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4 ヒーローが、あらわれた!

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「ウェリナ=ウェリントン」
「はい」
 巨大な空間に、名を呼ばれた男の返事が朗々と響く。
 低いのに柔らかく、かつ透明感のある美声に、鼓膜が心地よく震えるのがわかる。いや、野郎の声になに聞き入ってんだぁ俺は。そう自分の心に鞭を入れ、改めて眼前の男に意識を戻す。広大な謁見の間の中央に、入口から王座の前へと長く長く敷かれた臙脂色のカーペット。その王座側の端に、一人の礼服姿の男が跪き、壇上の王座に鎮座するクリステン王にじっとこうべを垂れている。
 屈んでいてもそうとわかる、鍛え抜かれた長身。若草色の髪は短く切り揃えられ、窓から差し込む陽光を受けてきらきらと瞬いている。周囲にうっすら舞って見えるこれは……ひょっとして、星ブラシか?
 やがて男は、王の許しを得て立ち上がる。
 さらさらの前髪の奥から現れたのは、これまた男でも惚れ惚れするほど精悍な顔。すっと通った鼻筋に、きゅっと真一文字に引き締まった唇。見る者を威圧する、切れ長の涼やかな眉目。……って、おい待て。明らかに俺ことアルカディア君と作画コストがまるっきり違うんですがそれは!?
 いや、落ち着け俺。ここまであからさまに作画格差をつけてくれたこの世界の創造主に、むしろここは感謝すべき場面だ。そう、こうした作品では得てしてヒーロー&ヒロインとそれ以外のキャラとでは明確な格差が設けられる。すなわち、作画格差である。例えばモブは徹底して簡素に、一方でヒーロー&ヒロインは線の数やトーンの入れ方が桁違いに豪華になる。ネームドのサブキャラは……その中間ぐらいか。
 で、その原則をもとに作画コストの高い男を重点的にチェックしていた俺だが、どうやらその作戦はアタリだったらしい。
 見つけたぜヒーロー君。
 今日からお前が俺の敵だ。
 などと、王座の隣に侍りながら一人ぎゅっとなる俺をよそに、謁見の儀はその後もつつがなく進んでゆく。今回ウェリナが王宮に参じたのは、先代のウェリントン侯爵が先だって病没し、長子である彼が爵位を引き継いだことを国王へ報告に上がるためだった。年齢はアルカディア君と同じ十八歳と若いが、士官学校ではトップの成績を修め、この国ではエリートと称される王立魔法騎士団で早くも幹部職を拝しているという。
 若くして爵位を継いだハイスペイケメン。はい、もうお前がヒーローで決定です。さて、そうなると今後、俺ことアルカディア君はコイツに婚約者を奪われないよう頑張っていかなきゃなわけだ……って、無理じゃね? 男の俺ですら惚れかねない超絶イケメンだぜ? しかも貴族で、エリートで……いや、アルカディア君も血筋じゃ負けていない……いない、が、残念ながらそれ以外の要素が壊滅的すぎる。少なくとも、これまでの王宮暮らしで仄聞した彼の逸話は、申し訳ないが貴顕とは程遠いものばかりだった。細かく挙げるとそれこそキリがないが、要はまぁ、典型的なボンボンのそれである。侍女に痴漢行為を働いたり、冷蔵庫のない世界で真夏の盛りにキンキンに冷えた果実水を所望したり――
 ともあれ、そんなアルカディア君として、俺はこれからコイツと戦っていくわけだ。
 その、ライバルことウェリナのエメラルド色の瞳が、不意にこちらに向けられて俺はビビる。ただ、その視線が含むものを読み取るよりも先に、奴の視線はよそへと流れてしまう。ひょっとしてガンくれられた? まぁ、シナリオを踏まえるならここで一発宣戦布告、という流れも理解できるが……
 気のせいか、そういう類の視線でもなかったような。
 むしろなんかこう、妙にまとわりつくような。
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