極道の密にされる健気少年

安達

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冷血な極道

平和な雑談

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寛也は駿里が寝ている間に仕事を少しだけ進めておこうとパソコンを開きカタカタとパソコン操作を始めた。だがその時視線を感じて駿里の方を見ると駿里は目を開けていた。寛也はその駿里を確認するとパソコンを閉じて駿里の元に歩みよる。



「いつから起きてたんだお前。なんで早く言わなかった。」

「……おこ、ってる?」



そういうことかと寛也は微笑んだ。駿里はどうやら寛也の様子を伺っていたらしい。あれだけ酷いお仕置きをされればそれも無理はない。大体駿里の限界を感じて途中で辞める寛也だが今回はその限界を超えてもやり続けた。だから駿里は寛也がとても怒っていると思っていたのだ。そんな駿里に寛也は優しく頭を撫でた。



「もう怒ってないから安心しろ。だから怯えんな。」



寛也は優しく駿里の頭を撫でながらそう言った。その手が暖かくて目が覚めたばかりなのに駿里また眠たくなってきた。だがそんな駿里の眠気を覚ましたのはある人物だった。その人物は寛也の後ろから歩いてきて駿里の近くに座り込んだ。



「組長がやりすぎるからですよ。声もこんなにガラガラになってるじゃないですか。」

「もりひろさん…!」

「よう駿里。康二達がご機嫌で事務所に戻ってきたらまさかと思ってここへ来たんだ。」



森廣は事務所へと戻ってきた松下らを見て心配になったのだ。あんなにご機嫌になる理由は1つしかない。そうなれば松下とは反対に駿里の身体が悲鳴をあげている。だから森廣は壮大な仕事を抱えていたがこの部屋にやってきたのだ。



「そうだったんだ。」

「ああ。だから俺がいる間は安心して休んでおけ。」

「ありがとう。」



あんなに激しくお仕置きをされてしまったあとという事もあって駿里は身体中痛かった。起き上がれることすら今は出来そうにない。足も手も腰も痛い。だから駿里は森廣が来てくれたことに心から安心した。もしかしたらこの後寛也にお仕置きをされてしまう恐れがあったから。その嬉しさが滲み出てしまい駿里は笑顔になった。その駿里の顔を見て嫉妬したのだろう。寛也が駿里の顎を掴んで森廣から視線を外させた。



「おい駿里。森廣に愛想を振りまくな。」

「はいはい。いいから組長はお風呂に入ってください。まだ入っていないのでしょう?」

「え…そうなの?」

「知らなかったのか?組長はいつもお前を風呂に入れたあとで自分も入るんだ。」



森廣の言う通り寛也はいつもそうしている。だが今回寛也は仕事をしていた。それは駿里の体調が心配だったから。だから駿里は寛也がもうお風呂に入ったと勘違いしていたのだ。



「ありがとう寛也。」



駿里がそう言うと寛也はどういたしましての意味を込めて駿里に微笑みかけた。そして森廣に言われた通り風呂場へと歩いていった。



「悪いな駿里。いつも組長に付き合わせちまってよ。」

「森廣さんはほんとに良い人だね。でも大丈夫だよ。それがなきゃ寛也って感じがしないから。愛されてるって実感もできる。時々やりすぎちゃう時は嫌だけどね。」

「そうか。お前がいいなら良かった。」



森廣は駿里の頭に手を添えると優しく撫でた。感謝の意味を込めて。そして、夏とはいえ冷房をきかせているこの部屋が寒いと思いブランケットを取りに行くとそれを駿里にかぶせた。その時駿里はあることを思い出した。



「そういえばずっと気になってたことがあるんだ。」

「なんだ?」

「なんで陣さんって関西弁なの?関西に住んでる訳でもないのにどうしてだろ。」



これは駿里が陣と出会った時から思っていた。橘鷹組の誰1人関西弁ではなかった。龍吾すらも。それなのに何故陣だけが関西弁なのか…と。兄弟である寛也も関西弁を喋っていない。だから駿里はとても気になっていたのだ。その駿里の問いかけに森廣は嘘偽りなく答えてくれた。



「それはな、組長とあいつの親父さんが関西人だからだ。幼き頃に捨てれたとは言え覚えてたんだろう。」

「森廣さんは陣さんが寛也と兄弟って知ってたの?」



駿里がそういった途端森廣の顔色が変わった。駿里は鈍感そうに見えて勘が鋭かった。どう答えるべきか…。寛也には話したものの寛也の許可無く駿里に話して良いものかと森廣は考える。だから一旦駿里を泳がせることにした。否定も肯定もせずに。



「どうしてそう思う。」

「なんとなくだよ。」



なんとなく、そういったものの駿里は確信があるような言い方をした。ずっと一緒にいればそれも無理はない。森廣は普段嘘をつかない。それは駿里に対してだけでは無い。必要な時は嘘をつく時もあるが森廣は嘘が下手くそだ。だから微妙に動く動作などで直ぐにバレてしまうのだ。その嘘がバレてしまった以上は隠す訳にはいかない。森廣は駿里に全てを話すことにした。



「そうだ。お前の言う通り知っていた。なんなら俺が陣をこの家から追い出したようなもんだ。」

「だけどちゃんと訳があったんでしょ?森廣さんが理由もなくそんなことするはずないもん。」

「お前には叶わんな。お前の言う通りだ。親父さんはずっと跡継ぎは組長ただ1人で良いと思ってた。だが陣が生まれてしまった。しかも愛人の息子だ。だから親父さんは考えたんだ。こいつをもしものために生かしておこう、ってな。酷いだろ?この世に生まれたからには誰にせよどんな形であれ人生がある。だから俺は陣を解放されるように手を回した。陣には酷いことをしちまったけどな。だが上手くいったからまぁ結果オーライだろ。」



