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宴
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ナレーション 「ゼーアドラー」はさらに南下し、ブラジルと西アフリカの中間海域に進出する。
その海域に吹く貿易風を帆にはらませ、「ゼーアドラー」は、さらに四隻の船を拿捕、撃沈する。
フランスの帆船「シャルル・グノー」
カナダの帆船「パーシー」
フランスの帆船「アントナン」
イタリアの帆船「ブエノス・アイレス」
ルックナーを喜ばせたのは、その内の二隻「アントナン」「ブエノス・アイレス」が運んでいたのが火薬の原料である硝石だったことだ。
ルックナー これで、忠勇なるドイツ軍人がどこかの戦線で死傷することが無くなった。
ナレーション ルックナーは勝利を祝い、かつ捕虜の無聊を慰めるため、宴会を催すこととする。
ルックナー ご婦人、これは、私からの愛の証、お受け取り下さいませ。
ルックナー 右膝をついて、女性の指に指輪をはめる。
「パーシー」船長夫人 あらやだ、海賊さん、いけませんわ。私には夫がおりますの。
「パーシー」船長 おうおう、俺様の妻に手をだそうたぁ、海賊、覚悟はできてんな
ルックナー なんと人妻だったのか。オレは、修道女と人妻に手は出さない主義なのに、あぁ。
ルックナー 立ち上がって右手で顔を覆う。
「パーシー」船長 覚悟しやがれ!
船長が殴りかかってくるが、ルックナー、ひらりひらりと巧みにかわして見せる。
「ランディー・アイランド」船長 あの艦長、ボクシングの心得があるな。大した回避テクニックだ。
「アントナン」船長 どーせ、どう動くかお互いに打ち合わせているに決まっている。余興なんだからな。
「ランディー・アイランド」船長 それでもあの動きは、学んでないとできない。
「シャルル・グノー」船長 ふん、私の船を破壊した時のように騙し討ちしかすまいよ。
「グラディス・ロイヤル」船長 あんたが悪い。のこのこ「戦争に関するニュースは無きや?」、と信号出して接近するから。
「シャルル・グノー」船長 そうは言うがな、ルックナー艦長に「最新のニュースです。帆船『シャルル・グノー』がドイツ帆走巡洋艦『ゼーアドラー』に拿捕されました」とすまし顔で言われた気持ちがわかるか!
「ブエノス・アイレス」船長 落ち着けい。せっかくのワインがこぼれるぞ。
「シャルル・グノー」船長 このワインも私の船から奪ったものだ!
そう言って「アントナン」の船長とグラスを打ち合わせる。
「アントナン」船長 うまいな。あんた、ワインの趣味がいいな
「シャルル・グノー」船長 ありがとう、あんたの写真もなかなかのもんだ。持ち出したアルバム、キャビンで楽しませてもらっているが、「パーシー」の細君も褒めてたぞ。
「アントナン」船長 そうか。
クリンチ えぇ、私もそう思います。
「アントナン」船長 なんだ、急に割り込むな。
クリンチ 失礼、押収したフィルムの現像が終わりました。焼き増し分お渡しします。
「アントナン」船長 私のコダックとフィルムも返せ。
クリンチ 申し訳ありませんが、釈放の時までお返しできません。本艦内部の記録を残させるわけにはいきませんのでね。焼き増し分をお渡しするのは、艦長からの好意だとご理解下さい。
クリンチ 写真を渡す。
「シャルル・グノー」船長 おぉ、なかなか迫力のある写真じゃないか。
「ブエノス・アイレス」船長 うむ、帆が風をはらんで高速で迫る様がよくわかる、いい写真じゃ。
観客席 あれか!余も絵画にされたものを見たことがあるわい。確かに、風を受けて急速に迫る様が、まさしく海鷲と感嘆したものよ!
