103 / 134
第二部
90話 そして、デートへ行きまして1
しおりを挟む
「光秀様!?なに考えてるんですか!?」
「それはどちらですか。こんな時に伴も連れずに二人でなんて」
「心配な気持ちはわかりますけど、デートへついてくなんてダメですよ。野暮ですよ、野暮!」
「それはそうなんスけど~、さすがに誰もついてかないってのは、心配でしょ」
「でもねえ、せっかくご夫婦二人で出かけられる時間が出来たんですしねえ」
「そうですわ!帰蝶様だって、せっかくの逢瀬に護衛の方がついていたらお気を悪くされますわ!」
「そうですわ!いくら十兵衛様や藤吉郎様でも、野暮ですわ!!」
何度も「ついていく」と言って聞かなかった十兵衛及び男性陣と、それを「野暮だ」と責める日奈達お城の女性陣の間で、このような攻防が繰り広げられていたらしい。
当の私と信長は、それら全部を聞こえているけど知らないふりをして、二人で出かけることに無事成功した。
今川義元を倒して勢いづいてる、世間で話題の織田信長がお伴も連れずに奥方とのんきにデート。そんなのバレたら危ないって言うのは、これでも重々わかっているので、二人とも変装をした。
でもたぶんこれさ、日奈は言わなかったけど原作ゲームであったんじゃないかな。こういうお忍びデートイベント。
だって、信長くんのお忍び衣装が妙に、かっこいいというか、スチルみたいにキラキラしている。
彼はもともと赤髪に通った鼻筋のイケメンという目立つ風体。そして私も、悪女顔の、育ちがよさそうで性格悪そうな、どう見ても武家のお嬢様。
そんな二人が、少々地味目な衣装をまとったところで、オーラが隠しきれるわけもない。
なのに、城下町に出ても誰も気付かない。気付く気配すらない。
侍女のみんなに出かけたいって言っただけでスムーズにこの町娘風衣装が出て来たし、ぜったいあったわ、これ。
「なにしてるんだ?」
「いや~全然気づかれなくて、すごいわねって」
「そりゃそうだろ、変装してるんだから」
「いや~~~」
奢ってもらったお団子の最後のひとつを頬張りながら、隣に座る信長を見る。
今日も違わず顔がいい。アイドルだったら推してた。(今世でえーと、5回目くらい?)
戦場で槍振り回して火縄銃構えてギラギラしてるのもいいけど、私は、隣でこうやって並んでお団子食べてる姿が好きだな。
久々に仕事や戦以外で外に出られて、機嫌はとてもよさそう。
もちろん、楽しいのは私もだけど。
本日のデートプランは、信長にお任せしていた。
作戦会議の時に言い出したから、きっとデートという名目で、なにか隠密行動でもとるのかと思っていた。しかし、来てみると本当に、戦国時代の普通のデートって感じのことだけ。
お父様とじいやさんのお墓参りに行って、町でお買い物して買い食いして。世間話して。楽しい時間をすごしてしまった。
十兵衛やみんなが言っていたとおり戦の真っ最中なのに、申し訳ないくらい楽しい。
彼は破天荒キャラに見えるが、案外会話は通じるのだ。
時々ちょっと何考えているのかわからない言動も出るけど、そこが面白いところだから、長時間、二人でいても退屈しない。
そして最後に、お団子を食べ終わった私を案内してくれたのは、見覚えのある場所だった。
「あ……」
「気づいたか?懐かしいだろ?」
ここは、私が尾張へお嫁に来た日に、信長に斬りかかった場所だ。
あの時とは季節が違うので、枯れて雪を被っていた草は青々とした色に変わり、同じ向きにそよいでいる。新緑の苦い匂いがする。
「うん」
なつかしさと、楽しかった今日が終わろうとしているさみしさに、胸の奥がきゅっと詰まるように感じた。
ここへ来たばかりの頃は、織田信長が嫌なヤツに育っていたら本当に斬ってやろうと思っていた。
十兵衛と二人で天下を取るのもいいんじゃないなんて思ってた。
それに、ゲームの世界だと思わなかった。
あんなに可憐なヒロインが、あんなにしっかりするなんて思わなかった。
色んなことがあった。
急に走馬燈みたいに、記憶の断片が一気に頭の中に回ってくる。
指を折ったりして臥せってたから、気分転換のために連れてきてくれたのかな。
ここへ初めてきたときだって、あれは、これから夫婦になる私との時間を大切にしたいと思った彼の滅多に見れない、淡く優しい気持ちだったのかもしれない。
隣を見れば、信長はまっすぐ、空を見ていた。
草の匂いと同じ、夏を感じる遠い空。
彼の瞳はいつもまっすぐで、室内にいる時だって遠い空を感じさせるのだ。
連れてきてくれたお礼を言おうと、口を開いたところで、同じタイミングで信長の唇も動いた。
「よし、じゃあそろそろ、」
そうだね、帰ろうか。
そっと手を出そうとして、風が吹いて靡いた髪と服にひっぱられるように、後ろに足が出た。
一歩分だけ信長と離れた隙に、顔を隠すために被っていた布が、吹かれて取れる。
「俺達、別れるか」
まっすぐすぎる瞳に射抜かれて、貫かれたように背中と胸が、痛い。
気のせいだってわかってはいるのに、ようやく出た声は、だいぶ細く遅かった。
「…………………え?」
処刑、ですか?
