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光に潜む影-王都暗部襲撃編-

【18】

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『時間だ』



通信機能がついている羽根飾りから、そう声が聞こえた
そして鐘の音が聞こえる
襲来を知らせる鐘の音だ






空を裂くように黒い一線が引かれる
そこからまるで傷口を広げるように中から何かが溢れ出した間から黒い液が滴り落ち汚泥が地を穢す


見るだけで精神を侵す世界の汚濁
それが今地に堕ちようとしていた


『さて、開演だ』
端末から軽い声音が聞こえる
なんてことないさとでも言うように



『序奏〈イントロダクション〉』

尊大な音が響き渡る
あの聖堂の方向から聞こえてくる
聖地を起点にして魔術の強度を高める算段か
それでも単体でこの国一つを背負うなんて
これが神の使徒の所以かななんて考える
目の前の出来事の最中、他人を考えている暇なんてないんだけどね
僕は武器を構える
高ランクの魔法剣でも刃が通るのか心配だ…

王国内各地で同時に異変が起きていた
作戦会議の時最初で問題になったのが領域汚染と精神攻撃だった
奴らにとってそれは息をするような通常の行為であって攻撃でもないらしいけど
それにサイファーが立案した
聖堂で神聖結界を展開すると
人技ではないが本人ができると言っているのでまだ敵の素性すら知らない僕たちは頷くしかなかった
それで予想される敵という話になる
それで星の落とし子の三柱という言葉が出た
え?やっぱ神様じゃん
これから神を倒すのとか無理じゃん!と内心騒いでいた
いくら邪神であっても…英雄でもないのに
あ、二人いるか
これからさらに名声と輝かしい偉業を成す英雄ログナスと
既に伝説の英雄戦神のシルヴァさん
この二人がいればどうにか…なるのかはわからない
なんて言ったって神様だ
本来神代の時でもない限りあり得ない話だ
ナグナロクかって…
旧古代書に載っていた文を思い出した
神降りし時 黄昏の運命がはじまるであろう
意味はわからないが 黄昏ってことは終末を預言しているのもしれない
僕の復讐と研究には役立たなかったからそれ以上触れなかったけど

そうして話がいつのまにか纏まっており盤上に置かれた配置を見るとやはり僕の出番はなさそうだった
だからログナスと父上にごね…嘆願し許可をもらった



「あれが、邪神か」
ログナスが小さくつぶやく
その赤い瞳に黒い異界の神を映す
見た目は化け物そのもので、触手と四本の腕が目立つ
軟体生物のようにグネグネとしていて悍ましい
もし広域の神聖結界がなければこの時点で全滅していただろう存在力と邪悪な呪いだった

ログナスの剣は既に抜かれていた
聖剣は名前とは真逆で黒く発光している
そういえば一瞬見えたシルヴァの大剣の刀身も黒かったなと思い出す

「セウス、絶対俺より前に出るな」
「うんそうする。死にたくないしね」
わざとふざけたように言う
「安心しろ。お前は絶対俺が守る」
顔だけ振り返って笑みを浮かべた
「わかった。僕もログナスを守るよ」
本心だった
それが今の僕の願いだからだ
一度目は殺し合った
だから今度こそ君を守りたいんだ

「ああ、頼む。無茶はしないでおくれよ」
口元に笑みを浮かべる
ログナスにしては珍しい悪戯する子供のような笑みだった

「善処する」
彼の口調の真似をして笑う
と同時に地に黒い海が産まれた

「わわっ!?」
僕たちに到達する前に弾かれた
後方のユダが素早く結界を展開していたらしい

「呆けてないで集中なさい!」
叱られたさすがブレない男
それが何より安心できた
「わかった!」
僕は手を前にかざす
体から魔術式を起動する際の発光が現れる

「異界の神よ 永久に眠れ!」
氷で黒い海の侵攻と足場を作る

「剣よ 目覚めろ」
その一言で聖剣は権能を解放する
全解放していないのに凄まじいオーラだった
グネグネと震えながら動いていた触手が近づいてきた。ログナスに反応したのか一瞬で迫る
あれは物理攻撃だけじゃない
触れただけで腐食し精神を狂気に落とす呪詛がたっぷりと含まれている
解析魔法でも殆どが謎だった
ただわかったのはその危うさと規模の大きさだけだ

ザシュッ!

ログナスが一瞬で迫ってきていた触手を斬り落とす
氷の足場に足をつくりそのまま追撃した
青い閃光が瞬き、その度に邪神の体が削ぎ落とされる
すごい!一方的じゃないか!
あのままなら勝てる
そう確信できた
「踊れ雷よ 大地に迸れ!」
囲むように電撃を僕が放つ
いくつかの触手は焦げて落ちた
ダメージは、あるみたいだ
これなら持久戦でいけるのか
そう考えていた

『ふむ。あれは一端だね』
「え?」
通信でサイファーがそう言った
「一端て?」
『そのままさ。本体は来ていない。あれは黒き神の眷属の触手の一部さ。爪先くらい』
そう告げた
一部であの存在力なのか?
あれ一体で簡単に国は滅びるだろうに

「他の人たちはどうなってるか分かる?」
『わかるよ。西の方は小物が大勢で攻めてきたね。青薔薇の騎士団が応戦して何とかなっているようだ』

「ならよかった。早く応援に行かないと」

『東は君の使用人たちだね。兄弟の子たちだ。今始まったばかりで…おや当たりなようだ。あちらにも一柱がいる』

「そんな!?危険すぎるよこちらに向かっているんじゃなかったの?」

『その通りさ。出現場所が少しずれたようだ。道中に出会ってしまった。ような状態だね。悪運が強いみたいだ』

『北はシルヴァがいる。あっ』
その時凄まじい魔力の波動が肌を叩く
余波だけでこの出力は凄まじい
誰がこんなこと、…一人しかいないか

『北は終わったようだ』
単騎で邪神を一体倒したのか…
瞬殺の勢い。末恐ろしい騎士だ

『南は…もう一柱の近くのようだね。君の使用人二人が交戦している』

「…はやく、助けにいかなくては」
それぞれ青薔薇の騎士団と国の精鋭魔術師団がいるが
どこまで持つか…

目の前では切り刻まれている邪神を見て思った



「ーーーーーー!!!」

邪神が何かを叫んだ
そしてログナスは素早く後退する
足場ごと海に飲み込まれてしまった
そこからさらに触手が出てきて周囲を破壊する

「…埒があかないな」
「何か手はないのかな…」

『あるよ。事前にも話したように。彼らは世界にとって異物だから長くは存在できない。あれなら十分もすれば自然と消える』

「十分でも被害がとんでもないことになってしまうよ」

『そうだね。私の結界内でも直接の黒の汚泥は防げない。生き物が住めない更地になるだろう』

「そんな!?」

「なら倒すしかない。迅速に」
当然のようにログナスが言った
「でもあいつ、自己再生能力なのか。凄まじい速度で再生するよ」
「それでも倒す」
…脳筋プレイですか?
クールに見えて意外と暴力が全てを解決的な…

『自信があって結構。策はあるよ』
「な、なに?」

『奴らの本体でないなら核を破壊すれば消える。広場で見ただろ?赤黒い塊を』
確かに見た。あれが発生源で黒仔山羊が現れたんだ

『体内の中心部にあるけど、見えるかいセウス?』
促されて見る
確かに、中心深くに、ブレる禍々しい光がある


「それを破壊すればいいんだな」
再度剣を構えてログナスは見据える

『君には無理だ』
淡々と言う
「…なぜだ」
冷たい冷気のような声だった

『見えもしない人間にはできない事なんだよ。だからこの場合、セウスにしかできない』
驚く事実に僕もログナスまでも驚いた


「そ「それはできない!させられるわけがない!」」
焦ったようにログナスが羽根飾りに詰め寄る
僕も必然的に近くなるから怖かった

『なら国が蹂躙されるのを指を咥えて見ているのかい?』
「そんなわけがないだろう。あれは俺が倒す」
『だから君には無理だと言っている。感情だけでどうにかなるとでも思っているのかい?』
「奇跡でもなんでも起こしてみせる!俺が倒せば問題がないだろう」
「ろ、ログナスダメだよきっと、多分サイファーの言う通りだ。核以外は全部同じ、水みたいなものだよ」
ログナスの服を掴んで見上げる
「…ッ」
『どちらが子供かわからなくなるね』
「…」
ログナスは酷く狼狽していた。どうしてこんなに…
「どうしたんだよログナス。いつもお前は冷静で、何でも解決してきたじゃないか」
誰よりも努力して研鑽してきたからこそ
その強さで、人々に、この若さで認めれてきた人間だ
僕はそれをよく知っている

ログナスは苦しそうな表情のまま僕を抱きしめる
「…ログナス」
「…すまない。でもセウス、お前には危険な目にあってほしくない」
それはきっと本音だろう
彼が弱くなるのはきっと自分のせいだ
それはわかっていた、ずっと…昔から


「…僕、やるよ」
「セウス!」
肩を掴まれ見つめ合う
安心させるように手を重ねる
「僕だって守りたいんだ。この国を、大切な人たちを」
もちろん。ログナスお前も…
言葉にはしなかった
伝わるはずだから

「……」
「ね?」
手をぎゅっと握る
ねぇ?信じて


「…はぁ、…サイファー殿」
『何かな?』
「先程の無礼申し訳ない」
『気にしてないさ。それだけ大切なんだろう』
「はい」
即答だった
「…止めだけをセウスが刺す。のはどうでしょうか」
『もちろんそれでもいい』
「わかりました。ならやってみます」
ぼくの頭を優しく撫でてくれた
いつものログナスだ


「話は、終わり、ましたか?」

離れたところで黙々と魔術と黒いナイフで撹乱させるように戦って時間稼ぎしてくれていたユダが言う
ご、ごめんね!

