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第二部
50話 乙女ゲームの悪役令嬢に転生してまして1
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「えええええええええええーーーーーーー!!!???」
高い天井をブチ破るんじゃないかってくらいの腹からの、そして心からの叫びに、私の忍びと護衛と夫が飛んで来ないはずもなかった。
「あい姫様!お呼びですか!?」
「帰蝶!?」
「どうした蝶!」
「ななななんでもない!まだ尋問中です!男子入室禁止!」
こんな話の中に、入って来られても困る。
彼女が言うようにここが乙女ゲームの世界なら、攻略対象にはどう考えてもこの二人が入っている。
無駄にキラキラした顔面の男子二人を追いやって、すばやく布団に正座した少女のところへ戻る。話が長くなりそうなので、座布団を出した。
あとはお茶とお菓子でもあれば場が和むんだけど、あいにくその時間は私達にはなさそうだ。部屋の外で、まだかまだかと戸を外して飛び込んできそうな息遣いを感じる。
「え……今まで、気付かなかったんですか?髪色とか、みんな戦国時代にいるビジュアルじゃないですよね?」
「う……っ」
日奈さんのご指摘はまっとうで冷静だ。私が慌て出したせいか、反対に彼女は落ち着いてきたようだ。それはよかったと思う。
そう、本当は、彼らの見た目のよさで、乙女ゲームだと気付くべきだった。
はじめて、9歳の時に信長少年(吉法師)に会ったときに。
信長は、燃えるような赤い髪に、夕焼けに似た色の瞳を持った派手な少年だった。
普通に考えれば日本人であるわけのない容姿だ。しかし私はその時、和風ファンタジー異世界に転生したと思っていたので気に留めなかった。
戦国時代だと気付いたあとは、建物や風景に妙に現実味があったので、登場人物の髪がちょっと奇抜な色だったとしても、転生すると勝手に私の脳か目にフィルターがかかるのかと納得していたのだ。
だって転生なんて初めてのことだし。そういうものかなって。
私の、幼少期からの悪い癖だ。
少し疑問なことがあっても、スルーして自分の都合のいいように解釈してしまう。
フィルターをかけて気にならなくしてしまう。
「ていうかさっきのは忍者の夕凪ですよね?どうして夕凪が帰蝶についてるの?それに、みんなの態度……光秀様が女子にあんなキツイ態度取るなんて、解釈違いなんですけど!?」
座布団から乗り出さんばかりに、日奈さんが前のめりに私に詰め寄って来た。
プリーツスカートから太腿がチラ見えしそうだ。
「え?そ、そうなの?十兵衛はだいたいあんな感じだけど……」
「十兵衛って呼んでるの!??」
そんな大きな声で名前を連呼したら、また戸を破る勢いでご本人が登場してしまう。盗んで後ろを見るが、まだ戸の耐久性はもちそうだ。
急にどうしたのか、さっきまで大人しかった日奈さんは十兵衛の名前に過剰に反応しているように見える。
「ええ。だって、この時代の人は通名で呼ぶって習ったから……」
「そ、それはそうなんだけど……あの帰蝶姫が、ちゃんと礼に従うなんて……」
「その反応……私、やっぱり悪役令嬢なのね?」
乙女ゲーム世界というのなら、この子はヒロインだろう。
戦国時代に転移された女子高生なんて、どんな物語でも主人公に決まっている。
イケメン武将と出会って戦いの中、愛を育んでエンディング。って筋書き、読まなくてもわかる。
そうすると帰蝶は、この顔で、攻略対象者の結婚相手。ヒロインの恋路を邪魔する以外のやることが思い浮かばない。
悪役令嬢以外のなにものでもない。
「悪役……?そんな役はないですけど……」
「あ、それもそうよね。和風の乙女ゲームなら、悪役令嬢はおかしいか」
とすると、悪役姫?悪役正室?
