極道の密にされる健気少年

安達

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番外編

〜オメガバース〜 腕の中の温もり

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おかえり。そう駿里が言っただけで寛也は本当に安心したように微笑んだ。よほど自分のことを心配してくれていたのがそれを見ただけで駿里は分かった。駿里はそれが何よりも嬉しかった。志方もまたその様子を見てやはり組長は凄いなと思わず動かしていた手を止めてしまった。自分は吉村の姿を見たただけで殺したい衝動を抑えられなかった。なのに寛也は吉村のことを目にとめず駿里のことだけを考えた。それは中々できることではない。



「どうしたんだよ駿里。そんなに俺の事じっと見つめて。」

「なんで何も聞かないの?」

「せっかくお前に会えたのに他の奴の話なんてしたくねぇんだ。それにお前が辛い顔すんの耐えられねぇんだよ。我儘言って悪いな。」



本当は駿里に頭を下げて謝りたい。自分が呼んだ世話係のせいで駿里をこんな目に遭わせてしまった。だが、ここで執拗に謝れば駿里はもっと辛い気持ちになるし、吉村のことをより鮮明に思い出すだろう。寛也はそれを避けたかったのだ。寛也は出来るだけ早く駿里の記憶の中から吉村を消したかった。



「寛也が謝るのはおかしい。悪いのは俺なのに…。」

「それはもっと違う。お前は何も悪くない。」



こんな目に遭ってまで自分が悪いという駿里に寛也はかなり不安になった。善良過ぎて誰かに騙されてしまうのではないか、と。だから寛也はしばらくは外部の人間と駿里を関わらせることは避けようと決めた。でもその事は絶対に駿里には伝えない。余計な一言を言って駿里にストレスを与えたくないのだ。



「この話はこれで終わりだ。いいな?」



寛也は駿里が頷いたのを見て頭を撫でて額にキスをした。そしてしばらくの間寛也は駿里を抱きしめ温もりを感じていた。駿里が生きている、自分の腕の中にいると体全体に実感させたかったのだ。



「今日の晩飯はお前の好きなパスタだ。」

「いいの?」


パスタという言葉を聞いただけで駿里は目を輝かせた。本来なら一緒に作りたいところだが、流石に今の駿里に無理はさせられないので志方に作らせることにした。なにより寛也は片時も駿里の傍から離れたくなかった。そんな我儘を志方は駿里の為なら喜んで、と快く引き受けてくれた。



「当たり前だろ。駿里が喜ぶなら何でもしてやるって言っただろ?」

「ありがとう。」



そう言いながら駿里は笑顔になった。その笑顔は寛也とってオアシスそのものだった。そこから寛也と駿里は世間話をしたり幹部の話をしたりテレビを見たりした。そんな風に幸せな時間を共に過ごしていると寛也のスマホに着信音が鳴った。



「俺こっちに行っとくね。」



寛也のスマホに着信が入った為駿里は邪魔にならないように彼の膝の上から降りようとしたが…。



「駄目に決まってんだろ。ここにいろ。」



降りることを寛也に阻止された。そして何処にも行くなと言わんばかりに寛也の腕の中に閉じ込められた。



「俺邪魔にならない?」

「ならねぇよ。」



逆に仕事が捗るなんて言われたけどやっぱり駿里は自分が邪魔になるのではないかと思い少し体をずらした。すると寛也はそれに気づくや否やより駿里を自分の体に密着させるように腕でホールドした。それが嬉しくて駿里はチラッと寛也の顔を見上げると目が合ってしまった。



「可愛い奴め。」



目が合ったことで頬を赤く染めた駿里に寛也は微笑みながらそう言った。そしてその後やっと電話に出た。



『おい寛也遅っせぇんだよ!』



電話に出た瞬間スマホの向こう側から叫び声のような声が聞こえて駿里は思わず肩をビクンと震わせた。それが少し恥ずかしかったので何事もないようにすました顔をしているとキッチンにいる志方に笑われた。だが、寛也は可愛い駿里が見られたことは良いと思ったものの駿里を驚かせた電話相手に怒りが募ったようだ。



 「はぁ…たく、何の用だ。」

『おいおい兄貴に向かってそんな口の利き方はねぇだろ。』



寛也のそばにいる為会話は全て駿里にも聞こえていた。駿里は聞こえてきたその声で電話相手を特定しようと意識集中した。この口の悪さだけでも予想できたが、それをより強く確信できるものが聞こえた。



「碓氷さん?」

「ああ、そうだ。」



先程の碓氷に怒っていた際には考えられないほど優しい声で寛也は駿里にそう言った。



『あ?お前誰と話してんだ?』

 「兄貴には関係のない事だ。用がないようなら切るぞ。じゃあな。」

『待てって馬鹿。ちゃんとした用があるからわざわざ電話かけてんだよ。』



碓氷は電話を切られることを恐れたのか、口調に焦りが混じっていた。そこまで焦るなら親父絡みの用事かと思い寛也は話だけでも聞くことにした。



 「ならさっさと要件を言え。」

『へいへい。そう急かさんでも言うっての。』



もしかしたら悪い報告かもしれないと寛也は身構えた。そして駿里には聞かれては不味いものだといけないので音のボリュームを下げて聞かれないようにした。



『明後日駿里に会いに行ってもいいか?』

 「……は?」

 「あ!寛也なんで電話切ってんのさ!」


寛也がふざけてるのかと言い電話をぶち切ったので駿里は彼の腕を掴みながらそう言った。ボリュームを下げられたため会話が一切聞こえなかったのもあり何を話したのか気になったのだ。



「どうでもいい要件だったからだ。」

「なんて言われたの?」

「内緒だ。」



寛也はそう言って駿里を抱きしめた。いくら兄といえども嫉妬はする。その嫉妬心を埋めるように只只駿里を抱きしめ続けた。
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