極道の密にされる健気少年

安達

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創始

146話 銃口

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「まだ腰が痛い…寛也のせいだ。」

「怒ってんのか?珍しいな。」


駿里は今日、志方にバイトの送迎をしてもらっている。だがまだ体が回復していないのだ。一昨日寛也によってお仕置きをされてしまったために。


「そう?俺結構怒ってるよ。」

「俺の前ではそんなに怒んねぇだろ。」

「言われてみればそうかも。志方さんは俺が怒るようなことしてこないからね。」


仲が深まってからの日が浅いというのもあるが、志方はほかの幹部や寛也のように駿里に意地悪をすることが少ない。


「他の奴らはすんのか?」

「うん。康二さんとかほんとに酷いんだよ。」

「何されてんの?まさか、この前風呂であったみたいなことか?」


志方は駿里の口から松下というワードが出た瞬間、眉間に皺を寄せた。この前の風呂であったことと言うのは寛也、松下、志方それに駿里の4人で入った時の話だ。


「ざっくり言ったらそんな感じかな。すっごいちょっかいかけてくるんだよ。」

「チッ、あいつ後でぶん殴る。」


頭にきた志方はハンドルをへし折りそうな勢いで握っていた。


「あはは、なんで志方さんが怒ってんのさ。」


駿里は面白いなぁ、と言いながら笑いだした。


「相手が松下っていうのが尚更頭にくる。」

「ほんと仲良いんだね。」

「良くねぇよ。」


駿里の言う通り仲は良い、でもその分ライバル視しているため志方は松下にだけは何一つ負けたくないのだ。特に駿里のことに関しては。


「着いたぞ。」

「ありがとう、行ってきます!」

「頑張れよ。」


今日のバイトはお昼からだった。いつもは17時からなのだが今日は色々準備を手伝って欲しいからと店長に早く来れたら来て欲しい、と言われていたのだ。だから駿里は特に用事もないので早めに行った。


「こんにちは!」

「駿里ありがとね。」

「よう駿里。今日は一緒にいれる時間が長いな。」

「今日も頑張るぞ。」


店長がホールで駿里にそう言うと厨房の方から希夜と慎吾が出てきた。今日は全員いるようだ。それには訳がある。居酒屋は土日が本当に忙しい。だから平日に下準備をするのだ。発注の確認や、材料を切って冷蔵庫に入れておくなど何かと忙しい。


「早速なんだけどお使い頼んでもいいかな?」


店長が駿里の所にエコバックを持って近づいてきた。


「はい!もちろんです。」

「ありがとう。それとリストはこのバッグの中に入ってるからお願いね。」

「分かりました!」


リストには結構な量が書いてあった。野菜や割り箸など、やりがいのある買い物になりそうだ。


「気をつけろよ駿里。」

「はい、希夜さん!」


防犯ブザーでも持っていくか、などと言い出すので駿里は戸惑ってしまった。


「俺もついて行ってやろうか?」


今度は希夜に続くように慎吾も心配してそう言った。優しくて人のことを疑わない駿里だからこそ何かあるのではないかと2人は不安になるのだ。


「忙しいのにそんな事頼めませんよ。俺は大丈夫です!」

「過保護だなお前らは。でも希夜の言う通り気をつけるんだよ。行ってらっしゃい。」


呆れ顔をした店長が駿里から慎吾と希夜を離した。今のうちにいけ、と目で言われたので駿里は足を動かした。


「行ってきます!」


駿里は3人に見送られて買い物へ出かけた。店長におすすめされたスーパーに入って大量買いをした。買ったのはいいもののあまりにも量が多いので入るかな、心配になった。だが希夜が念の為2個持っていけ、とエコバックを2つ貸してくれていたおかげで全て袋の中に入った。