舞台上のルックナー 観客席に向かい一礼する。
「パーシー」船長 どこ見てやがる。
ルックナー さて、終わりにしよう。
ルックナー 「パーシー」船長をすり抜け、再び女性の前に膝をつく
ルックナー 修道女は神に、人妻は夫にその身を捧げておられる。それを邪魔するわけにはいかない。
「パーシー」船長夫人 海賊さん、紳士なのね。
ルックナー えぇ、見目麗しい女性限定で。
ルックナー 女性の手を取る
ルックナー 奥様、貴女を惑わす指輪は消し去りましょう。3、2、1、ほら、この通り。
ルックナーの指に指輪が光る。
見ていた捕虜からおぉ、とどよめきが上がる。
「パーシー」船長夫人 あらあら、結構よさげな指輪だったのに。残念だわ。
ルックナー 3マルク程度の安物です。貴女にはふさわしくありません。
「パーシー」船長 全くだ。陸に戻ったら指輪も買おう。もっといい品をな。
「パーシー」船長夫人 でも艦長、手品は見事だったわ。
ルックナー ドイツ皇帝陛下もご照覧された手品です。
観客席 そうであった。東洋の秘儀をお見せするなどと言ってな。思い出すわ。
ルックナー 再度客席に一礼する。
「パーシー」船長夫人 さすがは伯爵様ね。お見事でした。
ルックナー 喜んでいただけて幸いです。
「パーシー」船長夫人 ねぇ、伯爵様、指輪の代わりに一つお願いを聞いて下さらないかしら?
ルックナー 何事でしょう?
「パーシー」船長夫人 大事に扱って頂いるのはわかるのですけど、やはり女性の話し相手が欲しいわ。
ルックナー ……善処しますとしか申し上げられません。こればかりは。
「パーシー」船長 拿捕した船に女性がいるかはさすがに運だからな。我々のように新婚旅行をする船長が何人いるか。
「パーシー」船長夫人 ご無理言ったみたいね、ごめんなさい。
ルックナー 貴女は、捕虜になっても「新婚旅行のいい刺激だわ」と言って下さった。オレ達にしても、トラブルを起こさないので助かっています。なんとかしてみます。
「パーシー」船長夫人 ご無理なさらないで下さいね、伯爵様。
その海域に吹く貿易風を帆にはらませ、「ゼーアドラー」は、さらに四隻の船を拿捕、撃沈する。
フランスの帆船「シャルル・グノー」
カナダの帆船「パーシー」
フランスの帆船「アントナン」
イタリアの帆船「ブエノス・アイレス」
ルックナーを喜ばせたのは、その内の二隻「アントナン」「ブエノス・アイレス」が運んでいたのが火薬の原料である硝石だったことだ。
ルックナー これで、忠勇なるドイツ軍人がどこかの戦線で死傷することが無くなった。
ナレーション ルックナーは勝利を祝い、かつ捕虜の無聊を慰めるため、宴会を催すこととする。
ルックナー ご婦人、これは、私からの愛の証、お受け取り下さいませ。
ルックナー 右膝をついて、女性の指に指輪をはめる。
「パーシー」船長夫人 あらやだ、海賊さん、いけませんわ。私には夫がおりますの。
「パーシー」船長 おうおう、俺様の妻に手をだそうたぁ、海賊、覚悟はできてんな
ルックナー なんと人妻だったのか。オレは、修道女と人妻に手は出さない主義なのに、あぁ。
ルックナー 立ち上がって右手で顔を覆う。
「パーシー」船長 覚悟しやがれ!
船長が殴りかかってくるが、ルックナー、ひらりひらりと巧みにかわして見せる。
「ランディー・アイランド」船長 あの艦長、ボクシングの心得があるな。大した回避テクニックだ。
「アントナン」船長 どーせ、どう動くかお互いに打ち合わせているに決まっている。余興なんだからな。
「ランディー・アイランド」船長 それでもあの動きは、学んでないとできない。
「シャルル・グノー」船長 ふん、私の船を破壊した時のように騙し討ちしかすまいよ。
「グラディス・ロイヤル」船長 あんたが悪い。のこのこ「戦争に関するニュースは無きや?」、と信号出して接近するから。
「シャルル・グノー」船長 そうは言うがな、ルックナー艦長に「最新のニュースです。帆船『シャルル・グノー』がドイツ帆走巡洋艦『ゼーアドラー』に拿捕されました」とすまし顔で言われた気持ちがわかるか!
「ブエノス・アイレス」船長 落ち着けい。せっかくのワインがこぼれるぞ。
「シャルル・グノー」船長 このワインも私の船から奪ったものだ!
そう言って「アントナン」の船長とグラスを打ち合わせる。
「アントナン」船長 うまいな。あんた、ワインの趣味がいいな
「シャルル・グノー」船長 ありがとう、あんたの写真もなかなかのもんだ。持ち出したアルバム、キャビンで楽しませてもらっているが、「パーシー」の細君も褒めてたぞ。
「アントナン」船長 そうか。
クリンチ えぇ、私もそう思います。
「アントナン」船長 なんだ、急に割り込むな。
クリンチ 失礼、押収したフィルムの現像が終わりました。焼き増し分お渡しします。
「アントナン」船長 私のコダックとフィルムも返せ。
クリンチ 申し訳ありませんが、釈放の時までお返しできません。本艦内部の記録を残させるわけにはいきませんのでね。焼き増し分をお渡しするのは、艦長からの好意だとご理解下さい。
クリンチ 写真を渡す。
「シャルル・グノー」船長 おぉ、なかなか迫力のある写真じゃないか。
「ブエノス・アイレス」船長 うむ、帆が風をはらんで高速で迫る様がよくわかる、いい写真じゃ。
観客席 あれか!余も絵画にされたものを見たことがあるわい。確かに、風を受けて急速に迫る様が、まさしく海鷲と感嘆したものよ!
舞台上のルックナー 観客席に向かい一礼する。
「パーシー」船長 どこ見てやがる。
ルックナー さて、終わりにしよう。
ルックナー 「パーシー」船長をすり抜け、再び女性の前に膝をつく
ルックナー 修道女は神に、人妻は夫にその身を捧げておられる。それを邪魔するわけにはいかない。
「パーシー」船長夫人 海賊さん、紳士なのね。
ルックナー えぇ、見目麗しい女性限定で。
ルックナー 女性の手を取る
ルックナー 奥様、貴女を惑わす指輪は消し去りましょう。3、2、1、ほら、この通り。
ルックナーの指に指輪が光る。
見ていた捕虜からおぉ、とどよめきが上がる。
「パーシー」船長夫人 あらあら、結構よさげな指輪だったのに。残念だわ。
ルックナー 3マルク程度の安物です。貴女にはふさわしくありません。
「パーシー」船長 全くだ。陸に戻ったら指輪も買おう。もっといい品をな。
「パーシー」船長夫人 でも艦長、手品は見事だったわ。
ルックナー ドイツ皇帝陛下もご照覧された手品です。
観客席 そうであった。東洋の秘儀をお見せするなどと言ってな。思い出すわ。
ルックナー 再度客席に一礼する。
「パーシー」船長夫人 さすがは伯爵様ね。お見事でした。
ルックナー 喜んでいただけて幸いです。
「パーシー」船長夫人 ねぇ、伯爵様、指輪の代わりに一つお願いを聞いて下さらないかしら?
ルックナー 何事でしょう?
「パーシー」船長夫人 大事に扱って頂いるのはわかるのですけど、やはり女性の話し相手が欲しいわ。
ルックナー ……善処しますとしか申し上げられません。こればかりは。
「パーシー」船長 拿捕した船に女性がいるかはさすがに運だからな。我々のように新婚旅行をする船長が何人いるか。
「パーシー」船長夫人 ご無理言ったみたいね、ごめんなさい。
ルックナー 貴女は、捕虜になっても「新婚旅行のいい刺激だわ」と言って下さった。オレ達にしても、トラブルを起こさないので助かっています。なんとかしてみます。
「パーシー」船長夫人 ご無理なさらないで下さいね、伯爵様。
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