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第一部(幼少編)

24話 ズドンと一発、鉄砲指南を受けまして

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 鉄砲の美しさに魅了され、ズドンと猛っちゃうおネエサマは、一把いっぱさんと名乗った。

「生まれは尾張なんだけど、ほら、アタシこんなでしょう?父に勘当されちゃったの。で、各地を転々としてたらこの美しい種子島銃に出会ってしまって!銃に関われるお仕事を探してたところを、斎藤のお館様に拾ってもらったの」

 初見でのキャラがインパクト強すぎて私も彦太も固まっていたが、話してみると案外普通の人だった。

 やはりおネエ風な話し方というだけで、偏見を持ってはいけない。
 前世以来、こういった濃いキャラを見るのは久しぶりだったのと、まさか戦国時代で出会うとは思わなかったから驚いたけど、別にこの人だって、私や彦太を取って食うわけじゃないのだから。

「素敵な方よねえ利政様。あの冷たいまなざし。それに、義龍様も美丈夫で、素敵……。美しいって、罪よね」

 うっとりとした目で見つめる先は、離れた先で銃の試し撃ちを指導している父上と、義龍兄上。
 ……偏見は良くないけど、なるべく兄上に近づかないようにしてあげよう。何か危険な香りがする。

「ああ、もちろん小蝶姫様も彦太郎ちゃんも、かわいくて好きよ?さ、銃を構えて。まずは構え方を覚えないとね」


 一把さんはさすが、自分で志願してきただけあって説明がとても上手だった。なにより、銃を愛しているのが言葉の端々や銃の扱いの仕方から伝わってきた。

 言われた通りに準備をして、点火して、構えて、撃つ!
 前世よりあわせても生まれてはじめて撃った火縄銃は、撃った瞬間、軽い音のわりに衝撃がおなかの芯まで響いた。

 どうせぶれるだろうと予測してあわせた的に、やはり真ん中より少し外れて穴があく。

「当たった!」

 見れば、彦太も隣で的にきちんと当てている。
 私も彦太も、弓や槍などひととおりの武器の扱いは習ったから、初めての飛び道具でもそこそこ扱えるようだ。

 しかし真ん中とはいかなかったのが少し納得いかないようで、せっかく一把さんに褒めてもらったかわいい顔に不満が出てしまっていた。

「彦太もみごとね。大人の皆は外してるのに、ちゃんと当ててる」
「……小蝶の方が真ん中だ……」
「え、そこ気になる?」
「お二人とも、さすがね!利政様がおっしゃった通りだわぁ♡しょっぱなで当てちゃうなんて!大人でもなかなか当たらないのよ」

 さっきまで一把さんのキャラの濃さに青い顔をしていた彦太も、害がないとわかると慣れたらしい。
 撃ち終わった銃を見ながら、一把さんへ性能や撃ち方について質問をしていく。

「当たりはしましたが、僕の方はなんとか、といったところです。実戦で使うとなるとまだ難しいですね。当てるコツなどありますか?」
「そうねえ、アタシは国友くにとも熟練者プロにならったけど、やっぱり最後は慣れかしらねぇ。でも、ハジメテでここまで出来れば、充分よぉ♡」

 褒められているのに彦太がどうも納得いかない顔してるのが、ちょっと面白い。
 落ち着いてきた最近は何事も淡々とこなしてしまうから、こんな顔するのは久々だ。

 私ももう一度、空のままの銃身を的へ向けてみる。

「慣れかあ……でも、慣れようにも、大きいし刀みたいにずっと持って護身用にするのは難しいですよね。一発ずつしか打てないし。回転式みたいに、5発くらい装填できるならこの大きさでも意味はありそうですけど……」
「……回転式?」
「え、あー?弾を、一発ずつ入れて打って、じゃなくて、連続して打てたらいいのになーって。回転する入れ物に弾を何個か入れておいて、こう、回して装填する、とか……」

 私が想像しているのは、前世の漫画やアニメで見た、マフィアとかが使うピストル。警察官が持ってるやつとか小型でいいのになあ。とは思うけど、あんなものがこの時代で作れるわけないのは、わかる。
 そして、身振り手振りで回転式を表現してみたけど、残念ながら私はアレの仕組みがわからない。
 もっと銃について詳しければ、助言したりして現代技術チートができたんだけど。すまない。

「………なるほど、回転は無理かもしれないけど、火薬と弾を筒に入れて、すぐに打てるようにすれば……いいかもしれないわね、姫様!」
「?マシンガンとか作れますか!?」
「それはよくわからないけど、改善はできるかもネ♡」

 嬉しそうに話す一把さんにウインクされた。えっ戦国時代にもウインクってあるんだ……。




「そうだ、一把さんは尾張にいたんですよね?織田信長……様のことはご存知ですか?」

 何度か試し撃って銃の扱い方に慣れてきた頃(実戦で撃つにはもう少し練習が必要だけど)、休憩しながら一把さんに聞いてみた。

「そうねえ、アタシは下っ端武士の息子だから、直接お会いしたことはないんだけど……元服のお披露目の時に見たって人の話だと、そんなにうつけって見た目でもなかったそうよ」

 ま、これも噂みたいなものだから、当てにならないけど、と付け足す。

 吉法師くんは去年元服して、とうとう織田三郎信長になった。
 私が暮らす美濃にも、報せはすぐに届いた。

 彼が元服したということで、実はもう私の嫁入りが秒読みなのだ。約束では、吉法師が元服したら輿入れさせる、ということだったのだから。

 正直まだ嫁に行きたくない私は、家臣のみなさんの「嫁入りマダ?」の目線から逃げている。父上が庇ってくれるので、なんとかかわせている状況だ。
 史実通りなら、何年かはわからないけどきっと、もう嫁に行く時期なのだろう。
 けど、嫌だ。

 一把さんのお話からすると、尾張はまだ鉄砲も普及してないって言うし、そんな未開の地みたいな、知り合いも一人もいないところへ行くなんていやだ。

 信長くんが悪い子に育っているとは思わないけど、そもそもまだ私が12歳だから、遊んでいたいのだ。
 毎日の素振り記録も更新したいし、まだ裏山に登ってない木があるし、どんぐり集めたいし、おやつ作りもしたい!
 内政チートも料理チートも、まだできていない!
 あー、結婚したくない!

「嫁入りいやだ~~~!」

 どうせ聞こえないだろうと思ったのに、ちょうど銃声の止んだ合間にタイミング悪く叫んでしまった。
 色んな人がこっちをじろりと見る。目線が痛い。

 あ~また木に登って頭打ってしまいたい。何もかも忘れたい。
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