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皇立騎士学校-悪魔戦争編-

【11】

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――その日はよく晴れた日の朝の出来事であった


「あーもう!うるっさい!僕を子供扱いしないでよ!バカログナス!オカンログナス!!」

「ッ…待ってくれセウス」

背中に降りかかる彼にしては珍しい焦った声がしたが、興奮冷めぬ自分には止められないまま衝動的に自室の扉を閉め外出した

「はぁ…………」

最悪だ
憂鬱な気持ちをぶら下げたまま晴れやかな陽がさす通路をトボトボと歩く
気持ちはいくら経っても、晴れることはなかった


「何をしているっ!」
「いてっ」
ザシュッ!
ぽふっとした芝生に尻餅をつく
目の前でフォルテに真っ二つにされたゴーレムが倒され空中で光を放ち霧散した
「いてて」
摩りながら立とうすると顔面を大きな手で掴まれギリギリと力を込められた
「ちょっ!?痛い痛いって!」
「自業自得だ馬鹿者!大怪我をするところだったぞ!戦闘に集中できないとは死ぬつもりかこの大馬鹿者」
「うぅ……ごめんよママ」
「誰がママだ!」
ぽこんと頭を叩かれる
いてて、でも仕方ない
今は休日に約束していた仲間たちと模擬訓練をしていた
「もしかしてセウスもおねむ~?なら俺と一緒にレッツお昼寝!」
僕より大きな体が後ろから抱きつくように乗っかる
ポカポカとした体温が確かに気持ち良い
「昼前だろうが」
フォルテが鋭く僕たちを睨む
「じゃあ朝寝~」
「お前はいつもいつも寝てばかりの怠惰野郎が!根性を叩き直してやる!」
「あははー、それは勘弁だよー」
朗らかに笑いケイは僕の体をそっと前に出す
おいこら

「でも本当にセウス変だよー?体調悪い?眠い?」
「ううん体調は悪くないよ。ちょっとね」
練習場端のベンチに三人で座る
フォルテがタオルで汗を拭い鼻で笑った
「どうせお前のことだ。菓子でも食いすぎて腹でも壊したんだろ」
「僕ってそんなキャラ!?全く違うから!」
タオルをフォルテに投げつけると簡単にキャッチされた
このすました委員長め
「でも今日はいつもに増して変だよ」
「いつもに増して?」
「何かあったなら俺たちが聞くよ?」
僕のささやかな疑問は触れられずそう聞かれた
僕は逡巡した後ケイの柔らかな笑みと腕組みをして顔を逸らすもそばにいるフォルテを見遣る
心配してくれているんだな……
すこしだけ涙が出そうになった

「お前が悪い」
「そんなぁ」
今朝あったことを言うとずっと腕組みをしたまま黙っていたフォルテが一言そう言った
「情緒酌量の余地がない。徹頭徹尾貴様が悪い。床に首を垂れて誠心誠意謝罪しろ」
「優しさのかけらもないコメント!?ひどい」
酷いのはどちらだ。と言われデコピンされた
お返しに膝を蹴ってやったざまぁみろ
「んー……むにゃむにゃ。なるほどね」
「完全に寝てたよねケイ……」
むにゃむにゃ言ってるし……
ケイはやわやわと僕の頭を撫でる
うとうとしながらも僕を見て笑う
「えーと……セウスがログナス先輩のご飯を食べちゃったんだっけ?」
「そんなほわほわした内容じゃなかったよね?」
僕はため息を吐いて仕方なく要点だけをまとめて再度話す