駿里はその森廣の話を聞いて森廣らしいなと思った。誰かを救うためなら自ら悪役をかってでる。なかなか出来ないことだ。だが森廣はそれが出来る。誰かに恨まれようとも何を言われようともどんな罵声を浴びようとも森廣は誰かを救う。そんな森廣に支えられているからこそ寛也も強くなったのだろう。駿里はその森廣に尊敬の意味を込めて微笑みかけた。



「そっか。森廣さんのおかげだったんだ。なら今回陣さんと出会えたのも森廣さんのおかげかもね。」

「はは、そうだといいな。」

「きっとそうだよ。」



そう言い駿里は森廣に眩しい笑顔を向けた。その笑顔を見て森廣はなんだか涙が出そうになった。いつも思う。この少年不思議だと。会った時から今までたくさんの人を知らず知らずのうちに救っている。そんな強くて健気で心の綺麗な駿里の頬を森廣は撫でた。



「なんか久しぶだなこの感じは…。」

「………?」

「駿里と話してると心が浄化される。これまで汚いことを散々してきた俺の体が生まれ変わっていく気分だ。」

「はは、なんだそりゃ。それなら俺が毎日森廣さんの身体を浄化してあげるよ。」

「はは、そうかそうか。そりゃ嬉しいことだ。」



先程からなんだか森廣らしくない言葉を連呼してくる。そんな森廣を不思議がりながらも駿里は普通に笑って答えた。最近色んなことがあり森廣も大変な思いをしているのかもしれない。眠れていなかったり休めていないのかもしれない。駿里は森廣と二人っきりで話すのが久しぶりだったから気づかなかったが森廣は目の下にクマを作っていた。そんな森廣に駿里は休んで欲しいと伝えようとしたがそれよりも先に森廣が口を開いた。



「駿里は幸せか?」

「うん。これでもかってぐらい幸せ。」

「なら良い。これからも幸せな暮らしを約束する。」

「…あのさ、森廣さんって、」

「何の話をしている。」



駿里が森廣に何かを言おうとしたがそれは寛也によって遮られた。お風呂から帰ってきたのだ。だが寛也は相当急いだのだろう。タオルを肩にかけているとはいえ髪はびしょ濡れだった。



「駿里の話ですよ。それよりも組長、髪を乾かしてから来てください。風邪引きますよ。」

「ここで乾かすから必要ない。」

「それなら良いのですがあんまり嫉妬しないでくださいね。駿里も困り果ててしまいますよ。」

「余計なお世話だ。駿里、こっちに来い。」



寛也にそう言われると駿里は嬉しそうにそばに駆け寄った。どうやら駿里も身体の痛みがだいぶ治まってきているようだ。相変わらず回復が早い。そして何よりもその駿里の体の回復を見極めている寛也が凄かった。寛也は駿里が自分のところまで来ると強く抱きしめる。駿里も幸せそうに抱き締め返した。その様子を見て森廣はもう大丈夫だろうと思いこの部屋を出ることにした。



「組長、私はこれで失礼しますね。」

「もう行くのか?」

「はい。組長も落ち着いたようですし私は仕事に戻ります。」

「そうか。なら後は頼んだぞ。」

「お任せ下さい。では失礼します。」

「また今度ね、森廣さん。」

「ああ。組長と仲良くするんだぞ。」



駿里にそう言うと森廣は寛也に一礼をしてこの部屋を出ていった。そして2人っきりになった2人はソファへと移動する。そこでやっと寛也は髪を乾かし始めた。



「寛也、俺がやりたい。」

「はは、なんか新鮮だな。駿里がそう言うなら頼もう。」



寛也はそう嬉しそうに言うと駿里にドライアーを渡した。初めてかもしれない。駿里は人の髪を乾かすという行為に慣れていなく不器用になってしまったがそれでも寛也は幸せそうだった。一生懸命自分のために何かをしてくれている駿里を見るのは幸せな他なかった。




「出来たよ!」

「ありがとうな。」



駿里からのその言葉を聞くと寛也はお礼を言い手際よくドライヤーを片ずけると駿里を抱きしめた。そして頬やおでこにキスをして駿里をしばらく離さなかった。そんな寛也に応えるように駿里も強く抱きしめ返した。



「寛也。」

「どうした?」

「もっとぎゅーってして。」

「今日は甘えただな。」

「うるさい… 。」



なんとまぁ分かりやすい照れ隠しだと寛也は微笑んだ。駿里から甘えてくれることなんてそうそうない。だから寛也はそれがとても嬉しくて駿里の頭を撫でながら優しく抱きしめていた。だが数分が経過した頃駿里の頭がウトウトしだした。



「眠くなってきたんだろ?」

「そんなんじゃない…。」

「嘘言え。ウトウトしてんじゃねぇか。ここで寝たら身体痛くなるぞ。ただでさえ痛いとこばっかりだろ。」

「…ここがいい。」



そう言うと寛也は駿里を抱き上げた。駿里が寛也の温もりがいいと言うなら自分が寝室に行けばいい話だ。だから寛也は今にも寝そうな駿里を抱きかかえて足を進めていった。
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