極道の密にされる健気少年

安達

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冷血な極道

愛し人に会えるまで *

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「…寛也?」




電話相手を見るやいなや安心した顔になった松下に駿里はそう問いかけた。




「ああ、組長だ。」




松下は駿里に優しくそう言うと寛也からのコールに応えた。圷もまた、松下と同様に音信不通になっていた寛也と連絡が取れたと知り安心している様子だった。だが駿里は松下にヤキモチを妬いていた。自分の方がもっと話したくてたまらないのになんで俺より先に話しているんだ…と。松下はそんな可愛い駿里の頬を撫でながら寛也に話し始めた。





「お疲れ様です組長。連絡が取れなくなって心配しましたよ。どうされたのですか?」

『ああ、悪いな。立て込んでてよ。それよりも今お前の近くに駿里がいるだろ。離れろ。』





どうして分かるのだろうか。駿里が今松下と密着しているとはいえ寛也とは電話越しに話している。駿里も言葉を発したわけではない。それなのに分かるとは流石すぎる、と松下は思ったが今はいくら組長が相手とはいえ譲れなかった。





 「それは無理です。」

『あ?』

 「久々の再会で手放しがたいので。」

『お前なぁ…帰ったら覚えてろよ。』

 「はい。」

『はいじゃねぇんだよ。たく…どいつもこいつも。』





楽しく話していた松下だったが寛也の発言が気になった。『どいつもこいつも』というのはどういう意味だろうか。駿里の事か?いやきっと違う。これこそが音信不通になった原因だろうと思った松下は寛也にその疑問を問いかける。





 「何かあったのですか?」

『橘鷹の事だ。色々気になっちまってな、俺も結局見に行くことにしたんだ。』

 「もうそんなとこだろうと思いました。早いこと帰って面倒になる前に退散してください。」






駿里は帰ってきた。それで十分な松下は寛也にそう言った。橘鷹は何をするか分からない。どんな卑怯な手を使ってくるかも分からないのになんでノコノコ乗り込んでいるのだと松下は寛也に警告をしたが寛也は聞き入れなかった。それどころかどこか怒っている様子だ。それもそうだ。寛也は理由もなしに乗り込んだりしないのだから。





『お前はいつから俺に指図するようになったんだ康二。』

 「すんません。それより詳細を聞いてもいいですか?」

『ああ。ここについてみれば橘鷹が叫んでたんだ。耳障りだろ?だから少し大人しくしてやろうとしたんだが瞬殺だった。組長まで上り詰めた男もこんなもんかって俺は残念でならない。』

 「…組長が強すぎるんですよ。」





松下が呆れ顔で言う。その松下の近くにいる駿里にも寛也が言ったことが聞こえたようで同じような顔をしていた。そんな2人の顔は次の寛也の発言によって一瞬にして変わる。





『にしても弱すぎだ。それで暇になっちまったからあたりを物色してたんだ。そしたら面白いことがあったんだよ。橘鷹 陣ともう一人の男が倒れてたんだ。』

「…生きてましたか?」





陣ともう1人の倒れている男は龍吾だ。松下も駿里もすぐにわかった。いち早く生死を確かめるために松下は少し早口になりながらそう言った。





『ああ。ギリギリだが生きてる。こいつらだろ?駿里を助けたのは。だから応急処置をした。』

「駿里はそう言っております。連れ帰りますか?組長がそう仰るなら戻ります。」

『必要ない。駿里をこの場所に戻したくねぇからな。』

「では…どうするのですか?」

『お前は俺がこんな所にノコノコと一人で来たと思ってるのか?そんな訳ねぇだろうが。今志方と森廣と一緒にいるからお前らは駿里のことだけを考えろ。駿里に傷一つでも入れれば…分かってるな?』




電話越しであるはずなのに殺気立った寛也の声に松下は震え上がった。駿里も同様に鳥肌が立つ。そして寛也に会うのが少し怖くなってしまった。会いたくて仕方がないがそれ以上に今の寛也に会ったらお仕置きをされてしまうのではないかと不安になる。そんな不安に陥っている駿里とは裏腹に松下は寛也の指示通り駿里を守るべく勢いよく寛也に返事をする。





「勿論です。」





松下のその答えが聞けて満足だったようで寛也は電話を切った。そして電話が切れると松下は大きなため息をついた。





「あんな殺気だった組長久しぶりだな。」

「当たり前だろ。駿里が攫われたんだからよ。」





ふぅ、とため息をついた松下に圷はそう言った。そして圷は組長よりも松下にお前の方が殺気立ってただろうがと舌打ちをしながら言う。松下はそんな悪態をついてきた圷を無視して駿里に目をやる。






「あぁ、俺は胸が痛いぜ。」

「わざとらしすぎだろ康二さん…。」





松下が寛也に向かってそう言ったと思った駿里は彼に呆れ顔をしながらそう言った。だがその考えは違ったようだ。





「気のせいだろ。つか胸が痛いって言ったのはお前に向けてだぞ?」

「…え?」

「今から受けるお前へのお仕置きを考えたら胸が痛くてたまんねぇよ。」

「っ、最低!!」





ずっと考えないようにしていたのに。今だけはその事を忘れて楽しもうとしていたのに松下にそう言われてしまっては怒るに決まっている。駿里は怒りのあまり松下の膝から降りようとするが当たり前のように彼は離してくれなかった。それどころか理不尽に起こり始める。