「それはどちらですか。こんな時に伴も連れずに二人でなんて」
「心配な気持ちはわかりますけど、デートへついてくなんてダメですよ。野暮ですよ、野暮!」
「それはそうなんスけど~、さすがに誰もついてかないってのは、心配でしょ」
「でもねえ、せっかくご夫婦二人で出かけられる時間が出来たんですしねえ」
「そうですわ!帰蝶様だって、せっかくの逢瀬に護衛の方がついていたらお気を悪くされますわ!」
「そうですわ!いくら十兵衛様や藤吉郎様でも、野暮ですわ!!」
何度も「ついていく」と言って聞かなかった十兵衛及び男性陣と、それを「野暮だ」と責める日奈達お城の女性陣の間で、このような攻防が繰り広げられていたらしい。
当の私と信長は、それら全部を聞こえているけど知らないふりをして、二人で出かけることに無事成功した。
今川義元を倒して勢いづいてる、世間で話題の織田信長がお伴も連れずに奥方とのんきにデート。そんなのバレたら危ないって言うのは、これでも重々わかっているので、二人とも変装をした。
でもたぶんこれさ、日奈は言わなかったけど原作ゲームであったんじゃないかな。こういうお忍びデートイベント。
だって、信長くんのお忍び衣装が妙に、かっこいいというか、スチルみたいにキラキラしている。
彼はもともと赤髪に通った鼻筋のイケメンという目立つ風体。そして私も、悪女顔の、育ちがよさそうで性格悪そうな、どう見ても武家のお嬢様。
そんな二人が、少々地味目な衣装をまとったところで、オーラが隠しきれるわけもない。
なのに、城下町に出ても誰も気付かない。気付く気配すらない。
侍女のみんなに出かけたいって言っただけでスムーズにこの町娘風衣装が出て来たし、ぜったいあったわ、これ。
「なにしてるんだ?」
「いや~全然気づかれなくて、すごいわねって」
「そりゃそうだろ、変装してるんだから」
「いや~~~」
奢ってもらったお団子の最後のひとつを頬張りながら、隣に座る信長を見る。
今日も違わず顔がいい。アイドルだったら推してた。(今世でえーと、5回目くらい?)
戦場で槍振り回して火縄銃構えてギラギラしてるのもいいけど、私は、隣でこうやって並んでお団子食べてる姿が好きだな。
久々に仕事や戦以外で外に出られて、機嫌はとてもよさそう。
もちろん、楽しいのは私もだけど。
本日のデートプランは、信長にお任せしていた。
作戦会議の時に言い出したから、きっとデートという名目で、なにか隠密行動でもとるのかと思っていた。しかし、来てみると本当に、戦国時代の普通のデートって感じのことだけ。
お父様とじいやさんのお墓参りに行って、町でお買い物して買い食いして。世間話して。楽しい時間をすごしてしまった。
十兵衛やみんなが言っていたとおり戦の真っ最中なのに、申し訳ないくらい楽しい。
彼は破天荒キャラに見えるが、案外会話は通じるのだ。
時々ちょっと何考えているのかわからない言動も出るけど、そこが面白いところだから、長時間、二人でいても退屈しない。
そして最後に、お団子を食べ終わった私を案内してくれたのは、見覚えのある場所だった。
「あ……」
「気づいたか?懐かしいだろ?」
ここは、私が尾張へお嫁に来た日に、信長に斬りかかった場所だ。
あの時とは季節が違うので、枯れて雪を被っていた草は青々とした色に変わり、同じ向きにそよいでいる。新緑の苦い匂いがする。
「うん」
なつかしさと、楽しかった今日が終わろうとしているさみしさに、胸の奥がきゅっと詰まるように感じた。
ここへ来たばかりの頃は、織田信長が嫌なヤツに育っていたら本当に斬ってやろうと思っていた。
十兵衛と二人で天下を取るのもいいんじゃないなんて思ってた。
それに、ゲームの世界だと思わなかった。
あんなに可憐なヒロインが、あんなにしっかりするなんて思わなかった。
色んなことがあった。
急に走馬燈みたいに、記憶の断片が一気に頭の中に回ってくる。
指を折ったりして臥せってたから、気分転換のために連れてきてくれたのかな。
ここへ初めてきたときだって、あれは、これから夫婦になる私との時間を大切にしたいと思った彼の滅多に見れない、淡く優しい気持ちだったのかもしれない。
隣を見れば、信長はまっすぐ、空を見ていた。
草の匂いと同じ、夏を感じる遠い空。
彼の瞳はいつもまっすぐで、室内にいる時だって遠い空を感じさせるのだ。
連れてきてくれたお礼を言おうと、口を開いたところで、同じタイミングで信長の唇も動いた。
「よし、じゃあそろそろ、」
そうだね、帰ろうか。
そっと手を出そうとして、風が吹いて靡いた髪と服にひっぱられるように、後ろに足が出た。
一歩分だけ信長と離れた隙に、顔を隠すために被っていた布が、吹かれて取れる。
「俺達、別れるか」
まっすぐすぎる瞳に射抜かれて、貫かれたように背中と胸が、痛い。
気のせいだってわかってはいるのに、ようやく出た声は、だいぶ細く遅かった。
「…………………え?」
処刑、ですか?
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
泥を啜って咲く花の如く
ひづき
恋愛
王命にて妻を迎えることになった辺境伯、ライナス・ブライドラー。
強面の彼の元に嫁いできたのは釣書の人物ではなく、その異母姉のヨハンナだった。
どこか心の壊れているヨハンナ。
そんなヨハンナを利用しようとする者たちは次々にライナスの前に現れて自滅していく。
ライナスにできるのは、ほんの少しの復讐だけ。
※恋愛要素は薄い
※R15は保険(残酷な表現を含むため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる