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Side-B キミが消えたあの夏の日は
キミが消えたあの夏の日は
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真冬の匂いがする、十二月。
肌を刺すような冬の風が、びゅうびゅうと吹き荒ぶ。
「はぁー、寒いねぇ」
隣を歩く綾は赤いマフラーに顔をうずめた。こういうふとした可愛い仕草に、男子はドキッとするんだろうな。私には真似できない。
学生服の上に着たコートのポケットに手を入れた。かじかんだ手が幾分マシになる。
「今日、雪が降るかもって言ってたよ」
「そうなんだー。天気あんまよくないもんね」
そう言って綾が空を見上げたので、つられて私も上を向く。分厚い雲が空を覆い尽くして、太陽を隠していた。日中なのに薄暗いのは、この曇天が原因だ。
「どうせ雪が降るなら、明日のクリスマスイブのほうがよくない? 聖なる夜に舞う粉雪! 素敵!」
「綾ってば、結構ロマンチックなのね。イブは一緒に過ごす男の子がいるの?」
「いなーい。イブに向けて、随時募集中でーす」
「募集中……明日までじゃん。今年はもう間に合わないわね」
綾は「うん……今年もロンリーナイトだよ」と悲しい愚痴をこぼす。あなたは理想が高いから彼氏ができないんだと思うけど。
まぁ綾の気持ちはわからなくもない。人肌恋しい季節だし。
私も、毎日のように蓮のことを思い出す。
今日は十二月二十三日。
蓮が消失して約三か月がたった。
目を閉じれば、あの日の記憶が鮮明に蘇る。
蓮は車椅子から立ち上がってはしゃいでいた。まるで子どもだ。「普段はクールぶってるくせに、意外とガキなんだから」ってからかってやりたかったなぁ。すぐ消えちゃうから、面と向かって言えなかった。
この世界にキミはいない。私たち二人の未来が重なることはないし、あの夏の日に戻ることもできない。
でも、心配しないでね。私は大丈夫だから。
消失しても、キミの欠片は私の中で息づいている。悲しくないなんて言ったら嘘になるけど、過去に縛られてウジウジ悩んだりしないから。安心して。
本当に、いろんなことがあった。
身も心もボロボロになって、それでも前を向き、途切れそうな想いを繋ぎ止めた。そうして私は、明日を今日に変えてきたんだ。
「美波……蓮くんのこと考えてる?」
ちょっと遠慮がちな綾の声が、私の鼓膜をそっと叩く。
目を開けて、綾に微笑みかける。
「うん。たまに考えることにしてるの。蓮は寂しがり屋だから、定期的に思い出してあげないとすねると思うから」
「……ぷくくっ。何それ」
辛そうな顔をしていた綾だったけど、冗談っぽく言ったらすぐに破顔した。
「君たちは本当に仲良しだね。妬けちゃうなー」
「あら、見せつけちゃってごめんなさい」
また冗談を言って、二人で笑い合う。
二人ぶんの笑い声が、透きとおった空気によく響いた。
「あっ――美波! 雪だよ、雪!」
綾が目を輝かせて、宙を指さす。
灰色の空から、はらはらと白い雪が舞い落ちてくる。アスファルトに降り立つと、瞬く間に溶けて染みを作った。
視界にちらつく雪が無数の思い出を輝かせる。
キミがいた夏は、いつだってこの胸の中にある。絶対に失くさない。思い出も、胸を叩く痛みも、キミと分け合った喜びも悲しみも、全部。
「……忘れないよ、蓮」
吐き出した白い息は遠くへ薄く伸びていく。
「美波? 何か言った?」
「なんでもない。それより、明日一緒にカラオケでも行こうよ」
「お、いいねー。お一人様同士、イブを満喫してやろう……うん、お一人様同士でね……」
「自分で言って何へこんでるのよ」