▼回想


「セウス」
「んー?」
視線を向けると二着の服を持っているログナスがいた
「お前はどちらが好きだ?」
持っているのは僕の服、らしい
いつのまにかこの寄宿舎の部屋の衣装入れに真新しい服が増えている
最初は僕の有能毒舌ツンデレ(笑)のユダが揃えてくれていたのかと聞いたら「そんな暇はありません」と一瞥もされないまま通り過ぎながら言われた。僕主人だよね?
自室に戻り適当に時間を浪費していると自国の仕事を終えサイファーから特別に貰った転移指定魔道具によりパッと出てパッと帰ってくるログナスが部屋に現れた
なぜか門をログナスの押入れに設定したらしく知らない人が見ると不審者にしか見えない
そんなログナスが王都に行くたびさまざまな物を買ったり貰ったりして僕にくれる
その一つが服のようだった
朝に帰ってきたログナスは僕を見て言った
「お前の柔らかな髪の色と白い肌にはこの青がいいと思う。俺とお揃いだ。だがこちらの若草色もセウスの可憐さと知的さにとても合っている」
「そ、そう?」
ログナスは何かと僕を褒める。てかベタ褒めだ
ここまで褒めるのは母上とログナスぐらいなものだ
兄上は褒めてくれるがその時の目が怖くて褒められた気がしない。なぜだろうか
「……髪が濡れているな。風呂に入ったならしっかりと乾かさないとダメだろう」
そう言いながら瞬時に魔術を発動させ僕の髪を乾かしてくれる
「ありがとう」
朝シャワーいいよね。自室にお風呂があってよかった
「まさか大浴場のほうには行っていないだろうな」
「行ってないよ。よくわからないけど怒るじゃん。みんななんかジロジロ見るし……やっぱり筋肉か」
僕は鍛えても結果が出ないプニ腹を揉む
決して太ってはいない
「セウス。お前は危機管理がなっていない」
「はぁ?」
話の脈絡なくなくない?
「男はみな狼だ。お前は危うすぎる」
「何言ってるの?僕だって自衛ぐらいできるさ。狼って意味わかんない。ログナスだって狼ってこと?」
ログナスは獣人ではないので人間だし、女の子やかわいい男の子ならわかるけど、僕に狼って
「ウケる」
そうつい鼻で笑ってしまうとログナスの背後からゴゴゴと謎の暗いオーラが現れた。あわわわ
「俺はふざけて言っているわけではない」
「う、うん」
美形の真顔は怖い
とりあえず頷いておく。触らぬ神になんちゃらかんちゃらだ
「む。セウス、課題は終わったのか?」
「えー?まだだよ」
「昨日の朝もそう言っていたな。期日は明日だ。早めに終わらすと言っていただろう」
そうだっけ?
「あー大丈夫。明日の放課後までだし」
「全く大丈夫な要素はないと思うが、しっかりやるんだぞ。わからないことがあれば俺が教えよう」
「うん。ありがとうログナス」
「ああ。……セウス」
「なぁに」
「脱いだ服はちゃんとカゴに入れる約束だろ。作って用意しておいた食事はちゃんと食べたようだが、洗い物はちゃんとやらねばダメだぞ」
「うーん。あとでやろうと思ってた」
「この前も聞いたぞ」
かちゃかちゃと洗い物を始めたログナス
本当にあとでちゃんとやろうと思ってたのに……意外と細かいんだなログナス、でも全部やってくれるんだよな
そう思った時、あるクラスメイトの言葉を思い出した
「えー?セウスくんってぇ~何でもかんでも誰かにやってもらってるんだぁへぇーふーん。ん?別にぃ?いやお貴族様?ていうか王族様だから仕方ないっていうかぁ~ぷぷ。お子ちゃまだなって。あれ怒っちゃいましたかなぁ?不敬罪とかなっちゃいますぅ??」
うわムカつく
思い出しムカつきだあの小悪魔プリティヘッドめ
確かに僕は王族だしでもそこら辺の王族より自分のことはしていた
ユダはテキパキとやってくれるけど自分のものの片付けや管理は自分でやれと厳しかった
なのでそこまで馬鹿にされるようなことを言われるのは心外だったのだ

「もう自分でやるってば!」
ログナスを体で押しやり流し台に立つ
泡だった食器を水で流す
「どうしたんだセウス。もうすぐ出かける時間ではなかったか?構わないから座って待っていろ」
僕の予定まで把握していたログナス
そりゃ忙しい合間を縫って僕のそばにいてくれるし嬉しいけど……このあとだって僕に服を着せてくれようとする
ログナスだって公爵の息子で貴族なのに甲斐甲斐しく僕の世話をしてくれる。従者でもないのに
その当然な待遇に自業自得なのに苛つきを感じてしまった
なんだか何もできないと決めつけられているようで八つ当たりしてしまったのだ

「あーもう!うるっさい!僕を子供扱いしないでよ!バカログナス!オカンログナス!!」

「ッ…待ってくれセウス」

憤りながらも怒りは続かず、次第に歩みはとぼとぼとなり
募るのは罪悪感と苛立ちだった




「くだらない」
またもや冷たい言葉が浴びせられる
「ログナス卿の手を煩わせた挙句八つ当たりなど子供のやることだ」
「うぅ。そうだけど、そこまで言わなくても」
わかっている。わかってはいるけども……
僕は情けなく項垂れる
「はぁ」
ため息が聞こえた
真面目なフォルテに呆れられてしまったようだ
「……うわっ」
乱暴にガシガシと頭を撫でられた
おかげで髪がぼさぼさだ
「何するのさ」
「ふん。悪かったと思うなら謝ればいい。あの御仁はそのようなくだらないことで貴様を嫌いになどならないだろう。お前は大切にされていると、思う」
顔を見上げるとほんの少し照れからか頬を赤くしたフォルテと目が合いキッと細まった目が逸らされる
「だからさっさと謝れ馬鹿者!」
「いてて!照れ隠しに叩かないで」
抵抗に脇腹に拳を打ち込む。硬い……
「そうだね。俺もセウスがごめんなさいってすれば大丈夫だと思うよ」
抱き枕のように抱き込まれケイが後ろから言った
「そうかなぁ」
「そうだよ。何か気になるなら、プレゼントでも送ればいいんじゃないかなぁ~」
「プレゼント……」
日頃のお礼と謝罪としていいのではないか
「ナイスアイデア!さすがケイ!」
「へへっ、やったー」
むにむにとケイの柔らかほっぺを揉む
「何がいいかなぁ」
「枕とか?」
それは君が欲しいだけだろう……てかすでに寝てるし
ちらっとフォルテを伺う
「……知らん。見るな」
「はぁ確かにお堅いフォルテ君には難しかったかぁ」
「ッ!騎士を愚弄したな!ぶん殴ってやる!」
「まだ騎士見習いだろ!てかすぐに手を挙げるな暴力男!単細胞」
「ぐ、ぐぬぬぬ!?」
顔を赤くして怒っているフォルテに手を振りつつその場を退散した僕であった