「あ?なんだと?ここで始めてもいいんだぞ。」

「…遠慮する。」





ここで手を出されては帰った時にやっと寛也に会えるのに喧嘩になってしまう。それだけは嫌だった。今誰よりも会いたくて仕方が無い愛する相手とはちゃんと抱きしめ合いから。だがそれと同時に駿里は不安が募っていく。





「…そんなに酷いお仕置きされるのかな?」

「当たり前だろ。」

「酷いっ、康二さんのせいなのに!」

「俺のせいでもあるがお前のせいでもあるよなぁ?」

「なんだとっ、ていうかあの時なんであんなに遅かったんだよ…!!」

「お前こそなんであの時に限って散歩してねぇんだ。」





段々とお互いが興奮してきてヒートアップしていく喧嘩に圷は溜息をつきながら2人を止めようとした。





「いい加減にしろお前ら。どっちもどっちだ。」





圷にそう叱られてしまい駿里は肩を落とした。そんな駿里を見て少しきつく言いすぎてしまったかと思い圷は駿里に優しく微笑み声をかけた。





「まぁ駿里。今は体調を治すことを考えろ。」

「一生治りそうにない。だから無理そうだな。お仕置き受けるの。」

「「おい。」」





お仕置きを受けたくないあまりに駿里がそう言ってきたので圷と松下は思わず声を合わせてそうツッコんだ。そんな二人を見て駿里は楽しそうにさぞ笑った。無邪気に笑う駿里を見れて松下と圷は本当に安堵する。ずっと見たかったこの眩しい笑顔をこの目で見ることが出来てこの上なく幸せな気持ちになった。それと同時に思った。元気なのならば駿里の体調と精神面を考慮して先延ばしにしようとしていたお仕置きを早めにできるのではないか…と。





「なんだよ普通に元気そうじゃねぇか。そういうことなら今から俺が組長の代わりにお仕置きしてやるよ。」

「やめとけ、康二。組長に殺されんぞ。」

「大丈夫だ。挿れるわけじゃねぇし。」

「俺は知らねぇからな。」

「ちょっと意地悪するだけだ。後は組長に任せる。」





そう言って松下は駿里を車の中で仰向けに寝かせるとその上に覆いかぶさった。そして…。





「まって、ばかっ、やめろよ!」

「んー?」




キスマークを大量に付け始めた。松下の狙いは寛也を怒らせ駿里にお仕置きをさせること。そうすればしばらく家から出られなくなるし、もしかしたら自分もお仕置きに混ざれるかもしれないからだ。





「ただ跡つけてるだけだろうが。」

「それが嫌なんだってば…ぁ、ちょっと!!」

「キスしてくれんならやめてやってもいいぜ?」





そう松下に言われて駿里は黙り込む。やめて欲しいけどキスをされるのは嫌だ。そんな駿里を見て松下は笑顔を失い再び駿里の首元に顔を埋めた。





「あっそ。」

「まって、分かったから…!」

「いい子じゃねぇか。」





そう言うと松下は遠慮なしに駿里に深い口づけをしてきた。舌を器用に使い歯茎を舐め駿里の口の中を犯すように動かした。これはいつも通り。もう少し我慢してれば終わる。そう思い駿里は大人しくしていたが異変に気づく。長い。それにしても長い。明らかにおかしかった。いつになったら解放されるのか。キスをされてからというものもう数分経っている。我慢できなくなってきた駿里は松下の肩を押して執拗いキスから逃げようとするも…。





「ん゛んっ…!」





松下はビクともしなかった。それどころか腕を頭の上で拘束されもっと逃げられなくなる。こんな所寛也に見られでもしたらお仕置き案件だ。仮に見られなくともこんなに長い時間キスをされてしまえば唇も腫れてしまう。そうしたら必然的にバレてしまうのだ。そんなのたまったもんじゃないと駿里は大暴れをした。するとそれが気に触ったのか松下は一旦口を離してくれた。





「チッ、なんだよ。暴れんじゃねぇ。やりにくいだろうが。」

「はぁ…っ、はぁ…っ、長いんだよ…っ!」

「ああ、悪い。ちょっとやりすぎたか。」





あまりにも息が上がっている駿里を見て松下はそう言った。だが本当に悪いと思っていない用ですぐにもう一度口を合わせようとしてくる。すかさず駿里はそれを止めた。





「ちょっとじゃないっ!」

「駿里やめとけ。今康二を怒らしたらめんどくせぇぞ。」





圷は駿里のためにそう警告をしたが駿里はそれを聞かなかった。こうなればもう仕方がない。圷も暴走した松下を止めることが出来ない。なにせ今は運転しているのだから。そして案の定拒否され続け怒った松下に駿里はちょっかいを出され始めた。それを止めようと必死になっている駿里を見て圷は肩を落とした。






「言わんこっちゃねぇ。帰ってから組長に何されても俺は助けねぇからな。」

「酷いっ、助けろよ…!!」

「俺はちゃーんと警告したろ?それを聞かなかったお前が悪い。」

「おねがいっ、ちかやに怒られるからっ…!」

「知るかよ。まぁ家に着いたら助けてやらんこともない。」

「さいてい…!!」





駿里がそう叫ぶと圷はフッと笑った。そして圷はその言葉通り家に着くまで助けてくれなかった。駿里がこんなに必死になっているというのに彼はのびのびと運転をしていた。少しスピードを遅めにされた気もする。なんて意地悪なんだ。そんな幹部たちのイタズラに耐えながらやっとの思いで着いたと思ったら駿里は休憩する間もなく松下に担がれ懐かしの我が家へと足を踏み入れて行った。
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