極道の密にされる健気少年

安達

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創始

165話 過去

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「俺には可愛い弟は3人いた。でもな、親がほんとにどうしようもない奴らだったんだよ。」

「どんな人だったの?」


駿里が志方に言ったこと、それは簡単に聞けることではない。それに軽い気持ちで入ってはいけない領域だ。それでも駿里はそれ以上に志方のことが知りたかった。


「簡単に言うと暴力ばっか振るう奴だったんだよ。でも俺らにはお金もないから逃げるすべがないし、助けを求めるすべもない。だから俺は親に隠れてバイトを始めたんだ。弟たちを養うためにな。それからは夜中に帰ることが多くなった。でもいつだったか、もう忘れちまったけどある日家に帰ると親が死んでた。」

「………え?」


駿里は色々考えた。我慢の限界になった弟たちが一線を超えてしまったとか、もしかしたら借金をしていて返さなかった為に殺されてしまったのではないか、と。


「強盗殺人だ。俺の3人の弟たちは全員無事だったからよかったんだけどな。今思えばそれは良くなかったのかもしれない。」


寛也は志方が話すことを黙って聞いていた。そして志方が自分の口からこのことを話せるようになったほど強い大人になったな、と思った。


「俺はそんときもう15歳だったからよ、住み込みのバイトを始めたんだ。少しでも働く時間が長い方がいいからな。弟たちと言うと親族の家に預けられた。だから俺も安心してバイトを始めてたんだか、ある日、弟に会いにいくと泣きついてきたんだよ。」


志方は色々思い出したのか、だんだんと表情が曇っていく。


「お兄ちゃんと一緒に暮らしたいって。あいつらそう言ったんだ。」

「志方さんはなんて言ったの?」

「駄目だって言っちまったんだ。勝手に俺のところにいるよりここにいる方が幸せだと思ってな。あいつらの話もろくに聞かずに。 あんまり長くいると親族にも迷惑をかけると思って俺はすぐに帰ったんだがその数日後、慎吾以外の弟達が自殺をした。」

「……っ!」


駿里は志方の発言に頭を殴られたようなショックが全身を貫いた。


「聞く所によるとあいつらは性的虐待を受けていたようなんだ。だから俺に助けを乞うた。なのにそうとも知らずに俺は突き放した。」

「っでも、なんで慎吾さんは志方さんを……?」


駿里は物心着く前に2人は離れ離れになったのかと思っていた。しかし、今の話を聞く限り慎吾は志方のことを覚えているはずだ。


「解離性同一性障害って知ってるか?」


志方の問いかけに駿里は首を左右に振った。


「虐待を受けている子供によくみられるものだ。あまりに酷いショックを受けると人格の一貫性が保て無くなって新しい自分を作り出すんだ。あん時慎吾は10歳程だった。いつからそれを発症していたのかも分からない。俺はあいつらを救ってやれなかった。全ては俺が原因で起きたことなんだ。」

「それは違う。志方さんは何も悪くない。」


駿里は志方の手を強く握りながらそう言った。寛也はこれ以上は志方が自分の口から言うのは辛そうだと思い、口を開いた。


「それから慎吾は入院して退院した後、施設に入った。志方のところに行かなかったのは慎吾の記憶からこいつが消えてたからだ。原因は未だに分からないままだ。だからしばらく志方は遠くから慎吾を見守ってたみたいなんだが、そこから行方不明なっちまってな。志方は必死に探してたんだ。まともに飯も食わずに。そんでこいつは倒れちまったんだ。」

「そんなっ…。」

「運良く俺がそこに通ったからいいものの馬鹿だろこいつ。お前が責任を感じることなんて何もねぇのに。悪いのは全部志方の周りの大人たちだろ。」


寛也は志方の頭を軽くしばいた。それでもまだ責任を感じている様子だったのでもう1発いれた。


「寛也が助けたってこと?」

「そう、組長が助けてくれたんだ。そこから俺はこの組に入って組長と森廣さんも一緒に慎吾を探してくれてた。でも記憶が消えてんのは良かったかもしれないな。虐待された記憶が消え去ってるってことだからよ。」