まあ名称はなんでもいいか。攻略対象やお助けキャラではないのなら、お邪魔さえしなければ悪役令嬢なんてモブみたいなものだ。
今のところ、小さい子を顔で怖がらせた以外は、断罪されるほど悪いことはしてない……と思うし。
「攻略対象は、どう考えてもあの二人は入ってるわよね。あとは、どんな感じ?徳川家康とか?」
「そうです。てか、さっきもいたじゃないですか。どう見ても攻略対象者。黄色の」
「黄色……?あ、藤吉郎くん!?あの子も攻略対象なの?」
「……てか、豊臣秀吉ですけど、気付いてない?」
「ええええええ!!??」
と、あげそうになった悲鳴を、今度はちゃんと飲み込んだ。
藤吉郎くんは、さっきの面接で日奈さんの10人ほど前に並んでいた子だ。キャラが面白かったので即合格にして、さっそく明日から、なんなら今日から城勤めをしてもらおうと思っていたところだった。
言われてみれば黄色っぽい髪の、背は低いけど可愛い系の目立つ少年だった。
豊臣秀吉。
秀吉ってたしか、信長の腹心の部下で、本能寺の変のあとになんやかんやして天下取るのよね?幼名(と言うには大きかったけど)はそんな名前だったんだ……。
面接で合格させておいてよかった。妙にキャラ立ってるから、私の直観かオタク眼が「こいつは欲しい」と機能したのだろう。よくやった。
思い返してみれば、私の人生、まわりにイケメンが多かった。
有名武将のところに嫁いだんだし周りも有名人が集まっているものだと思ってはいたけど、まさか乙女ゲーの攻略対象者に囲まれていたとは。
父上はちょっと顔の怖いおじさんて感じだったが、母上や兄達はみな顔がよかった。
「あっ兄上!義龍兄上は!?あの人は絶対攻略対象だわ!!」
「斎藤義龍ですか?あの人は、攻略対象じゃないですよ」
「ないんかい!!」
兄上、ただ高身長で無駄にイケメンなだけだった。
「……あの、本当に、知らないんですか?斎藤義龍はこのあと……」
「えっ!?どうなるの?まさか、戦で死……!?」
「……いえ、斎藤義龍は非攻略キャラですがCV付きで人気があったので……このあとも出ますよ」
「そうなのね。よかった」
また会えそうなのは嬉しい。この時代、戦で死ぬのと病死だけが気がかりだ。
医療が発達してないから、ちょっとの傷や病気で死んでしまう。信秀様の時に実感した。
攻略対象だったら、死ぬ可能性はかなり低くなるのに。
あと、キャラが濃いひとと言えば……。
「橋本一把さんは?」
「……帰蝶姫が、一把と交流があるんだ……。あの人は、友好度上げミニゲームのキャラです。的当てゲームの」
「的当てゲームの」
「立ち絵もCVもない、モブです」
モブなんかい!!
あんな濃いキャラを攻略対象にしないとは……さてはこのゲーム、クソゲーだな?
高い天井をブチ破るんじゃないかってくらいの腹からの、そして心からの叫びに、私の忍びと護衛と夫が飛んで来ないはずもなかった。
「あい姫様!お呼びですか!?」
「帰蝶!?」
「どうした蝶!」
「ななななんでもない!まだ尋問中です!男子入室禁止!」
こんな話の中に、入って来られても困る。
彼女が言うようにここが乙女ゲームの世界なら、攻略対象にはどう考えてもこの二人が入っている。
無駄にキラキラした顔面の男子二人を追いやって、すばやく布団に正座した少女のところへ戻る。話が長くなりそうなので、座布団を出した。
あとはお茶とお菓子でもあれば場が和むんだけど、あいにくその時間は私達にはなさそうだ。部屋の外で、まだかまだかと戸を外して飛び込んできそうな息遣いを感じる。
「え……今まで、気付かなかったんですか?髪色とか、みんな戦国時代にいるビジュアルじゃないですよね?」
「う……っ」
日奈さんのご指摘はまっとうで冷静だ。私が慌て出したせいか、反対に彼女は落ち着いてきたようだ。それはよかったと思う。
そう、本当は、彼らの見た目のよさで、乙女ゲームだと気付くべきだった。
はじめて、9歳の時に信長少年(吉法師)に会ったときに。
信長は、燃えるような赤い髪に、夕焼けに似た色の瞳を持った派手な少年だった。
普通に考えれば日本人であるわけのない容姿だ。しかし私はその時、和風ファンタジー異世界に転生したと思っていたので気に留めなかった。
戦国時代だと気付いたあとは、建物や風景に妙に現実味があったので、登場人物の髪がちょっと奇抜な色だったとしても、転生すると勝手に私の脳か目にフィルターがかかるのかと納得していたのだ。
だって転生なんて初めてのことだし。そういうものかなって。
私の、幼少期からの悪い癖だ。
少し疑問なことがあっても、スルーして自分の都合のいいように解釈してしまう。
フィルターをかけて気にならなくしてしまう。
「ていうかさっきのは忍者の夕凪ですよね?どうして夕凪が帰蝶についてるの?それに、みんなの態度……光秀様が女子にあんなキツイ態度取るなんて、解釈違いなんですけど!?」
座布団から乗り出さんばかりに、日奈さんが前のめりに私に詰め寄って来た。
プリーツスカートから太腿がチラ見えしそうだ。
「え?そ、そうなの?十兵衛はだいたいあんな感じだけど……」
「十兵衛って呼んでるの!??」
そんな大きな声で名前を連呼したら、また戸を破る勢いでご本人が登場してしまう。盗んで後ろを見るが、まだ戸の耐久性はもちそうだ。
急にどうしたのか、さっきまで大人しかった日奈さんは十兵衛の名前に過剰に反応しているように見える。
「ええ。だって、この時代の人は通名で呼ぶって習ったから……」
「そ、それはそうなんだけど……あの帰蝶姫が、ちゃんと礼に従うなんて……」
「その反応……私、やっぱり悪役令嬢なのね?」
乙女ゲーム世界というのなら、この子はヒロインだろう。
戦国時代に転移された女子高生なんて、どんな物語でも主人公に決まっている。
イケメン武将と出会って戦いの中、愛を育んでエンディング。って筋書き、読まなくてもわかる。
そうすると帰蝶は、この顔で、攻略対象者の結婚相手。ヒロインの恋路を邪魔する以外のやることが思い浮かばない。
悪役令嬢以外のなにものでもない。
「悪役……?そんな役はないですけど……」
「あ、それもそうよね。和風の乙女ゲームなら、悪役令嬢はおかしいか」
とすると、悪役姫?悪役正室?
まあ名称はなんでもいいか。攻略対象やお助けキャラではないのなら、お邪魔さえしなければ悪役令嬢なんてモブみたいなものだ。
今のところ、小さい子を顔で怖がらせた以外は、断罪されるほど悪いことはしてない……と思うし。
「攻略対象は、どう考えてもあの二人は入ってるわよね。あとは、どんな感じ?徳川家康とか?」
「そうです。てか、さっきもいたじゃないですか。どう見ても攻略対象者。黄色の」
「黄色……?あ、藤吉郎くん!?あの子も攻略対象なの?」
「……てか、豊臣秀吉ですけど、気付いてない?」
「ええええええ!!??」
と、あげそうになった悲鳴を、今度はちゃんと飲み込んだ。
藤吉郎くんは、さっきの面接で日奈さんの10人ほど前に並んでいた子だ。キャラが面白かったので即合格にして、さっそく明日から、なんなら今日から城勤めをしてもらおうと思っていたところだった。
言われてみれば黄色っぽい髪の、背は低いけど可愛い系の目立つ少年だった。
豊臣秀吉。
秀吉ってたしか、信長の腹心の部下で、本能寺の変のあとになんやかんやして天下取るのよね?幼名(と言うには大きかったけど)はそんな名前だったんだ……。
面接で合格させておいてよかった。妙にキャラ立ってるから、私の直観かオタク眼が「こいつは欲しい」と機能したのだろう。よくやった。
思い返してみれば、私の人生、まわりにイケメンが多かった。
有名武将のところに嫁いだんだし周りも有名人が集まっているものだと思ってはいたけど、まさか乙女ゲーの攻略対象者に囲まれていたとは。
父上はちょっと顔の怖いおじさんて感じだったが、母上や兄達はみな顔がよかった。
「あっ兄上!義龍兄上は!?あの人は絶対攻略対象だわ!!」
「斎藤義龍ですか?あの人は、攻略対象じゃないですよ」
「ないんかい!!」
兄上、ただ高身長で無駄にイケメンなだけだった。
「……あの、本当に、知らないんですか?斎藤義龍はこのあと……」
「えっ!?どうなるの?まさか、戦で死……!?」
「……いえ、斎藤義龍は非攻略キャラですがCV付きで人気があったので……このあとも出ますよ」
「そうなのね。よかった」
また会えそうなのは嬉しい。この時代、戦で死ぬのと病死だけが気がかりだ。
医療が発達してないから、ちょっとの傷や病気で死んでしまう。信秀様の時に実感した。
攻略対象だったら、死ぬ可能性はかなり低くなるのに。
あと、キャラが濃いひとと言えば……。
「橋本一把さんは?」
「……帰蝶姫が、一把と交流があるんだ……。あの人は、友好度上げミニゲームのキャラです。的当てゲームの」
「的当てゲームの」
「立ち絵もCVもない、モブです」
モブなんかい!!
あんな濃いキャラを攻略対象にしないとは……さてはこのゲーム、クソゲーだな?
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