくと危険なんだ。番を失った竜が弱るのは、自分の気を放てないからだ。番にすることが出来なくて申し訳ないが……」と言われて、身代わりとなることを決めた。竜が危険ということは災害に等しいことなのだ。
そして身代わりとなったエーリッヒは二年の時を過ごし……、ついにリュシオンの番が後宮へとやってくることになり……。
以前投稿した作品の改稿したものです。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。
にのまえ
BL
バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。
オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。
獣人?
ウサギ族?
性別がオメガ?
訳のわからない異世界。
いきなり森に落とされ、さまよった。
はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。
この異世界でオレは。
熊クマ食堂のシンギとマヤ。
調合屋のサロンナばあさん。
公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。
運命の番、フォルテに出会えた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル変更いたしまして。
改稿した物語に変更いたしました。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
王子様のご帰還です
小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。
平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。
そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。
何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!?
異世界転移 王子×王子・・・?
こちらは個人サイトからの再録になります。
十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる