23 / 89
23話 魔王の社交辞令
しおりを挟む勇者パーティー【天使の聖剣】結成記念祝賀会にて。
開会式で、私の愛するユーナと魔王軍四天王であり、バカゴリラのエツィーが抱きしめ合うというゴミイベントからどれくらい時間が経ったのか。
私は今、ユーナとその仲間たちのテーブルで食事を取っていた。
ユーナは王や大教皇らに呼ばれたのか、今は席を外しているのだが……まったく、何が悲しくて、この魔王軍の頂点にして魔王のこの私がユーナの取り巻きと食事をしなければならないのか。
それというのも、このアホンダラ四天王のせいである。
エツィーに対して怒りを爆発させた私をなだめるキノコが、
『とりあえず食事にしましょうよ? ね? 美味しいものを食べたら落ちつきますから……ね、ヨーケスおにいさん』
と、やんわりなだめるように言ってきたからだ。
エツィーめ、キノコに感謝するがいい。貴様のクビがまだ繋がっているのは、この男のおかげなのだからな!
そして、私がグイッとワインを口にしたその時だ。
「……ま、魔王様。ど、どうかお気を鎮めてほしいゴリよ……ワガハイも勇者殿にせがまれたら断れなくて」
私にさっき裏で、フルボッコにされたエツィーが包帯ぐるぐる巻きのボロボロになりながら、テーブルにワインとチーズ、ウィンナーの盛り合わせを持って近づいてくる。
しかも腹立つのがだ。
小首を傾げ、自分ちょっとかわいいゴリラじゃありません? みたいなアピールをして言うものだから、再びぬっころしたくなる。
エツィーの気色の悪さに、私の怒りの炎が再び燃え上がる。
私は下品であるのを承知で、テーブルを叩き割る勢いで拳を振り下ろした。
「ぷんすこ! やいエツィー、私は〝イラオコナウ〟だぞ! この私ですら、ユーナと抱き合ったのは幼少期のみだというのに、それをあそこまでステキに成長したユーナと貴様は……! あぁ、思い出すだけでも腹が立つッッ、ぷんすか!」
「ヒイィ! も、申し訳ありませんゴリッ!」
私が睨みつけると、エツィーはプルプルと恐怖に怯え。
私は、エツィーが反逆の台詞を並べたことよりも、こいつがユーナと抱きしめ合ったことの方を怒っていた。
あんな大勢が見ている前で、しかも私の前で抱きしめ合うだなんて……!
ユーナに関しては仕方ない、あの娘は心優しい女の子だし、無自覚だ。
しかしこのエツィーはどうだ? 最恐最悪の魔王軍の、泣く子もチビる四天王だぞ?
そんなこのバカゴリラに下心がないわけないのだ。
どーせ、『あぁ、勇者殿の身体柔らかいふわふわでいい匂い萌え死ぬー!』とか考えたに違いないのだ!
ったく、不浄の者めが汚らわしい!
ぷんすこ!
☆★
時間が経ってくると、私の怒りもやや鎮火してくる。
すると、なんとはなしにユーナの仲間の女性が目に入る。
ふむ、たしかシャンプル・リンスルとかいう名前だったか? 近くで見るとたしかに美人ではある。
聞けば、西方にある王国の出身という。
美しい銀髪と、細身のスタイル。それでいて主張のある胸。
なるほど、男どもが見惚れてしまうわけだ。
ま、私からしたら、彼女はユーナの足元にも及ばないが。
なぜならユーナの可愛さに勝てる女性など、この世界に存在しない。いや、異世界にだっていやしないさ。
そんなことを考えていると。
「……なに見てるんですか? そんなにわたくしが食べてるものが気になりますか?」
と、シャンプルが私をじとーっと見てくる。すると、彼女がフォークに刺したフルーツを私に差し出す。
もぐもぐとフルーツを頬張りながらシャンプルが言った。
「……はい、どうぞ」
こ、これは……しまった、勘違いをさせてしまった。
私が底抜けの食い意地を持つ男だと思われたか?
ふーむ……別にそんなつもりはないのだが、よし。
私も魔王軍の頂点にして魔王。
社交辞令の一つでも言おうじゃないか。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる