69 / 89
69話 魔王軍幹部会議 ①
しおりを挟む次の目的地は【サンドリッチの街】
冒険者ギルドでそう決めたユーナたちは、宿で一泊して翌日から【サンドリッチの街】を目指すという。
私はもっとユーナのそばでゴロゴロにゃんにゃんとニャンコのままでいたかったのだが、そうもいかない。ぐずぐずしていたらユーナが旅だってしまう。
その前にいろいろと手を打たねばならないのだ。ユーナを危ない目に遭わせるわけにはいかない。
さっきからナデナデしてくれるユーナとしばしの別れを惜しむように「んみゃっ!」とひと鳴き、私は彼女の腕に顔をぐいーっ、と擦り付けてからカウンターから飛び降りた。
「あ、クロスケどっかいきよるん? もう少し遊びたいんやけどな」
「……んみゃ~」
その声に反応した私は、ユーナを見上げてニャンコらしく気まぐれな感じを見せる。
後ろ足で頭をカキカキ、ふわぁ~、とあくびをして、ユーナたちに背を向け歩き出す。
最後まで完璧なニャンコ魔王。
トコトコトコ! スタスタスタ……! と入ってきた入り口から外へ出た私は、人気のまったくない路地裏でニャンコの姿を解除して、瞬間移動で魔王城へと帰るのだった。
☆★
さて、私は魔王城へ帰ってくると、すぐさま幹部会議を開くことにした。もちろん、魔王軍の皆に次の命令を下すためでもある。
いつもなら独断と偏見で命令を下す私だが、今回は人間たちの街も関わってくる。
部下の意見も聞いておきたいところだ、その上で次の行動に移りたいと思う。私は魔導水晶板を取り出し、魔法文字を打ち込むとノゾッキー、ビエル、ロリエラにDMを一斉送信する。
そのメッセージはこうだ。
【四天王全員会議室へ集合。次の命令の内容についておまいらと話したい】
すると、すぐさま三人から返信が来る。
【オッケー魔王様! 困りごとならセッシャにお任せ!】
【つぎのさくせんでちね! あたちとまおーちゃまのらぶらぶふーふだいさくせんかちら!】
【ふっ……! 二人きりじゃないのが納得しかねるけど、いいぜ……? maouttp……】
…………。
……とりあえず、フランクだけど珍しくマジメな返信したノゾッキーにだけ私は【頼んだぞ】とメッセを返す。あとの二人は既読スルーだ。
ロリエラ、何その作戦。誰得なのか知りたい。
ビエル、もうお前が送ってくるリンクは踏まないからな……!
なんなんだろう、ほんと。こいつら魔王軍の実質的な司令官としては実に優秀なのに……みんな変態。
大事なことだからもう一度言わせてもらう。
優秀だけど変態、変態なのだ。
だって、盗撮と覗き大好きなバカと、男なのに私とどーにかなりたいアホと、私の股間を隙あらば狙うエッチい少女…………あとゴリラ。
あ、ゴリラはもう四天王じゃなかったか。
ちなみに余談だが、魔王軍の中からは『魔王様、そろそろエツィー様の代わりになる柱を選ばれたほうが?』という声も出始めていた。
まぁそれは置いといて、私が四天王たちにDMを送ってからその後しばらくして──魔王城幹部会議室。
円卓のテーブルを囲うのは私とノゾッキー、ビエル、ロリエラだ。
「魔王ちゃま、どうゆーことでちか?」
ロリエラが耳をぴょこぴょこ、長いしっぽをふりふりしながら私に聞いてくる。
「ドラゴンたいじ、あーんど人間のまちをしょーあくする……ずいぶんとこーげきてきでちね? まおーちゃまのさくせんぽくないでちよ?」
「まぁ待てロリエラ。魔王様には俺たちには計り知れない……何か考えがあるのさ」
その隣の席にいるビエルがロリエラに言う。
そう、今までの魔王軍にとって、人間たちは天敵であり倒すべき存在。本来ならヤツらをコテンパンにすることが目的だ。
しかしそれは私の美学に反する。
憎しみ合って何か互いに得があるのか? そんなものは絶対にない。きっと我々も彼らも、いつか分かり合えると信じている。
その時だった。
「オッケェエエエエエイ!」
会議室にノゾッキーの声が響き渡る。
珍しく私の意見にふざけずにいたノゾッキーは席から立ち上がると、私に向かって言う。
「つまり、今回の作戦の意図はこういうことでしょう? 民を苦しめるドラゴンと領主をギャフンと言わせるどころか、人間たちに『魔王様めっちゃイイヤツじゃん!』と思わせること!」
「ウム。ノゾッキーよ、今日は珍しく冴えてるじゃないか。褒めてつかわそう」
そういやこいつ、ほんとは四天王の中でも頭いいのだ。私の言葉を瞬時に理解できるのは感心する。
魔導水晶板の操作も慣れてるし、だてに〝ドヤッター〟のフォロワー数が10万魔族なワケではない。
普段からこうなら私もこいつに魔法をぶっ放すことないんだがな……。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。
クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。
そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。
そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも
深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる