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29.状況分かってる!?

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「風呂! 風呂!! 風呂ーーーー!!」

 久しぶりの風呂が嬉しくて、タオルを持って、旅館の廊下を行く。窓の外は綺麗な庭園だ。

 隣を行くフィエズートも、少し落ち着いたらしい。初めてだと言う浴衣を握りしめて、俺の後ろをついて来る。

「……僕……温泉……初めて……」
「俺もだ!!」
「お前も!? さっきからやけに楽しそうだから、好きなのかと思ってたのに……」
「いいじゃねーか!! 初めて同士、一緒に温泉を楽しもう!!」

 フィエズートの肩を抱くと、隣にいたヴァンケズが俺の肩を抱いて、自分の方に引き寄せる。

「俺も。温泉、初めてなんだ。初めて同士、仲良くお風呂に入ろうね」
「お前もか?」
「うん……リューオと初めて一緒に風呂に入れるなんて…………嬉しい……」
「俺もだ!!」

 ヴァンケズもすげー嬉しそうだし……温泉、来てよかった!!

 俺たちが話していると、フィエズートが庭を指して言う。

「ねえ……あれ……もしかして、魔物?」
「あ?」

 フィエズートが指差してる方に振り向くと、庭の池の近く辺りを、もぞもぞと石みたいなものが動いている。よく見ると、それは草原でしょっちゅう見た泥の塊のような魔物で、池の周りを動き回っている。

 なんだよ……これから温泉を楽しもうって時に、余計なものが出てきた。せっかく泊まった宿と温泉だ。魔物なんかに邪魔はさせん!

「あんなもん、俺がぶっ壊してやる!!!!」

 俺は、窓を勢いよく開いて、庭に飛び出そうとした。
 けれどすぐにヴァンケズが俺の手を握って止める。

「リューオ!! 待って! 危ないよ!! 俺がやるから、リューオはここにいて!」
「お前だけ戦わせられるか!!」
「だって今は武器もないだろ!」
「なくてもあれくらい倒せる!」

 俺は言うが、武器がないと、確かに戦いづらい。毒草の棘の剣は折っちゃったし、武器屋に行く前にこっちに来ちゃったからなーー!!

 すると、フィエズートが風呂桶に入れていた短剣を抜いて言った。

「そいつ、武器なんかより生身で戦う方がいいんじゃない!? 強化の魔法でもかけてやれよ!!」

 そう言って、彼は庭に飛び出して行く。

「強化の魔法? そんなのあるのか?」

 ヴァンケズにたずねると、彼は少し困ったよう。

「できる……けど…………危ないよ」
「あんな魔物がいる方が危ないだろ?」
「そうだけど…………」

 彼は、悩んでいるようだった。よほど俺を戦わせたくないらしい。こいつ、相変わらず心配性だな……

 ヴァンケズは今でも俺が、特に魔物と戦うって言い出すと、ひどく心配する。魔物ってのは、いきなり凶暴化して襲ってきたりすることがあるらしい。
 草原でも、散々心配されたからなー……
 確かに、最近はヴァンケズの魔力も幾らか回復して、彼の方が効率よく魔物を倒すことができる。
 それは認めるが! こいつだけ戦わせるなんて、俺が嫌だ。

 ヴァンケズはずっと、魔物が出た庭を睨んで、何か考え込んでいるようだった。早くしないと、今戦っているフィエズートを放っておくわけにはいかない。

「おいっ……ヴァンケズ!!」

 俺が声をかけると、ヴァンケズはやっと顔を上げた。

「……あ、ああ…………ごめん……そうだね。リューオも、身を守れた方がいいか……」
「いいのか!?」
「うん。もちろん。リューオの頼みを、俺が断る訳ないだろ。じゃあ………………」
「ヴァンケズ? どした?」
「………………触れてた方が、うまく魔法かけられるかなって思って」
「そっか。俺はどうすればいい?」
「………………キ……」
「き??」
「…………手でいいかな……?」
「……あ、ああ……? うん…………」

 俺は、そいつに手を差し出した。けれど、彼はなかなか俺の手に触れようとしない。

「……ヴァンケズ?」
「あっ……う、うんっ……今、魔法をかけるね……」
「うん……」

 どうしたんだ? こいつ。いきなりボーッとして。

 ヴァンケズとはずっと一緒にいるし、向かい合うのも今更なんだけど、たまにこいつは、こんなふうに俺を前にして固まってしまうことがある。
 そして、そういう時の彼はなぜか顔が赤くて、それを見ていると俺まで焦ってくる。

 なんつーか……こんな風に向き合ってるせいか、俺まで緊張する。

 そういえば、まだヴァンケズと会ってそんなに経ってないけど、こいつほど誰かとずーーっと一緒にいること、これまでなかったかもしれない。

 ……よく分かんねーけど、ますます照れてきた。早くしてくんねーかな……

 チラッとヴァンケズの顔を見上げたら、そいつも真っ赤じゃねーか。なんで……そんな顔するんだよ!! 俺の方が照れるわ!!

「じ、じゃあ……えっと…………」

 ヴァンケズが、そっと俺の手に自分の手を添える。

 そんなことをしていたら、庭で戦うフィエズートが俺らを怒鳴りつけた。

「ち、ちょっ…………! 早くしてくれる!? お前ら、状況わかってる!!??」
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