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創始
158話 トラウマ
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松下の言った通り司波はすぐに来た。到着して直ぐに駿里に緊急の対応をしたが、何故か浮かない顔をしている。
「なんでそんな顔してんだよ。なんか問題でもあんのか?」
松下が堪らず声を荒らげた。医者である司波が沈んだ顔をしているのだ。松下が不安にならないはずがない。
「いや、問題はねぇんだがなんで気を失うほど取り乱したんだと思ってよ。原因が全く分からねぇんだ。さっきまで安定してたのにどういうことだ。」
「それは俺が原因だ。」
「は?」
寛也が原因で倒れるなんて考えもしていなかった司波は訳が分からない顔をしていた。
「薬を見せちまったんだよ。俺が手に取った瞬間震え出したんだ。」
「何言ってんだお前。悪いのは俺だろ。薬飲ませるように言ったのは俺なんだからよ。配慮が足りなかった、悪い。医者失格だ。」
駿里のことになると寛也は弱くなる。司波は駿里だけでなく寛也までしなくていい辛い思いをさせてしまったことを深く反省した。
「もう辞めましょう。組長も司波も悪くありません。悪いのは全てあいつらです。」
「そうだな。ただ、薬でさえ恐怖で気を失ってしまうほどトラウマがあるのなら他にも気をつけないといけないな。」
考えればキリがないことだろうが少しでも駿里があの事を思い出さないように配慮したかった。
「ああ。」
「しっかり支えてやれ。今は駿里が目覚めるのを辛抱強く待つしかない。」
「俺もサポートします。」
「頼む。」
早く駿里の元気な姿を見たい、そんな思いを胸に3人は苦しそうに眠る駿里の寝顔を見ていた。
***********
あれから駿里が目覚めたのは数時間後の事だった。その頃には伊吹らを痛めつけていた圷らも駿里の様子を見にこの寝室に来ていた。
「駿里、俺が見えるか?」
駿里がゆっくりと目を開けていったのを見て松下が満面の笑みで名前を呼んだ。
「良かった、やっと目を覚ましてくれた…。」
圷もとても嬉しそうに駿里の頭を撫でた。
「すげぇ心配したんだぞ。痛いところないか?」
島袋が駿里の頬を優しく撫でながらそう聞いた。
「…………ちかやどこ?」
松下や圷、島袋の声など幹部たちの声はする。だか、どこからも寛也の声がしない。駿里は自分の手を握って抱き締めてきた松下に、か細い声でそう言った。
「心配すんな。すぐに戻ってくるからよ。駿里の水取りに行ってるだけだから。」
「そっか。」
ただ単に駿里は目を覚ました時に寛也の姿がなかったことを寂しいと感じただけだろう、と この時は誰もが思っていた。
「おい、何してんだ。寝てろって。」
まだ顔色も悪く、声も元気がない。体が回復していないのは一目瞭然だった。それなのに駿里は身体を起こそうとしたのだ。慌てて松下は駿里の肩を抑えて起き上がることを阻止した。
「ううん、大丈夫だから起きる。」
「何が大丈夫だよ、ふざけてんのか。」
松下が駿里を止めようとして強く言ってしまい駿里の体がビクンと震えた。その怯えた表情を見て松下は我に返った。
「やめろって康二。」
怯えてる駿里を見て圷が松下に冷静になるよう強く言った。分かってはいたがここまで駿里が深い傷を負っているとは思ってもいなかった。いつも強がって体調を崩した時でさえいわない。その駿里が自分の感情を抑えきれずに松下に怯えるなんて初めて出会った時以来だろう。
「駿里、起き上がってどこに行きたいんだ?組長のとこか?」
圷が松下を押しのけて駿里の視線を自分に向けさせた。その問いかけに駿里がゆっくりと頷いたのを見て同じように頷いた。
「だったら待ってろ。すぐに戻ってくるから。」
「………寛也に会いたい。」
「俺が呼んできてやる。」
「一緒に行く。」
駿里は寛也を呼びに行こうとした圷の手を掴んだ。自分も一緒に行かせて欲しい、と。
「駄目だ。頼むから大人しく寝ててくれ。」
「俺からもお願いだ。安静にしてて欲しい。俺らの言うこと聞いてくれるか?」
「……っごめんなさい。」
「謝って欲しいわけじゃねぇ。俺らはお前のことが心配なだけだ。怖がらせちまって悪い。」
「ち、違う。俺が悪いの……。」
手が震えている駿里を見て圷と松下は顔を見合せた。
ーーーなぁ駿里。頼むからお前の可愛い笑顔を見せてくれよ。なんでそんな怯えた顔すんだ。相手はこの俺だぞ?呆れた顔でもいいからいつもみたいに強気で当ってこいよ。
