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ホテルにて

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「どうしてわかるんですか!?」
 返信が返って来た。
「おねーたまは全てお見通しだよwあま~い一夜を過ごしといでw」
 あまい一夜って、そ、その、あーいうことだよね。
 黒江は、そのお相手になりそうな男を見た。
 ひたすら目を閉じているだけだ。当分、事務所の中を見て回るつもりらしい。
 そんな白野を見ていると冷静になれた。
「白野さんは、しばらく組事務所を探索するそうです。泊まることなく戻りますので、吉報をお待ち下さい。」
 これ以上からかわれてたまるか。そう思いながらlineを送った。

「先生、坊やは、もうしばらく監視してから戻るそうです。」
 蔵良は、黒江からの送信を誤魔化して報告した。事務所を探索するなど言えば江戸川が色々突っ込んできそうだからだ。
「そうかい。なんかこれ以上情報は入りそうにねえな。」
 江戸川は立ち上がった。
「お帰りですか。大したお構いもできませんで。」
「いや、十分だぜ。甲斐が半グレのガキどもにチャカを流してることを確認できたし、これから他にも情報を得られそうだってわかっただけで十分だ。なんかあったらまた報告してくれ。」

 白野は目を閉じているだけだ。白野の脳内では、色々見えているのかもしれないが、黒江にとって視界の光景は変化がない。
「今、どこ見てるの?」
「甲斐がパソコン操作している部屋の隣。寝室みたい。でかいベッドとクローゼットや棚がある。」
「クローゼットの中とかは?」
「見てもいいけど、暗いから中はわからないと思う。今は、組事務所の間取りとかを調べているだけ。なんなら黒江さんは帰ってもいいよ。退屈でしょ。」
「いや、一人でこの辺歩きたくないから残る。」
 いかがわしい看板のある街角を一人で歩くのも嫌だった。変な男に声をかけられるかもしれないではないか。
「そう、早めに切り上げるようにするよ。今から3階に下りる。」
「いや、大丈夫よ。この部屋見てるから、白野さんもゆっくり調べてて。」
 黒江は体に巻き付けていた掛布団を外し立ち上がった。
 部屋の内装は、白と黒のツートンにまとめられ、思っていたようなけばけばしいイメージは無い。
「結構、普通のお部屋よね。」
 看板のいかがわしさとは異なり、意外とシックな感じだ。この手のホテルで女子会をやるという話を聞いたことがあるが、なるほどうなづける。
 黒江は、壁に固定されている大画面のテレビのリモコンを見つけスイッチを入れた。
 化粧のきつい女性の顔がアップで映し出された。
「あっ、あん!ああん!」
「や、やだ。」
 慌ててテレビを消そうとしてリモコンを落としてしまった。
「ああん!あふん!ああああ。」
 カメラが下がって行くのを見ないようにしながらリモコンを拾い、テレビを消した。
「ご、ごめんね。」
「…いいよ、気にしてないから。」
 白野が身じろぎするが、黒江は気が付かなかった。 
 DVDプレイヤー起動しちゃったのかな?リモコンを見たがそれらしい表示は無い。テレビのみの印象を受けるが、家電に弱い黒江にはよくわからない。テレビ周りを見てもプレイヤーも見当たらない。
 まさか、この手のビデオしか流れないの?
 テレビをつけるのをあきらめ、部屋を見回す。
 窓はベッド横の一つだけでカーテンがかかっている。さすがにカーテンは開けたくない。
 壁際のドアを開けた。中はただのトイレだった。
 トイレの横はお風呂だった。かなり広い。床に埋め込まれている浴槽も家庭用やビジネスホテルと異なり二人で入っても余裕ありそうだ。
 そんなことが、バスルームに一歩も踏み込まずわかるのは。
「なんでバスルームがガラス張りなのよ。」
 曇りは黒江の口くらいの高さまでしか入っていない。一応隠せるが、シルエットは丸見えではないか。
「まさか、逆にシャワーシーンとか見せつけるのかな。」
 黒江は、バスルームに足を踏み入れた。壁にテレビが埋め込まれているのに気が付いた。
「これもまさか、あぁいうビデオしか流れないとかないでしょうね。」
 スイッチはわかったが、つける気にはなれなかった。
 靴下を履いたまま入ったせいで滑りやすい。気を付けながら浴槽に近寄った。
「ジャグジーがあるんだ。気持ちよさそう。」
 浴槽に入ってみた。無論水は張っていない。家庭用の浴槽と異なり、足を伸ばせる。
 次にアメニティもチェック。ボディソープもシャンプーもリンスも全てそろっていた。入浴剤やバスソルトもある。
「ビジネスホテルなんかよりいいかも。」
 受験で泊まった無味乾燥なビジネスホテルのアメニティを思い出した。雲泥の差がある。
 黒江は、立ち上がりシャワーノズルを見上げた。
 シャワーを浴びる位置に立ってみる。目を閉じてシャワーを浴びるふりをする。
「ここでシャワーを浴びて。」
 身ぎれいにして、さて誰のために?
 白野の顔が浮かぶ。ふふ、あの人なら外から見るかな。シャワーを浴びる自分を見ていて目を合わせたらどんな顔するだろ。笑ってウィンクの一つでもしたげるかな。
 そう思いながらベッドルームの方を見ると白野が立っていた。ばっちり目が合う。
「えっ!」
 慌ててしまい、見事にずっこける。
「黒江さん、大丈夫?」
「大丈夫、入ってこないで!」
 黒江は、痛みをこらえスカートを直した。見られるのはごめんだ。
「白野さん、もう終わったの?」
「間取りはシンプルだったよ。3階は2段ベッドの部屋がいくつかあるだけ。2階は1フロア丸ごとオフィスみたいな感じ。1階は、応接室が2つに台所に倉庫だった。駆け足で見ただけだけど。」
「じっくり見なくて大丈夫?」
「人目があるからね、引き出しとかガタガタさせられないし、今はこの程度かな。夜に出直すよ。」
「そう、なら事務所に戻りましょう。」
 黒江はバスルームから出た。白野の人のよさそうな顔が、心配げに見ている。
「大丈夫、怪我無い?」
「大丈夫、まだ探索していると思ったからびっくりしただけ。」
「脅かしてごめん。声かけようとしたら、なんか楽しげだったから。」
「結構バスルーム面白かったのよ、ジャグジーとかアメニティの充実ぶりとか。」
 適当にごまかす。
「夜に出直すって言ったけど、いつやるの?」
「今日、さっそく。」
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