95 / 95
帰宅
しおりを挟む
「神々も消えた。お前たちも消えるべきだな。」
「あんだと、宮川、てめえ!」
大久保の言葉に春吉は、激高する。
「嶋崎、船で来ているんだろう。どこに船は戻す?」
「何が言いてえ!」
「そうカッカするな。行き先がわからんと、誤魔化しようがない。」
「何考えてやがる?」
「この一件、テロリストの仕業として処理する。テロリストは、ここ名島で暗躍した後、用意していた船で逃走。」
「俺達にテロリスト役をやれと?」
「正直に言って誰が信じる?鬼がいて、あなたたちに術をかけたと言って。」
「確かに信じやしねえな。わかった。引き受けるにあたって聞きてえことがある。」
「なんだ?」
「鬼どもをノした砂、あれはなんだ?」
「あれは、ここ名島の砂浜で掘った砂だ。」
「それはわかるが、なんでそれで倒せる?」
大久保は、スマホを取り出し操作する。
君が代が流れる。
曲が終わって大久保は、口を開いた。
「さざれ石のいわおとなりて、と歌詞にあるだろう。このさざれ石とは、砂鉄のことであり、お前に投げた砂にも含まれている。」
「あいつらの弱点が砂鉄だってのか。」
「想いが込められた品が弱点だろう。それなら、国民の国家への愛情などを仮託する砂鉄もなりうると思ってね。賭けだったが。」
「違ったらどうしたんです?」
永倉は聞いた。
「その時は、朗の盾となって死ぬ。それだけだ。」
その言葉に、浮ついた感情はなく、沈着な理性があるだけだった。
「勝手に言ってろ。国民に嘘八百並べ立てて、事態を誤魔化そうとする議員のことなんか、僕は信じない。」
「痛いことを言うな。」
「泣くな、宮川。」
「泣いてはおらん、嶋崎。」
「そう言えば、なんで大久保議員は、会長のことを嶋崎と呼ぶんですか?」
それは、春吉と大久保が会った時から気になっていたことだった。
「こいつは、今も昔も戸籍上は『嶋崎 勝太』だ。春吉はヤクザとしての名前だ。」
「ヤクザとしての名前ってそんなのあるんですか。」
「宮川の言う通り。俺は中洲の隣、春吉で一家を構えているからな。そこを守っていると言う誇りから『春吉』を名乗っているのよ。」
なるほど。
永倉は納得した。
「さて、俺は東に向かう。おめえの選挙区の方だ。」
「では、西に逃走した、とし、そちらに捜索の重点を置くよう指示しよう。」
「かくして、国家公安委員長と広域指定暴力団トップとの裏取引が成立、と。」
壬生が突っ込んだ。
「朗、お前はどうする?」
スルーすることに決めたらしい大久保が声をかけて来る。
「歩いて帰るさ。唐揚げまだ揚げていないんだ。」
「壬生さん、唐揚げって?」
「永倉さん、リクエストしたじゃないですか。揚げたて食べてもらいたくて、まだ揚げてません。」
「やった!」
アキム達も弁当くらいは、食べさせてくれたが、やはり壬生の料理がいい。
「では、帰りましょう。」
壬生に促され、永倉は歩き出す。
二人連れ立って寺の境内を出て行った。
停電し、月明り下、多々良川沿いの道を二人で歩く。
「壬生さん、助けに来てくれてありがとう。」
「当然のことをしただけです。」
「『男なら女の子を守れ』ですね。」
「ちょっと、違います。」
そう言って壬生は、自然に永倉の右手を握った。
「えっ、ちょっちょっとぉ~~♪」
ヤバッ、顔絶対真っ赤だ。
月明りだけなのに感謝するしかない。
「好きな女の子のために頑張れ、かな。僕のオリジナルですけど。」
と、東郷元帥、特定の男女の縁を結ぶことはできないんじゃなかったですかぁ?
