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永倉誘拐
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「永倉さん、逃げてっ!」
壬生に言われるまでもない。
永倉は、伊西から少しでも離れるようとする。
しかし、伊西の身体能力は、永倉をはるかに凌ぐ。
永倉は、一歩も踏み出すことなく、柵から降りた伊西に右手首を掴まれてしまった。
「離してっ!」
もがくが、伊西が離すはずもない。
エコバッグを床に落として振りほどこうとするが微動だにしない。
掴まれた右手首を腰の位置まで下ろされ、腰抱きに固定されてしまった。
「貴様ッ!永倉さんを離せッ!」
壬生が踏み込み、パンチを放つが、伊西はそれより早く、永倉を抱きかかえながらバックステップして柵の上に立つ。
「なっ、イヤッ!離してっ!!」
高台のマンションの八階である。落ちて助かるとはとても思えない。
永倉は高所恐怖症というわけではないが、命の危険にさらされることに耐性など無い。
「貴様っ!逃げるな!」
更に壬生は伊西を追いかけようとする。
「待て、朗!下手に暴れてはあのお嬢さんが危ない!」
大久保の言葉に壬生の動きが止まる。
確かに、下手に捕まえようとしてバランスを崩し落ちたら……。
「み、壬生さん。」
「永倉さん、落ち着いて。すいませんがすぐ助けますのでしばらくじっとしていて下さい。」
永倉も墜落死はごめんである。
気に食わないが、伊西にすがりつくようにつかまる。
「そこの君、昨日の一味の者だな。」
「おう、お前昨日会った”だいじん”だな。ここは庶民の暮らすところのはずだが。」
「どうでもいい。そのお嬢さんを離して、廊下に降りたまえ。危ないぞ。」
大久保の言葉をあざ笑うかのように、伊西は、多々良川の方を見下ろした。
国道三号線や西鉄貝塚線と並行に走るJR鹿児島本線の鉄橋を電車が通過する。
「それにここには、警官達が配備されている。通報するから増援も来る。もう逃げられん。」
「ふん、何故その”けいかん”とやらは、俺を捕まえないんだ。」
まさか。
永倉の背筋に冷たいものが走る。
下の駐車場や道路には、警官や士道会の者、合わせて十名近くがいる。買い物を終えて駐車場に車を止めた時に、挨拶したから間違いない。
彼らを僅かな時間で、物音もさせずにK.Oしたのかな。
不安になって下を見ると、人が動いているのがわかった。
「壬生さん、大丈夫。誰もやられてない。こっちに向かっているみたい。」
真っ赤なパーカーを着た者が、女性を抱えて柵の上に立っているのだ。何事かと思うのが普通である。
ましてや、彼らは監視のために待機しているのだから。
「イサイだったか。もう逃げられはしない。永倉さんを離せ。」
「ふん、木っ端がどれ程来ようが大した意味はない。それより女。」
「な、なに?」
永倉は、話を振られ、噛みながら返事をする。
「”すまほ”を持っているか。」
「持ってるけど……。」
「よしそれを壬生に投げろ。」
「な、なんで?」
「早くしろ。落とされたいか。」
なんと片手で永倉の体を、柵の外に宙づりにしてしまった。
足元に駐車場が見える。
だ、誰も上を見ないでって、松野、上見てるぅぅぅ。
「きゃあぁぁぁぁ。」
意味があるのかわからないまま、本能的にスカートをおさえながら悲鳴を上げる。
「永倉さん、落ち着いて。今は言う通りにして。」
「ひゃ、ひゃい。」
恐怖で噛みながら、スカートのポケットからスマホを取り出し、壬生に投げる。
壬生は、両手でスマホをキャッチした。
「壬生よ、この女は人質とする。子細は、それに連絡するから持っておけ。」
「ふざけるな、永倉さんを離せ!俺を呼び出すなら、いつでもどこにでも応じるから。」
永倉は、宙づりの恐怖を一瞬忘れた。
壬生さん、それって闇討ちされてやるって言ってるようなものじゃない。
「ふん、いい心がけだ。」
その時、複数の足音が廊下に響いた。
エレベーターや階段で警官達が駆けつけてきたのだ。
「イサイ、大人しく投降しろ。警官達をどうやってかいくぐるつもりだ?」
「ふん、あんな木っ端物の数ではないがな。」
そう言って永倉を抱えたまま、伊西は柵の外に跳躍する。
「きゃぁああああぁぁっ!!!」
自由落下の恐怖に絶叫する。
死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅ~~~!!!
「飛燕の術。」
落下の感覚が消える。
下への垂直移動から、緩やかな滑空に変化している。
「ひょっとして術で空を飛んでいるの?」
「そうだ、だから大人しくしてろ。」
否応もない。まだ死にたくはない。
しがみつく永倉を抱えたまま、伊西は、多々良川の上で鉄橋の方に旋回していく。
壬生に言われるまでもない。
永倉は、伊西から少しでも離れるようとする。
しかし、伊西の身体能力は、永倉をはるかに凌ぐ。
永倉は、一歩も踏み出すことなく、柵から降りた伊西に右手首を掴まれてしまった。
「離してっ!」
もがくが、伊西が離すはずもない。
エコバッグを床に落として振りほどこうとするが微動だにしない。
掴まれた右手首を腰の位置まで下ろされ、腰抱きに固定されてしまった。
「貴様ッ!永倉さんを離せッ!」
壬生が踏み込み、パンチを放つが、伊西はそれより早く、永倉を抱きかかえながらバックステップして柵の上に立つ。
「なっ、イヤッ!離してっ!!」
高台のマンションの八階である。落ちて助かるとはとても思えない。
永倉は高所恐怖症というわけではないが、命の危険にさらされることに耐性など無い。
「貴様っ!逃げるな!」
更に壬生は伊西を追いかけようとする。
「待て、朗!下手に暴れてはあのお嬢さんが危ない!」
大久保の言葉に壬生の動きが止まる。
確かに、下手に捕まえようとしてバランスを崩し落ちたら……。
「み、壬生さん。」
「永倉さん、落ち着いて。すいませんがすぐ助けますのでしばらくじっとしていて下さい。」
永倉も墜落死はごめんである。
気に食わないが、伊西にすがりつくようにつかまる。
「そこの君、昨日の一味の者だな。」
「おう、お前昨日会った”だいじん”だな。ここは庶民の暮らすところのはずだが。」
「どうでもいい。そのお嬢さんを離して、廊下に降りたまえ。危ないぞ。」
大久保の言葉をあざ笑うかのように、伊西は、多々良川の方を見下ろした。
国道三号線や西鉄貝塚線と並行に走るJR鹿児島本線の鉄橋を電車が通過する。
「それにここには、警官達が配備されている。通報するから増援も来る。もう逃げられん。」
「ふん、何故その”けいかん”とやらは、俺を捕まえないんだ。」
まさか。
永倉の背筋に冷たいものが走る。
下の駐車場や道路には、警官や士道会の者、合わせて十名近くがいる。買い物を終えて駐車場に車を止めた時に、挨拶したから間違いない。
彼らを僅かな時間で、物音もさせずにK.Oしたのかな。
不安になって下を見ると、人が動いているのがわかった。
「壬生さん、大丈夫。誰もやられてない。こっちに向かっているみたい。」
真っ赤なパーカーを着た者が、女性を抱えて柵の上に立っているのだ。何事かと思うのが普通である。
ましてや、彼らは監視のために待機しているのだから。
「イサイだったか。もう逃げられはしない。永倉さんを離せ。」
「ふん、木っ端がどれ程来ようが大した意味はない。それより女。」
「な、なに?」
永倉は、話を振られ、噛みながら返事をする。
「”すまほ”を持っているか。」
「持ってるけど……。」
「よしそれを壬生に投げろ。」
「な、なんで?」
「早くしろ。落とされたいか。」
なんと片手で永倉の体を、柵の外に宙づりにしてしまった。
足元に駐車場が見える。
だ、誰も上を見ないでって、松野、上見てるぅぅぅ。
「きゃあぁぁぁぁ。」
意味があるのかわからないまま、本能的にスカートをおさえながら悲鳴を上げる。
「永倉さん、落ち着いて。今は言う通りにして。」
「ひゃ、ひゃい。」
恐怖で噛みながら、スカートのポケットからスマホを取り出し、壬生に投げる。
壬生は、両手でスマホをキャッチした。
「壬生よ、この女は人質とする。子細は、それに連絡するから持っておけ。」
「ふざけるな、永倉さんを離せ!俺を呼び出すなら、いつでもどこにでも応じるから。」
永倉は、宙づりの恐怖を一瞬忘れた。
壬生さん、それって闇討ちされてやるって言ってるようなものじゃない。
「ふん、いい心がけだ。」
その時、複数の足音が廊下に響いた。
エレベーターや階段で警官達が駆けつけてきたのだ。
「イサイ、大人しく投降しろ。警官達をどうやってかいくぐるつもりだ?」
「ふん、あんな木っ端物の数ではないがな。」
そう言って永倉を抱えたまま、伊西は柵の外に跳躍する。
「きゃぁああああぁぁっ!!!」
自由落下の恐怖に絶叫する。
死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅ~~~!!!
「飛燕の術。」
落下の感覚が消える。
下への垂直移動から、緩やかな滑空に変化している。
「ひょっとして術で空を飛んでいるの?」
「そうだ、だから大人しくしてろ。」
否応もない。まだ死にたくはない。
しがみつく永倉を抱えたまま、伊西は、多々良川の上で鉄橋の方に旋回していく。
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