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9話 ゾナン遺跡②

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「……そういえば、メルは魔剣から姿をまた精霊に変えることはできないの??」

『できなくはないけど……なんでそんなこと聞くの??』

「……人間に闇の精霊は目に見えるのかなって」

『人間に? 姿を現すことはできなくもないけど……普段は魔族にしか見えないようにしてる。それがどうかしたの?』

 ははぁ、なるほどね……なら少しは勝ちの目はあるんじゃないかな??

「それならさ……」

『……な、なんだよ気持ち悪いな……』

 ……状況を探りにに行ってきてよ、どんな会話をしているのか、この後どんな行動をするのか……困惑するように答える魔剣に耳打ちをするように、小声で今度はボクからの〝お願い〟をする。


  ◇


[ 精霊形態・メルフィラ視点 ]



『ぷんすか!! ……なんなんだよロクスったらさあ!! 大人しそうな顔して意外とずーずーしいんだアイツは!!』


 いくら私が人目に触れない精霊だからと言って、トモダチになったばかりの、しかも敵対する種族がもそっといる危険地帯にひとりぼっちで送り込むトモダチが居る?! 絶対にフツーじゃないよ!!
 前世のロクスはそんな事は絶対にしなかったし、それにロクスが『覚醒』しなければ私の力もかつての様に全力が出せないってのにさ……

『……まぁ、私がやるのは内部偵察だけなんだけどさあ』

 闇に溶け込みながら転移魔法陣の遺跡に潜入し、聖騎士や一般階級の兵士達が忙しなく遺跡の出入り口を行ったり来たりしているのを闇に紛れて覗き込んでいく。
 兵士達が食事をとっていたり、武器を手入れしている職人もいるな……げげ!! 魔族の女性が10人、しかも少女まで捕まってる!! ……統一されてない姿を見るとおそらく転移魔法陣を目指して来た魔族たちのようね……

『女性ばかり捕らえるなんてさぁ……ほんと人間って昔から変態ばかりなんだよな……今すぐ助けだしてやりたいけど、精霊の状態では力を出しきれない自分が情け無いよ』

 私がかつて人間達を震撼させた闇の力を存分に発揮できたなら、聖騎士どもを駆逐して彼女達を救出してやれるのに……彼女たちに今何もしてやれないのが歯痒いけども、ただでさえまだ弱っちいロクスに足枷をつけるわけにもいかないからね……


 ……私の力を弱めた光の精霊とリィファには腹が立ってくるよ……!


『しかしまだ手を出されてないのが奇跡的に幸いだわ……』

 当初は何とかしてロクスを誘導し、魔王に引き合わせるだけの簡単な予定だったんだけどな……彼女たちを助ける手立ても考えなければならないし、何とかしてここの人間達をどうにか倒さなければならない。……逃げるという選択肢はなるだけ避けたいとこなんだよね。

 だって人間どもの目的を打破することは、ロクスの自信にもなるだろうし……それは魔族の為にもなるからね……それにここに在住しているのは下級兵士と一般聖騎士しか居ないから。指揮官を倒せばあとは勝手に慌てふためいて弱体化してくれると思うんだよね。

『その肝心の指揮官はどこにいるのやら……ん??』

 とうとう転移魔法陣のある場所まで来てしまったなあ……耳を澄ますとその転移魔法陣の近くから何やら話し声が聞こえるね……さてどんな会話をしてるのやら。

「……この駄犬が!!」

「……ギャン! ワフッ」

 壁に松明を置く台からは炎の灯りがゆらゆらとその影を動かしている。様子を窺ってみると……転移魔法陣の周囲を囲む石柱に鎖で繋がれた獣型の魔族───人狼族が兵士に蹴り飛ばされているようだ。転移魔法陣の中心に彼がギリギリのところでそこに足を踏み出せないようにしてるあたり、どうやら人間達はやはりこの場所が何なのかを把握している様だね……厄介だな。
 しかし不可解なのは捕われた魔族とは別に、この獣型の魔族が別々にされているのか、てことだ。

「い、痛いワンッ」

「イヌの分際でオレ達に噛み付いたからそうなるんだ!! このイヌ畜生がッ! 大人しく這いつくばってろやぁ!!」

「わふうぅう……」

 ふむ……噛み付いた? この人狼ワーウルフ……小汚く埃に塗れてはいるけど、長いモサモサの毛、モフモフの尻尾の立派な獣人じゃないか。おそらくまだ少年くらいの年頃のようだね? ふうん……それでこの人数の人間達に立ち向かうだなんて、なかなか見どころがある。ロクスの仲間にしても良さそうだね。

 大方、魔族を助けてやろうとしたところ反対に返り討ちにあって……すぐさま始末しないところを見ると見せ物小屋にでも売り払う為に、クズどもに生かされている……といったところじゃないかな??


「なんならこの場でお前を殺してやってもいいんだけどよぉ……んなことしても一銭にもなりゃしねぇからな!! 」

「わふ……」

「ふん、てめぇみたいな獣人は奴隷商か見せ物小屋に売れば酒代くらいにはなるだろうからな!! 少しは生かしておいてやるよッ」

 ほらね、やっぱりだ。まったく持って浅い考えだ、心の闇から覗くまでもなく思考が読めるよ。しかしまー、どこにどんな兵士や聖騎士がいるとか、監視の目が多いのがどの場所だとかが分かったし、何より〝聖剣〟を所持する厄介な上位聖騎士がいないのが救いだね。
 あとは……捕虜の魔族を拘束している手錠や足枷の鍵の在り処などが分かれば良かったんだけどな……
 とりあえずロクスにできる限りの偵察報告をしに戻ろうかな。……ん??

「クゥン……」

『……』

 ……やっぱ気がついたか。一瞬で私の気配に気がつくなんてこの人狼ワーウルフ……ロクスの仲間としての素質がある感じがするのは気のせいじゃないかも。

『ごめん、今の私はワンコくんを助けられないんだ……』

 獣人の悲しそうな瞳とその表情が私の胸を打つ。尻尾を丸めて項垂れる反応を見てしまうと……気になってしまうよ。

 でも。

それよりもロクスに監視の目を掻い潜る段取りを合わせないと。

『……一応ロクスには言うべきだよね……でもなぁー、捕虜がいるって言ったらアイツ、〝助けてやろうよ!〟とか言うに決まってるんだよなぁー、弱っちいくせに気持ちだけは強いんだから……』


 転移魔法陣が破壊されても困るし、早めにこの場を切り抜けたいんだけどなぁ。あー、もー!! 悲しいけど私はこいつら魔族に加護を授ける神ってゆーか主人ってゆーか!! 

 私だって放っておきたくはないんだけど……ロクスに死なれたら、また何年アイツの魂が世界に現れるかわかったもんじゃないからね……はぁ。


 仕方ない、方法があるとしたら……アレしかないよなあ……。
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