極道の密にされる健気少年

安達

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番外編

〜オメガバース〜 俺は騙せない

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「おいお前何してんだよ!」



松下が布団の中に潜っていた駿里を引きづり出したのを見て志方は声を荒らげた。まだ体が回復しておらず眠たいという駿里の意志を無視してそういう行動に出たことが志方は許せなかったのだ。




「この傷なんだよ。」



松下が駿里の首元の服を引っ張りながら頸についている噛み跡を指さした。



「松下いい加減しろ。どうしたんだよ。らしくねぇぞ。」



ヒートだったのだから寛也がつけたに違いない。そんなの分かりきったことなのに。嫉妬心が抑えられずにそう言っているとしたのなら流石に止めなければと志方は松下の腕を掴んだ。しかし松下は志方を無視して駿里の顔を見続ける。なぜなら松下が見ていたのは噛み跡ではなく他の場所にある傷だったから。



「駿里。」

「やめろって、駿里が怯えてんじゃねぇかよ。」

「じゃあ見てみろよこの傷。」



松下に言われ志方は渋々見た。だがそこを見た瞬間言葉を失うほどの衝撃が全身に走る。駿里はこれ以上2人に吉村に犯された決定的な証拠を見られまいと松下の腕の中で暴れるが先程の事もあり体が痛すぎて動くことすらままならなかった。



「…なんだよこれ。どういうことだ。」



松下は逃げを打とうとする駿里を少し強めに抱きしめた。それもあって駿里は身体中の色んなところを志方に見られてしまった。注射痕だけでなく拘束具でついた傷までも。



「まさかとは思うが吉村か?」

「違う!」



今まで松下達に体を好き放題触られ見られても何を言わなかったのに駿里が急にそういったことで2人は確信した。



「さっきまで何も言わなかったのにこれは否定すんだな。」



駿里は何も言えなくなった。寛也にもバレてしまう。どうすればいい。でもこの追い込まれた状況では何の策も思いつかなかった。



「志方、すぐにあいつを呼び戻せ。」

「やめて!」



歩き出そうとする志方のスーツを駿里は今ある最大限の力を振り絞って掴んだ。



「あいつ呼び出すとなんか都合悪ぃことでもあんのかよ。」

「だって俺は吉村さんに何もされてないっ…。」



ーーー泣きそうな顔しながら何言ってんだよ。俺らはお前にとってそんなに頼りねぇのか。

松下はそんなことを思いながら駿里の服を破った。過ぎた行動だとは重々承知している。だが隠し通すのなら無理にでも言わせなければならない。今駿里の口から話さなければ駿里は1人で悩み苦しむことになる。嫌われてもいい、悪役になってでも松下は駿里の心を楽にさせたかった。



「ならこの傷はどう説明すんだ。まさか自分でつけたとかふざけた事言いだすんじゃねぇだろうな。」

「…痛いっ、」



松下が駿里の腕を強く握ったことで服に血が滲んだ。その痛みと恐怖から駿里はブルブル震えていた。出血箇所をまじかで見なくとも拘束されている状態で無理に解こうとしてできた傷だということが容易にわかる。まさかと思い、松下が駿里の後孔に触れると酷く腫れていた。寛也がこの家を出て松下達が着くまでの時間はたった1時間ほど。それはやはり駿里が心配だからと本家に行く途中で松下達を寛也が返したからのだ。そんな短期間で駿里を襲うとなれば睡眠薬でも入れなければ不可能だ。2人は吉村によって駿里が犯されたと言うことを考えていなかった。いや、考えれなかったと言う方が正しいかもしれない。部下の事を信じすぎていたのだ。



「違う。そんな顔させたいわけじゃないんだ。ごめんな駿里。」



松下はこの状況により放心状態になってしまい駿里を抱きしめていた腕の力が抜けてしまった。その隙を狙って駿里は松下の腕の中から離れ2人から距離を取ろうとする。その様子を見ても志方は何もすることが出来なかった。今自分が駿里に触れることでもっと怯えさせてしまうと思ったからだ。しかし松下は…。



「康二さんっ、はなしっ、て…。」

「辛い思いさせちまって悪い。全部俺のせいだ。」



そう言って松下は離れた駿里を引き戻し、無理やり腕の中に閉じ込めた。暴れる駿里を腕で固定して抱きしめ続ける。どれだけ泣き喚こうが駿里を離さなかった。



「もう大丈夫だ。俺たちがなんとかする。」



駿里が暴れたことで服がはだけ傷が明るみになった。志方が見たその傷は腕に着いた傷よりも重症だった。



「…まじかよ。」



志方が駿里の服をめくろうとした。服に傷がついては痛むだろうと思ったからだ。それだけでは無い、服と出血箇所がくっついた状態が続くとかさぶたになった時服ごと固まってしまう恐れがある。そうなればせっかくカサブタになったところも1度剥がさなければならない。それはかなり苦痛が伴うことだから志方はそれを避けようとしたのだ。



「っ…やだあっ、やめて!」

「馬鹿、何してんだよ!」



松下は志方がした行動の意味は分かっていた。全ては駿里の為だと。しかしそれは今やるべきではないと松下は志方の腕を掴んだ。



「駿里落ち着け、俺だ。」



パニックになってしまった駿里に松下は自分の顔を覗き込ませた。



「来ないでっ、もうやだぁっ…。」

「駿里、落ち着ちくんだ。ここにはお前の味方しかいない。」



志方も駿里を宥める。でも今の駿里にはそんな言葉は届かなかった。



「俺の顔を見ろ。」

「離してっ!」

「ぐっ…!」


全身で暴れていた為、駿里が松下の鳩尾を誤って蹴ってしまう。それでも松下は痛みに構うことなく隙を狙って駿里を腕の中に閉じ込め力ずくで抱きしめた。その瞬間駿里は松下の匂いに包まれる。志方もすかさず後ろから駿里を抱きしめた。その匂いに安心したのか駿里は動きを止めた。



「俺が誰かわかるか?」



松下が優しく駿里の顔を覗き込み微笑んでそう言った。



「こうじっ、さんっ…。」

「ああ、そうだ。」

「俺もいる。」



後ろから駿里の頭を撫でながら志方も松下同様に優しくそう言った。駿里は2人の存在を認識して安心したようだ。だが…。



「ごめんなっ、さぃ。」



駿里は松下の鳩尾を思いっきり蹴ってしまったことを思い出し慌てて謝った。なのに松下は変わらず優しい笑顔で自分も見てくる。



「こんぐらい気にすんな。もう何も言わなくていい。」



1番信頼していた部下に裏切られ悲しくない訳が無い。右腕と呼ばれていたほどに2人は親密な関係だったのだから。それなのに松下は自分を気にかけてくれる。優先してくれる。志方もだ。駿里は2人に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。
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