古からの侵略者

久保 倫

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帰宅

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「神々も消えた。お前たちも消えるべきだな。」
「あんだと、宮川、てめえ!」

 大久保の言葉に春吉は、激高する。

「嶋崎、船で来ているんだろう。どこに船は戻す?」
「何が言いてえ!」
「そうカッカするな。行き先がわからんと、誤魔化しようがない。」
「何考えてやがる?」
「この一件、テロリストの仕業として処理する。テロリストは、ここ名島で暗躍した後、用意していた船で逃走。」
「俺達にテロリスト役をやれと?」
「正直に言って誰が信じる?鬼がいて、あなたたちに術をかけたと言って。」
「確かに信じやしねえな。わかった。引き受けるにあたって聞きてえことがある。」
「なんだ?」
「鬼どもをノした砂、あれはなんだ?」
「あれは、ここ名島の砂浜で掘った砂だ。」
「それはわかるが、なんでそれで倒せる?」
 大久保は、スマホを取り出し操作する。

 君が代が流れる。
 
 曲が終わって大久保は、口を開いた。
「さざれ石のいわおとなりて、と歌詞にあるだろう。このさざれ石とは、砂鉄のことであり、お前に投げた砂にも含まれている。」
「あいつらの弱点が砂鉄だってのか。」
「想いが込められた品が弱点だろう。それなら、国民の国家への愛情などを仮託する砂鉄もなりうると思ってね。賭けだったが。」
「違ったらどうしたんです?」

 永倉は聞いた。

「その時は、朗の盾となって死ぬ。それだけだ。」

 その言葉に、浮ついた感情はなく、沈着な理性があるだけだった。

「勝手に言ってろ。国民に嘘八百並べ立てて、事態を誤魔化そうとする議員のことなんか、僕は信じない。」
「痛いことを言うな。」
「泣くな、宮川。」
「泣いてはおらん、嶋崎。」
「そう言えば、なんで大久保議員は、会長のことを嶋崎と呼ぶんですか?」

 それは、春吉と大久保が会った時から気になっていたことだった。

「こいつは、今も昔も戸籍上は『嶋崎 勝太』だ。春吉はヤクザとしての名前だ。」
「ヤクザとしての名前ってそんなのあるんですか。」
「宮川の言う通り。俺は中洲の隣、春吉で一家を構えているからな。そこを守っていると言う誇りから『春吉』を名乗っているのよ。」

 なるほど。
 永倉は納得した。

「さて、俺は東に向かう。おめえの選挙区の方だ。」
「では、西に逃走した、とし、そちらに捜索の重点を置くよう指示しよう。」
「かくして、国家公安委員長と広域指定暴力団トップとの裏取引が成立、と。」

 壬生が突っ込んだ。

「朗、お前はどうする?」
 スルーすることに決めたらしい大久保が声をかけて来る。
「歩いて帰るさ。唐揚げまだ揚げていないんだ。」
「壬生さん、唐揚げって?」
「永倉さん、リクエストしたじゃないですか。揚げたて食べてもらいたくて、まだ揚げてません。」
「やった!」

 アキム達も弁当くらいは、食べさせてくれたが、やはり壬生の料理がいい。

「では、帰りましょう。」

 壬生に促され、永倉は歩き出す。
 二人連れ立って寺の境内を出て行った。


 停電し、月明り下、多々良川沿いの道を二人で歩く。
 
「壬生さん、助けに来てくれてありがとう。」
「当然のことをしただけです。」
「『男なら女の子を守れ』ですね。」
「ちょっと、違います。」

 そう言って壬生は、自然に永倉の右手を握った。

「えっ、ちょっちょっとぉ~~♪」

 ヤバッ、顔絶対真っ赤だ。

 月明りだけなのに感謝するしかない。

「好きな女の子のために頑張れ、かな。僕のオリジナルですけど。」

 と、東郷元帥、特定の男女の縁を結ぶことはできないんじゃなかったですかぁ?

 二人は手をつないだまま、九州大学漕艇部の建屋の前を通り過ぎる。

 橋のたもとまで来たところで壬生が動いた。

 永倉のあごを軽く掴んで永倉を抱き寄せる。
「永倉さん。」
「やだ。」
「……。」

 戸惑ってる。
 ここまできて、「やだ」は無いよね。

 クスクス。

「有希って呼んで。」
「……有希。」
「朗。」

 そしてお互いの唇は、言葉を発することはない。

 月明りの下、二人の影は、しばし一つとなっていた。
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