笑って、遠くを見る。
ふんわりと落ちてくる雪が、この世界を優しく包み込んでいた。
【了】
肌を刺すような冬の風が、びゅうびゅうと吹き荒ぶ。
「はぁー、寒いねぇ」
隣を歩く綾は赤いマフラーに顔をうずめた。こういうふとした可愛い仕草に、男子はドキッとするんだろうな。私には真似できない。
学生服の上に着たコートのポケットに手を入れた。かじかんだ手が幾分マシになる。
「今日、雪が降るかもって言ってたよ」
「そうなんだー。天気あんまよくないもんね」
そう言って綾が空を見上げたので、つられて私も上を向く。分厚い雲が空を覆い尽くして、太陽を隠していた。日中なのに薄暗いのは、この曇天が原因だ。
「どうせ雪が降るなら、明日のクリスマスイブのほうがよくない? 聖なる夜に舞う粉雪! 素敵!」
「綾ってば、結構ロマンチックなのね。イブは一緒に過ごす男の子がいるの?」
「いなーい。イブに向けて、随時募集中でーす」
「募集中……明日までじゃん。今年はもう間に合わないわね」
綾は「うん……今年もロンリーナイトだよ」と悲しい愚痴をこぼす。あなたは理想が高いから彼氏ができないんだと思うけど。
まぁ綾の気持ちはわからなくもない。人肌恋しい季節だし。
私も、毎日のように蓮のことを思い出す。
今日は十二月二十三日。
蓮が消失して約三か月がたった。
目を閉じれば、あの日の記憶が鮮明に蘇る。
蓮は車椅子から立ち上がってはしゃいでいた。まるで子どもだ。「普段はクールぶってるくせに、意外とガキなんだから」ってからかってやりたかったなぁ。すぐ消えちゃうから、面と向かって言えなかった。
この世界にキミはいない。私たち二人の未来が重なることはないし、あの夏の日に戻ることもできない。
でも、心配しないでね。私は大丈夫だから。
消失しても、キミの欠片は私の中で息づいている。悲しくないなんて言ったら嘘になるけど、過去に縛られてウジウジ悩んだりしないから。安心して。
本当に、いろんなことがあった。
身も心もボロボロになって、それでも前を向き、途切れそうな想いを繋ぎ止めた。そうして私は、明日を今日に変えてきたんだ。
「美波……蓮くんのこと考えてる?」
ちょっと遠慮がちな綾の声が、私の鼓膜をそっと叩く。
目を開けて、綾に微笑みかける。
「うん。たまに考えることにしてるの。蓮は寂しがり屋だから、定期的に思い出してあげないとすねると思うから」
「……ぷくくっ。何それ」
辛そうな顔をしていた綾だったけど、冗談っぽく言ったらすぐに破顔した。
「君たちは本当に仲良しだね。妬けちゃうなー」
「あら、見せつけちゃってごめんなさい」
また冗談を言って、二人で笑い合う。
二人ぶんの笑い声が、透きとおった空気によく響いた。
「あっ――美波! 雪だよ、雪!」
綾が目を輝かせて、宙を指さす。
灰色の空から、はらはらと白い雪が舞い落ちてくる。アスファルトに降り立つと、瞬く間に溶けて染みを作った。
視界にちらつく雪が無数の思い出を輝かせる。
キミがいた夏は、いつだってこの胸の中にある。絶対に失くさない。思い出も、胸を叩く痛みも、キミと分け合った喜びも悲しみも、全部。
「……忘れないよ、蓮」
吐き出した白い息は遠くへ薄く伸びていく。
「美波? 何か言った?」
「なんでもない。それより、明日一緒にカラオケでも行こうよ」
「お、いいねー。お一人様同士、イブを満喫してやろう……うん、お一人様同士でね……」
「自分で言って何へこんでるのよ」
笑って、遠くを見る。
ふんわりと落ちてくる雪が、この世界を優しく包み込んでいた。
【了】
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