極道の密にされる健気少年

安達

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創始

164話 フラッシュバック

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「また黙りかよ。」


今回駿里が黙り込んだのは先程と理由が違う。ただ単に寛也に言いたくなくてそうしたのではなかった。


「……駿里?」


駿里の泣き方がいつもと違った。堪らず寛也は腰の動きを止め、陰茎を抜いた。


「そんなに辛かったか?」

「違う、違うんだっ。すごく、気持ちいいのにっ、おれ勃ってないっ、なんでっ、おれ、おかしくなっちゃったのっ…?」


寛也が駿里のペニスを見ると我慢汁さえ出ていなかった。普段なら少し寛也が駿里の体に触れただけでギンギンに勃つのにこんなこと初めてだった。寛也はかなり困惑していたが、駿里はそれ以上に困惑していた。先程松下達にいじめられた時は勃っただけではなく射精までしたのだから。待ちに待った大好きな寛也に抱かれているのに勃つ兆しがない。


「酒を飲んでるからだ。こうなるのは当たり前だから大丈夫だ。駿里がおかしくなったんじゃない。」


駿里がそうなった原因は確実にあの事件だった。寛也が触れただけの時は勃っていた。だが、いくら元気になったとしてもやはり挿れられるなると思い出して怖くなるのは当たり前ではないか、と寛也は自分の行いを悔いた。


「ちが、ぅっ、だってさっきは勃ったもんっ、」

「康二達にお仕置きされた事もあって体力の限界になったんだ。俺に抱かれすぎた時も最後らへんは勃たなくなることだってあったじゃないか。今日に限ったことじゃないだろ?だから安心しろ。でも今日は大事をとってこれで辞めよう。」


自分の体の異変に怖くなり、涙を流す駿里を寛也は抱きしめた。


「やだっ、抱いてっ…!」

「駿里。いい子だから、な?今は休むべきだ。無理にしていいことなんてない。」

ーーーこんな体になったから、俺捨てられちゃう。寛也に愛想つかされる。そんなの嫌だ。一緒にいたい。

寛也は駿里の体を思ってそう言った。なのに今の駿里には自分を遠ざけるようにして言ったようにしか聞こえなかった。


「ごめんな、辛かったよな。」

「俺、平気だもんっ、」


そう言って駿里は寛也の陰茎を中に入れようとする。寛也は直ぐにそれを阻止する。そして手際よく自分はズボンを履いた。


「何処がだ平気なんだよ。酒だって体から抜けてねぇんだぞ。このままじゃ体崩しちまうぞ。」

「いいもんっ…。」


駿里は必死だった。なぜなら今、頭の中にアイツらがいるから。松下や寛也、みんなのおかげで忘れられていたのに再び思い出してしまった。


「良くねぇよ。ほら、体拭いてやるから。」


駿里が反論する隙も無くなるほど寛也は手際よく体を拭き、服を着せ、再度駿里を抱きしめた。


「駿里。元気になったら嫌ってほど抱いてやる。だからそれまで我慢だ。お互いにな。」


寛也も一緒に乗り越えようとしてくれている。駿里は嬉しかった。


「それまで俺がずっとそばにいる。もちろんそれからもな。」


その言葉を聞いて駿里は歯の隙間から声が洩れるほど号泣した。寛也はそんな駿里を泣き疲れて寝るまで抱きしめ続けた。


「ゆっくり休め。」


駿里をベットに寝かせ毛布を被せると寛也もその隣に横になり、森廣に電話をした。


『組長、どうなさいましたか?』


そう言ってでた森廣の電話の向こう側からは伊吹らのものと思われる、うなされ突調子な叫声が聞こえてきた。


  「そいつらを始末しろ。もちろん刑務所にいるあいつも殺せ。後始末は全てお前らに任せる。それが終わったらすぐに戻ってこい。この件についての報告は無用だ。」


寛也は今後誰の口からもこの件について話すことを許さないと決めた。駿里に聞かれることを防ぐために。


『承知しました。』

 「ああ。」

『組長、伺ってもよろしいでしょうか。』

 「なんだ。」

『駿里に何かありましか?』


殺すよりも生き地獄の方が断然辛い。しかも寛也が伊吹らに飲ませた薬は体がひん曲がるほど苦痛を与えるものだ。なのに殺してあいつらを楽にすると言ったことに森廣は疑問を抱いたのと同時に駿里の事が心配になった。何かあったのではないか、と。


 「体に異常はないんだが、メンタル面が相当やられている。詳しくはお前が戻ってきてから話す。」


寛也とて苦渋の決断だった。本音としては死ぬまで生き地獄を味合わせてやりたかった。でもそれは駿里のためにはならない、と考えた末にそう決めたのだ。


『はい。すぐに実行して戻ります。』

 「任せたぞ。」


寛也は電話を切ると、隣で眠る駿里の頭を撫でた。


「元気になったらまた一緒に旅行に行こうな。」



コンコン



寝室のドアのノック音がなった。誰か来たようだ。


「入っていいぞ。」

「組長。」

「…志方。」


病院にいるはずの志方が寛也の家に戻ってきた。なぜなのか、そんなことをわざわざ聞かなくても寛也には分かった。


「慎吾はやっぱり俺の事は覚えていませんでした。ですが一命は取り留め、少しずつ回復しています。組長のおかげです。ありがとうございました。」


志方は2人の邪魔になってはいけないとそれだけ言うと部屋を出ていこうとした。


「待て志方。こっちに来い。」

「はい。」



寛也は帰ろうとした志方を近くに呼んだ。志方がいくら大人になったとはいえ幼い頃から見てきたのだ。過保護と言われようがあんな辛い顔を見てそのまま帰らせる訳にはいかなかった。


「駿里はまだ目が覚めていないのですか?」

「いや覚めたのは覚めた。だが心が回復していない。」

「俺も駿里を支えます。」


寛也は志方自身も窶れているのに何を言ってるんだ、と怒鳴りたかったが抑えた。


「ありがとうな。お前には話すがこいつは回復するまで自殺しようとする恐れがある。確実ではないけどな。俺も駿里を四六時中見張ってそばにいるが、、それが叶わない日もあるかもしれない。その時は駿里を頼む。止めてくれ。」

「もちろんです。」

「その日が来れば呼び出すからそれまで慎吾のそばにいろ。」

「ですが…、俺がいればあいつは混乱します。」


慎吾からすれば確かに志方の言う通り混乱するだろう。いると知らなかった兄が急に現れたのだから。


「慎吾のことを考えてそう決断したのか?」

「はい。」

「ならお前の気持ちはどうなるんだ。やっと会えたんだぞ。後悔してからでは遅いんだ。」

「俺のことを思い出すということはあいつは……。」 


志方だって寛也の言う通り慎吾と寄り添いたい。唯一の家族なのだから。だがそれをすると慎吾にとっては不味い事があるのだ。


「……志方さん?」


2人の話し声で目が覚めた駿里が志方の名前を呼んだ。


「悪い、駿里。起こしちまったな。まだ寝とけ。」

「もう眠くない。」


駿里は元からあまり眠くなかったようで目がぱっちりになっていた。


「ならせめて横になっとけ。」


体を起こそうとする駿里の肩を押して寛也はベットに寝かせようとした。寛也がそこまでする姿を見て志方は口を開く。


「組長、また出直します。」

「待って。俺もその話聞きたい。お願い志方さん。慎吾さんの話でしょ?」

「そうか。お前バイトであいつと仲良くしてたんもな。」


優しい口調で志方がそう言った。


「組長、いいですか?」

「俺に許可をとる必要は無い。お前がしたいようにすればいいんだ。」

「はい。」
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