「………………」

「にひひ」

「…………?」
「ル~イエ!」
「あっ!あひぃん!」
「あははは!」
通路を歩いていると前に本を抱えた小さな背中を捉えた
つい魔が刺して背中をツーーと指でなぞってしまった
そしたらビクッとして可愛い声を上げたルイエに、僕は正直興奮した
「あっ、あっ、あぅ、あっ、せ、セウスくん、な、なに?」
頬を赤ながら振り返ったルイエはそう問いかける
つい魔が刺して、とは言いづらい
「ごめんごめん。転けちゃって」
「そ、そう?き、気をつけてね。怪我しなくて、よかった」
涙目の彼はそう言った
罪悪感で刺されたので大人しくしよう
別に呼び捨てでいいのに図書館以来呼び捨てで呼んでくれない
落とさせてしまった本を拾い並んで歩く
「えっと、なんだっけ。仲直りのためにプレゼント?」
「そう。そんな感じ。ルイエなら何にするかなって」
なかなか思いつかなかったのでちょうどいいし彼に尋ねてみた
ルイエはう~んと唸りながらも考えてくれている
ついついイタズラしたいと誘惑されるが我慢した僕偉い
「えー、何がいいのかな……僕、プレゼントとかしたことなくて……本、とか?」
申し訳なさそうな顔してそう告げたルイエ
「本か。いいかも」
ログナスは遠征時よく暇があれば本を読んでいるらしいし、それはいいかもしれない
「ありがとう!候補にするよ!」
笑顔でそう言うとルイエは安心したように微笑んだ
そのあと和やかに談笑しつつ別れた
今度はどこ行こうか
本来はログナスと街で買い物と食事に行く予定だったけど…
そう思って歩いていると掛け声が聞こえた

「ハッ!ホッ!てい!」
「ろ~~く、なぁ~~な、ふぇ」
この声は…
樹木の列を越えるとそこには中庭で筋トレに精を出すヘイムとギリスの兄弟がいた。片方は瀕死のようで腕立てをしているが地面に腹がついている。可愛い
兄のヘイムは爽やかな笑みと輝く汗を流しているようだ
暑苦しさが勝っている

「おっ!坊ちゃん!」
「あ!セウス様!」
見つかって大きな声で呼びかけられた
実はユダがこの学校に来ることになり、駄々をこねた一同がストライキをしたが強制解散され連日騒がれたらしく渋々この学校に入学させてもらえたようだ
一般科目のほうはテストと面談だけらしく
それでも入学難易度が厳しいがなんとか大丈夫だったらしい
聞いたところによると、面談の際サイファーが対応したらしいが、一発芸したら一発OKだったようだ
他の生徒にバレたら逆恨みで刺されそうだと思った僕

見ると周囲に人はいないみたいでよかったけど、いたら恥ずかしかったな大声と半裸とか…
以前普通一般科の校舎をギリスを肩車したまま走っていたヘイムが周囲の目に晒されており、悪いが他人のふりをした
後になってユダが怒って回収したらしく、今度から人目につかないとこで運動するように指示をしたようだった
「やぁ君たち。いい汗をかいてるね」
「おう!さすがは坊ちゃん!よくわかってるな!」
「セウス坊ちゃんはお散歩ですか?」
二人も休憩をとるらしく中央にある噴水の縁に腰掛ける
「うん。そっちの生活はどう?」
「俺たちか?俺は結構楽しんでるぜ。貴族や偉そうな奴ばっかかと思ったがなかなかに面白い奴が多い。勉強は流石に難しいな」
「ぼ、僕もすこし、怖かったけど優しくしてくれる人多くて、兄さんやみんながいるから、楽しいです」
「そっか。それならよかった。使用人の君たちまで巻き込んじゃったから気にしてたんだ」
「で、でも」
「ん?」
もじもじとした様子のギリスに首を傾げる
視線を彷徨わせた後兄を見やり、ヘイムは朗らかに笑う
そうするとギリスはゆっくりと僕の手を握った
「せ、セウス坊ちゃんと一緒にいれなくて、僕寂しい、です」
頬を染めてそう告げたギリスの可愛さに僕までも顔が赤くなる
「そ!そっかぁ!あは、は。校舎の棟が違うから仕方ないよね。でも僕も寂しかったよ。今度から時間が合えばお昼とか放課後会おうね」
「は、はい!」
嬉しそうに笑い兄の方へも笑顔を向ける
ヘイムはニカっと笑い僕たちを抱きしめた
ほのかに草花の香りがする
「俺も二人が大好きで一緒にいたいぞ!」
二人でうわぁと騒ぎながら暴れる
そんな時間も心地が良かった

「なるほどなぁ…」
顎を支えながら青い髪を揺らしてヘイムは唸った
彼らにも相談に乗ってもらったのだ
「ログナスならなんでも喜ぶんじゃないか?」
「そう……かな。でもなぁ」
それじゃ意味がない
僕は謝罪の意味も込めて贈り物をしたいのだ
うんうんと唸るヘイムはギリスを撫でた
頬を染めて嬉しそうに笑っている
「なら二人なら互いに送るなら何にする?」
僕がそう尋ねると二人が目を丸くしてきょとんとする
そんなところも似ているんだね
二人は見合って首を傾げた
「うーん俺はよくギリスには渡しているからな」
「うん。お兄ちゃんがよく仕事から帰ってくれると本とか貝殻とかいろんなものをくれるから……僕はうれしかったな」
貰ったものだと青い羽の栞を見せてくれた
確かに素敵だなと素直に思う
「俺はギリスからハンカチや小物のアクセサリーを貰うな!俺の宝物だ!」
手首で光るシンプルな紐と石と貝殻でできたブレスレットを見せてもらった
ほんと仲良しなんだな
僕はにこやかに見つめる



二人に手を振って別れなんとなく気ままに歩く
中庭の一つを抜け適当にぶらつく
風は冷たいが昼間だから暖かな陽気が心地よかった

ぽふっ
「いて」
曲がり角を曲がった所で何かにぶつかった
「全くあなたという人は…。お散歩中に腑抜けて死なないでくださいよ坊ちゃん」
「んん?」
見上げると倒れそうになった僕を支えてくれたのはユダだった
一般科の徽章がついた制服ではなくシワひとつない燕尾服を着ている
「あれ?ユダじゃん」
「もしや有能で甲斐甲斐しくお世話をしてくれた私をお忘れなのでしょうか。寂しいですね。叩けば治りますでしょうか」
「すすすストップ!忘れるわけないでしょ!」
「そうですか」
クールな表情のまま僕をちゃんと立たせてポンポンと埃を叩く仕草をする
「確か本日のご予定はログナス様と外出では?」
「それが」
「どうせくだらない意地を張って八つ当たり気味の言葉を吐いて喧嘩をしたのでしょう。一方的に」
「そうだけど辛辣!?優しく言って」
「あららおバカなおぼっちゃんですねぇ」
「喧嘩なら買うぞコラァ」
ふんふんと拳を撃つと鼻で笑われた

二人並んで歩く
いつのまにかユダが抱えてたらしい数冊の本を持たされている
主従とは?

「私はカールトンとルカの勉学のお手伝いをしておりますよ。入学早々赤点なんてありえませんから。有り得ませんよね?」
「はい」
何故か圧を感じる。僕を侮っておるな?
「ふふん!小テストでは満点だよ!」
「それはそれは。そちらの科は実技が有りますがどうですか?」
「うん。剣技と魔術だけどまぁなんとかいけそう。さすが名門だけあって周りの人たちなかなかやるからなぁ」
「因みにログナス様は在学時は主席だったようですね」
「さすがログナス!」
人事ながら僕は鼻が高くなる
カツンカツンと硬い床を鳴らしながら歩いていると
この学校にある自習室の一つに見慣れた姿が見えた
「ああ~!坊ちゃん~!」
「おっとっと」
飛びつかれて慌てて耐える
「カールトン。主人を押し倒してはなりませんよ。無礼です」
お前が言うのか?
そう念を込めて見つめるがなにか?って顔された
「カールトン先輩ほら、ダメですよ。セウス坊ちゃんが苦しいでしょ」
「あらあらあらすみません坊ちゃん~」
捕まった猫のようにルカに回収されたカールトン
「おはようございます坊ちゃん」
「おはようルカ。カールトン」
「はいぃ~!お、おはようございますぅ~」
変わらぬ二人の様子に安心する
「勉強捗ってる?」
「はい。やはりこの学校の勉強の難易度は高いですが、これほど学べる環境は充実しておりますし身分差による壁も、教育の面でもしっかり保証されているので流石ですね」
よく見ているんだなルカは…
「ルカは他の生徒たちに引けを取らない学力ですし、社交マナーも身につけているようなのでクルースベル家の名を汚さなくて安心しました」
「そそそそうでしょうか!ありがとうございます!」
ルカは直立に立とうとして膝を机にぶつけたらしく摩っている。相変わらずだね
「その点カールトン。あなたはもう少し、いや大分落ち着きを身につけて物事をこなす癖をつけると多少安心なんですがね」
はぁとため息を吐いて書物を机に置いた
こちらにどうぞと促され座ると音もなくスッと紅茶が前に置かれる
いつのまに……恐ろしい子!

ふわりと湯気立つ紅茶を飲みつつ彼らの勉強姿を見る
なんだろうこのホッとする時間。プライスレス

「なに呆けているんです。さっさと始めてください」
「へっ?」
ぽかんとしていると眉を曲げたユダが教鞭を持って睨んでいる
「まずは貴族マナーの復習と魔術ⅠとⅡの基礎応用、戦術学の都市戦略と経済帝王学、平民と貴族の関係パート8を「ちょっ!?待って」…なんです」
不機嫌そうなユダは机に並べられたテキストを指で叩く
「これって……この前習ったのと学力テストの課題じゃん?……なんでユダが」
「簡単なことです。貴方様が自室に隠したテスト用紙をログナス様からいただきそれを参考に問題を作りました」
「ろ、ログナスぅ~」
「あと教師陣にお願いして範囲と授業の様子などを」
「保護者!?」
「そうですが?」
「ぐぬぬ」
僕にプライバシーという人類が編み出した尊い権利も彼の前では塵と同じらしい
僕はシクシクと泣きながらペンを握った

「でさ。って言うわけなんだけど」
今朝のことを二人にも話した
「そうですね。ログナス様は坊ちゃんのためを思って発言なさっていると思うので、セウス坊ちゃんも理解していながらも感情面でうまくいかずにすれ違ってしまった訳ですから、長引かせず仲直りできるといいですね」
「…おっしゃる通りで」
項垂れる
「えぇー……えぇーっと。仕方ないですよ。セウス坊ちゃんはお疲れでしたから時にはそんな時もあります。頑張ってくださいまし坊ちゃん!がんば坊ちゃん!」
「ありがとう……」
がんば坊ちゃんってなんだ?

黙々と勉強をやり終え、なんとかユダのお許しも得たので
彼らはこの後校舎の方で集まりがあるらしく別行動となった

仕方なくぼうっと歩く
いつの間にか白薔薇の香りがふわりと流れていた




ポカポカ陽気でるんるんるん♪

道に迷いました……



誤魔化すようにるんるんと歩く
誰も見とらんし

そうしていると
ドンッ!
とぶつけるような音が聞こえ猫のように飛び跳ねる
そこから途切れ途切れに声が聞こえた

「……ですから!…………であって、……………………わけでは………………………………しかし」
若い青年の声だった
僕は恐る恐る忍足で近づいた
白薔薇の壁を背にして聞き耳を立てる
因みに普通に悪いことだ
てへ


「……俺は、嫌なんです」
苦しそうな声だった
「あいつが……あいつは、悪くない。わかってます。でも、俺は」
このままでは泣き出してしまうのでは、と思うような声だった
これは独白ではない様子
相手は…
カチャンと音が鳴る
「落ち着きない。……気持ちはわかります」
この声は、サイファー?
「ッ!貴方に!貴方に何がわかると言うのですか!俺は必ず傷つける。否応なく周囲を、…呪われた俺には、幸せなんてなれ「君が悲観しても傷つけても彼は諦めない」……」
「宿命。業。呪い。願い。言葉で形をつけるのは楽でしょう。だがそれは所詮飾りです。暗がりを見つめてばかりでは何も見えず、垣間見える光すら恐怖に感じる……。今はまだ不幸は蔓延していない。決めつけては得られるものも失う事になりますよ」
「………………何を得られるというんですか」
植物の壁越しにも張り詰めた空気が伝わる

「尋ね返すが君の拒絶の果てに何が得られるのか。答えられるかい?」
「……」
沈黙が続く

「……わかりません。わからないんです。それが」


とても恐ろしく 苦しいのだと言った


影が過ぎ去る
見上げると鳥が悠々と飛んでいた

「……そうだね。君の苦しみは君の正しい魂の証左だ。私ができるのは吐露される欠片を受けとることしかできない。ごめんね」
謝罪の声音は柔らかくて悲しげだった

「……私も光が、恐ろしい」

呟かれた声は遠く 風に吹かれたように消えた

「すみません。よりによって貴方様に八つ当たりだなんて」
「いいんだ。むしろ嬉しいぐらいさ。子供が甘えることもできず本音を隠し苦しむのは大人にとって悲しく、歯痒いんだ。ありがとう。セオ」

慈しむように声を紡ぎセオと彼の名を呼んだサイファー
聞いた事のない名だ
まだまだ学生の名前なんて把握しきれてない僕には誰だかわからなかった

「感謝いたしますサイファー様。俺、あいつだけが味方だったのに。段々と怖くなって。俺を見て笑うあいつの目が俺を映すたびに恐ろしい思いをしました。いつ……あいつが俺を憎むように睨む日が来るかと……」

どういうことだろう……複雑な関係なのかな
彼やあいつと呼ばれる人のことはわからないが、なんとなくわかる
大事な人たちが自分を見る目が変わる瞬間、それはとてつもない恐怖だ

「ふむ。多感だね」
「……」
「いっそのこと認めて付き合えばいいじゃない」
ガタンッ!と激しい音がした
「なっ!?何ふざけたことを言って!あ、ありえません!」
葉と枝の隙間から覗くと陽に照らされた黒髪が青い光を反射し白い肌が赤く染まった美青年がいた
目が……赤い
あれ、ログナスとそっくり
ログナスはすらりとしながらも男らしい体格でしっかりしている。顔は涼やかで目が凛として青薔薇の貴公子とか呼ばれるくらいイケメンだ
セオと呼ばれる青年は特徴は似ているが中性的でまつ毛が長く美人だ
でも性格はきつそうかも、なんて勝手なことを思う

「そうかな。まぁアレの系譜だし天然たらしな部分はあるけど。私には君への執着はすでに友愛を超えてると「ありえません!あり得ませんから!」……ふむふむ」
呑気なサイファーの声と慌ててるセオの声
揶揄っているのかなサイファーは…
と思っていたら何かが飛んできた
いい速度だ

「いったぁ!?」

ガサッ!
隠れているのも忘れて飛び上がってしまう僕
セオが持っていたティースプーンが照れ隠しに振りかぶられ勢いに抜けたのが見事に僕のデコに当たる
めっちゃ痛い


「ッ!?誰だ!!」
「あっ、あぅ」
パニックを起こした僕は降参のポーズ
これでも王国の由緒正しい第二王子です
ドヤっ!

