90 / 95
降臨
しおりを挟む
秋夢は、心に深いダメージを受けて境内に逃げ込んでいた。
悪夢がよみがえる。
儀式を施された武器で次々と殺される里の者達と、伊西たちが重なる。
「いや、まだあれ達は死んでいない。」
気絶しているだけだ。あの”だいじん”は、どうもこちらを殺すつもりはないようだ。
今は、委ねておいて後日に救出する算段を講じよう。
屈辱ではあるが。
「アキム、逃げるな!」
「仲間を置いていく気なの!?」
壬生達が追いかけて来たか。壬生だけなら厄介だが、あの娘が一緒なら振り切れよう。あの娘は、壬生ほど身体能力が高くない。
一応、念のため、「透過の術」を使うとしよう。
秋夢の体は、人の目に見えなくなった。
「いないよ、壬生さん。」
「気配らしきものはするのですが。」
こちらの方を壬生は、見ているようだが、完全に見えているわけでもないようだ。
これなら、逃げられる。
そう思いながら、隣接する弁財天を祀る宗栄寺へ抜ける道へ足を進める。
「待てや、わらわの神域を騒がしておいて逃げるつもりか、鬼よ。」
「まさか……。」
そこにいたのは、一人の美女だった。
「女神か……。」
「市杵島姫命じゃ。ここは、わらわを祀る社でも少々気に入っておるでな。荒らしておいて、逃げるなど許さぬぞえ。」
「ふん、我が一人になれば出おったか。」
所詮、女神。鬼の剛力を恐れて逃げていただけではないか。
「で、我を捕縛するか?」
「いや、消えてもらう。既に狛魚は呼んである。」
「何?」
それはまずい。気絶している皆が。
「それはやめよ。ただでは置かぬぞ!」
仲間を見捨てるわけにはいかない。
「ふん、女神が一人で来ると思うたか?」
「姉たちも来ているのか?」
市杵島姫命は、田心姫命、湍津姫命と共に生まれたことを秋夢は、知っている。
神功皇后の三韓征伐のおり、その海上機動を加護したことも。
だが、所詮は女神。鬼の我の力に勝てるはずもない。
「誰?あの美人?」
しまった、壬生達に気が付かれた。
つい仲間のことを思い、叫んでしまった。
透過の術は、身を消すが、音を消せるわけではない。大声を出しては意味が無い。
永倉達も、秋夢を追って境内に入ったが、見失っていた。
気配は感じていたが、当てにしていいのかわからぬまま、ちょっと周囲を見回していたら、アキムの叫びが聞こえたので、足を向けたのだ。
美女が一人こちらを向いて立っている。
「危ないです、逃げて下さい。」
「危ないから、美人さん、逃げて!」
「ほう、わらわを美人と呼ぶか。善きかな善きかな。」
市杵島姫命は、嫣然と微笑んだ。
秋夢は、そんな市杵島姫命に襲い掛かるべく、透過の術を解いた。
「アキム、その人に手を出すな。」
「早く、逃げて下さい、美人さん!」
「いや感心感心。」
「逃げぬのか?殺すぞ。」
「何を申すか、殺されるのはお主じゃ。神域を荒らした罰は受けてもらう。」
「姉の力でも借りるか。」
「いや、姉達はここをさほど好いておらぬ。代わりに、最近神になった小僧を連れて来た。」
そう言うと一人の青年が現れた。
「何、あのイケメン。」
美青年が秋夢と市杵島姫命の間に立ちはだかる。
悪夢がよみがえる。
儀式を施された武器で次々と殺される里の者達と、伊西たちが重なる。
「いや、まだあれ達は死んでいない。」
気絶しているだけだ。あの”だいじん”は、どうもこちらを殺すつもりはないようだ。
今は、委ねておいて後日に救出する算段を講じよう。
屈辱ではあるが。
「アキム、逃げるな!」
「仲間を置いていく気なの!?」
壬生達が追いかけて来たか。壬生だけなら厄介だが、あの娘が一緒なら振り切れよう。あの娘は、壬生ほど身体能力が高くない。
一応、念のため、「透過の術」を使うとしよう。
秋夢の体は、人の目に見えなくなった。
「いないよ、壬生さん。」
「気配らしきものはするのですが。」
こちらの方を壬生は、見ているようだが、完全に見えているわけでもないようだ。
これなら、逃げられる。
そう思いながら、隣接する弁財天を祀る宗栄寺へ抜ける道へ足を進める。
「待てや、わらわの神域を騒がしておいて逃げるつもりか、鬼よ。」
「まさか……。」
そこにいたのは、一人の美女だった。
「女神か……。」
「市杵島姫命じゃ。ここは、わらわを祀る社でも少々気に入っておるでな。荒らしておいて、逃げるなど許さぬぞえ。」
「ふん、我が一人になれば出おったか。」
所詮、女神。鬼の剛力を恐れて逃げていただけではないか。
「で、我を捕縛するか?」
「いや、消えてもらう。既に狛魚は呼んである。」
「何?」
それはまずい。気絶している皆が。
「それはやめよ。ただでは置かぬぞ!」
仲間を見捨てるわけにはいかない。
「ふん、女神が一人で来ると思うたか?」
「姉たちも来ているのか?」
市杵島姫命は、田心姫命、湍津姫命と共に生まれたことを秋夢は、知っている。
神功皇后の三韓征伐のおり、その海上機動を加護したことも。
だが、所詮は女神。鬼の我の力に勝てるはずもない。
「誰?あの美人?」
しまった、壬生達に気が付かれた。
つい仲間のことを思い、叫んでしまった。
透過の術は、身を消すが、音を消せるわけではない。大声を出しては意味が無い。
永倉達も、秋夢を追って境内に入ったが、見失っていた。
気配は感じていたが、当てにしていいのかわからぬまま、ちょっと周囲を見回していたら、アキムの叫びが聞こえたので、足を向けたのだ。
美女が一人こちらを向いて立っている。
「危ないです、逃げて下さい。」
「危ないから、美人さん、逃げて!」
「ほう、わらわを美人と呼ぶか。善きかな善きかな。」
市杵島姫命は、嫣然と微笑んだ。
秋夢は、そんな市杵島姫命に襲い掛かるべく、透過の術を解いた。
「アキム、その人に手を出すな。」
「早く、逃げて下さい、美人さん!」
「いや感心感心。」
「逃げぬのか?殺すぞ。」
「何を申すか、殺されるのはお主じゃ。神域を荒らした罰は受けてもらう。」
「姉の力でも借りるか。」
「いや、姉達はここをさほど好いておらぬ。代わりに、最近神になった小僧を連れて来た。」
そう言うと一人の青年が現れた。
「何、あのイケメン。」
美青年が秋夢と市杵島姫命の間に立ちはだかる。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる