109 / 617
齟齬
108話 商談
しおりを挟む
「お前らはいつもそうなのか?人前では抑えろよ」
馬酔木がリビングに入ると、寛也と駿里が抱き合っていた。寛也は馬酔木達が帰ってくると分かると、見せつけるために急に駿里を抱き寄せたのだ。駿里がそのことを弁解をしようとすると寛也に悪い顔をして口を塞がれた。
「若様。報告をしますね」
何も気にとめず御子柴は話し始めた。
「頼む」
御子柴が椅子に座り、寛也に書類を見せた時
「駿里、寛也達が話してる間こっちにおいで」
馬酔木は駿里の事を呼んだ。駿里か直ぐに馬酔木の元に駆け寄ったので寛也少し不満気味だったが、それほど酷い内容とも言えたので馬酔木に任せることにした。
「2階の部屋にでも行っとこうか」
「うん!」
御子柴は馬酔木と駿里が2階に行き姿が見えなくなってから話し出した。
「若様。大変申し上げにくいのですが思った以上に悪い状態でした。ここに記載している奴らは全員裏切り者です。」
寛也が渡された資料を見るとそのには39人の名が記載されていた。舐められたものだな、と寛也は自分の行いを反省した。
「おかしいと思いませんか?若様がいくら優しくなったとは言え、自ら死にに行くような事をするとは到底思えません。幹部たちは黙っていないのですから。前に見せしめとして若造に制裁を下したと聞きました。それなのになぜこんなにも大勢が動くのかと、疑問を持ったので調べてみたんです。…若様。播儺佐会をご存知ですよね?」
「ああ、つい最近商談を持ちかけてきたからな」
だが、寛也は商談を断った。なぜなら以前、播儺佐会の組長が合併の商談をもちかけてきたのだが、やり方が気に入らなかった。
諦めたと思っていたが、寛也が今や日本一の極道と呼ばれるようになり、再び目をつけられてしまったのだ。
「でしたら、商談を断られたことに対する腹いせでしょうね。裏切った者たちを拷問した所、播儺佐の指示だと白状しました。簡単に組を裏切るような奴を使うという事は見せ様でしょう。」
「困ったことになったな」
寛也はため息をついた。
「それと旭川組を裏切った者たちは家族や、友人を殺されたくなかったら言う通りにしろ、と言われていたそうです。しかも裏切り者のほとんどがヤクザではなく一般人だったのです。」
「卑劣極まりないな。通りで簡単に雇い主を吐くわけだ。」
「はい。拷問に慣れていませんからね。それともう1つ。馬酔木組長の指示で裏切り者は1人残らず制裁を下しました。それは裏切り者達の願いでもあったので。」
生きて帰したところで播儺佐に酷い殺され方をするのは目に見えている。彼らは家族を守る為に自ら死を選んだのだ。
「そうか」
最近寛也は制裁を下すという事に抵抗を持ち始めていた。その事にきっと播儺佐も勘付いている。勿論、御子柴も気がついていた。
「若様」
「分かっている。播儺佐と話し合う」
「では私が全てをとり図らせて頂きます。勿論商談の時も居ますからね。」
「その方が助かる」
寛也が覚悟を決め心強かったが御子柴は、駿里の事が心配だった。下っ端や、一般人は言え、旭川組の者は全てこのマンションに住んでいる。つまり、事務所に行く間になにかされるかもしれないのだ。
「この問題が解決するまで駿里君をこの家から1歩たりとも出さないでください。何をされるか分かりません。播儺佐はかなり若様に依存していますから」
「そうだな。はぁ…今すぐにでも殺してやりたい。あいつは売上のためならなんでもするからな。」
「私も本当にそう思います。播儺佐の決定的な弱点を掴まなければなりませんね。引き続き調べます」
「任せた」
**********
2階に上がった馬酔木はまったりと駿里と共にTVを見ていた。
「お義父さん、この前寛也は那香実さんとの関係を幼なじみなって言ってたんだ。ほんとにそれだけなの?」
2人の心を許しあっているような感じを見て駿里は少し不安になっていた。もしかしたら元恋人同士なのではないかと。
「おっ、駿里は那香実と会ったのか!まぁ確かに幼なじみではないな。」
「…やっぱり」
不安のそうに下を俯く駿里に馬酔木は微笑んだ。
「寛也の事すごく愛してくれてるんだな。ありがとう。だがな、駿里が心配をするような関係じゃない」
「それってどういうこと?」
馬酔木にそう言われ安心はしたが、駿里の中のモヤモヤは消えなかった。もしかしたら、寛也の片思いだった可能性もあったからだ。
「那香実はな、親に酷い虐待をされていたんだ。真冬にシャツ1枚で外に放り出されていたんだよ。だから、俺が養子として育てた。寛也とは兄妹みたいなもんだな。天馬もそんなんだぞ?寛也は学校が俺のせいで上手くいかなかったみたいだから2人がいてくれて助かった。」
「そうだったんだ。」
駿里はそんな辛い過去があったは知らずに勝手に嫉妬していた自分の行いを悔いた。馬酔木はそんな駿里の頭を撫でた。
「駿里、お前は本当にいい子だな。あのバカ2人のせいで不安にさせて悪かったな。」
「お義父さん悪くないのに謝らないで。俺が勝手に勘違いしちゃったから」
「息子が犯した過ちは親が責任を取る。子供に親は選べないんだからな。実際、産まれたくなかったと思っている子供もこの世界には少なくないだろうよ。だからこそ幸せにしてやるのが親の使命だと俺は思っている。勿論駿里の事も俺が幸せにしてやる。大切な息子だからな!」
馬酔木は、よくその考えは古いと言われてしまうけどな、とニカッと笑って言った。親のいない駿里は嬉しさのあまり涙を流しそうになった。
「ありがとう」
「いいよ。後、松下と島袋も那香実と同じような境遇の奴らだ。駿里の事かなり気に入っているようだから構ってやって欲しい」
「うん!」
馬酔木は目線をTVを戻した。
「駿里、今から少し大変なことになってしまうだろうから寛也をしっかり支えてやってくれ」
「任せて」
駿里は馬酔木が自分を2階に連れてきた意図を分かっていた。迷惑をかけてしまうから自分は関わったらいけないということも。せめて寛也を不安にさせないように駿里は家から出ないようにしようと決めた。
「駿里そろそろ戻ろう。御子柴から連絡があった」
馬酔木に返事をし、寛也が待つ一階へと向かっていった。そこには松下と北風もいた。
「よう駿里!」
2人の元に駆け寄ってきた駿里を松下が受止めた。
「どうしたの!」
「仕事だよ」
北風が答えた。北風はいつの間にか深刻そうな顔をしている寛也の隣に座っていた。
「そっか、なら俺邪魔にならないように寝るね!おやすみなさい」
「駿里。」
寝室へ向かおうとする駿里を寛也は呼び止めた。すぐに駿里は振り返る。
「顔を見て言いたい。おやすみ。」
仕事ばかりで構って貰えなくなると思っていた矢先の事だったので思わず駿里は口角を上げてしまった。嬉しすぎて満面の笑みになっていた。
「おやすみ寛也!」
「ああ、話し声がうるさかったらごめんな」
「全然大丈夫!」
「あまり我慢するなよ?ゆっくり休んでこい」
「はーい」
そんな2人をその場にいたものは微笑んでみていた。駿里が寝室へ入った後松下が口を開いた。
「組長。俺も播儺佐の弱みを握ったのですがこれはどうでしょうか」
「これは少し弱いな。だか、保留にしとく。」
「はい。」
機械が得意な御子柴と北風、松下の3人は何か少しでも播儺佐の情報がないかと探し続けていた。
「寛也」
馬酔木が資料を睨むように見ている寛也を呼んだ。
「なんだ」
「仮に駿里が誘拐されたらどうする?」
馬酔木の言った一言でリビングの空気が張詰める。
「そんなことにはさせない。2度も拉致されて駿里を傷つけてしまっているからな。3度目はない」
「それならいい、そう言うのはわかっていたが念を押して聞いただけだ。お前が仕事の時は俺が駿里に付き添うつもりだし、心配するな。安心して仕事をしてろ。」
「悪いな、ありがとう親父。」
前の関係が嘘だったように馬酔木と寛也は良い親子関係を築いていた。そしてその夜、組総出で播儺佐会に対抗すべく情報を集めていた。
馬酔木はと言うと、駿里が寝たあと自分も寝に行った。
そしてーー。
「若様、見つけましたよ。播儺佐の弱点」
明け方になった頃、静まり返ったリビングで御子柴の声が響いた。
「見せろ」
「どうぞ。」
御子柴が見つけた資料を寛也に見せた。その間に北風がコピーをする。
「さすがだな。御子柴」
「返り討ちにしましょう。商談の日程は明日です。若様はとりあえず寝てください。明日のためにも」
「そうだな。あとは任せる」
「はい。承知致しました」
寛也は御子柴に任せ自分は駿里が眠る寝室へと言った。まだ早朝のため駿里は夢の中のようだ。
「可愛いな、お前」
寛也がベッドに入るために毛布をあげると自分の服を抱きしめるようにして寝ている駿里の姿があった。駿里は昨日なかなか寝付けず、寛也の匂いに包まれようとクローゼットから服を取り出して抱き枕にしていた。
寛也にとってこれ以上の癒しはなかった。駿里が掴んでいる自分の服を剥がしてその間の隙間に寛也が入った。
「明日が終われば一緒に寝てやれるからな」
眠る駿里にそう言って寛也も夢の中へと入っていった。
**********
寛也が寝室へ行ったあと御子柴は引続き一睡もせずに作業をしていた。そこへしっかりと夜寝ていた馬酔木がやってきた。
「松下、北風。お前らも休んでこい」
馬酔木は一睡もせずにいた2人を休ませようと即した。
「いいえ、御子柴さんが寝ないのに先に仕事を上がるなんてできません」
「もう少しやります」
松下と北風は馬酔木に言われた後すぐにいった。
「そんなプライドは今要らん。さっさと寝ろ。俺のことは気にするな」
休んでこい、ときつく御子柴も言ったことで2人はお言葉に甘えることにした。
「「失礼します」」
「お疲れ様。また連絡をする」
「「お疲れまです」」
松下と北風は一礼をして部屋を出ていった。
「御子柴お前も寝ろ。後は俺がやるから」
「組長にそのような事は出来ません」
「俺はもう組長じゃない。だから、もう俺達に主従関係はないだろ?頼むから休んでくれ。さっきそんなプライドは要らないと言ったのは誰だったか?」
馬酔木は、肩に手を置いて御子柴にそう言った。その想いが御子柴に伝わったようで御子柴は椅子からたった。
「1時間だけ寝ます。アラームをかけておきます。」
「それでもいい。少しでも多く寝ろ」
「はい。その間よろしくお願い致します」
御子柴はリビングのソファに横になった。自分では気がついていないようだったが、相当疲れていたようですぐに寝た。
その後馬酔木は御子柴がやり終えていない仕事に取り掛かった。
「現役時代はあまり好きじゃなかったはずなのにな」
息子の手助けを目的とした仕事はいい物だ、と馬酔木は寝て体力を回復した分精力を尽くして商談に備え準備をし始めた。
馬酔木は御子柴のアラームを消し、熟睡している皆を起こさずにいた。だから御子柴を含め、皆昼過ぎまで起きてこなかった。
1時頃になりやっと起きてきた駿里と寛也が起きてきた。
「おはよう、2人とも。どうした駿里、何怒ってんだよ」
駿里は寝起きが悪いはずではないのに寝室から出てきた時馬酔木には少し怒っているように見えた。
「おはよ、お義父さん。寛也がなかなか離してくれなかったんだもん。俺お腹すいて死にそうだったのに」
「死ぬわけねぇだろ?大袈裟なんだよ。お前が疲れた俺を癒すのは当たり前だろうが」
寛也はそう言ってそっぽ向いている駿里の顔を掴み、自分の顔を向かせた。
「それなら俺と一緒に寝たら良かったじゃん」
「お前、寝る時俺がいなくて寂しかったんだろ?俺の服服抱きしめてたもんな。」
