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「やっぱり、そうなのですね。」
「お嬢ちゃんの言う通りじゃよ。確かにワシはヤクザの親分。ラバル一家のドンだ。」
「ラバル一家……。」
「由緒正しき一家じゃよ。ワシで五代目となる。ジャネスごとき成り上がりとは違う。」
代々続く一家って、貴族じゃあるまいし。
「でもその成り上がりに近年押されている。」
あえて挑発的なことを言ってみます。
どう出てくるか。
「残念じゃな。押されてなどおらん。」
「そうですかぁ。なら相手を成り上り者なんてけなさなくてもよろしいのでは?相手をけなしても得られる実益はありませんよ。」
「……言ってくれるお嬢ちゃんだ。」
「すいませんな。口の回る娘でしてね。」
「そのようですな。貴方がワシに説得役を頼んでくるわけだ。」
苦笑いして、ウーゴさんはワインを口にしました。
「それにしてもお父様が、ヤクザと付き合いがあるだなんて。」
「ロザリンド、それは違う。僕は、ウーゴさんを利用するようなあくどい商売はしていない。」
「そうじゃ、お嬢ちゃんの父上は、まっとうな商人だ。ワシとは口入れ屋とその顧客としての付き合いしかしておらん。お嬢ちゃんは、まっとうに商売するお父上が好きだろう?」
「えぇ、尊敬しています。」
その言葉に嘘偽りはありません。
心の底からの本音です。
「それでいい。お嬢ちゃんのお父上は、立派な商人だ。ワシのようなヤクザ者とは違うのじゃからな。」
「でも、今頼っています。」
「確かにワシは、ヤクザじゃ。じゃがね、ジャネスごときと一緒にされたくはない。ワシとて賭場を抱えておるが、闇雲に金を賭けさせたりはしない。若い者が来たら、説教の一つもして追い返すこともある。身を持ち崩させて、しゃぶるジャネスとは違う。」
「どうしてでしょう?」
聞き返せ、とウーゴさんの顔が言っているので聞き返してあげました。
「若い者の身を持ち崩させるのは、本意じゃない。自慢ではないが、このようなところで遊ぶな!と一喝し、身を持ち崩す前に己が本業に専心させたことがいくつもある。例えば、」
「まさか、お父様も?」
ウーゴさんはお父様より明らかに年長です。
そういったこともあるのかもしれません。
「いや、お父上は違う。どこの賭場にも顔を出したことはない。実は一度誘ったことはあるのだがね。」
へえ、そうなんだ。
「多くの人々の心がいかに動くか、それを読み、場合によっては誘導するなどの駆け引きができるのが商売だ。商売で儲けを出す瞬間に勝る感動などありはしない。金をいかに賭けようと、カードの駆け引きはそれに劣る。ましてやサイコロなど浅薄な児戯にすぎない、とばっさり切り捨てられたよ。」
「さすがは、お父様です。」
「はは、ほめてくれるなロザリンド。」
「そんなことはありません。それでこそ、お父様です。商売に全てをかけて精を出されているお父様が、私は好きですよ。」
えぇ、同じ商人として、尊敬します。
「仲がよろしいですな。」
「ははは、年頃の娘に好かれるのは、父親冥利に尽きますが、その理由が商売に一生懸命だというのはどうなのか。少しは年頃の娘らしく、服やアクセサリーに関心を持ってはと思うのです。」
「何を言うのですか、私だってちゃんと服やアクセサリーなどに関心を持ってます。」
「商材としての、服やアクセサリーにだろう。自分の身を飾ることに関心を持ったらどうだ。化粧品も自分で使わないことをバカにされているじゃないか。」
「あんなバカ王子に何を言われようが気にしません。商人は商売品に手を付けないもの。お父様もそう言って、ヤストルフ帝国からの貴腐ワインを飲まないじゃないですか。」
「それを言われるとね。」
お父様は、苦笑しながら、マリネを口にします。
「ま、そうやって多くの商人や貴族の子供にガツンと説教し、正道に立ち返らせた実績を買われて、ここにおる。どうかね、お嬢ちゃん。ワシやお父上の言うことを聞かんか。ジャネスに金が流れるのを嫌がる気持ちはよぉわかる。そのためにも、ここは……。」
「お断りします。」
くどいんですよ。
目論見も見えてますし。
「正道に立ち返らせたって、私はまっとうに仕事をしています。別に遊んではいません。」
「確かにそうじゃな。嬢ちゃんは真っ当に働いておる。じゃが、その働きで得た稼ぎがジャネスに流れるなら、博打で遊ぶ馬鹿ガキと変わらん。ジャネスに金が流れるという、その一点においてじゃが。」
「えぇ、おっしゃる通りですね。」
確かにウーゴさんの言う通り、お金がジャネスに流れています。
そうして得たお金を、ジャネスは何に使うのでしょう?
ジャネスもヤクザなら……。
だから、ウーゴさん、お父様の依頼でここに来たんだ。
「嬢ちゃん、それが楽しいのかね。」
「楽しくありませんが。」
「ならば、何故笑う?」
あら、笑ってました?