「希夜さんに感謝だ。よし帰ろう、、って重っ!」


全部入ったとはいえ、とても重く駿里は自転車で来ればよかったと後悔した。


「でもいい筋トレになる。頑張るぞ。」


駿里は気合いを入れ直してパンパンのエコバック2個を両手に持って店を出た。


「君、大丈夫?手伝うよ。」


後ろから声をかけられて駿里は足を止め買い物袋を一旦地面において振り返った。


「大丈夫です!ありがとうございます!」

「いやこれはさすがに重すぎるでしょ。」


声をかけてきた男性が苦笑いで駿里が地面に置いたエコバックを持ちながらそう言った。


「お店で使うものだから多いんです。」

「大変だね。腰悪くするよ。俺暇だから遠慮しないでいいよ。困った時はお互い様でしょ?」


男性は話しながら2つのうち1つのエコバックを手に取った。


「申し訳ないですよ、、。」

「いいんだよ。俺がしたくてしてるんだから。ほら遅れちゃうとお店の人に怒られちゃうんじゃない?」


店長は怒りはしないだろう。でも材料が遅く店に届くと迷惑をかけてしまう。だから駿里は男性に甘えることにした。


「ありがとうございます。」

「うん、いいよ。お店はこっち?」


男性は先程駿里が向かおうとしていた道を指さした。


「はい!」

「買ったもの見る限りだけど君、居酒屋で働いてる?」


男性はエコバックの中身を見ながら駿里に問うた。割り箸がある時点で飲食店とは分かるだろうが、居酒屋と特定したので駿里は驚いた。


「そうなんです。よく分かりましたね!」

「俺も働いてたことあったからさ。あっ、名前聞いてなかった。なんて言うの?」


居酒屋で働いていた頃は男性もよく買い出しに言っていたそうだ。ずっと君と呼ぶのはあんまり良くないから、と言いながら駿里に名前を聞いた。


「漲 駿里です。」

「いい名前だね。俺は御門 天 (みかど てん)だ。よろしくな。」

「すごい強そうなお名前ですね、かっこいいです。」


駿里は男性の名前を聞いてすごく縁起の良さそうな名前だと思った。


「はは、そうか?ありがとな。」

「お店これです!」

「意外に近かったな。ついでに中まで持っていくよ。」


駿里はまだこの時は男性の優しい笑顔の裏にあるものに気づいていなかった。


「本当にありがとうございます!」

「いいよ。」

「中へどうぞ。お礼もさせてください!」


駿里は店のドアを開けて、男性を中に入れた。


「…………そんなのいいよ。後でそれ以上のことしてもらうからね。簡単に人を信じちゃダメでしょ。」


男は駿里には聞こえないぐらいの小さい声でそう言った。


「あれ?誰もいない、なんでだろう。」

「なんでだろうな。」


これまでとは声も雰囲気も変わった男の姿に駿里は身構えた。


「そんなに警戒すんなよ。大人しくしとけば危害は加えないから。」


駿里は男が近づできたため後退りをする。でもすぐに壁まで追い詰められてしまう。


「あんまり俺を怒らせないで欲しいな。それに無駄なことしない方がいいよ。後で後悔するからさ。」


駿里は横に逃げようとしたが男が両腕を壁に当てた為逃げ道が塞がれてしまう。そして服越しに押し付けられた硬いものに背筋が凍った。


「ここでお前を撃ってもいいんだぜ?もちろん殺しはしないがな。店の奴らに迷惑かけたくないだろ?ならどうすればいいか、分かるよな。」


拳銃を持っているなんて一般人では有り得ない。一般人でも手に入れようと思えばできるが、手にするには巧妙に隠れているサイトを開かなければならない。あるいは警官からの奪い去るか。だが両方ともそれはかなり困難だ。そうなればこの人は反社の人間であるか、あるいは………。


「……目的はなんですか?」

「ただ君に興味があるだけ。俺何度かここに客として来てたんだけど、覚えてない訳?」


男の鋭い視線が駿里は怖気すげそうになった。でもその男の発言に安心もした。なぜなら狙いは自分、ということは寛也に被害はないということだ。


「まぁいいや。着いて来い。」


駿里は男に後ろから服越しに銃口を突きつけられて店の外へ歩いていった。
















*************


「駿里帰ってきてんじゃん。どこ居んの?」


店長ら、3人はクレームを入れてきた客に対応をしていた。だから駿里と鉢合わせしなかったし、脅されている姿なんて見ていなかった。


「トイレとか?」

「そこにはいないよ。俺さっき行ってきたから。」


希夜と慎吾は店長の発言に血の気が引いた。もしかしたら、何かトラブルや、事件に巻き込まれているのではないか、と。大袈裟に思われるかもしれないが過去に希夜と慎吾自身もそういった目に遭ったことがある。だから心配で胸が張り裂けそうになっているのだ。


「買い忘れでもしたんじゃないの?でも…そうだったら駿里の事だし、置き手紙置いていきそうだな。どうしたんだろ。」

「店長、俺心配だから駿里が買い出しに行った店に行ってきます。」

「そうだね。希夜任せるよ。」


希夜は血相を変えて店に走っていった。
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