「うん!これから畳み掛けるよ!」
「仰せのままに!」
氷塊をユダが蹴り飛ばしてぶつけていた



「俺が全ての触手と腕を切り落とす。その後体を二つに斬るからその核とやらを破壊してくれ。出来るか?」
それってほぼやってくれてると思うけど
実際その方がうまくいきそうだ
「わかった。ユダと一緒によろしく」
「任せろ」

一瞬でユダと合流し攻撃する
激しさは増し、再生するも直ぐに斬られ千切られ壊される
敵ながら哀れだ
「我が身に力を!」
自身にエンチャント(補助:身体強化)する
とにかく、素早くだ!

風と光の加護で守り速度を上げる
魔法剣に魔力を流す
『君の目は長くは発動できない。君の脳が焼き切れてしまうからね』
「わかった」
『再生速度もいれて、三秒だ。それで決めるしかない』
そんなにか
無茶振りなのに不思議と不安感はなかった
目の前では信頼する二人が頑張ってくれているからだった
小物の化物までも海から現れそれらを倒してもいる




「風雷よ いま光とならん!」
二重属性で全身を包む
負荷が大きいがその分攻防一体化で便利な魔術だ


チラッと二人が僕を見る
そして頷いた

「荊よ 棘によって流れた血で汝の罪を量らん」
「青雷よ 全てを焦がせ」

二人の魔術が交差し凄まじい威力で邪神を削る
「ーーーー!!!!!」
雄叫びをあげているように感じた
痛みを感じるのかさえわからないけど




…ッ!

み、見えた!

光の濁流の中
中心部深くに黒い結晶があり禍々しい光を放っていた
あれを、破壊する!

「飛べ!」
空気の壁にあたる
強化してなかったら体が千切れていたかもしれない
二人が作ってくれたチャンスを無駄にはしたくなかった

視界の中で、凄まじい速さで既に再生が始まっていた
だけど、間に合わせる
剣をまっすぐ伸ばした

「うおぉぉ!!」
届け!!!


ピキンッ!!



ヒビが入るような音がした
そして、黒い結晶は目の前で砕ける
や、やった
邪神が声もなく崩れていく
これで…なんとか助かった
そんなことを考えながら落ちていく
下にはまだ消えていない黒い海があった
このままでは落ちて侵食されるだろう
だけど魔術のダメージで体が動かなかった
直接魔術で二重属性の補強して動かしたんだ
リスクがないわけが無い

落ちる…

シュッ……スタン…

「…無理をしたな、セウス」
目を開けるとログナスが少し困ったような顔をして見下ろしていた
僕は助けられたようだ
抱き抱えられている

「うん、ごめん。それと…」


ありがとう


そう言って僕は笑った









「いたた!痛いって!」
「我慢しなさい。あんな無茶をして、頭をぶつけた時螺子が飛んでいってしまったのかもしれませんね!」
「いっ!…すみません」
「まったくあなたというお人は…」
小言挟みながらも治療してくれたユダ
二人は無傷らしい
さすがだね
「あれ、ユダ服は?」
「なにか?」
「破けてたよね。ズボンとか」
「はい。なので着替えましたよ」
いつのまに…


「俺はこのまま他の救援に行く。お前たちはどうする?」

「うーん、とりあえず東に行こうかな。あの二人が心配だし、どっちみち見える人がいないと倒せないみたいだし」
そう聞いてログナスが眉を寄せる
怖いからね

「…俺も行く」
「いいの?」
「勿論だ。離れる気はない」
「そ、そう」
なぜか恥ずかしくなる
「青薔薇の方は何とかなっているらしい。精神攻撃さえなければ多少数が多くて少し強いだけの奴らのようだ」
「そうなんだ。ならよかった。あとは南だね」
あそこはルカとカールトンがいる
心配だ
あの二人はどうなんだろう
二人っきりの状態が想像つかない

「私は、申し訳ございませんがお側を離れます。南に向かおうと思います」
申し訳なさそうに言う
その顔は心配そうだった
「そうだね。その方がいいかも。時間稼ぎ頼むよ」
「承知しました。ログナス様、どうか坊ちゃんをお守りください」
「任せてくれユダ」
二人は頷いた
そしてユダは去っていった



「歩けるか?」
「大丈夫。治療魔法してもらったから体は平気」
魔力の多い僕だけどごっそり持っていかれてしまった
もしかしてこの目にも魔力が必要なのかもしれない
考えて使わないと…

「背負ってやろう」
「いい!」
「恥ずかしがることはない」
「そんなんじゃないから、ほら行くよ」
「…ああ」
僕に手を引かれてログナスは歩み出した





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