そう胸の内で思いながら松下が圷と入れ違いにベットに上がって駿里を抱き締めた。今の駿里の顔を見れば見るほど負った傷の深さを目の当たりにする。駿里が心を開いている松下に抱きしめられているのに表情が怯えているのがわかる。そんな駿里を見ながら圷はダイニングへ向かった。
「組長、駿里が呼んでいます。」
寛也の姿を発見すると圷は急いで駆け寄った。
「意識が戻ったのか?」
「はい。」
「すぐに行く。」
「何をされていたんですか?」
「ピアスと指輪のオーダーをしていたんだ。口には出さないが無くなってショックだろうからな。」
あの裏路地でピアスと指輪を発見したものの両方とも壊れていた。それでも駿里は着けたいと言うだろうが寛也としては新しいものを上げたかったのだ。
「駿里もきっと喜ぶと思います。」
「そうだな。」
寛也が寝室に行くと松下に抱かれている駿里の姿があった。顔の表情は見えないため分からないが寛也には何を思っているのか、駿里の気持ちが伝わった。
「組長が来たぞ。」
松下が寛也を発見すると優しい口調でそう言った。だが、あれだけ会いたがっていたのに駿里は寛也を見ようとしない。
「悪いお前ら、駿里と二人きりさせてくれ。」
「「「「はい。」」」」
松下から駿里を受け取り、寛也は自分の腕の中に入れた。寝室から出ていく最中、目に入った駿里の表情を見て圷や松下も悟った。
「駿里。」
寛也に抱きしめられると駿里は涙が止まらなくなっていた。そんな自分が嫌でたまらなかった。みんなに迷惑をかけている、それだけじゃない。大好きな寛也を傷つけた。それなのに自分自身は不安で堪らなくなり、寛也を振り回す。子供のように泣きじゃくって寛也を困らせる。自分が生きていては人を不幸にしてしまうとまで思い始めていた。
その事に寛也も松下も圷も、皆が気づいていた。
「今の気持ちを正直に話して欲しい。」
寛也はそれを駿里の口から聞きたかった。不安なことを全部吐き出して欲しかった。
「ゆっくりでいい。落ち着いたら聞かせてくれ。」
「……………っ死にたい。」
そんなことを駿里は1度でも言ったことがあっただろうか。いや、なかっただろう。両親が死んだ時でさえ、生きようとしていた。前を向いていた。それに駿里は寛也の元に来て幸せなことの方が多いものの何度も辛い目にも遭っている。そんな目に遭っても不安事さえあまり漏らさなかった。
だから寛也はその言葉を聞いて、これまで見たこともない光景が眼前に展開されたように息を呑んだまま唖然となった。
「なんでそんな顔してんだよ。なんか問題でもあんのか?」
松下が堪らず声を荒らげた。医者である司波が沈んだ顔をしているのだ。松下が不安にならないはずがない。
「いや、問題はねぇんだがなんで気を失うほど取り乱したんだと思ってよ。原因が全く分からねぇんだ。さっきまで安定してたのにどういうことだ。」
「それは俺が原因だ。」
「は?」
寛也が原因で倒れるなんて考えもしていなかった司波は訳が分からない顔をしていた。
「薬を見せちまったんだよ。俺が手に取った瞬間震え出したんだ。」
「何言ってんだお前。悪いのは俺だろ。薬飲ませるように言ったのは俺なんだからよ。配慮が足りなかった、悪い。医者失格だ。」
駿里のことになると寛也は弱くなる。司波は駿里だけでなく寛也までしなくていい辛い思いをさせてしまったことを深く反省した。
「もう辞めましょう。組長も司波も悪くありません。悪いのは全てあいつらです。」
「そうだな。ただ、薬でさえ恐怖で気を失ってしまうほどトラウマがあるのなら他にも気をつけないといけないな。」
考えればキリがないことだろうが少しでも駿里があの事を思い出さないように配慮したかった。
「ああ。」
「しっかり支えてやれ。今は駿里が目覚めるのを辛抱強く待つしかない。」
「俺もサポートします。」
「頼む。」
早く駿里の元気な姿を見たい、そんな思いを胸に3人は苦しそうに眠る駿里の寝顔を見ていた。
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あれから駿里が目覚めたのは数時間後の事だった。その頃には伊吹らを痛めつけていた圷らも駿里の様子を見にこの寝室に来ていた。
「駿里、俺が見えるか?」
駿里がゆっくりと目を開けていったのを見て松下が満面の笑みで名前を呼んだ。
「良かった、やっと目を覚ましてくれた…。」
圷もとても嬉しそうに駿里の頭を撫でた。
「すげぇ心配したんだぞ。痛いところないか?」
島袋が駿里の頬を優しく撫でながらそう聞いた。
「…………ちかやどこ?」
松下や圷、島袋の声など幹部たちの声はする。だか、どこからも寛也の声がしない。駿里は自分の手を握って抱き締めてきた松下に、か細い声でそう言った。
