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8.俺と同じだな!

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 俺が異世界に来てからしばらく経つが、その間ずっと城から出してもらえなかったから、こうして外に出たのは初めてだ。

 歩いてても、ただの草原。生えてるのも、元の世界と似たような草ばかり。
 だだっ広い丘に足首が隠れるほどの長さの草が生えていて、それがずーっと続いている。

 こんなところで飯なんて、手に入るのか?
 だが、腹が減った。飯を調達しないと死ぬ!!

 俺は、ヴァンケズに振り向いた。

「なあ……飯が手に入りそうなところとか知らないか?」

 俺がたずねると、半ば無理やり連れてきたヴァンケズは俯いてしまう。絶対にこれ、めちゃくちゃ落ち込んでいる……

 何も答えないかと思ったが、そいつはボソボソと話し始めた。

「……この辺りは魔獣の地と呼ばれる場所で……足を踏み入れる者も、ほとんどいない場所なんだ……」
「おい……そ、それって、まさか……」
「少しくらいなら案内できるけど…………この辺のことについては……」
「……もしかして……何も知らないのか?」
「……うん…………」
「だったら俺と同じじゃねーか!!」
「……え?」

 ヴァンケズが顔を上げる。いつも澄ましたような印象なのに、単純に驚いたような顔をするから、なんだか親近感が湧いた。

「俺も何も知らねえんだ!! だったら二人で散策するぞ!!」
「でも……」
「でもじゃねーー!! 俺は腹が減ったんだよ!!」
「えっと…………」
「いいか! 俺はお前のことが気に入らねえ!! 俺をこんなとこに呼んだのは……別にいいか」
「……い、いいの……?」
「いいよ」
「でも……追放されちゃったけど……」
「追放じゃねえ。逃げてきただけだ」
「……」
「だから呼んだことは別にいいが、城に監禁したことは怒ってる! あれを決めたのはあの国王か?」
「……うん…………」
「だったらその件に関しても責めない」
「ここに呼んだの俺で、そのせいで監禁されたんだけど……」
「ああ、そうか……ん? でも呼んだことはどーでもいいし……えーっと……まあいい」
「え……」
「もういろいろ考えんのめんどくせえ。とりあえず、後でなんか仕返しする! だが、今はしない」
「…………なんで……?」
「さっきボロボロになってた奴に仕返ししたら、俺が外道になるだろ! いつかなんか仕返しするから、今はとりあえず俺の飯を探せ! 腹が減って死にそうなんだよ!!」
「…………わ、わかった……」
「よし! お前のことは、これまでどおり、ヴァンケズって呼んでいいか?」
「う、うん……」
「俺は裡愉丘りゆおかだ。裡愉丘二夜尾にやお。めんどくせーから、これまで通りリューオでいいよ」
「宜しく……」
「分かればいい……行くぞ!! 飯を探すんだ!!!!」

 俺は、落ちていた木の棒を拾い上げた。俺の最初の武器になるものだ! なかなかいい感じじゃないか!!

 それなのに、後ろからついてくるヴァンケズは首を傾げている。

「……それ……何をする気?」
「決まってるだろ!! 魔物が出たらこれで倒すんだよ!!!」
「……ま、魔物を…………その……枯れた木の棒で……?」
「もちろんだ!! いっぺん魔物と戦ってみたかったんだーー!! 俺!!」

 叫んでいたら、突然、背後が暗くなる。まるで、太陽が雲に隠れたかのように。そして、頭にドロっとしたものが落ちてきた。

「うわっ……! 何だこれ! 冷た!!」

 それが落ちてきたところに触れると、冷たくてドロドロしててだいぶ気持ちが悪い泥みたいなものが手についた。

「な、なんだ……?」

 振り向けば、俺たちの背後にはいつの間にか、見上げるほど大きな黒い塊があった。それは絶えず動く泥の塊のようなもので、俺の身長の二倍くらいの大きさだ。たまにその塊からドロドロした泥っぽいものが落ちてきて、恐ろしいほど気持ち悪い。

「うわっ……!!」

 落ちてくる泥は、また俺の頭めがけて落ちてくる。

 そばにいたヴァンケズが、俺の手を取って走り出した。

「魔物だっ……! 逃げるよっ……!」
「魔物!?? あれがか!? 泥だろ!」
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