極道の密にされる健気少年

安達

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番外編

〜オメガバース〜 この方には勝てない

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「よう。」

「嘘だろお前。なんでここにそいつ連れてきてんだよ。」



島袋は志方に言われた通り吉村を半殺しでとどめておいた。しかし何故か島袋は吉村をここに連れてきたのだ。島袋のことだからちゃんと理由があるのだろうが、もし駿里が目を覚ました時だったらどうするだと志方は島袋を睨んだ。それに松下だって辛いはずだ。その証拠に松下は吉村を見ても悔しそうな顔をして口を開こうとしないのだから。



「すまない。でも俺が一人で見張ってるとな、謝って殺しちまいそうなんだよ。」

「それならそうと言えよ。メールさえすれば俺が飛んで行くことぐらいお前もわかってんだろ。この家の中に入れたら色々面倒だろうが。組長も怒るどころの話じゃねぇぞ。駿里だって今は眠ってるからいいもののパニックになってたかもしれねぇんだぞ。お前、自分のやった事の意味ちゃんと分かってんのか。」



いくら駿里が傷つけられ怒りが抑えられないからと言ってもやっていい事と悪いことがある。その分別もつかないほど自分の感情をコントロール出来ないのはこの仕事において弱点になってしまう。志方は駿里や松下だけではない、島袋のことも思ってそう強く言った。決してピリピリしてる訳では無い。ただ、興奮している島袋に冷静になって欲しかったのだ。



「悪い、余裕無くなっちまった。駿里を傷つけられたと思うと自制が聞かなくなっちまってな。なのに俺も1歩間違えれば駿里を傷つけてしまってたかもしれない…。俺は馬鹿すぎる。」



志方の思いが島袋に届いたようだ。興奮している島袋にも動じず怒りを膨張させないように配慮しながら島袋を落ち着かせた志方に松下は感心した。



「たく、ほんとに馬鹿だよお前は。頭を冷やせ。」



志方は近くにあった保冷剤を手に取り島袋に投げつけた。



「ああ。」

「とりあえず組長が帰ってくる前にこいつをこの家から出さねぇと。」

「そうだな。連れてきたのも俺だし、俺が運んで捨てといてやる。この状態だと意識が戻るのも大分先だろうからな。」

「島袋。俺が事務所まで運んどく。」



松下が言ったことに対して2人は一瞬固まってしまった。その間に先程までずっと黙っていた松下は立ち上がって吉村が倒れている所まで来た。



「松下、落ち着け。」

「離せよ志方。俺は落ち着いてる。」



どこがだよ、と志方が松下に言おうとした時、玄関の音が鳴った。寛也が帰ってきてしまったようだ。この最悪のタイミングで…。



「まずい。組長だ。」



この状況では隠すことも出来ない。いくら理由があろうとも駿里を傷つけた奴がこの部屋にいることは許せないだろう。3人は殴られるのを覚悟で寛也がリビングに来るのを待った。そしてついにその時が来た。



「組長、あの…。」

「そいつをつまみ出せ。」



寛也は吉村の顔を見て怒り狂うと思っていたが、顔色一つ変えることなくそう言って駿里の元に一直線に向かった。



「申し訳ありません。」



寛也はソファに眠っている駿里を抱きかかえて自分の膝に乗せた。その様子を伺いながら3人は寛也に頭を下げた。



「謝らなくていい。それと康二、そいつの始末はお前に任せる。殺すも生かすもお前の好きなようにしろ。仮にもそいつはお前の部下だからな。だからと言ってお前が責任を感じる必要もない。吉村をどうするからじっくり考えとけ。」 

「はい。」



松下がそう返事をした後、吉村を抱えてこの部屋を後にした。事務所へと向かって行ったのだろう。



「では、俺達も失礼します。」

「待て。志方、お前はここにいろ。島袋は康二のサポートを頼む。」

「お任せ下さい。」



志方らは寛也に言われた通り動き出した。島袋は先に事務所に向かった松下を急ぎ足で追いかけ、志方は今帰ってきたばかりの寛也のためにコーヒーと軽く食べれるものを作ろうとキッチンへ向かった。



「志方、駿里はずっとこんな感じなのか?」

「はい。司波を呼びますか?」

「そうだな、頼む。駿里の首の注射痕があるというのも伝えろ。」

「…承知しました。」



あんなに駿里の至近距離まで行ったのに志方は注射痕があったことに気づくことが出来なかった。いや、本来なら勘づかなければならない。レイプをされた後だと言うのに志方はそこまで頭が回らなかった。それとは裏腹に寛也は帰ってすぐに気づき、駿里の身体チェックをして無事を確認しようとした。



「どうした志方。」

「いえ、なんでもありません。今司波に連絡をした所来るまでに少し時間がかかるとの事です。」

「有難うな。」



何も悪くないのにどいつもこいつも責任を感じやがる。寛也は松下だけではなくて志方もシケたツラをしているのを見て全く困ったものだと思わずため息をつきそうになる。善良なのはいい事だが、あまりにも責任感が強すぎると自分に負担がかかってしまう。駿里だけではなくこの件に関しては松下も志方も、他の幹部のことも心配になった。



「……ちかや?」



しばらくの間続いていた沈黙の中、か細い駿里の声がこの部屋に響いた。



「ああ、俺だ。親父の奴がつまらん用事で呼び出すから帰るのが遅くなっちまった。ごめんな。」



志方の顔を見る限り寛也は駿里の身に何があったか知っているはずだ。なのにいつも通りに接してきた。あの件に関して何も言ってこなかった。でも寛也が言わなくても駿里は謝りたかった。



「ただいま駿里。」



駿里が謝ろうとしてきたのが分かると寛也はそれを遮るようにそう言いキスをした。寛也は駿里に思い出して欲しくなかったのだ。もう吉村の事なんて忘れて笑顔になって欲しかった。駿里はそんな優しい寛也の思いが届いて思わず涙が流れでた。



「…ぉ……っ、おかえり…。」
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