古からの侵略者

久保 倫

文字の大きさ
上 下
50 / 95

乱戦⑧

しおりを挟む
 自分目がけて火球が飛んでくるのを視認した瞬間、壬生は崩れ落ちた秋夢を踏み台に跳躍していた。
 それで、飛んでくる火球は回避できた。
 そのまま、壬生は、火球を放った厳奈寺に飛び蹴りの体勢をとる。

「愚か者が、宙にあっては回避できまい。」

「壬生さんっ!」
 次の火球が生み出され、壬生に向かうのを見た瞬間、永倉は絶叫していた。

 火球は、飛び蹴りで向かって来る壬生をとらえた。
 壬生の全身が炎に包まれる。

「……。」

 その光景に永倉は、言葉を失った。

 壬生は、炎に包まれたまま、勢いを殺すことなく厳奈寺に飛び蹴りをかました。

「熱くもなんともないじゃないか!」
「壬生さん!?」

 炎が薄れてきた。
 永倉の目に映る壬生は、服すら焦げていない。

「なんと……。」

 壬生の法力が厳奈寺を上回る様を見せつけられ、秋夢は絶句する。

 飛び蹴りを喰らって体勢を崩している厳奈寺に、壬生はとどめのアッパーを見舞った。

 顎にキレイに決められ、厳奈寺の意識は消えていった。


「やむを得ん。皆、逃げるぞ!」

 厳奈寺と鷺慈御が気絶し、自身も左膝をやられてしまった。

 壬生が強いのは承知していたが、予想を上回っている。
 一度引くべきだと、秋夢は判断せざるを得なかった。

 秋夢の言葉に反応して、蔵宇治が立ち上がり何やら呟く。
「霧の術。」
 蔵宇治を中心に署内に霧が立ちこめ始める。

「今さら逃げられると思うな。」
 壬生が蔵宇治に近寄る。
 壬生が一歩歩む度に、壬生の周囲の霧が消えていく。
「馬鹿な……。」
「僕には、お前達の術とやらを無力化する能力があるようだな。」

 蔵宇治を間合いにとらえ、壬生は右拳を固める。
 一撃を見舞おうとした瞬間、後ろから声がした。

「壬生!お前の思い通りになると思うな!」

 壬生も油断していない。
 右にサイドステップしながら、声のした方に僅かに顔を向ける。

 何が来る?火球か?

 壬生に向かってきたのは、白いガスだった。
 
 咄嗟に顔だけは、かばった。

 ガスは、たちまちのうちに視界を完全に奪った。

 これは、法術と無関係なのか?

 戸惑う壬生の目に何か入った。
 目をこするが、すぐに視力が回復しそうにない。

「伊西!」
「蔵宇治さん、厳奈寺さんを頼みます。李作さんも秋夢様を助けに入っております。」
「よくやった、伊西。」
「人間の作ったものも役に立ちます。」

 伊西は、消火器を吹き付けたのだ。法術と関係ない以上、壬生も無力化できない。

「自分も鷺慈御を助けて逃げます。」
「頼むぞ。」

「逃がすか!」

 気負う壬生だが、何も見えない状態では何もできない。

「霧の術。」
 再び、蔵宇治を中心に霧が広がる。
 その場にいる者、全員の視界が奪われる。

 壬生は、右手で目をこすりながら左手を闇雲に振る。
 手を振った後の霧は晴れるが、発生する霧の方が多い。

「こら、有希。大人しくしてなさい。」
「だって、叔母さん、秋夢達逃げるんだよ。それなら壬生さん助けに行っていいじゃない。消火器吹き付けられて、多分目に消火剤が入ってるよ。」
「それでもダメ。」

 妙子にも秋夢達が逃げるのはわかる。
 だが、この場から彼らが完全に逃げ切ったわけではない。それなら、この不可思議な霧は晴れるであろう。
 この不可思議な霧が消えるまで動くべきではない。

 妙子は、身の安全を確保するため、そう考えていた。

「この霧が晴れてからにしなさい。」
「それじゃ、秋夢達が逃げちゃう。」
「逃がしていいわよ。窮鼠猫を噛むわよ。壬生君を危険にさらすんじゃないの。」
「……そっか。」

 そう言われては永倉も大人しくせざるを得ない。

 かくして霧が晴れた時、その場に秋夢達の姿は消えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
「歴女として、こんな素敵な機会を見逃してなるものですか!」 宮廷で史書編纂事業を担う「志部」が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹。血の滲むような勉強の日々を重ね、齢十八の年、男と偽り官吏登用試験、科挙を受験した。見事第一等の成績で官吏となった羅刹だったが。珍妙な仮面の貴人、雲蘭に女であることがバレてしまう。あわや死罪と思いきや、雲嵐に取引を持ちかけられる。後宮に巣食う悪霊を成敗すれば、秘密を守ってくれる上、志部への内定を確実にしてくれるという。 様子のおかしい仮面の貴人を疑いつつも、断る理由のない羅刹は、悪霊について調べ始めるが——。 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

京都式神様のおでん屋さん 弐

西門 檀
キャラ文芸
路地の奥にある『おでん料理 結(むすび)』ではイケメン二体(式神)と看板猫がお出迎えします。 今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。 平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。 ※一巻は第六回キャラクター文芸賞、 奨励賞を受賞し、2024年2月15日に刊行されました。皆様のおかげです、ありがとうございます✨😊

ハンクラ好きのJKは冬に死神になる

久保 倫
キャラ文芸
宇野澪は、ぱっちりとした黒目がちの瞳が魅力的な高校1年生。 身長147センチと小柄だけど、出るとこ出て引っ込むところは引っ込んでいる極めて魅力的なプロポーションの持ち主。 そんな彼女の趣味は、2つ。 一つはハンクラ。 もう一つは東京に冷たく乾いた風が吹くとき、電車内の悪に対する死神となることである。 不定期更新です。 一発ネタですんで、そうそう更新できないと思います。 それでもいいという人はお付き合い下さいませ。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

喫茶店オルクスには鬼が潜む

奏多
キャラ文芸
美月が通うようになった喫茶店は、本一冊読み切るまで長居しても怒られない場所。 そこに通うようになったのは、片思いの末にどうしても避けたい人がいるからで……。 そんな折、不可思議なことが起こり始めた美月は、店員の青年に助けられたことで、その秘密を知って行って……。 なろうでも連載、カクヨムでも先行連載。

処理中です...