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番外編
〜オメガバース〜 温もり
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松下らがリビングへと入るとその部屋は電気も何もついておらず真っ暗だった。このままでは何も見えないのでとりあえずキッチンの電気をつけるとそこには駿里がいた。生きていた。間に合った。松下が安堵して駿里に近づこうとすると…。
「来ないで…っ、」
駿里は近づいてくる松下から距離を取ろうと後ろに下がる。だが松下は駿里が下がっても下がっても歩み寄ってくる。そしてついに壁に背がついた。逃げ場が無くなった駿里は顔を下に向けてブルブルと震えていた。見つかってはいけないものを見られて酷く動揺していたのだ。涙も止まることなく流れ続けている。
「駿里。」
そう言って松下が駿里の体に触れると問いかけに答えることも無くフローリングの上に座り込んでしまった。顔が下がっているが駿里が泣いているのが分かる。泣き声を漏らさぬよう必死に声を抑えているのも。その駿里を追うように松下も座り込んだ。後ろにいる圷や志方もそばに来て駿里を見つめる。
「いやだっ、離してよっ…。」
「悪いな、それは聞いてやれねぇ。」
松下は嫌がる駿里を無理やり腕の中に抱き込んだ。自分の膝の上に座らた為駿里が背中に隠しているものが見えた。駿里は注射器と薬が入れてあった瓶を力いっぱい握りしめている。その駿里の手を包むように志方は自分の手を覆いかぶせると手に汗をかいているのがわかった。酷い緊張状態だ。志方は少しでもそれを和らげてあげようと駿里の手を撫でるように両手で包み込んだ。2人同様圷も駿里を落ち着かせようと背中を撫でていた。
ーーーよし、ほんのわずかだが震えが止まってきたな。
「駿里、顔を見せてくれるか?」
「………。」
松下にそう言われ駿里は躊躇した。このことが見つかれば責め立てられ嫌になるほど怒られると思っていた。なのに3人は只只そばにいてくれた。抱きしめてくれた。怒ることなく落ち着くまで待ってくれた。駿里がずっとして欲しかった心の傷を埋めてくれた。その事が駿里の心の中を変化させつつあった。死にたい、その気持ちが段々と薄れていっていたのだ。その心情の変化を松下らは見逃さなかった。しばらく待っていたが駿里は顔をあげなかった。だが気持ちが変化してくれた、それだけで十分だと思い松下は口を開く。
「お前は本気で死にたいなんて思ってねぇだろ。意思が揺らいでんのが分かんだよ。なのになんで俺に何も言ってくねぇんだ。なんのために俺がいると思ってんだよ。」
本気で死にたいと思っていたら絶対に失敗しない。それはもう生きたいと思う意思が頭にないからだ。必ず命を絶つ。だが未遂で終わる場合は意思が揺らいでいる。生きたいと思っているから命を絶てない。その意思が少しでも残っている時に手を差し伸べなければならない。手遅れになる前に支えてあげなければならない。周りがそのことに気づいて止めなければいけない。今の駿里はその段階だ。松下たちが来るまでかなりの時間があった。でもその間に駿里はそれが出来なかった。だから松下たちは駿里の心傷を塞ぐように只只抱きしめた。駿里を責めることは一切せずに。なんで自殺なんてしようとしたんだよ、と死ぬほど辛い思いをしている人に言っても余計に追い詰めるだけだから。今は心の傷を癒すことを優先しなければならない。
「これ、俺に渡してくれるか?」
落ち着いてきた今ならもしかしたら渡してくれるかもしれないと志方が駿里の手を包みながらそう言った。持っている注射器とヤクを渡して欲しい、と。駄目元で言ったが駿里は少しずつ握りしめていた手を広げてくれた。そして、ゆっくりと志方にそれ渡した。
「ありがとう駿里。」
強く握りすぎていたこともあり駿里の手は出血していた。それを志方がすぐに止血をする。その間も松下は駿里を抱きしめて離さなかった。駿里の涙が松下のスーツを濡らしていく。止まらぬ大粒の涙をすべて松下は受け止めた。血が止まったのを確認すると松下が志方と圷を見た。
「悪い、お前らに頼みがある。」
「なんだ。」
「組長が来るまでの間駿里と二人きりにして欲しい。」
2人は松下からそう言われたがこんな状況になってしまった駿里の傍から離れなくなかった。でもそれは駿里にとって負担になるかもしれない。松下は幹部の中でもダントツで駿里と過ごした時間が長い。寛也と比べてもいい勝負をするだろう。だからそれだけ駿里も心を許している上に本音で話せる。だが自分たちは違う。その為2人は駿里のことを考えて松下に託すことにした。
「分かった。駿里を任せる。」
「ああ。」
松下は2人の姿が見えなくなると視線を駿里に移した。そして松下は駿里ことを抱きしめる。
「来ないで…っ、」
駿里は近づいてくる松下から距離を取ろうと後ろに下がる。だが松下は駿里が下がっても下がっても歩み寄ってくる。そしてついに壁に背がついた。逃げ場が無くなった駿里は顔を下に向けてブルブルと震えていた。見つかってはいけないものを見られて酷く動揺していたのだ。涙も止まることなく流れ続けている。
「駿里。」
そう言って松下が駿里の体に触れると問いかけに答えることも無くフローリングの上に座り込んでしまった。顔が下がっているが駿里が泣いているのが分かる。泣き声を漏らさぬよう必死に声を抑えているのも。その駿里を追うように松下も座り込んだ。後ろにいる圷や志方もそばに来て駿里を見つめる。
「いやだっ、離してよっ…。」
「悪いな、それは聞いてやれねぇ。」
松下は嫌がる駿里を無理やり腕の中に抱き込んだ。自分の膝の上に座らた為駿里が背中に隠しているものが見えた。駿里は注射器と薬が入れてあった瓶を力いっぱい握りしめている。その駿里の手を包むように志方は自分の手を覆いかぶせると手に汗をかいているのがわかった。酷い緊張状態だ。志方は少しでもそれを和らげてあげようと駿里の手を撫でるように両手で包み込んだ。2人同様圷も駿里を落ち着かせようと背中を撫でていた。
ーーーよし、ほんのわずかだが震えが止まってきたな。
「駿里、顔を見せてくれるか?」
「………。」
松下にそう言われ駿里は躊躇した。このことが見つかれば責め立てられ嫌になるほど怒られると思っていた。なのに3人は只只そばにいてくれた。抱きしめてくれた。怒ることなく落ち着くまで待ってくれた。駿里がずっとして欲しかった心の傷を埋めてくれた。その事が駿里の心の中を変化させつつあった。死にたい、その気持ちが段々と薄れていっていたのだ。その心情の変化を松下らは見逃さなかった。しばらく待っていたが駿里は顔をあげなかった。だが気持ちが変化してくれた、それだけで十分だと思い松下は口を開く。
「お前は本気で死にたいなんて思ってねぇだろ。意思が揺らいでんのが分かんだよ。なのになんで俺に何も言ってくねぇんだ。なんのために俺がいると思ってんだよ。」
本気で死にたいと思っていたら絶対に失敗しない。それはもう生きたいと思う意思が頭にないからだ。必ず命を絶つ。だが未遂で終わる場合は意思が揺らいでいる。生きたいと思っているから命を絶てない。その意思が少しでも残っている時に手を差し伸べなければならない。手遅れになる前に支えてあげなければならない。周りがそのことに気づいて止めなければいけない。今の駿里はその段階だ。松下たちが来るまでかなりの時間があった。でもその間に駿里はそれが出来なかった。だから松下たちは駿里の心傷を塞ぐように只只抱きしめた。駿里を責めることは一切せずに。なんで自殺なんてしようとしたんだよ、と死ぬほど辛い思いをしている人に言っても余計に追い詰めるだけだから。今は心の傷を癒すことを優先しなければならない。
「これ、俺に渡してくれるか?」
落ち着いてきた今ならもしかしたら渡してくれるかもしれないと志方が駿里の手を包みながらそう言った。持っている注射器とヤクを渡して欲しい、と。駄目元で言ったが駿里は少しずつ握りしめていた手を広げてくれた。そして、ゆっくりと志方にそれ渡した。
「ありがとう駿里。」
強く握りすぎていたこともあり駿里の手は出血していた。それを志方がすぐに止血をする。その間も松下は駿里を抱きしめて離さなかった。駿里の涙が松下のスーツを濡らしていく。止まらぬ大粒の涙をすべて松下は受け止めた。血が止まったのを確認すると松下が志方と圷を見た。
「悪い、お前らに頼みがある。」
「なんだ。」
「組長が来るまでの間駿里と二人きりにして欲しい。」
2人は松下からそう言われたがこんな状況になってしまった駿里の傍から離れなくなかった。でもそれは駿里にとって負担になるかもしれない。松下は幹部の中でもダントツで駿里と過ごした時間が長い。寛也と比べてもいい勝負をするだろう。だからそれだけ駿里も心を許している上に本音で話せる。だが自分たちは違う。その為2人は駿里のことを考えて松下に託すことにした。
「分かった。駿里を任せる。」
「ああ。」
松下は2人の姿が見えなくなると視線を駿里に移した。そして松下は駿里ことを抱きしめる。
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