「心配すんな。すぐに戻ってくるからよ。駿里の水取りに行ってるだけだから。」
「そっか。」
ただ単に駿里は目を覚ました時に寛也の姿がなかったことを寂しいと感じただけだろう、と この時は誰もが思っていた。
「おい、何してんだ。寝てろって。」
まだ顔色も悪く、声も元気がない。体が回復していないのは一目瞭然だった。それなのに駿里は身体を起こそうとしたのだ。慌てて松下は駿里の肩を抑えて起き上がることを阻止した。
「ううん、大丈夫だから起きる。」
「何が大丈夫だよ、ふざけてんのか。」
松下が駿里を止めようとして強く言ってしまい駿里の体がビクンと震えた。その怯えた表情を見て松下は我に返った。
「やめろって康二。」
怯えてる駿里を見て圷が松下に冷静になるよう強く言った。分かってはいたがここまで駿里が深い傷を負っているとは思ってもいなかった。いつも強がって体調を崩した時でさえいわない。その駿里が自分の感情を抑えきれずに松下に怯えるなんて初めて出会った時以来だろう。
「駿里、起き上がってどこに行きたいんだ?組長のとこか?」
圷が松下を押しのけて駿里の視線を自分に向けさせた。その問いかけに駿里がゆっくりと頷いたのを見て同じように頷いた。
「だったら待ってろ。すぐに戻ってくるから。」
「………寛也に会いたい。」
「俺が呼んできてやる。」
「一緒に行く。」
駿里は寛也を呼びに行こうとした圷の手を掴んだ。自分も一緒に行かせて欲しい、と。
「駄目だ。頼むから大人しく寝ててくれ。」
「俺からもお願いだ。安静にしてて欲しい。俺らの言うこと聞いてくれるか?」
「……っごめんなさい。」
「謝って欲しいわけじゃねぇ。俺らはお前のことが心配なだけだ。怖がらせちまって悪い。」
「ち、違う。俺が悪いの……。」
手が震えている駿里を見て圷と松下は顔を見合せた。
ーーーなぁ駿里。頼むからお前の可愛い笑顔を見せてくれよ。なんでそんな怯えた顔すんだ。相手はこの俺だぞ?呆れた顔でもいいからいつもみたいに強気で当ってこいよ。
そう胸の内で思いながら松下が圷と入れ違いにベットに上がって駿里を抱き締めた。今の駿里の顔を見れば見るほど負った傷の深さを目の当たりにする。駿里が心を開いている松下に抱きしめられているのに表情が怯えているのがわかる。そんな駿里を見ながら圷はダイニングへ向かった。
「組長、駿里が呼んでいます。」
寛也の姿を発見すると圷は急いで駆け寄った。
「意識が戻ったのか?」
「はい。」
「すぐに行く。」
「何をされていたんですか?」
「ピアスと指輪のオーダーをしていたんだ。口には出さないが無くなってショックだろうからな。」
あの裏路地でピアスと指輪を発見したものの両方とも壊れていた。それでも駿里は着けたいと言うだろうが寛也としては新しいものを上げたかったのだ。
「駿里もきっと喜ぶと思います。」
「そうだな。」
寛也が寝室に行くと松下に抱かれている駿里の姿があった。顔の表情は見えないため分からないが寛也には何を思っているのか、駿里の気持ちが伝わった。
「組長が来たぞ。」
松下が寛也を発見すると優しい口調でそう言った。だが、あれだけ会いたがっていたのに駿里は寛也を見ようとしない。
「悪いお前ら、駿里と二人きりさせてくれ。」
「「「「はい。」」」」
松下から駿里を受け取り、寛也は自分の腕の中に入れた。寝室から出ていく最中、目に入った駿里の表情を見て圷や松下も悟った。
「駿里。」
寛也に抱きしめられると駿里は涙が止まらなくなっていた。そんな自分が嫌でたまらなかった。みんなに迷惑をかけている、それだけじゃない。大好きな寛也を傷つけた。それなのに自分自身は不安で堪らなくなり、寛也を振り回す。子供のように泣きじゃくって寛也を困らせる。自分が生きていては人を不幸にしてしまうとまで思い始めていた。
その事に寛也も松下も圷も、皆が気づいていた。
「今の気持ちを正直に話して欲しい。」
寛也はそれを駿里の口から聞きたかった。不安なことを全部吐き出して欲しかった。
「ゆっくりでいい。落ち着いたら聞かせてくれ。」
「……………っ死にたい。」
そんなことを駿里は1度でも言ったことがあっただろうか。いや、なかっただろう。両親が死んだ時でさえ、生きようとしていた。前を向いていた。それに駿里は寛也の元に来て幸せなことの方が多いものの何度も辛い目にも遭っている。そんな目に遭っても不安事さえあまり漏らさなかった。
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