「盗み聞きなんて卑しい奴め!死ね!」
死亡フラグ早くないですか?
抜刀された細く黒い刀身の剣先が向けられる
「ストップ!怪しいものではございません!」
涙目になりながら首に触れそうな剣に怯えつつ助けを求めるように視線を向けると、優雅に紅茶を嗜みつつ小さなお口でクッキーを食べるサイファーが見ていた
可愛い……じゃなくて!見せ物じゃないから!
助けて!!
そう視線に念を込めるとハッとした顔をした後、クッキーを差し出された

……………………


「ちゃうわ!!!」

長閑な庭園に僕のツッコミが響いた






「うぅ」
「……ふん」
「……ふぁ」

めそめそと泣く僕
腕組みをしてこちらを見ないセオさん
眠たそうに欠伸をして横にある白薔薇を指でつつくサイファー

なんとか懇願し、うるさいのが嫌なのかやっとセオさんを止めてくれたサイファー
そして席を用意され僕の前に白い陶器に琥珀色の紅茶が注がれた上に、白薔薇の花弁が浮かんだティーカップがある
とてもいい香りだ
大泣きした後水分補給、大事だよね!

「……」
「ほんと、ごめんなさい。盗み聞きするつもりはなくて」
「気づいてから足音殺して近づいたのに?」
サイファーは黙ってて!と視線を向ける
わかってたならフォローしてよ!と自分を棚に上げて見つめる
「もう、いい。大声を出した俺が悪い」
まだ照れているのか怒っているのかわからないが許してくれるらしい
ログナスに少し似ているから色々心に来るぜ

「こちらこそ、ごめんなさい」
仲直りの握手を求めるとチラッと見た後、頬を染めながらもおずおずと握ってくれた
あれ可愛いなこの人

「すぐやらしい目で見る」
「何のことかな!」
横槍をかわす。かわすの!

「ええと、僕はセウス。セウス・クルースベル。初めまして!」
誤魔化すように後頭部に手を添えたままそう名乗る
僕の名を聞くと彼はピクンと揺れる
「セウス・クルースベル……」
少しぽかんとして見つめられる……なんでしょうか?

「私は、セオ・エコウブルーと申します…セウス殿下」

「彼は君の国の出身なんだよ」
つまり我が国の民か
そらゃそうか。この学校だって他国だが様々な国の生徒たちばかりだし僕の国からやってくる人もいるだろう

「同級生?」
チラッと見ると徽章のリボンの色は違う
「二年です殿下」
恭しく言った
「いいよセウスで。セオ先輩」
笑っていうと目を丸くしてから彼も優しく笑ってくれた

「あなたは、違うのですね」
「違う?」
何が?
「セオは貴族に誘拐拉致され売られ、邪教徒の供物にされたんだ」
その言葉に衝撃を受ける
それを僕は知っている
以前の一度目の僕は力を得るため暗黒魔術をより知る目的で邪教アザネアスを利用した
結局は碌でもないところだと知っただけでいつの間にか消えていた組織だ
「はい。クルースベル国辺境にある農村出身です。そこがある日、…魔族の群れにより壊滅しました」
よくあることだ。この世界では魔族の襲撃により首都のある王国より離れたところは騎士団などの到着が遅く辿り着く頃には壊滅しているという
「そうか。苦労したんだね」
「まぁ……今はその時助けてもらったサイファー様たちのご厚意によりここにおります」
「…こんなことしか言えないが、王族として民である君が助かってよかった」
頭を下げる
「いえ、頭を上げてください殿下。村は無くなりましたがヴァーミリアン騎士団長のお陰で魔族は一掃されましたし、貴族に捕まり売られましたがなんとか助かったのも王族の方々と騎士団の助力があったと聞いております。こちらこそありがとうございます」
頭を下げられた
無力な僕は何もしていないのに…

「ただ一人助かってさぞ辛く大変だったろうね」
「えっと、まぁはい」
「一人ではないよ」
「そうなの?」
ならよかった。一人でも多く助かったなら
「それが例の幼馴染くんだよね」
苦虫を噛み締めたような顔をするセオくん
すこし表情が戦っている時のログナスに似ているなぁ
「君も喜んでいたじゃないか」
「それは!…別に。あいつは殺しても死なないようなやつだし、ムカつくがあの時は俺より強かったし…」
知らない人だがパワフルらしい
「五歳の頃は村近くの魔猪の群れを一晩で狩り尽くしていた」
「それって人間?」
思わずツッコむ
「多分……」
幼馴染が疑問を抱いている
どんな人間なんだろう
「聞いたことがないかな?テラ・バレンシアという名を」
ニコッとサイファーが意味深に呟く
「テラ・バレンシア…………テラ・バレンシア!?!」
僕は驚いた
「……なぜセウス殿下があいつを?同じ平民……あぁ」
セオが疑問を抱きながら呟くが一人で納得したようだ
「知ってるもなにも…………」
彼は有名人だ。ものすごくね
ログナスが青薔薇の騎士団団長の麗しき騎士であれば対をなす存在が我が祖国にはあった
白薔薇の騎士団団長黄金の輝きテラ・バレンシアだ
プラチナに近い金髪にブルーサファイヤの澄んだ瞳の美しい好青年だ
僕も数回だが面識がある
最年少で英雄ログナスと魔王の直属の手下を単独で倒したという彼は英雄テラと呼ばれることもあった
ログナスが静であればテラは動…
正直うるさかった
『お初にお目にかかりますセウス殿下!お噂はかねがね!聞いていた以上に可愛いらしいですね!幼馴染の方が可愛いですけど!』
初対面の時そう言われ驚き、爽やかな笑みに嘘偽りない目に本物だと思って印象深かった
僕より一才下の男の子
そばにいた兄上に払われてそれからはあまり接点はなかったが…

「セウス殿下はまだ騎士見習いのあいつを知っているのですか」
「へっ?し、知っているというか騎士団の新兵は入隊式の時顔合わせするしね」
と言っておく
正直そのときの記憶はない
「……ご立派なのですね殿下は」
「大したものじゃないよ」
「何もしていないからね」
そんなことを言う可愛いお口にはクッキーを詰めてやる!

「自覚があるのならば普段の生活での態度を律し、行動で示すのがいいんじゃないかな」
「そんなお手本の教師みたいなこといわないでー」
「…私、一応学長ですよ」
困ったように笑われた
わかっているさ僕だって、でもやはり僕は僕なりのタイミングというか何と言うか、余裕が欲しいんだ
周りの貴族出身の子達はちゃんとできているようで魔法が得意な子が生活浄化魔法で友達のもやってあげたり魔法石を利用した魔術具機械で洗濯などをしていると、聞き耳を立てて聞いた。ちなみにまだ、友達ではない……
彼らは彼らなりに今までと違った文化やルールに順応しているようだ

「俺は、わかる」
「セオ先輩!」
「うおっ」
思わぬ味方の発見により手を握ってしまった
彼は驚いて頬を染めながらも拒絶はしない
ツンケンしているがいい人なのだろう
「わかりますか?さすが先輩」
「同調してくれたからってがっつきすぎじゃない?」
「サイファーはお黙り!お紅茶でも嗜んでいて!」
独特の言い返しをしてプンスカ怒り、サイファーはフフッと笑って紅茶を飲んでいた

「……俺の場合は、あいつがしつこくて。飯は食ったかとかあれが楽しいとか見せたいとかうまいとか何でもかんでも報告して誘ってくるんだ」
「うんうん」
「俺はそういうの、合わないし大丈夫だほっとけって言ってるのに。そんなこと言うな俺はお前と一緒が楽しい、とか嬉しいとか笑った顔が可愛くて見たいとか俺を守りたいから剣の練習をしてるとか、恩着せがましいんだあいつ」
「うんうん。……うん?」
これは、もしや?
「惚気?」
つい呟いてしまった
その声にセオは固まり、顔を赤くし毛を逆立ててシャーとする猫のように慌て出した
「何バカなことを言ってるんだ!ありえないだろ!俺は迷惑してるって話をしているんだ!どこにそんな様子がある!やめてくれ不愉快だ!」
ふんっと腕組みをして赤い顔を逸らされた
ツンデレかよ
この人無自覚なのか?と思ってサイファーを見遣ると
「毎度のことさ。可愛いだろ」
余裕の笑み。いい趣味をなさっておりますね

「俺の話はいい」
「照れないでよセオ先輩。どこが好きなの?」
「はぁっ!?!」
「おや」
ガシャンと机を叩いたセオのせいで机に乗ったティーセットとお菓子と花瓶に入った白薔薇が浮かぶもの、サイファーがさっと指を動かし魔術で浮かした後着地させた
「な、なんでそんなこと」
「じゃあ嫌いなの?」
「へっ!?き、嫌い、ではない、でも」
そわそわしだした先輩
可愛いのう
横からいい趣味してますねと視線が刺さった
「じゃあ、いいところ教えてくださいよ」
「いいところ?んー、あいつのいいところ」
「例えば……ほらテラは笑顔とか」
「笑顔?はっ。表情筋が緩く節操なしの天然だからところ構わず笑顔を振り撒くふしだらなやつですよ」
おや?
否定はできないが、確かにログナス並みにモテてたと思う
あの顔と性格だし、一度見たのは王宮で立ち話を令嬢としていたテラだったが明らかに令嬢は頬を染めて恋してる顔だったがテラは天然でかわしでは!と言って素早く去っていった記憶がある
「いつもニヤニヤしてて気持ち悪いしボール蹴りはしたくないって言ったら絵描きをしようとか言ってあいつ絵描くのは好きでもないくせに俺の趣味に合わせるとか何様なんだって話ですよ。俺はあいつの家に世話になっていたんですが育ててくれた人は食べ残しに厳しくて当時食べれなかった野菜をあいつは勝手に食べたんですよ。やめろって言ったら美味しそうだったからとか言って食い汚いんだよあいつ」
「そう……」
セオ先輩、拗らしちゃってるんだね
「彼は面倒見がいいんだね」
サイファーが言う
「そんなことはありませんよ。あいつは年下ですし村の男も女もテラが俺に構うせいで嫉妬されて面倒だったんです。邪魔だとか何とか言われて、いい加減頭に来てそれからテラを無視してみたんですが三日たっても話しかけてくるから話したくないって俺が言って何でと聞かれ、嫌いだからって言ったらあいつ、固まって泣き出したんです。俺は、すこし悪かったなと思ったんですが意地を張ってしまい話せなくて、テラはそれから高熱を出してしまい親たちも出稼ぎでいなく仕方なく看病したら、熱に魘されながら嫌われても一緒にいたいってお願いされて、仲直りをしたんです…だから俺が上です」
いつから上とか下の話に?

「うぅっ」
「何で泣いているんですか!?」
「だっでぇ~」
そんなキュンとするエピソード話されても……ねぇ
隣のサイファーをみると面白いよねって視線を向けられた
おい

「それでどうしたらいいかなって」
セオ先輩を可愛くいじってたら拗ねられたので僕の話をする
本命はこちらだ
どうせサイファーにも話聞いて欲しかったし
別に楽して助けてもらえないかなとか、思ってないからね

「金でもあげればいいんじゃないか」
「「それはない」」
ハモる
僕でもそれはない。ログナスはお金で解決するような人間ではないし国一番の騎士は多分、僕よりお金があるだろう
僕より何でもできるし努力もしてる
性格だって僕よりは社交的だし生活力もある
僕の幼馴染有能すぎでは?てかセオ先輩贈り物センスない感じかな?

「ねぇ何かいいアドバイスありませんかぁ?」
ぶりっこする
スルーされた
「これとかどうかな」
声がして顔を向けるとフワッと、甘く澄んだ生花の香りがした
目の前に白
驚きのまま見上げると白より輝く銀髪が風に揺られ
甘く切な気な声がした
「どう……セウス」
「はぅ!?」
僕の中の何かがジンと痺れた
花瓶に入っていた白薔薇を一輪抜き取り僕に向けて、近い距離に綺麗で美術品のような白皙の肌のサイファーがいる
ドクドクと鼓動が高鳴り頬が赤くなる
あぅ……めっさイケメン……
「どうゆう意味です?」
横から恋愛鈍感ツンデレキャラのセオ先輩が素直に尋ねる
「香水とかどうかと思って」
「「香水?」」
ふわりと残香を残して薔薇が遠ざかった
少し寂しく余韻が残る
席に座ったサイファーは空をなぞり魔術を発動させて何かを出現させた
「えい」
手に持っていた可愛いガラス瓶を僕にかける
「うわぁ!すごいいい香り」
花の芳しい香りと果物のような甘さ、余韻には柑橘のようなほろ苦さもある
かなり上質な香水だろうとわかる、しかも
「もしかして魔術付加されてる?」
「良い感性だ」
サイファーが薄く笑う
「その通り。私特製フレグランスだよ。香りだけではなく鎮静作用と不浄を祓い魔力と傷を多少癒す効果がある。後幸運も」
「なにそれ!欲しい」
「いいだろう。気にいるものがあるなら後で試して良かったものをあげよう」
「やったぁ!てか魔術付加されてるのって一気に価値が上がるよね。普通のは流通しても気分が良くなるとか願掛け程度の魅了ぐらいだよ」
「そうだね。香りだけなら金貨一、二枚ぐらいだが、私の魔術付加つけるならそれなりの覚悟をしてもらいたいものだ」
いい商売になりそうだ。ぜひ僕の国で売れないかな

「つまり、香水でどうするのです?ログナスさんは淑女じゃないでしょ」
「男性でも身だしなみで香水はするよ」
「そうなのか。これも平民ギャップというやつなのか」
慌て出した先輩。そうでもないと思うけど、庶民のことはわからない坊ちゃんです
ユダにバレたら説教だな

「香水の材料を集めたら私が特別に錬成してあげよう」
「ええ!む、無料ですか!?」
「……なんと、無料なのです」
「お得ーっ!」
悪ふざけにノリにノっている僕
「わかったよ!僕頑張る!」

僕は席を立ち決意する
「あれ、どこで手に入るの?」
「あそこ」
指差した先はこの国で一番でかい山
霊峰だった

「ひぇ」
「あの山の頂上付近にある黄色い花で葉は青い。さらに花弁が六枚あるのがいい香りが良くなる」
「無理じゃない!?」
「大丈夫さ。ねぇセオ」
「俺?」
ぽかんとお茶を飲んでいたセオ先輩が首を傾げる
「セウスの護衛をしながら同行してあげて」
「俺ですか」
明らかに嫌な顔である
山を見て、僕を見る
全力で目を潤ませながら甘えた声を出す
「お願いですセオ先輩!僕を助けてください」
「うっ……………………わかった。はぁ」
よっしゃ!勝った!押しに弱いと思った
「ですが、俺たち二人ではあの山は死にに行くようなものです。後誰か、あなたの騎士の誰かでも」
そうセオがサイファーに乞う
「私の騎士をかい?君も冗談が言えるようになったんだね。私用に使命ある彼らを顎で使えるわけがないだろう」
「本気なのですが」
「ふむふむ」
サイファーが首を傾げる
戦力は欲しい!
「その花も見たことがないし、あの山には大型魔獣や幻獣悪精霊までいる。無謀すぎます」
「そんなやばいの!?」
知らなかった。ハイキング気分だったのに
「そういえば、サイファーのいつもの護衛さんは?」
見かける時は必ず誰かしら鎧を着た誰かがいた
ヒエイ先輩なら隠れて見えないけど…

「ん?いるよ。今日は騎士ではないけど、とても優秀な子がね。丁度いいし知識もある彼に任せようか」
トントンと指で机を叩くサイファー
「エイリアス」
「はい。ご主人様」

「「わっ!?」」
セオ先輩と一緒に驚く
突然白薔薇の茂みから現れたのは燕尾服を着た
スラリと背の高いゆるふわ白髪で肌が黒く、目がダンテカラー(暗い赤)の恭しい礼をする長身の男性だった



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