極道の密にされる健気少年

安達

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遅咲きの花は大輪に成る

あなたは誰ですか

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「…それって及川さんが入院するってこと?」



暫く会えない。それはそういうことを意味していた。駿里はそれがすぐにわかった。



「お前は察しがいいな。俺達と暮らしてきただけある。」

「なんでそんなことするの…?」



松下がそう言ってきて駿里は絶句した。いつも優しい松下が怖い。まるで及川が制裁を受けることが当たり前だと言っているようにも聞こえた。あれだけ先程普通に話していたのに。なんなら一緒に駿里のことをお仕置きしてきたのに。あの時もこのことを知ってたというのか?全部演技だったと…?そんなの信じたくない。駿里がその意味を込めてそう言ったが松下は鼻で笑ってきた。



「何言ってんだお前。レイプされたんだぞ。そんな相手に同情とか馬鹿なことしてんじゃねぇよ。」

「これは俺と及川さんの問題だっ、康二さんが決めることじゃない!」

「そうはいかねぇんだよ駿里。この世界の掟だ。それはお前も痛いほど知ってんだろ?これまでお前に手を出した奴らはどうなった?死なねぇだけマシだと思わねぇと。」

「そんな、だってやられた俺が許したのに…。なんで志方さんも何も言わないのっ!」



いつもの松下じゃない。何を言っても通じない。どうすればいいのか分からなくなった駿里はずっと黙って事を見ていた志方にそう言った。



「悪いな駿里。お前に手を出したとなればいくら尊敬する相手でも庇うことは出来ねぇんだよ。」

「…っ、おねがい、ひどいことしないで。」

「お前の頼みでも無理だ。」



志方も松下と同じだった。なんでそんなことをするのか駿里には理解できなかった。松下と志方が及川から何かを直接的にされたわけじゃないのに。されたのは駿里なのになんで寛也たちが手を下すのか…と。



「及川さんのこと尊敬してたんじゃないのっ、俺の事好きなんでしょっ、愛してくれてるって言ったじゃんかっ、なんで言うこと聞いてくれないの…!」

「お前、怒りに任せて変なこと考えんじゃねぇぞ。」



松下が駿里の顔を掴んで脅すようにそう言ってきた。松下の言う通り駿里はあることが過った。それはここから出ていくこと。出ていって及川を助けること。だがその考えすらも松下に見抜かれてしまう。



「逃げたりしたらまた拘束しなきゃいけねぇからな。そもそもお前と及川さんが会ったのはたった数日だ。骨の一本や二本が折られたところでお前には関係ねぇだろ。俺たちがいれば別にいいだろ?」

「…そんな人だと思わなかったっ、軽蔑したっ。」



松下が駿里にずっと隠していた姿だ。どこかでぶつけて打った時でさえ痛いのに骨をおられるなんて想像もできないぐらい痛いだろう。なのに松下は一本や二本などと…と言った。駿里はその言葉を聞いてこれまでの松下の関係が全て崩れ去っていくような気がした。だがそれは松下も同じことだった。



「そうかよ。じゃそのまま組長に伝えとくからな。志方連絡しろ。」

「落ち着けよ康二。今駿里は気が動転してんだって。」



さっきとは逆に志方が冷静になっている。いや松下も冷静では無い訳では無い。だが仕事の顔を出してしまっている。駿里の前では出すことがなかった顔を。だから志方は松下を落ち着かせようもそういったのだ。だが今の松下にそんな言葉をかけたところで落ち着くわけがなかった。



「いいからしろ。」

「つかここで連絡しても組長は俺達が及川さんのした事に気づいてないと思ってんだろ?だったら1から説明しねぇといけねぇじゃねぇか。そんなのめんどくせぇじゃねぇか。だからよ、康二。1回落ち着いて駿里と話し合おうぜ。」

「そうはならない。組長だぞ相手は。舐めてんじゃねぇ。俺達が演技してることぐらい気づいてるに決まってる。最後の拷問を見せないためにさせない為に俺らをここに残らせたんだ。そんなことも分かんねぇのか。」

「…………。」



松下の言っていることは全て同理にかなっていた。だが志方は認めたくなかった。だって駿里の前だから。怖がらせたくなかった。これ以上怯えさせたくなかった。仕事の時に出す松下のオーラを見て今駿里はとても震えていたから。だが松下はそんな駿里を見ても引き下がるどころかどんどん事を進めていく。



「分かったら黙ってねぇでさっさと連絡しろ。」

「…分かった。連絡する。」



渋々ではあったが志方が携帯を取り寝室を出ていった。そして松下は志方が居なくなったあと怯えている駿里に覆いかぶさった。



「どうした駿里。何今更脅えてんだ。それともなんだ。俺達が穢れたヤクザってことを忘れてたのか?」

「…ち、ちがっ、」



違うくない。実際そうだ。だって優しかったから。人を殺している姿もしばらく見ていない。血だってもちろん見ていない。だから駿里は今目の前にいる松下が怖かった。変なことを言ってしまえば手を下されてしまうのではないかと思うほどに。



「ならどうして震えてんだ。」

「ただ、おれはっ…」



そう。駿里は悲しかった。今まで一緒にいたのは一部分だったから。寛也の一部分。松下の一部分。全てではない。なんだか騙されている気になった。だってこんな怖い松下なんて知らないのだから。



「お前も組長とずっと一緒にいたいなら腹を括れ。それが出来ねぇならお前は一生ここで飼い殺される。それが嫌なら従順になれ。言うことを聞け。他の男の言いなりになるな。」

「…こうじ、さんっ、なに、言ってんの?」



そんなこと言われたのはいつだったか…。そうだ。1番初めだ。洗脳されていた時。駿里がここに来たばかりで怯えまくっていた時。その時の恐怖が駿里の中で蘇ってきた。



「お前がしようとしたことを全部俺が言ってやろうか?及川さんと秘密の関係を持ってここから出ていこうとした。俺達を騙してここから去ろうとした。そもそもお前がここに連れてこられた時どうだった?無理やりだったよな。お前はここに自分の意思できたんじゃない。だから出ていく時もお前の意思では出れない。俺達の許しがないと外にすら行けない。行かせない。」



松下に至近距離でそう脅されるように言われるのはとても怖かった。駿里はがたがたと震え目も瞑りたかった。だが目を瞑ろうとすれば松下が開けろと即してくる。それに従わなければ駄目だと体が勝手に動く。そしてそんな怯えまくっている駿里の頬に松下は手を置いてキスをしようと顔を近づけたその時志方が帰ってきた。



「康二。」

「遅かったな。組長はなんて言ってたか?」



そう松下に聞かれて志方は答えることを渋っている様子だったが松下の怒りオーラを感じたのだろう。不服ながら答えた。



「…駿里に足枷を付けろとよ。逃げられる前に。」

「あ?足枷?それ組長が言ったのか?」

「そうだ。」

「でもよぉ、足枷捨てちまったぞ。」

「は?お前が?」

「違ぇよ。組長が捨てたんだよ。もう必要ねぇってな。怒りのあまり忘れちまってんのか。仕方ねぇ。俺からまた連絡するからお前はここにいろ。駿里が逃げないように見張ってろよ。」

「…おう。」



松下はそう言い残すと寝室を出ていって寛也に電話をかけた。志方は松下と違ってそこまで怒っていなかった。それは映像を見ていないからであろう。だから今の駿里が可哀想に見えている。それを感じとった駿里は志方に何かを言おうとしたが志方がそれを止めた。



「何も言うな。余計なことを言うな。ほんとにお前このままだとここに監禁されるぞ。それだけで済めばいいが最悪及川さんにされたことを毎日されるようになるからな。」

「…こ、わぃ。」



駿里はそう声を震わせて言った。それはそうだろう。怖くないわけが無い。志方ですらあの松下は扱いきれなくて逆らえない時があるほどなのだから。だからこそ志方は駿里に忠告をする。



「おい。何言ってんだ黙っとけ。今の康二に聞かれたらまじでお前酷い目に遭わされんぞ。だから何も喋んな。やっとお前の笑顔がみれるようになったのにまた振り出しに戻るつもりか。」

「なんで、みんなっ、あんなこと、するの…?」

「それは俺達が穢れてるからだ。ヤクザってのはそんなもんだ。お前を怖がらせないように見せなかっただけ。知らない方がいい事もあるからな。」



駿里は志方の話を黙って聞いていた。そしてやっぱり分からなかった。こんな目にあっていることが。



「だけど、なんでっ…なんでここまで怒るの、?」

「あのな駿里。俺達は…。」

「何の話をしてんだ志方。」



志方が何かを言おうとしたがその時ちょうど松下が帰ってきてしまって駿里は話の続きが聞けなかった。志方も志方で話すことをやめてしまったから。松下に聞かれてはまずいことだったのだろう。その証拠に志方は話を逸らした。



「…なんでもねぇよ。で、組長はなんて言ってたのか?」

「やっぱ足枷の事は忘れてたらしい。あと俺達も来いってよ。」

「どこに。」

「及川さんのとこ。」

「は?いや俺見たくねぇんだけど。」

「我儘言ってんじゃねぇ。組長の命令に逆らうのか?」

「そういう訳じゃ…つか駿里だって逃げるかもしれねぇだろ。」

「それは大丈夫だ。鍵かけて行くしこいつが開けられるわけがねぇからな。」



松下がそう話しているのを受け流そうとした志方だったが我慢できなかったようで志方は松下に言い返し始めた。



「お前…なんでそんなに怒ってんだよ。駿里は被害者だぞ。レイプされた側なのになんで駿里がこんな仕打ちを受けねぇといけねぇんだよ。」

「こいつは俺達から逃げようとした。」

「は?何言ってんだ。」



志方は松下の言ったことが理解できなかった。逃げようとした?そんな素振り1度でも駿里は見せたか?いや見せていない。だから志方は意味がわからないというように松下のことを見た。そんな志方をみて松下は大きなため息を着く。



「そうか。志方、お前は見てねぇもんな。復元した映像を。簡単に話すと及川さんから脅迫を受けた駿里はそれをのんで及川さんのもんになろうとした。」

「ちがっ、それは、ごかいで…っ、」

「てめぇは黙ってろ。」



駿里が誤解だ、そんなはずない。そう言おうとしたが松下に口を塞がれてしまいそういうことが出来なかった。その後すぐに志方が松下に疑問を聞きかえす。



「それほんとに真実か?加工されてんじゃねぇのか?」

「全部を復元できたわけじゃねぇけど復元できた一部にそう映ってた。だから間違えねぇ。」



最悪だ。いちばん最悪なところを復元された。その部分だけ見れば駿里が及川と抱き合ってセックスをして及川のものになると言っているように見えるのだから。それは誤解なのに。だが今さら誤解だと言っても信じてはくれないだろう。そしてその松下の話を志方も信じてしまった。



「そうか。こいつを庇おうとしたが情状酌量の余地はなしってわけか。」

「そうだ。だからさっさと行くぞ。まぁ1度でも尊敬した相手を拷問すんのは辛いだろうけどそこは俺達が腹を括らねぇとな。」

「ああ。」

「てことだ。だからさっさと行くぞ志方。」



松下はそういい寝室を出ていこうとした。その後に志方も続いて歩いていく。駿里はそれが悲しかった。いつも家を出ていく時松下は必ずと言っていいほどキスをしてきた。志方は絶対に抱きしめてくれた。なのに今は何もしなかった。声すらもかけてくれなかった。これが本当の姿なんだと思うと余計に辛かった。



「ま、まってっ…!」



松下と志方が寝室のドアを開けて出ていこうとした寸前駿里がそう叫んだ。そのかいもあって2人はその場に止まり駿里の方を振り返った。



「なんだ。」

「…ほんとに行くの?」

「ああ。そうだ。話はそれだけか?時間ねぇから行くぞ。」



松下がまるで別人のように素っ気なくそう言ってきた。駿里はそこで引き下がりそうになったがダメだ。このまま松下を行かせてしまえば及川が…。だから駿里は叫んだ。



「やだ行かないでっ!」



この状況でまさか駿里がそう言ってくると思わなかった志方と松下を目を丸くした。だが松下は直ぐに顔を元通りにして駿里ではなく志方の方を向いた。

そしてーーー。



「…志方、先行ってろ。」

「車はどうすんのか?」

「何とかする。」

「分かった。」



そう志方が返事をし玄関に向かっていったのを確認すると松下は寝室に再び入りドアを閉めた。そして駿里の元までゆっくりと近づいていく。その間駿里は心臓の鼓動がどんどん上がっていった。正直さっきあんなことがあったばかりだから怖かった。だけど怯んではいけない。拳を握りしめて近くまで来た松下を見た。



「なんだその目は。一体どういうつもりだ駿里。」
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