古からの侵略者

久保 倫

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誘拐後

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「どーしてこうなったんでいッ!」

 ドアを開けた妙子を押しのけるようにマンションに入るや否や、春吉は吠えた。
「宮川、てめえがいながらどうして取り逃がした!」
「うるさい、島崎。騒いだところでどうにもならん。対応策を冷静に講じねば。」
「てめえ、昔っから変わんねえな。澄ました顔で事を進めようとしやがる。」
「熱くなったから解決するわけではない。」
「ヘタうったくせにスカしたこと抜かすな!」
「頭に血が行っても脳が動かんのなら意味が無い。」
「何だと!」

 いきり立った春吉が、掴みかからんばかりの勢いで大久保に詰め寄る。

「会長、落ち着いて下さい。」
「やかましい!」

 あんたも何か言ってくれ、と大久保の秘書達に目配せする。

「先生も落ち着かれて下さい。」

 秘書の中で最年長と思しき、禿げた男が大久保に声をかけた。

「落ち着いているさ。」
「ならば、このようなヤクザの言うことなどにいちいち返事などせず、無視して下さい。マスコミなどが面白がって騒ぎます。」
「なんだ、てめえ!」
「ひぃ。」

 春吉の眼光に秘書はすくみ上る。

「嶋崎、私の秘書に手を出すな。」

 大久保が立ち上がり、春吉と睨み合う。

「かっこつけんじゃねえ!」
「会長、相手はカタギです。それに警察もいます。」
「むっ。」

 確かに大久保の周囲固めてんの、秘書だけじゃなく、サツもいるな。

 眼光鋭い男達が、リビングのこたつ周りに集まっている。

 頭に血が上っていたようだ。
 春吉は、深呼吸した。
 一つ間違えてりゃ、パクられてるところだ。ヤバかった。

「嶋崎、ここは警察に任せてもらおう。お前はここから出て行け。」
「そうは言うがな。俺はそちらの杉村さんと知り合いでね。困っているだろうと思ってきたのよ。」
「その人を押しのけてこっちに来て説得力があると思うか。」
「くっ……。」

 頭に血が上り過ぎだ、無様すぎるぞ、おい。

 そう思うが、暴れるわけにはいかない。

「何をしに来たんだ。」
「あ、そりゃ、二度もあいつらにやられた馬鹿の親玉の面を見に来たのよ。」

 やられっ放しというわけにはいかない。沽券にかかわる。

 大久保の表情が動くことは無かったが、周囲の刑事たちの雰囲気が変化するのがわかる。 

「嶋崎、現場の者は懸命にやっている。茶化すのは止めろ。」
「懸命にやっても、ダメじゃしょうがねえだろ。え、税金泥棒じゃねえのか。」
「貴様……。」
「お……。」

 二人が言葉を紡ぐことは無かった。間に入った壬生が二人の顔面に裏拳を決めたからだ。

「いい加減にしろ、うるさい。」

「「あ、朗。」」

 仲良くハモる。

「二人とも出て行け、仲良くな。」
「な……。」
「お、おい。」

 鼻を押さえる二人の耳たぶを引っ掴んで、壬生は二人を引きずる。

「あ、朗。私は指揮を……。」
「現場指揮をトップがとっても邪魔なだけだ。例えば警視総監が捜査一課の指揮をとるなんてないだろう!」

「爺ちゃんは、お前を助けようと……。」
「同級生と喧嘩してるだけだろうが!」

 二人を玄関まで引っ張る。
 そんな壬生に小倉や、秘書が頭を下げる。

「ほれ、頭を冷やしてろ、馬鹿ども!」

 大久保、春吉の順で蹴り出す。
 その壬生の脇を秘書たちやSP、小倉が出て行く。

 小倉の巨躯を押しのけることはできず、大久保も春吉の目の前でドアは閉まりカギがかけられた。

「あ、あきら。」
「ここを開けてくれ、杉村の姉さん、頼む。」

 壬生は、妙子に首を振る。
 妙子も言うことを聞く気などない。

「朗ちゃん、やるわね。」
「あいつらを殴ることだけは任せて下さい。」

 壬生は、笑いながら胸を張った。

 そんな時に永倉のスマホが鳴った。  
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