もういいんだ、俺はあいつが幸せならなんでもいいからな、と志方は駿里の頭を撫でた。


「志方さんは慎吾に自分が兄ってことを伝えた?」

「いや、伝えてない。」

「じゃあ今から言いに行こ。俺も慎吾に会いたいから一緒に行く。」

「「は?」」


駿里の発言に対して思ったことが同じようで志方と寛也が同時にそう言った。


「馬鹿かお前。病み上がりのくせに外に出ようとしてんじゃねぇ。」

「志方の言う通りだ。今日は安静にしろ。」


今日は、と言ったが寛也はしばらく駿里をこの家から出すつもりはなかった。少なくとも1ヶ月程は。


「さっき行くって言ったの寛也じゃんか。」

「確かにそう言った。でもそれはさっきお前が元気になってそうだったからだ。今は違うだろ。」


寛也は駿里の膨れている頬を掴んだ。


「そんなこと言ってる場合じゃないよ、こうしてるうちに慎吾が退院したらどうすんのさ。」


駿里は自分の頬を掴んでいる寛也の手を退けることなくそう言った。


「駿里、俺はもちろん慎吾のことは大切だ。でもそれ以上にお前のことも大切なんだよ。頼むから休んでくれ。」


これだけ言っても納得していない顔をしている駿里に寛也はため息をつく。


「たく、困ったやつだな。ただでさえ酒飲んでんのに。」

「あっ、なんで言うの!」

「は?お前酒飲んでんの?」


志方にそう言われて駿里は何も言えなかった。この先のことなんて考えなくてもわかる。寛也にも松下、圷、島袋にまでお仕置きをされたのに志方にもされてしまうと思うと考えるだけで恐ろしい。


「駿里、黙ってたらわかんねぇだろ。どうなの?」


志方は圷と同じだ。優しいのに優しくない。笑顔で駿里に問いかけた。


「…………っ飲みました。」

「お前さ、今何歳?」

「えっ、と18歳。」

「だよな。なんで飲んだわけ?」

「どうせ言ったって志方さんにはわかんないもん!」


どっちにしろ怒られるのに理由まで問い詰める必要なんてないじゃんか、と駿里はしょぼくれた。

 
「目が覚めて喉乾いてたのか。」

「え、なんで分かる?俺何も言ってないのに。」

「お前のことはお見通しだ。」


本当は松下からそう連絡を貰っていたのだが、駿里を前にするとカッコつけたくなるようだ。


「明日志方にもお仕置きしてもらえ。」

「絶対やだ!」

「俺にもって事は他の奴らもしたんですか?」


寛也がお仕置きをするのは当然だ。だが、もしお仕置きを松下達もしていたのなら志方は羨ましいと思ってしまった。


「ああ、康二とかにも遊ばれてたよな駿里。」

「へぇ。松下にもな。駿里、明日が楽しみだ。」

「酷いことしたらもう志方さんとは口聞かないから。」


駿里は顔を背けて寛也の後ろに隠れた。


「そんなこと俺がするわけねぇだろ。」


穏やかな表情で志方は駿里の頭を撫でた。


「では組長、俺はそろそろ失礼しますね。」


居候しすぎては寛也と駿里が2人で過ごせる大切な時間が短くなってしまうと志方はそう言って部屋を出た。


「寛也。」

「どうした?」

「俺寛也の部下たちににいじめられてる。」


いつもはそんな言い方しないが、連続してお仕置きされた為か駿里は拗ねていた。


「はは、あいつらはお前のことが好きで堪んねぇんだよ。でもたしかに少しやりすぎな所はあるかもな。だったら今度は駿里からあいつらにお仕置きしたらどうだ。」

「俺から?」


そんな事考えもしなかった。寛也からそう言われ楽しそうと思ったのが本音だが少しスリルもあるなと思った。再びお仕置きし返される可能性だってあるのだから。


「ああ。内容を考えようか。だが初めてかもな、あいつらに駿里から仕返しすんのは。どうせなら結構堪えるやつがいいよな。駿里、もし一人でやるのが怖かったら俺も一緒にやってやる。」
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