ポーカーフェイス保っているつもりだったんですけど。
失敗、失敗。
「ロザリンド、どうしたのだね。そんな顔をして。」
「そんな顔って、お父様。」
「何か、猫めいた、人をからかっているような笑みだぞ。」
「お父上の言う通りじゃな。年長者の前でするような笑みではない。」
ウーゴさん、余裕がないみたい。
「いえ、そんなにジャネスを警戒するなんて、由緒正しい一家のドンらしくないなぁ、って思いまして。」
つい、そんな言葉を漏らしてしまうのでした。
「お嬢ちゃんの言う通りじゃよ。確かにワシはヤクザの親分。ラバル一家のドンだ。」
「ラバル一家……。」
「由緒正しき一家じゃよ。ワシで五代目となる。ジャネスごとき成り上がりとは違う。」
代々続く一家って、貴族じゃあるまいし。
「でもその成り上がりに近年押されている。」
あえて挑発的なことを言ってみます。
どう出てくるか。
「残念じゃな。押されてなどおらん。」
「そうですかぁ。なら相手を成り上り者なんてけなさなくてもよろしいのでは?相手をけなしても得られる実益はありませんよ。」
「……言ってくれるお嬢ちゃんだ。」
「すいませんな。口の回る娘でしてね。」
「そのようですな。貴方がワシに説得役を頼んでくるわけだ。」
苦笑いして、ウーゴさんはワインを口にしました。
「それにしてもお父様が、ヤクザと付き合いがあるだなんて。」
「ロザリンド、それは違う。僕は、ウーゴさんを利用するようなあくどい商売はしていない。」
「そうじゃ、お嬢ちゃんの父上は、まっとうな商人だ。ワシとは口入れ屋とその顧客としての付き合いしかしておらん。お嬢ちゃんは、まっとうに商売するお父上が好きだろう?」
「えぇ、尊敬しています。」
その言葉に嘘偽りはありません。
心の底からの本音です。
「それでいい。お嬢ちゃんのお父上は、立派な商人だ。ワシのようなヤクザ者とは違うのじゃからな。」
「でも、今頼っています。」
「確かにワシは、ヤクザじゃ。じゃがね、ジャネスごときと一緒にされたくはない。ワシとて賭場を抱えておるが、闇雲に金を賭けさせたりはしない。若い者が来たら、説教の一つもして追い返すこともある。身を持ち崩させて、しゃぶるジャネスとは違う。」
「どうしてでしょう?」
聞き返せ、とウーゴさんの顔が言っているので聞き返してあげました。
「若い者の身を持ち崩させるのは、本意じゃない。自慢ではないが、このようなところで遊ぶな!と一喝し、身を持ち崩す前に己が本業に専心させたことがいくつもある。例えば、」
「まさか、お父様も?」
ウーゴさんはお父様より明らかに年長です。
そういったこともあるのかもしれません。
「いや、お父上は違う。どこの賭場にも顔を出したことはない。実は一度誘ったことはあるのだがね。」
へえ、そうなんだ。
「多くの人々の心がいかに動くか、それを読み、場合によっては誘導するなどの駆け引きができるのが商売だ。商売で儲けを出す瞬間に勝る感動などありはしない。金をいかに賭けようと、カードの駆け引きはそれに劣る。ましてやサイコロなど浅薄な児戯にすぎない、とばっさり切り捨てられたよ。」
「さすがは、お父様です。」
「はは、ほめてくれるなロザリンド。」
「そんなことはありません。それでこそ、お父様です。商売に全てをかけて精を出されているお父様が、私は好きですよ。」
えぇ、同じ商人として、尊敬します。
「仲がよろしいですな。」
「ははは、年頃の娘に好かれるのは、父親冥利に尽きますが、その理由が商売に一生懸命だというのはどうなのか。少しは年頃の娘らしく、服やアクセサリーに関心を持ってはと思うのです。」
「何を言うのですか、私だってちゃんと服やアクセサリーなどに関心を持ってます。」
「商材としての、服やアクセサリーにだろう。自分の身を飾ることに関心を持ったらどうだ。化粧品も自分で使わないことをバカにされているじゃないか。」
「あんなバカ王子に何を言われようが気にしません。商人は商売品に手を付けないもの。お父様もそう言って、ヤストルフ帝国からの貴腐ワインを飲まないじゃないですか。」
「それを言われるとね。」
お父様は、苦笑しながら、マリネを口にします。
「ま、そうやって多くの商人や貴族の子供にガツンと説教し、正道に立ち返らせた実績を買われて、ここにおる。どうかね、お嬢ちゃん。ワシやお父上の言うことを聞かんか。ジャネスに金が流れるのを嫌がる気持ちはよぉわかる。そのためにも、ここは……。」
「お断りします。」
くどいんですよ。
目論見も見えてますし。
「正道に立ち返らせたって、私はまっとうに仕事をしています。別に遊んではいません。」
「確かにそうじゃな。嬢ちゃんは真っ当に働いておる。じゃが、その働きで得た稼ぎがジャネスに流れるなら、博打で遊ぶ馬鹿ガキと変わらん。ジャネスに金が流れるという、その一点においてじゃが。」
「えぇ、おっしゃる通りですね。」
確かにウーゴさんの言う通り、お金がジャネスに流れています。
そうして得たお金を、ジャネスは何に使うのでしょう?
ジャネスもヤクザなら……。
だから、ウーゴさん、お父様の依頼でここに来たんだ。
「嬢ちゃん、それが楽しいのかね。」
「楽しくありませんが。」
「ならば、何故笑う?」
あら、笑ってました?
ポーカーフェイス保っているつもりだったんですけど。
失敗、失敗。
「ロザリンド、どうしたのだね。そんな顔をして。」
「そんな顔って、お父様。」
「何か、猫めいた、人をからかっているような笑みだぞ。」
「お父上の言う通りじゃな。年長者の前でするような笑みではない。」
ウーゴさん、余裕がないみたい。
「いえ、そんなにジャネスを警戒するなんて、由緒正しい一家のドンらしくないなぁ、って思いまして。」
つい、そんな言葉を漏らしてしまうのでした。
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