「っだって…一人で寝るの久しぶりだもん」
少し照れくさそうに言う駿里が可愛くて寛也は駿里にキスをしようとした時ーー。
「若様。我々がいることをお忘れなく」
「チッ、今日の夜までお預けとか信じられねぇな。…御子柴。なんかお前珍しく怒ってないか?」
ソファで寝ていた御子柴が寛也と駿里の言い合いを聞いて起きた。寝起きの御子柴は駿里と同じく怒っていた。
「怒っております。馬酔木組長、私のアラーム消しましたね?」
「さぁ?記憶にない。落ち着けよ。御子柴、こんなことでカリカリするな。ちゃんと俺が残された仕事全部やったから。しっかり寝てくれて俺は安心した。」
「すみません。ありがとうございます」
馬酔木はもっと俺を頼れよ、と御子柴に言った。
「なんか親父が人に優しくしてんの気持ち悪ぃな」
「あ?俺は元々こういう性格なんだよ」
「どーだか」
寛也と馬酔木の親子喧嘩を止めるように御子柴が立ち上がった。
「朝ごはん作りますね」
「頼む」
4人で朝ごはんを食べたあと、松下と北風がやってきた。
「「遅くなってすみません」」
「ゆっくり寝れたのならそれでいい。後は明日を待つだけだからな。帰って休んでていいぞ」
寛也はまだ疲れが取れていない2人を家に返した。そして駿里が何か言いたげに寛也を見ている。
「御子柴、連れて行って欲しいところがあるから車を出してくれ」
駿里が何を言いたいのか察した馬酔木は寛也と駿里を二人っきりにさせようとそういった。
「承知しました。どこに行かれるのですか?」
「車に行ってから言う」
「はい」
馬酔木達が出ていき、駿里は寛也と二人っきりになった。そして駿里はゆっくりと寛也に近づいて抱きついた。
「なんだ、甘えたか?」
「明日まで時間あるんでしょ?」
駿里は寛也の服に顔を埋めたまま籠った声で言った。寛也はそんな駿里を抱きしめ返した
「抱いてやるよ」
そう言って寛也は駿里の頬にキスをした。
馬酔木がリビングに入ると、寛也と駿里が抱き合っていた。寛也は馬酔木達が帰ってくると分かると、見せつけるために急に駿里を抱き寄せたのだ。駿里がそのことを弁解をしようとすると寛也に悪い顔をして口を塞がれた。
「若様。報告をしますね」
何も気にとめず御子柴は話し始めた。
「頼む」
御子柴が椅子に座り、寛也に書類を見せた時
「駿里、寛也達が話してる間こっちにおいで」
馬酔木は駿里の事を呼んだ。駿里か直ぐに馬酔木の元に駆け寄ったので寛也少し不満気味だったが、それほど酷い内容とも言えたので馬酔木に任せることにした。
「2階の部屋にでも行っとこうか」
「うん!」
御子柴は馬酔木と駿里が2階に行き姿が見えなくなってから話し出した。
「若様。大変申し上げにくいのですが思った以上に悪い状態でした。ここに記載している奴らは全員裏切り者です。」
寛也が渡された資料を見るとそのには39人の名が記載されていた。舐められたものだな、と寛也は自分の行いを反省した。
「おかしいと思いませんか?若様がいくら優しくなったとは言え、自ら死にに行くような事をするとは到底思えません。幹部たちは黙っていないのですから。前に見せしめとして若造に制裁を下したと聞きました。それなのになぜこんなにも大勢が動くのかと、疑問を持ったので調べてみたんです。…若様。播儺佐会をご存知ですよね?」
「ああ、つい最近商談を持ちかけてきたからな」
だが、寛也は商談を断った。なぜなら以前、播儺佐会の組長が合併の商談をもちかけてきたのだが、やり方が気に入らなかった。
諦めたと思っていたが、寛也が今や日本一の極道と呼ばれるようになり、再び目をつけられてしまったのだ。
「でしたら、商談を断られたことに対する腹いせでしょうね。裏切った者たちを拷問した所、播儺佐の指示だと白状しました。簡単に組を裏切るような奴を使うという事は見せ様でしょう。」
「困ったことになったな」
寛也はため息をついた。
「それと旭川組を裏切った者たちは家族や、友人を殺されたくなかったら言う通りにしろ、と言われていたそうです。しかも裏切り者のほとんどがヤクザではなく一般人だったのです。」
「卑劣極まりないな。通りで簡単に雇い主を吐くわけだ。」
「はい。拷問に慣れていませんからね。それともう1つ。馬酔木組長の指示で裏切り者は1人残らず制裁を下しました。それは裏切り者達の願いでもあったので。」
生きて帰したところで播儺佐に酷い殺され方をするのは目に見えている。彼らは家族を守る為に自ら死を選んだのだ。
「そうか」
最近寛也は制裁を下すという事に抵抗を持ち始めていた。その事にきっと播儺佐も勘付いている。勿論、御子柴も気がついていた。
「若様」
「分かっている。播儺佐と話し合う」
「では私が全てをとり図らせて頂きます。勿論商談の時も居ますからね。」
「その方が助かる」
寛也が覚悟を決め心強かったが御子柴は、駿里の事が心配だった。下っ端や、一般人は言え、旭川組の者は全てこのマンションに住んでいる。つまり、事務所に行く間になにかされるかもしれないのだ。
「この問題が解決するまで駿里君をこの家から1歩たりとも出さないでください。何をされるか分かりません。播儺佐はかなり若様に依存していますから」
「そうだな。はぁ…今すぐにでも殺してやりたい。あいつは売上のためならなんでもするからな。」
「私も本当にそう思います。播儺佐の決定的な弱点を掴まなければなりませんね。引き続き調べます」
「任せた」
**********
2階に上がった馬酔木はまったりと駿里と共にTVを見ていた。
「お義父さん、この前寛也は那香実さんとの関係を幼なじみなって言ってたんだ。ほんとにそれだけなの?」
2人の心を許しあっているような感じを見て駿里は少し不安になっていた。もしかしたら元恋人同士なのではないかと。
「おっ、駿里は那香実と会ったのか!まぁ確かに幼なじみではないな。」
「…やっぱり」
不安のそうに下を俯く駿里に馬酔木は微笑んだ。
「寛也の事すごく愛してくれてるんだな。ありがとう。だがな、駿里が心配をするような関係じゃない」
「それってどういうこと?」
馬酔木にそう言われ安心はしたが、駿里の中のモヤモヤは消えなかった。もしかしたら、寛也の片思いだった可能性もあったからだ。
「那香実はな、親に酷い虐待をされていたんだ。真冬にシャツ1枚で外に放り出されていたんだよ。だから、俺が養子として育てた。寛也とは兄妹みたいなもんだな。天馬もそんなんだぞ?寛也は学校が俺のせいで上手くいかなかったみたいだから2人がいてくれて助かった。」
「そうだったんだ。」
駿里はそんな辛い過去があったは知らずに勝手に嫉妬していた自分の行いを悔いた。馬酔木はそんな駿里の頭を撫でた。
「駿里、お前は本当にいい子だな。あのバカ2人のせいで不安にさせて悪かったな。」
「お義父さん悪くないのに謝らないで。俺が勝手に勘違いしちゃったから」
「息子が犯した過ちは親が責任を取る。子供に親は選べないんだからな。実際、産まれたくなかったと思っている子供もこの世界には少なくないだろうよ。だからこそ幸せにしてやるのが親の使命だと俺は思っている。勿論駿里の事も俺が幸せにしてやる。大切な息子だからな!」
馬酔木は、よくその考えは古いと言われてしまうけどな、とニカッと笑って言った。親のいない駿里は嬉しさのあまり涙を流しそうになった。
「ありがとう」
「いいよ。後、松下と島袋も那香実と同じような境遇の奴らだ。駿里の事かなり気に入っているようだから構ってやって欲しい」
「うん!」
馬酔木は目線をTVを戻した。
「駿里、今から少し大変なことになってしまうだろうから寛也をしっかり支えてやってくれ」
「任せて」
駿里は馬酔木が自分を2階に連れてきた意図を分かっていた。迷惑をかけてしまうから自分は関わったらいけないということも。せめて寛也を不安にさせないように駿里は家から出ないようにしようと決めた。
「駿里そろそろ戻ろう。御子柴から連絡があった」
馬酔木に返事をし、寛也が待つ一階へと向かっていった。そこには松下と北風もいた。
「よう駿里!」
2人の元に駆け寄ってきた駿里を松下が受止めた。
「どうしたの!」
「仕事だよ」
北風が答えた。北風はいつの間にか深刻そうな顔をしている寛也の隣に座っていた。
「そっか、なら俺邪魔にならないように寝るね!おやすみなさい」
「駿里。」
寝室へ向かおうとする駿里を寛也は呼び止めた。すぐに駿里は振り返る。
「顔を見て言いたい。おやすみ。」
仕事ばかりで構って貰えなくなると思っていた矢先の事だったので思わず駿里は口角を上げてしまった。嬉しすぎて満面の笑みになっていた。
「おやすみ寛也!」
「ああ、話し声がうるさかったらごめんな」
「全然大丈夫!」
「あまり我慢するなよ?ゆっくり休んでこい」
「はーい」
そんな2人をその場にいたものは微笑んでみていた。駿里が寝室へ入った後松下が口を開いた。
「組長。俺も播儺佐の弱みを握ったのですがこれはどうでしょうか」
「これは少し弱いな。だか、保留にしとく。」
「はい。」
機械が得意な御子柴と北風、松下の3人は何か少しでも播儺佐の情報がないかと探し続けていた。
「寛也」
馬酔木が資料を睨むように見ている寛也を呼んだ。
「なんだ」
「仮に駿里が誘拐されたらどうする?」
馬酔木の言った一言でリビングの空気が張詰める。
「そんなことにはさせない。2度も拉致されて駿里を傷つけてしまっているからな。3度目はない」
「それならいい、そう言うのはわかっていたが念を押して聞いただけだ。お前が仕事の時は俺が駿里に付き添うつもりだし、心配するな。安心して仕事をしてろ。」
「悪いな、ありがとう親父。」
前の関係が嘘だったように馬酔木と寛也は良い親子関係を築いていた。そしてその夜、組総出で播儺佐会に対抗すべく情報を集めていた。
馬酔木はと言うと、駿里が寝たあと自分も寝に行った。
そしてーー。
「若様、見つけましたよ。播儺佐の弱点」
明け方になった頃、静まり返ったリビングで御子柴の声が響いた。
「見せろ」
「どうぞ。」
御子柴が見つけた資料を寛也に見せた。その間に北風がコピーをする。
「さすがだな。御子柴」
「返り討ちにしましょう。商談の日程は明日です。若様はとりあえず寝てください。明日のためにも」
「そうだな。あとは任せる」
「はい。承知致しました」
寛也は御子柴に任せ自分は駿里が眠る寝室へと言った。まだ早朝のため駿里は夢の中のようだ。
「可愛いな、お前」
寛也がベッドに入るために毛布をあげると自分の服を抱きしめるようにして寝ている駿里の姿があった。駿里は昨日なかなか寝付けず、寛也の匂いに包まれようとクローゼットから服を取り出して抱き枕にしていた。
寛也にとってこれ以上の癒しはなかった。駿里が掴んでいる自分の服を剥がしてその間の隙間に寛也が入った。
「明日が終われば一緒に寝てやれるからな」
眠る駿里にそう言って寛也も夢の中へと入っていった。
**********
寛也が寝室へ行ったあと御子柴は引続き一睡もせずに作業をしていた。そこへしっかりと夜寝ていた馬酔木がやってきた。
「松下、北風。お前らも休んでこい」
馬酔木は一睡もせずにいた2人を休ませようと即した。
「いいえ、御子柴さんが寝ないのに先に仕事を上がるなんてできません」
「もう少しやります」
松下と北風は馬酔木に言われた後すぐにいった。
「そんなプライドは今要らん。さっさと寝ろ。俺のことは気にするな」
休んでこい、ときつく御子柴も言ったことで2人はお言葉に甘えることにした。
「「失礼します」」
「お疲れ様。また連絡をする」
「「お疲れまです」」
松下と北風は一礼をして部屋を出ていった。
「御子柴お前も寝ろ。後は俺がやるから」
「組長にそのような事は出来ません」
「俺はもう組長じゃない。だから、もう俺達に主従関係はないだろ?頼むから休んでくれ。さっきそんなプライドは要らないと言ったのは誰だったか?」
馬酔木は、肩に手を置いて御子柴にそう言った。その想いが御子柴に伝わったようで御子柴は椅子からたった。
「1時間だけ寝ます。アラームをかけておきます。」
「それでもいい。少しでも多く寝ろ」
「はい。その間よろしくお願い致します」
御子柴はリビングのソファに横になった。自分では気がついていないようだったが、相当疲れていたようですぐに寝た。
その後馬酔木は御子柴がやり終えていない仕事に取り掛かった。
「現役時代はあまり好きじゃなかったはずなのにな」
息子の手助けを目的とした仕事はいい物だ、と馬酔木は寝て体力を回復した分精力を尽くして商談に備え準備をし始めた。
馬酔木は御子柴のアラームを消し、熟睡している皆を起こさずにいた。だから御子柴を含め、皆昼過ぎまで起きてこなかった。
1時頃になりやっと起きてきた駿里と寛也が起きてきた。
「おはよう、2人とも。どうした駿里、何怒ってんだよ」
駿里は寝起きが悪いはずではないのに寝室から出てきた時馬酔木には少し怒っているように見えた。
「おはよ、お義父さん。寛也がなかなか離してくれなかったんだもん。俺お腹すいて死にそうだったのに」
「死ぬわけねぇだろ?大袈裟なんだよ。お前が疲れた俺を癒すのは当たり前だろうが」
寛也はそう言ってそっぽ向いている駿里の顔を掴み、自分の顔を向かせた。
「それなら俺と一緒に寝たら良かったじゃん」
「お前、寝る時俺がいなくて寂しかったんだろ?俺の服服抱きしめてたもんな。」
「っだって…一人で寝るの久しぶりだもん」
少し照れくさそうに言う駿里が可愛くて寛也は駿里にキスをしようとした時ーー。
「若様。我々がいることをお忘れなく」
「チッ、今日の夜までお預けとか信じられねぇな。…御子柴。なんかお前珍しく怒ってないか?」
ソファで寝ていた御子柴が寛也と駿里の言い合いを聞いて起きた。寝起きの御子柴は駿里と同じく怒っていた。
「怒っております。馬酔木組長、私のアラーム消しましたね?」
「さぁ?記憶にない。落ち着けよ。御子柴、こんなことでカリカリするな。ちゃんと俺が残された仕事全部やったから。しっかり寝てくれて俺は安心した。」
「すみません。ありがとうございます」
馬酔木はもっと俺を頼れよ、と御子柴に言った。
「なんか親父が人に優しくしてんの気持ち悪ぃな」
「あ?俺は元々こういう性格なんだよ」
「どーだか」
寛也と馬酔木の親子喧嘩を止めるように御子柴が立ち上がった。
「朝ごはん作りますね」
「頼む」
4人で朝ごはんを食べたあと、松下と北風がやってきた。
「「遅くなってすみません」」
「ゆっくり寝れたのならそれでいい。後は明日を待つだけだからな。帰って休んでていいぞ」
寛也はまだ疲れが取れていない2人を家に返した。そして駿里が何か言いたげに寛也を見ている。
「御子柴、連れて行って欲しいところがあるから車を出してくれ」
駿里が何を言いたいのか察した馬酔木は寛也と駿里を二人っきりにさせようとそういった。
「承知しました。どこに行かれるのですか?」
「車に行ってから言う」
「はい」
馬酔木達が出ていき、駿里は寛也と二人っきりになった。そして駿里はゆっくりと寛也に近づいて抱きついた。
「なんだ、甘えたか?」
「明日まで時間あるんでしょ?」
駿里は寛也の服に顔を埋めたまま籠った声で言った。寛也はそんな駿里を抱きしめ返した
「抱いてやるよ」
そう言って寛也は駿里の頬にキスをした。
42
お気に入りに追加
1,899
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる