【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

２１ 夜の静寂とそれを破る者

　いや、どうなっちまうんだも何も。
　アルカディアはともかく俺はノンケの男で、男相手にそんなこと出来るわけがない。てか、やるならそりゃ女の子とでしょ。小さくて、ふわふわで、おっぱいもでかくて……何が悲しくて俺よりデカいイケメンマッチョと乳繰り合わにゃならんのだ。せっかくこうして綺麗なツラの王子様に生まれ変わったってのにさ。
　そんなわけで俺は、晩餐を終えるなり食堂を出ると、廊下で出くわした若いメイドに誘いを――かけられるはずもなく、一人とぼとぼと寝室に向かう。うう、怖かったよぉ。「やぁ君、今夜俺と一発どう？」とかワンチャン狙いで声をかけて、それで「キモ、うざ」なんてシベリア気団並みの冷気で返されてみ？　サイバイマンに爆殺されたヤムチャみたいになるぜほんと。
　……というネガティブなイメージが即座に脳裏を占めるあたり、いくらガワはイケメンの王太子に生まれ変わっても、中身は相変わらず非モテマインドなんだよなぁ。
　そんなわけで、魔除け代わりの女の子を引き込む度胸すら持てなかった俺は、一人とぼとぼ寝室に戻ると、この日はさっさとベッドにもぐりこむ。かくなる上は、もう、寝る（本来の意味）しかない！　もちろん、これはこれでウェリナに寝込みを襲われる可能性が消えるわけじゃないが（実際、前科もあるしな）、少なくとも、言質としての同意を取られずに済む。
　と、思ったんだが。
「ね、眠れねぇ……っっ！」
　おそらく百回ぐらいは寝返りを打ちまくったあとで、とうとう俺は観念する。そう、眠れないのだ。そりゃそうだ。まだ宵の口だもんな。普段ならこの時間は、最近ハマりだした楽器を触って遊んでいる頃だ（本当は漫画があれば読みたいんだが、そもそもこの世界には存在しないし、かといって小説本は挿絵が少ないしで読む気にならん）。なので、眠気が訪れてくれないのはまぁ仕方のない話なんだが……原因は多分、それだけじゃない。
　――君の方は、役目を忘れてはいないよね？
「役目って……何だよ」
　いや、本当は気づいている。俺だって、いい加減子供じゃないしな。その上で、しかし俺は、王太子権限でここを飛び出すこともしない。今の王宮は危なっかしいから。それも、一理ある。けどそれは、ただの自分向けの言い訳にすぎない。
　――これからたくさんのことを思い出してもらわなきゃいけない。わかるだろ？
　またしても熱を帯び始める右手。それを左手でそっとさすったその時、静まり返った寝室に、キイ、と金属の擦れる音が立つ。