極道の密にされる健気少年

安達

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志方と島袋に連れ去られる話

事務所

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「組長。お気持ちは分かります。ですが仕事は仕事と割り切ってくださいね。」

「ああ。」



あれから嫌々ではあったが寛也はちゃんと事務所に降りてきた。だが降りてきたのはいいものの寛也はまるでやる気がない。いややる気がないと言うよりかは仕事に無関心になってしまっていた。そんな寛也に森廣が喝を入れた。



「ちょっと組長。ちゃんと聞いてますか?」

「聞いてる。」

「本当に?」

「ああ。」



森廣が何度聴いてもやはり寛也は適当にそう答える。そんな寛也に森廣は呆れ顔だ。だがそれ以上は言わなかった。今の寛也に何を言っても無駄だと思ったのだろう。それよりも仕事を早く終わらせて寛也を駿里と会わせるしかないと…。そんな森廣に他の幹部らは驚いていた。まぁそうだろう。寛也にこんなに言えるのは森廣ぐらいなんだから。



「では向かいましょう。志方、お前が運転しろ。」

「はい。」



志方は急に森廣に名を呼ばれ少し驚いていたがうろたえずそう返事をした。そして志方は一足先に事務所を出た。色々準備があるからだ。



「ほら組長。志方はもう行きましたよ。早く立ってください。」

「ああ。」



森廣はまるで分からなかった。理解もできなかった。いつも強気な寛也がこんな状態になるなんて何があったのだろう…と。もし駿里が原因だとしてもこんなになるのか?駿里が相手だったら尚更寛也は仕事へ早く行っていつもだったらさっさと仕事を終わらせる。なのに今日はそれをしない。どうしてだろうかと森廣は頭を抱えた。



「あの組長…。」

「…なんだ。」

「駿里と何があったのです?」



森廣が寛也にストレートにそう聞くとその場にいた幹部らが目を見開いた。何を言っているのだ…と。圷ですら目を見開いていた。それは知っているから。こういう状態の寛也を刺激してはいけないと。なのに森廣はした。だから皆驚いているのだ。



「あ、あの森廣さん…。」

「お前は黙ってろ圷。口を挟むな。」

「は、はい。」



今は寛也をほおっておいた方がいい。それを思った圷は森廣に声をかけた。だが森廣はそれを拒否した。邪魔をするなと。だから圷は黙った。寛也のことを1番知っているのは間違えなく森廣だから。そのため森廣の指示に圷は従うのだ。


「組長。俺にも言えないのですか?」

「…別になんもねぇよ。」



寛也は森廣の問いかけにそう言った。その時その場にいた皆が思っただろう。そんなはずない…と。寛也がいつもと違いすぎるのだから。そのため森廣は引かなかった。この状態の寛也を連れて仕事に行きたくなかったから。



「だったらなぜ先程から遠くを見つめているのですか。らしくないですよ組長。」

「別にそんな事ねぇ。」


寛也はまたそう適当に答えた。その答えを聞いた森廣は思った。寛也は今自分の話を聞いてすらないな…と。先程から似たような回答ばかり。そんな寛也に森廣はため息をついた。



「組長。とりあえず行きましょうか。ここにいても時間が過ぎるだけです。」

「…ああ。」


森廣はこのまま仕事に寛也を連れていくのも嫌だったがここにいても何も解決しない。だからとりあえず寛也を動かすことにした。話は車でも聞けるから。



「ほら、早く歩いて下さい。」

「…ああ。」


また適当に寛也が答えた。本当に森廣は分からなかった。何がここまで寛也を追い込んだんだ?森廣にはまるで分からなかった。そしてそれと同時に思った。寛也をこのままにはしてはいけない…と。



「おい圷、島袋。お前ら先に行ってろ。志方には待つように伝えとけ。」

「「承知しました。」」



圷と島袋は森廣の指示に従い動き出した。だが圷はある疑問が生まれたらしく事務所を出る前に森廣の所に来た。



「あの森廣。今いいですか?」



いつもそんなことを聞かない圷がそう言った。それはそれほどまでに森廣が寛也に必死になっていたのかもしれない。



「なんだ圷。」

「俺らが先に行って南里龍之介らと合流すれば良いのですよね?」

「ああ。そうだ。着いたらまた連絡しろ。その先の事はその時に指示する。」

「承知しました。」



圷はそう言うと島袋と共に事務所を出た。それを確認した森廣はとりあえず寛也の方を向いた。



「…組長。しっかりして下さい。」

「何を言っている森廣。俺はいつも通りだ。」

「どこがですか。先程から駿里の事しか考えてないでしょう。」

「…………。」

「黙り込むってことは図星ですね。全く仕方の無い人ですね。何があったのですか。」



森廣はそう言うと寛也の事を見つめた。そんな森廣を見て寛也はため息をつく。



「お前はなんでいつもそう首を突っ込むんだろうな。ほおっておくほうが楽だろうに。」



寛也が言いたいのは自分に干渉しない方が楽だと言いたいのだろう。確かにその通りだ。干渉しなければこうして無駄な時間を過ごすこともないだろうし仕事も早く終わるだろう。なのに森廣はそれをしない。それは紛れもなく寛也が大切だから。



「俺は組長の右腕ですから。」

「…そうか。」

「はい。なので俺はあなたを支えます。どんな時も。」



森廣はまた寛也のことを真っ直ぐ見てそう言った。嘘偽りの無い言葉だ。森廣は本当に心からそう思っている。そして寛也もそれは同じ。松下も志方もだ。だからこそ旭川組は強くなった。そして強くなっても尚支え合うことをやめない。それがこの旭川組の強さなのだ。

しかしーーー。



「森廣…」

「ですが組長。一つ言わせて下さい。」



森廣は寛也が何かを言おうとしたのを妨げるようにしてそう言った。普段はそんなこと絶対にしない森廣。だがそこまでして言いたいことがあったのだ。



「なんだ。」

「駿里を閉じ込めるのはもうやめませんか?」

「…あ?」

「あの子はそんな事しなくても組長の傍から離れることは無いです。勿論組長が不安でそうしてるのも承知してます。ですが駿里にもやりたいことはあるはずです。あの子はまだまだ若い未成年ですから。だから勇気出しませんか組長。」

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