極道の密にされる健気少年

安達

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番外編

通りすがりの女

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さっきの胸騒ぎが嘘だと思いたかった。しかし現実はそう思うように上手くいくことは無い。何せ今、駿里が一緒の車に乗っている男たちは極道なのだから。裏社会で生きる人間に慈悲という言葉は存在しない。



「あ、…のさっ、寛也…?」

「なんだ。」



駿里が酷く顔色を伺いながら自身の名前を呼んできたので寛也はどうしたものかと駿里の顔をのぞき込むようにしてそう答えた。



「どこに向かってるの…?」

「あ?何言ってんだお前は。家に決まってんだろうが。さっき帰んぞって言っただろ?」

「そ、そうだったねっ…、よかった。」



駿里は先程のように車の中でお仕置きされることを恐れていた。それと同時にあの女たちへの罰も…。



「…あの人たちはどうなるの?」

「お前は知らなくていい。忘れろ。今日あったこと全部な。」

「分かった…。」



きっとあの女たちに下される制裁は厳しいものになるだろう。寛也が車に入ってくる時駿里はあるのもを見た。それは黒塗りの車だ。それも何台もの。それを見ればこれから起きることはわざわざ聞かなくても分かる。どこかの倉庫にでも連れていかれて消されるかソープ系のお店に飛ばされてしまうだろう。これがこの世界の掟。分かっているはずなのに何度経験しても駿里はなれなかった。優しい心を持つ駿里にとって悪人であろうと不幸な道に落ちるのは心が苦しくなるのだ。



「嫌か?」

「…えっ、なにが?」


駿里が考え込んでいると寛也がそう問いかけてきた。予想をしていなかったことに駿里は動揺した。



「あいつらの事だ。」


寛也は駿里の思考を見抜いていた。駿里はまさか寛也にそう聞かれるなんて思いもしていなかったので数秒間黙り込んでしまう。なんて答えればいいのか分からなかったからだ。答えが見つかるまでしばらく時間がかかった。寛也相手にこんな大切な話で嘘はつきたくない。時間がかかってしまったのはそんな思いからだった。そんな駿里のことを寛也は黙って待っていた。志方も運転している松下も同様に何も言わずに待っていた。そんな優しい空間に包まれたからか、駿里は口をそっと開いた。



「それはっ…そうだけど…。でもっ…仕方ないって分かってるからさ…。俺は何も言わないよ。寛也が決めたことに俺は賛成する。」

「…ありがとな。駿里。」



駿里と寛也が出会ってそう長くは経っていない。だが駿里は強くなったなと寛也はこの時実感した。そんな感情に浸っている寛也の横で駿里は全く違うことを思っていた。それはお仕置きに関してのことだ。このままいけばお仕置きは免除されるのではないか…?そんな思考が過った。3人とも自分に感心しているこの状況を使い駿里は作戦を企てる。そしてそれを実行しようと寛也のことを期待して見上げたが…。



「お仕置きすんのは変わりねぇけどな。」



寛也は駿里に有無を言わさずそう言った。駿里の思考は本当に寛也にはお見通しのようだった。駿里は諦めたようにそして少しいじけたように下を俯いた。そんな駿里を見て寛也らは微笑んだ。松下に関しては声を出して笑っていた。



「はははっ、馬鹿だなぁ駿里は。これはこれだ。そう簡単にお仕置きが無くなるわけねぇだろうが。」

「バカってなんだよっ!」


松下にバカにされ駿里はすぐさまそう言い返した。すると隣に座っている志方がそう怒るなと言うように駿里の頭を優しく撫でてきた。



「健気で可愛いやつだ。」

「可愛くないっ…、志方さんまで俺のことバカにしやがってっ…、もぅ、触るなっ!」

「照れんなって。」

「照れてないっ…!」



そんなこんなで言い争いを続けているといつの間にかマンションの前まで来ていた。言い争いと言っても駿里が一方的に怒っていただけで3人は駿里のことをからかっていただけだ。まぁその状況が駿里を余計に怒らせたのかもしれない。



「おい駿里、帰ったらすぐ風呂入れよ。」

「え、なんで。」



色々あって疲れてしまった駿里は家に帰った瞬間に眠りにつきたかった。そんな駿里をいつも文句を言うことなく寛也は見守っている。なんなら布団をかけてくれたり寝室にまで運んでくれる。それなのに今日はお風呂を催促されて駿里はどういうことか状況を理解できなかった。そんな駿里を見て松下はため息をつく。



「おいおいまさかお前お仕置きのこと忘れてんじゃねぇだろうな。追加すんぞ。」

「ちがっ…、そんなわけないだろ!」



駿里は本当はすっかり忘れていた。誤魔化したが絶対にバレている。駿里は遅かれど言葉だけでも忘れていなかったと主張したかったのだ。



「完全に忘れてましたねこいつ。」



志方にそう言われたら返す言葉もない。ごめんなさいと謝罪すべきか迷ったが今更遅いので駿里は黙り込みそっぽ向いた。小さな抵抗だ。



「まぁビクビクしながら車に乗ってるよりはマシだろ。なぁ、駿里。」



そう言うと寛也は逃がさないと言わんばかりに駿里の肩を抱いてきた。言葉は優しいのに行動は違う寛也たちによってそのまま大人しく寛也らに家の中まで連行されていった。



「うわっ、何すんだ降ろせ!」

「抵抗していいのか?拘束具が増えるだけだぞ。」


駿里が玄関に靴を脱いだ瞬間体が急に宙に浮いた。それに驚いた駿里は手足をばたつかせるが相手は寛也だ。そんな抵抗などなんの意味もなかった。それに加えて拘束具を増やすと言われてしまえばもう黙るしかない。その駿里を見て満足した寛也は視線を志方らに移した。

そしてーーー。



「康二、志方。お前らは帰れ。」

「「…はい!?」」



志方と松下は恐らく寛也からその言葉が出てくる予想をしていなかったようで酷く驚いていた。お仕置きに参加する気満々だった2人にとって寛也が放った言葉はかなり辛いだろう。



「あ?聞こえなかったか?帰れっつったんだ。」

「いえ、聞こえましたよ。ですが今からお仕置きをするんですよね…?」



松下は寛也の顔色を伺いながらそう言った。だが、寛也は初めから決めていたようだ。家に帰ってからは自分だけで駿里のお仕置きを決行するということを。



「ああ。だから帰れ。」

「「……承知しました。」」


寛也にしつこく同じことを聞くのは命取りだ。参加したい気持ちは山々だが2人は諦めざるを得なかった。そんなしょげた姿の二人を見て寛也は励ましの言葉を言う。



「仕事があんだろ?それ終わらせられたら来てもいいぞ。」

「「はい。」」



そう返事をすると2人は急いで家を出た。だがその仕事は到底今日中に終わるとは思えない内容だ。それなのに急いで出ていった二人を見て寛也は思わず笑を零した。

そんな寛也の笑みを見て駿里は……。



「…悪魔の笑いだ。」

「あ?なんだと。どうやら激しくされたいようだな。」

「……っ!!!」

「覚悟しろよ。」

「ちがっ、まって…!!」

「待たねぇよ。」



この後駿里が寝室で声が枯れるまで泣かされたのは言うまでもないだろう。
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