極道の密にされる健気少年

安達

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挑戦

138話 面接

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「行ってきます!」


電話の日から待に望んだ面接日がやってきた。数分前に松下が寛也と駿里の家に迎えに来た。そして今3人は玄関にいる。


「気をつけていくんだぞ。頑張ってこい。」

「うん、頑張る。」

「じゃあ康二、駿里を頼む。」

「お任せ下さい。行くぞ駿里。」


駿里は寛也に手を振ったあと松下について行った。下の駐車場に停めていた松下の車の助手席に乗り目的地を目指した。


「やばいぐらい緊張するよ康二さん。心臓が口から出そうなくらい…。」

「おもしれぇ表現だな。お前本番に強いタイプだからきっと大丈夫だ。ってかただの面接なんだから気楽に行けよ。」


バイトなんて落ちればまた次のを受ければいいぐらいに思っておかないといちいち落ち込んでやってられない。だから松下は駿里の激しい動きをしている心臓を安らげようとそう言った。


「そうだね。でもさ俺高校中退してるし、学歴がその…あれだから不安になるんだよね。」

「会社じゃあるまいし学歴なんて必要ない。それに訳があってそうなったことを顔を見ればわかる。その訳が俺なんだけどな。」


悪ぃな、と松下が笑いながら言った。駿里が高校を中退したのも全て寛也が松下に指示をして行ったことだから。


「康二さんがそう言うなら安心だ。なんかいける気がしてきた。」

「謎の自信が出てきたな。いいぞ駿里、その意気だ。」

「よし頑張るぞ。」

「あんまり頑張らなくてもいいと思うけどな。今は面接のことなんて忘れて違う話しようぜ。」


松下は駿里の気をバイトのことから逸らして精神面を整えようとした。


「いいよ、なんの話しする?」

「前から話したかったんだが最近志方と仲いいみたいじゃねぇか。」


松下は志方が駿里に興味を持っていたことは知っていたが、まさかタメ口で話す中にまでなっているとは思わなかったのだ。それに志方は好んで人と関わるようなタイプではない。なのに駿里に好意を抱いて自分の方から話しかけに行く姿を見て驚いたのだ。


「そうなんだ。この前ご馳走してもらってすっごい料理が美味しかった。でもいい人すぎてヤクザって感じがしなかったんだよね。」

「志方も好きでこの世界に入ったわけじゃねぇからな。あいつの幼少期にあったことが原因でヤクザになったんだ。かなり残酷だなありゃ。これ以上は俺の口から言えねぇからもし気になるんなら志方に聞いてみろ。」


松下は相手が駿里とは言え、勝手に話すのは良くないだろうと口を慎んだ。


「そんな、烏滸がましくて聞けないよ。」

「俺には聞いたじゃねぇか。」

「康二さんは別だもん。付き合いが長いから気を使わなくていいって言うかなんというか。」


駿里は自分の恥ずかしい姿も含め松下には全てをさらけだしていた。だから問答無用で話が出来るし、本音で話せる。


「そりゃ嬉しいな。またなんかあったら話聞いてやる。おっ店が見えてきたぞ。」

「ほんとだ。」

「俺はその辺を車でぶらぶらしとくから終わったら連絡しろ。」


店の駐車場に停めるのは迷惑になってしまうだろう、と思い松下は近くの店でも見ておこうとした。ヤクザというのに常識のある人だな、と毎回のように駿里は驚かされる。


「分かった。ありがとう。」

「ちゃんと礼が言えて礼儀がなってるやつは好かれる。ありのままの駿里で行け。笑顔も忘れずにな。それじゃ行ってこい。」

「行ってきます!」


駿里は車に乗っている松下に笑顔で手を振った。その後1度深呼吸をしてお店に入っていた。


「こんちには。」


ガラガラとドアを開けたものの誰もいなかったのでとりあえず挨拶をした。


「ああ!こんにちは。気づけばもうそんな時間だったね。」


厨房の方から優しそうな若い男の人が出てきた。


「今日はよろしくお願いします。」

「よろしくね。とりあえず座って。」

「はい。」


駿里はお客さんが使う椅子に座った。お店の男性はその向かい側に座る。


「履歴書です。」

「ありがとう。こういうのってセクハラになるのかな?君、凄く顔が整ってるね。」

「あ、え、?ありがとうございます。」


お店の人が優しい口調で話して自分を褒めてくれたため駿里は嬉しくなった。それに加え緊張もだんだんと消えていった。


「俺は店長の鯛津 源春(たいつ もとはる)だ。じゃあ明後日からシフト入って貰ってもいいかな?」


まさかの秒で受かったことに頭がついていけなかったが、だんだんと理解し、駿里は笑みがこぼれて言った。鯛津は、はなから落とすつもりなんてなかったみたいだ。


「はい!もちろんです!」

「よろしくね。他にも、もう2人男の子のバイトがいるんだけど20歳だから駿里の2個上かな。」


いきなり名前で呼んでくれて駿里は心の中でめいいっぱいに喜んだ。他の人もいて仲良くできるかすごく不安だが頑張ろうと決心した。


「そうなんですね。顔を合わせられる日が楽しみです!」

「いい子だな。明後日は17時からお願いね。10分前ぐらいにこの店に着いてたらいいから。一緒に頑張ろう駿里!」

「はい!」


元気もりもりな駿里をみて鯛津がやる気があっていいね、と褒めてくれた。


「それと明後日は駿里ともう1人のバイトの子が入るから顔を合わせられるよ。」

「ほんとですか!楽しみです!」

「楽しみなのはいいことだ。じゃあ今日はこのぐらいでお開きにしよう。それとこれ給料の振込とか色々詳しく書いてあるからよく読んでおいてくんだぞ。労働契約書も入ってるから書いて明後日持ってきてね。」


駿里は10枚ほどの書類を受け取った。バイトであろうと契約はきちんと交すもんなんだな、と駿里は思った。前にバイトしていたところはこんな契約なんてしなかったから。ここのお店はいい所だと駿里は再度思った。


「分かりました。今日はありがとうございます。」

「こちらこそありがとうね。気をつけて帰るんだよ。」

「はい!」


店の出口までお見送りに来てくれた鯛津にお礼を言って駿里は松下に電話をした。


 「康二さん終わったよ!」

『早くね?直ぐに迎えに行くからちょっとだけ待ってろ』

 「はーい!」


声だけではあったが松下は駿里がバイトの面接上手くいったんだろうなということが感じ取れた。それだけ今の駿里は生き生きとしているのだ。


「悪いな待たせちまってよ。」

「全然待ってないよ。」

「どうだった?」


聞かずとも結果はわかっていたが松下は駿里の口から聞きたかった。


「受かった!明後日から働かせてもらえることになったんだ。」

「良かったな。」

「色々書かないといけない書類もあるんだ。でもそれが楽しい!」


松下は駿里の笑顔を見て安心した。念入りに調べたとはいえあの店のことをパソコンの中でしか見ていない。だが、駿里の反応的に店主は情報通りのいい人だと悟った。


「うん、楽しいのが1番だ。外に出たついでにどっか寄るとこあるか?」

「うーん、ない!」


少し考えたが、特に欲しいものもないし無駄にお金を使ってもいけないため駿里はそう答えた。


「なら帰るか。」

「康二さんも寄りたいとこないの?」


駿里は自分の予定に付き合ってもらったため今度は松下に同じようにしたいと思ったのだ。


「ああ、俺もない。俺は人がすげぇいる所とか苦手だからな。」

「そういやそうだったね。」


この前テレビでも祭りにいっぱい人がいる姿を見て嫌がっていたのを駿里は思い出した。


「おし、じゃあ帰んぞ。」

「うん!あっそうだ康二さん。」


駿里は寛也とのある約束を思い出した。それを守らなかったため松下にも寛也に言わないように頼もうと思ったのだ。


「どうした?」

「俺さ、寛也とマスクしていく約束してたんだ。だけど面接だから流石にしていくの嫌だったんだよね。だからこのこと寛也には絶対言わないでね。」

「おー、分かった分かった。」


どう見ても松下の返事は胡散臭いのに駿里は信じきった。
























************


「帰ってきた!」


駿里は玄関の鍵が開く音がしたのを聞くと走って寛也の所まで行った。


「おい駿里そんなに走ったら危ないぞ。」

「ごめんごめん、俺バイト受かったんだ!」

「良かったな。それで走ってきたのか。」


寛也はおめでとう、と駿里を祝福してくれた。駿里が走ってきてまで自分のところに報告しに来たかったのかと思うと嬉しくなる。


「早く寛也に報告したかったから。」

「スマホで連絡出来ただろ。」

「自分の口で伝えたかったんだよ。」


速さを求めるならスマホを使っての連絡がいいだろう。でも駿里は自分の口からちゃんと寛也に伝えたかったのだ。文字では嬉しいという感情を伝えることは出来ないから。


「俺が帰るまで待っててくれてありがとな。いつからバイトなんだ?」

「明後日!」

「そうか。頑張れよ。明後日なら行き帰りは康二は難しいな。志方に頼むか。俺が後で連絡しとくから明後日は志方に連れて行ってもらえ。」

「うん!ありがとう!」


寛也は駿里の頭を撫で手を引いてリビングへと入っていった。


「お疲れ様です組長。」

「今日もありがとな康二。いつも頼んでばっかだからな、なんかして欲しいことがあればなんでも言え。」

「組長になにかしてもらうなど言語道断、お気遣いなく。俺は駿里に関われる仕事は楽しいのでそれで十分ですよ。」

「遠慮しちゃってえ。」


駿里が松下を揶揄うようにしてそう言った。それに松下はうるせぇと反発したが寛也が何か話し出そうとしているのを見て口を閉じた。


「そうだぞ遠慮するな。欲しいもん出来た時にでもまた言え。」

「はい。」


照れくさそうに松下は笑いながら返事をした。


「駿里は上手くやっていけそうか?」


寛也は視線を松下から隣にいる駿里に移した。


「うん、店長すごくいい人だったから頑張れる。」

「それは良い、人間関係は大事だからな。」

「だね!」

「それはそうと、お前マスクつけていかなかったようだな。」


寛也は駿里の肩を抱き、顔をぐいっと近づけた。駿里は約束したのにバラしたなっ、と松下のことを軽く睨んだ。


「俺は報告しなきゃなんねぇからな。」


駿里の思いが感じとれた松下は先程までしていたパソコンを片付けながらそう言った。


「嘘つき!」

「嘘つきはどっちだ駿里。」

「そうだぞー。それではお邪魔な俺は退散しますね。」


助けを求める目をしている駿里を無視して松下はそそくさと帰っていった。


「お仕置きだ。」


駿里はあれやこれや言う前に、あっという間に服を剥ぎ取られた。
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