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「イルダッ!」
ドアが激しく叩かれます。
「イルダ、大丈夫か?」
「……大丈夫です。ちょっと取り乱したけど。」
外でお父様がうろたえた気配を見せたからでしょう。
イルダさんはそのおかげで冷静になったようです。
「イルダ、すまない。ワシのせいでお前に無理をさせている。」
「ワタシが申し出たことです。お父様はお気になさらないで下さい。」
「すまん、ワシが相場で失敗しなければ……。お前にドレスを買ってやることもできたし、国王に差し出すような真似もせずに済んだ。」
「いいのです。国王の愛妾、将来の国王の母、というのは、貴族の娘なら誰もが夢見ることの一つです。女が出世する一つの道筋ですもの。ワタシもその戦いに参加しただけです。」
「すまん、宝石の類はおろか、ドレスすら古い品しか用意してやれなくて。」
大体の話は見えてきました。
イルダさんの家ヒメネス伯爵家は、相場に手を出して大損を出した。
借金を負うことになって、その支払いのために換金できる物は換金してしまったため、イルダさんはこの婚約披露の場に体に合わない古いドレスを無理に着用して出席することになった。
だが、ウルファの推測通りの理由で、ドレスは破れてしまった。
ただ、わからないのは。
「あの、すいませんが、国王の愛妾、将来の国王の母というのはどういうことなのでしょうか?」
これがわかりません。
国王が愛妾を囲うのはよくある話ですが、将来の国王の母というのは。
今の国王の息子は、クルス王子一人。他は姉が2人いるだけで、それぞれ他国に嫁いでいます。
「そう、あなたが知るはずがないわね。」
胸元を手で隠しバルリオス将軍の上着を羽織った姿で、イルダさんは椅子に座りました。
「いいわ、教えてあげる。今の国王は、クルス王子の廃立を考えているわ。」
「廃立って王太子の地位から降ろすということですよね。でも今の国王陛下には王子がクルス王子一人だけ。」
この国が女王を認めていないことは、私でも知っています。
「そう、今のままでは廃立できない。変わりがいないから。そこで、陛下は愛妾に王子を産ませることにしたの。」
「愛妾って今はいないんですか?」
「いないの。今のお后の意向でね。何度か愛妾を、という意見もあったけどお后が潰してきたの。お后の実家は、名門公爵家だから、そんなことができたのよ。」
ドロドロの宮廷闘争ですか。
平民には縁のない話です。
「最終的にはクルス王子が産まれて、愛妾問題は消えたはずだけど、肝心のクルス王子が、ね。」
わかりました。
あまりのバカさ加減に国王がキレたんですね。跡を任せられないと。
「お后も妊娠出産できるお年ではない、ということで愛妾に産ませることになったの。お后も反対したみたいだけど、クルス王子に跡を任せられないという意見を潰すことはできなかった。」
そうでしょうね。
王妃様の実家も抵抗したでしょうけど、クルス王子に国を任せられないという意見に勝てなかったんでしょう。
今から産まれる王子がどんな人物になるかは不明ですが、クルス王子よりマシに育てるくらい難しくないと思います。
「ただ、わからないのは、クルス王子もこのことを知らないということよね。知っていれば、国王のところに令嬢たちが列をなす理由はわかるはずだし。」
「お嬢様、あのバカ王子、今日までどこぞに閉じ込められていたと聞いたが。」
「あっ、そうだった。イシドラの言うとおりだったわ。」
「このことを告げて怒りをかうのを恐れて、誰も教えなかったのだろうな。」
「その通りでしょうね。」
頭が痛くなりました。
こめかみを抑える私に、イルダ様は説明を続けます。
「ただ、お后も条件を出されたの。最低でも騎士階級の娘であること。平民は論外という条件で愛妾を作ることを認めたわ。」
平民は論外。
こりゃ、私は相当王妃様に嫌われてるわね。平民だもの。
覚悟はしてましたが、現実に突き付けられると、うんざりした気分になります。
「まぁ、あなたは二重の意味で対象外ね。平民だし息子の婚約者ですもの。さすがに息子の婚約者を取り上げるような真似はしないでしょう。」
あぁ、そうですね。
クルス王子も国王も、どっちもお断りしたいですが。
「今日は助けてくださってありがとう。後日、お礼はさせて頂くわ。」
「いえ、今のお話で十分お礼になってます。お気になさらず。あんな場に居合わせれば助けるのは当然です。」
「クルス王子とにらみ合ってたみたいだけど、よろしいかったの。」
「いいんです、あのドスケベ。イルダさんの胸に見入って。」
全く、バカでドスケベって、いいところないじゃないですか、あのバカ王子。
「ところでお嬢様、これからどうする?」
イシドラが質問してきます。
そうでした。これからイルダさんをどうするか、考えませんと。
破れたドレスで会場に戻れませんので、帰るしかないでしょうけど、それまでどうするか。
バルリオス将軍の上着だけで外の馬車まで行かせるなんてできません。
「お嬢様、あたしの服ならイルダ様に合うと思います。」
確かにウルファの胸はイルダさんに見劣りしません。
「そうね。」
イルダさんは、急病で今日は失礼することにします。
まぁ、近くにいた人には事情はバレているでしょうが。
イルダさんは、ウルファの服を借りて出ていくことになりました。
ウルファの服は、今から使いを出して屋敷から替えを持ってきてもらうことにします。
「その使いの役は私がしよう。」
ヒメネス伯爵が申し出ました。
「ここまで娘を助けて頂いて何もしない訳にはいかないからねぇ。」
大人しそうな顔に笑みを浮かべ、娘の手を引きながら去っていきました。
「ウルファ、ごめんね。」
「構いませんよぉ、私以外の服はあの令嬢には入らないでしょうしぃ。」
イシドラがジト目でにらんでますよ、ウルファ。
「それだけじゃないわ、ウルファ。働いてもらうわよ。」
「何を……。」
下着姿のウルファが、胸をかき抱きます。
谷間が、一層深くなって……。
ええい、見せつけるんじゃありません!
じゃなくて……。
「ウルファ、今すぐじゃなくていいわ。貴女がひいきにしているお店、貴族方に売り込むから協力して。今後あのお店の技術が必要になるの!」
「あの店の技術……。私のような体形を魅せるデザインと、それを具体化する縫製ですかぁ?」
「そう、それ!あと、お店のドレスに合わせたアクセサリーをデザインして加工できるお店なり職人も一緒にお願いできる?」
「できますけどぉ、お嬢様、何をお考えですかぁ?」
「ふふふ、商売のことよ。」
ドアが激しく叩かれます。
「イルダ、大丈夫か?」
「……大丈夫です。ちょっと取り乱したけど。」
外でお父様がうろたえた気配を見せたからでしょう。
イルダさんはそのおかげで冷静になったようです。
「イルダ、すまない。ワシのせいでお前に無理をさせている。」
「ワタシが申し出たことです。お父様はお気になさらないで下さい。」
「すまん、ワシが相場で失敗しなければ……。お前にドレスを買ってやることもできたし、国王に差し出すような真似もせずに済んだ。」
「いいのです。国王の愛妾、将来の国王の母、というのは、貴族の娘なら誰もが夢見ることの一つです。女が出世する一つの道筋ですもの。ワタシもその戦いに参加しただけです。」
「すまん、宝石の類はおろか、ドレスすら古い品しか用意してやれなくて。」
大体の話は見えてきました。
イルダさんの家ヒメネス伯爵家は、相場に手を出して大損を出した。
借金を負うことになって、その支払いのために換金できる物は換金してしまったため、イルダさんはこの婚約披露の場に体に合わない古いドレスを無理に着用して出席することになった。
だが、ウルファの推測通りの理由で、ドレスは破れてしまった。
ただ、わからないのは。
「あの、すいませんが、国王の愛妾、将来の国王の母というのはどういうことなのでしょうか?」
これがわかりません。
国王が愛妾を囲うのはよくある話ですが、将来の国王の母というのは。
今の国王の息子は、クルス王子一人。他は姉が2人いるだけで、それぞれ他国に嫁いでいます。
「そう、あなたが知るはずがないわね。」
胸元を手で隠しバルリオス将軍の上着を羽織った姿で、イルダさんは椅子に座りました。
「いいわ、教えてあげる。今の国王は、クルス王子の廃立を考えているわ。」
「廃立って王太子の地位から降ろすということですよね。でも今の国王陛下には王子がクルス王子一人だけ。」
この国が女王を認めていないことは、私でも知っています。
「そう、今のままでは廃立できない。変わりがいないから。そこで、陛下は愛妾に王子を産ませることにしたの。」
「愛妾って今はいないんですか?」
「いないの。今のお后の意向でね。何度か愛妾を、という意見もあったけどお后が潰してきたの。お后の実家は、名門公爵家だから、そんなことができたのよ。」
ドロドロの宮廷闘争ですか。
平民には縁のない話です。
「最終的にはクルス王子が産まれて、愛妾問題は消えたはずだけど、肝心のクルス王子が、ね。」
わかりました。
あまりのバカさ加減に国王がキレたんですね。跡を任せられないと。
「お后も妊娠出産できるお年ではない、ということで愛妾に産ませることになったの。お后も反対したみたいだけど、クルス王子に跡を任せられないという意見を潰すことはできなかった。」
そうでしょうね。
王妃様の実家も抵抗したでしょうけど、クルス王子に国を任せられないという意見に勝てなかったんでしょう。
今から産まれる王子がどんな人物になるかは不明ですが、クルス王子よりマシに育てるくらい難しくないと思います。
「ただ、わからないのは、クルス王子もこのことを知らないということよね。知っていれば、国王のところに令嬢たちが列をなす理由はわかるはずだし。」
「お嬢様、あのバカ王子、今日までどこぞに閉じ込められていたと聞いたが。」
「あっ、そうだった。イシドラの言うとおりだったわ。」
「このことを告げて怒りをかうのを恐れて、誰も教えなかったのだろうな。」
「その通りでしょうね。」
頭が痛くなりました。
こめかみを抑える私に、イルダ様は説明を続けます。
「ただ、お后も条件を出されたの。最低でも騎士階級の娘であること。平民は論外という条件で愛妾を作ることを認めたわ。」
平民は論外。
こりゃ、私は相当王妃様に嫌われてるわね。平民だもの。
覚悟はしてましたが、現実に突き付けられると、うんざりした気分になります。
「まぁ、あなたは二重の意味で対象外ね。平民だし息子の婚約者ですもの。さすがに息子の婚約者を取り上げるような真似はしないでしょう。」
あぁ、そうですね。
クルス王子も国王も、どっちもお断りしたいですが。
「今日は助けてくださってありがとう。後日、お礼はさせて頂くわ。」
「いえ、今のお話で十分お礼になってます。お気になさらず。あんな場に居合わせれば助けるのは当然です。」
「クルス王子とにらみ合ってたみたいだけど、よろしいかったの。」
「いいんです、あのドスケベ。イルダさんの胸に見入って。」
全く、バカでドスケベって、いいところないじゃないですか、あのバカ王子。
「ところでお嬢様、これからどうする?」
イシドラが質問してきます。
そうでした。これからイルダさんをどうするか、考えませんと。
破れたドレスで会場に戻れませんので、帰るしかないでしょうけど、それまでどうするか。
バルリオス将軍の上着だけで外の馬車まで行かせるなんてできません。
「お嬢様、あたしの服ならイルダ様に合うと思います。」
確かにウルファの胸はイルダさんに見劣りしません。
「そうね。」
イルダさんは、急病で今日は失礼することにします。
まぁ、近くにいた人には事情はバレているでしょうが。
イルダさんは、ウルファの服を借りて出ていくことになりました。
ウルファの服は、今から使いを出して屋敷から替えを持ってきてもらうことにします。
「その使いの役は私がしよう。」
ヒメネス伯爵が申し出ました。
「ここまで娘を助けて頂いて何もしない訳にはいかないからねぇ。」
大人しそうな顔に笑みを浮かべ、娘の手を引きながら去っていきました。
「ウルファ、ごめんね。」
「構いませんよぉ、私以外の服はあの令嬢には入らないでしょうしぃ。」
イシドラがジト目でにらんでますよ、ウルファ。
「それだけじゃないわ、ウルファ。働いてもらうわよ。」
「何を……。」
下着姿のウルファが、胸をかき抱きます。
谷間が、一層深くなって……。
ええい、見せつけるんじゃありません!
じゃなくて……。
「ウルファ、今すぐじゃなくていいわ。貴女がひいきにしているお店、貴族方に売り込むから協力して。今後あのお店の技術が必要になるの!」
「あの店の技術……。私のような体形を魅せるデザインと、それを具体化する縫製ですかぁ?」
「そう、それ!あと、お店のドレスに合わせたアクセサリーをデザインして加工できるお店なり職人も一緒にお願いできる?」
「できますけどぉ、お嬢様、何をお考えですかぁ?」
「ふふふ、商売のことよ。」
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