二人は手をつないだまま、九州大学漕艇部の建屋の前を通り過ぎる。
橋のたもとまで来たところで壬生が動いた。
永倉のあごを軽く掴んで永倉を抱き寄せる。
「永倉さん。」
「やだ。」
「……。」
戸惑ってる。
ここまできて、「やだ」は無いよね。
クスクス。
「有希って呼んで。」
「……有希。」
「朗。」
そしてお互いの唇は、言葉を発することはない。
月明りの下、二人の影は、しばし一つとなっていた。
「あんだと、宮川、てめえ!」
大久保の言葉に春吉は、激高する。
「嶋崎、船で来ているんだろう。どこに船は戻す?」
「何が言いてえ!」
「そうカッカするな。行き先がわからんと、誤魔化しようがない。」
「何考えてやがる?」
「この一件、テロリストの仕業として処理する。テロリストは、ここ名島で暗躍した後、用意していた船で逃走。」
「俺達にテロリスト役をやれと?」
「正直に言って誰が信じる?鬼がいて、あなたたちに術をかけたと言って。」
「確かに信じやしねえな。わかった。引き受けるにあたって聞きてえことがある。」
「なんだ?」
「鬼どもをノした砂、あれはなんだ?」
「あれは、ここ名島の砂浜で掘った砂だ。」
「それはわかるが、なんでそれで倒せる?」
大久保は、スマホを取り出し操作する。
君が代が流れる。
曲が終わって大久保は、口を開いた。
「さざれ石のいわおとなりて、と歌詞にあるだろう。このさざれ石とは、砂鉄のことであり、お前に投げた砂にも含まれている。」
「あいつらの弱点が砂鉄だってのか。」
「想いが込められた品が弱点だろう。それなら、国民の国家への愛情などを仮託する砂鉄もなりうると思ってね。賭けだったが。」
「違ったらどうしたんです?」
永倉は聞いた。
「その時は、朗の盾となって死ぬ。それだけだ。」
その言葉に、浮ついた感情はなく、沈着な理性があるだけだった。
「勝手に言ってろ。国民に嘘八百並べ立てて、事態を誤魔化そうとする議員のことなんか、僕は信じない。」
「痛いことを言うな。」
「泣くな、宮川。」
「泣いてはおらん、嶋崎。」
「そう言えば、なんで大久保議員は、会長のことを嶋崎と呼ぶんですか?」
それは、春吉と大久保が会った時から気になっていたことだった。
「こいつは、今も昔も戸籍上は『嶋崎 勝太』だ。春吉はヤクザとしての名前だ。」
「ヤクザとしての名前ってそんなのあるんですか。」
「宮川の言う通り。俺は中洲の隣、春吉で一家を構えているからな。そこを守っていると言う誇りから『春吉』を名乗っているのよ。」
なるほど。
永倉は納得した。
「さて、俺は東に向かう。おめえの選挙区の方だ。」
「では、西に逃走した、とし、そちらに捜索の重点を置くよう指示しよう。」
「かくして、国家公安委員長と広域指定暴力団トップとの裏取引が成立、と。」
壬生が突っ込んだ。
「朗、お前はどうする?」
スルーすることに決めたらしい大久保が声をかけて来る。
「歩いて帰るさ。唐揚げまだ揚げていないんだ。」
「壬生さん、唐揚げって?」
「永倉さん、リクエストしたじゃないですか。揚げたて食べてもらいたくて、まだ揚げてません。」
「やった!」
アキム達も弁当くらいは、食べさせてくれたが、やはり壬生の料理がいい。
「では、帰りましょう。」
壬生に促され、永倉は歩き出す。
二人連れ立って寺の境内を出て行った。
停電し、月明り下、多々良川沿いの道を二人で歩く。
「壬生さん、助けに来てくれてありがとう。」
「当然のことをしただけです。」
「『男なら女の子を守れ』ですね。」
「ちょっと、違います。」
そう言って壬生は、自然に永倉の右手を握った。
「えっ、ちょっちょっとぉ~~♪」
ヤバッ、顔絶対真っ赤だ。
月明りだけなのに感謝するしかない。
「好きな女の子のために頑張れ、かな。僕のオリジナルですけど。」
と、東郷元帥、特定の男女の縁を結ぶことはできないんじゃなかったですかぁ?
二人は手をつないだまま、九州大学漕艇部の建屋の前を通り過ぎる。
橋のたもとまで来たところで壬生が動いた。
永倉のあごを軽く掴んで永倉を抱き寄せる。
「永倉さん。」
「やだ。」
「……。」
戸惑ってる。
ここまできて、「やだ」は無いよね。
クスクス。
「有希って呼んで。」
「……有希。」
「朗。」
そしてお互いの唇は、言葉を発することはない。
月明りの下、二人の影は、しばし一つとなっていた。
0
お気に入りに追加
5
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
「歴女として、こんな素敵な機会を見逃してなるものですか!」
宮廷で史書編纂事業を担う「志部」が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹。血の滲むような勉強の日々を重ね、齢十八の年、男と偽り官吏登用試験、科挙を受験した。見事第一等の成績で官吏となった羅刹だったが。珍妙な仮面の貴人、雲蘭に女であることがバレてしまう。あわや死罪と思いきや、雲嵐に取引を持ちかけられる。後宮に巣食う悪霊を成敗すれば、秘密を守ってくれる上、志部への内定を確実にしてくれるという。
様子のおかしい仮面の貴人を疑いつつも、断る理由のない羅刹は、悪霊について調べ始めるが——。
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
京都式神様のおでん屋さん 弐
西門 檀
キャラ文芸
路地の奥にある『おでん料理 結(むすび)』ではイケメン二体(式神)と看板猫がお出迎えします。
今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。
平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。
※一巻は第六回キャラクター文芸賞、
奨励賞を受賞し、2024年2月15日に刊行されました。皆様のおかげです、ありがとうございます✨😊
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる