極道の密にされる健気少年

安達

文字の大きさ
上 下
284 / 617
松下康二と駿里のお話

教えて

しおりを挟む
「ほ、本気で言ってんの…!?」

「ああ。本気だ。」



松下がいつ起きるかも分からない。それなのに本気でそう言っているなんて考えられない。けれど志方なら本当にそれをやりそうだ。これまでそんな事数え切れぬほどあったから。だから駿里はなんとしてでもそれを避けたかった。そのため駿里がどうしようか必死に考えているとその時志方が運んできたある物が目に入った。



「で、でもっ、俺朝ごはん食べなきゃだからっ、せっかく志方さんが持ってきてくれたのに冷めちゃうよ…っ。」

「ああ…そうだったな。忘れてた。」



目の前の駿里に余程夢中になっていたのだろう。志方は自分がご飯を持ってきたことすら忘れていた様子だった。しかし駿里がそれを思い出させた為に志方は駿里をこれ以上襲ってくることは無かった。だがそれはあくまで今の話だ。だから安心できない。そう駿里は思っていたが案の定志方は…。



「じゃあ食べた後でやろうな。その後なら文句ねぇだろ。」

「後もないっ、文句もあるし俺はやらないから…っ!」



後なんてあって溜まるかと駿里は声を荒らげた。だが志方はそれさえも許さなかった。志方にとっては駿里と二人きりで話せるこんな状況滅多にない。松下はいるが今は意識もない。だからこの状況を利用して志方は少しでも駿里と近くにいたかった。例え後で寛也に怒られたとしても。



「お前に拒否権はねぇ。」

「さいていっ、なら一生食べててやる。」

「は?また無理して食べるってことかよそれは。」

「ち、ちがうっ!」



志方は相変わらず頭の回転率が高かった。駿里が少し不利になる言葉を口走っただけで志方にとっていい方向になってしまう。そうなるように話してくる。だから下手に駿里は話すわけにはいかない。いかないのに志方に煽られるとどうしてもこうなってしまう。



「違う?ならどういう意味だよ。」

「志方さんが余計なことしなきゃいいって話…!」

「なんだよ余計な事って。」

「もうなんでもいいから俺から離れてて!」



志方が近くにいると駿里は興奮して変なことばかり話してしまう。そして志方が有利になる。そう思った駿里は志方を自分から遠ざけようとした。しかし志方がそんな理由もなく駿里から離れてくれるはずがない。



「無理だ。組長からお前の見張り頼まれてっからよ。悪ぃが離れらんねぇわ。俺組長に逆らいたくねぇからよ。」

「…こんな近くなくてもいいじゃんか。」



見張るなら遠くからでもできるはず。なのに志方はわざわざ駿里の隣に座り駿里の身体を触ってくる。だから駿里は下を向きながらそう言った。その時ちょっと恥ずかしくなって顔を赤く染めてしまったから。だからそれを隠そうとしたのだ。志方がそれに気づけば間違いなく揶揄ってくるから。なのに志方はそれに気づいたのだろう。駿里の顔を掴んで上げさせてきた。



「何焦ってんだよ。勝手に妄想して顔赤くしてんのお前だろ。」

「赤くしてない…っ!」

「はは、よく言うぜ。もう真っ赤だろ。こんな可愛い顔しちまって。」



志方は駿里の顔を鷲掴みにしたままそう言うと唇が当たるだけのキスをした。志方は顔が忙しい駿里がまた可愛いのだ。分かりやすく反応する所も全部が愛おしくてたまらない。



「や、やだっ、可愛くないから…っ!」

「そうか?まぁいいや。とりあえず食えよ。煩く言うが絶対無理すんなよ。」

「うん。それは分かってる。」



先程まで嫌がり拒み続けていた駿里なのに志方のその言葉だけには素直に頷いた。嬉しいことなのだが志方はそんな駿里を不思議に思った。あまりにも素直に頷いたから。



「何だお前。やけに素直だな。」

「志方さんに抱き潰されるのだけは嫌だから。」

「てめぇ…相変わらず生意気な奴。」



理由が理由だった為に今すぐ駿里を襲ってやりたかった志方だがご飯を食べさせることが今は最優先なのであと一歩のところで我慢をした。駿里を襲うのはその後でもできるから。そんなことを考えている志方に駿里はあることを聞くことにした。



「あ、あのさ志方さん…。」

「ん?どうした駿里。」



急に思い立ったようにそう言ってきた駿里に志方は少し嫌な予感がした。聞かれてはまずいことを駿里が言おうとしているかもしれないと察したから。そしてその志方の予感は当たってしまっていた。そう。駿里は松下をこんな目に遭わせた人を知りたくて仕方がなかったのだ。それを伺う機会をずっと待っていた。



「言わないってことは聞いちゃダメって分かってる…けど聞いてもいい…?寛也には怖くて聞けないから…。圷さんもきっと答えてくれない。司波さんも。だからお願い志方さん。教えて…。」



ここまで来ればもう逃げることはできない…と志方は真剣な顔になった。先程までとはまるで真逆だ。仕事の顔。志方がこの顔をするのはその時だけだ。その志方の顔を見て駿里は身構えた。



「そのお前が知りたい事ってのは康二の事だよな。」

「…うん。そう。誰が康二さんを撃ったの?」



寛也には言うなと言われてしまった志方。しかし駿里も仲間だ。知る権利はある。だがそれは果たしていいことなのか?駿里と天馬は仲が良かった。それも相当だ。しかしその天馬が松下を殺そうとしたと知れば駿里はどうなるだろうか。それも駿里が原因だと知れば駿里はどうなるだろうか…。志方は考えた。考えて考えて決断をすることにした。



「あのな…駿里。」

しおりを挟む
感想 200

あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

ヤクザに囚われて

BL
友達の借金のカタに売られてなんやかんやされちゃうお話です

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

処理中です...