33 / 95
取り調べ③
しおりを挟む
「よろしかったのですか、弁護士を断って。」
「構いません。あの人に助けられたくない。」
断りをドアのところで待機していた刑事に依頼し、聴取は続く。
「おじいさんをあの人呼ばわりですか。それでごまかせると思わないで下さい。さぁ、おじいさんは、何を企んでいるのか教えて下さい。」
「知りません。士道会と僕は無関係です。」
壬生は淡々と答えるだけだ。
「春風組の小倉と話をしてますな、おじいさんの腹心の。パトロールの警官が車を隣り合わせて話しているのを目撃しています。嘘ついて逃げられるなんて思わないで下さい。」
あれ、見られていたのか。
パトロールしてくれているのは、感謝したが、こういう形で返ってくるなんて。
ヤクザと関わりなんて持つもんじゃない。
「そもそも、士道会は何を企んで、それに僕はどう関与しているとおっしゃりたいのですか?」
「まだ、とぼけますか。」
「全くわかりませんので。」
実際何をわからないのだから仕方ない。
「そうか、なら言ってやろう。」
後ろに控えていた山野が口を開いた。
「近年のヤクザには、不逞外国人からの防衛を大義名分に掲げる者がいる。実際、北九州市の方でもそれを掲げて、夜の街を巡視するなどの活動をやったがな。大して盛り上がっちゃいない。」
「警察がいるのに、夜回りやっても無意味ですからね。」
「ほう、よくわかっているじゃないか。だからこそ、君のおじいさんは一計を案じたのさ。」
これからが本題か。
「アキムとか言ったか。一目で外国人とわかる連中を雇い、この福岡市で暴れさせる。窃盗やら空手家襲撃やら。それを士道会が抑えることで、治安維持に一役買っているとアピールするのさ。」
「なるほど、コントロールできる敵を作ることで、自分を正義の味方と主張すると。」
「そうだよ。」
「で、その計画における僕の役割は?」
「被害者役だよ。」
「被害者?」
「ぜんざい広場で襲われましたって中洲幹部交番で言っているじゃないか。」
確かにその通りだ。
「ただ、それを一人で言ってもしょうがない。やはり一般市民の証人が欲しかった。それで永倉さんを利用しようとした。」
「それは違います。」
「違いますか。でもね、貝塚駅前で蹴り倒した相手と翌日、中洲の商店街で出くわすなんてできすぎている。」
「そう、実際は示し合わせたんだろう。」
「違う!」
壬生は、非常に危うい状況にあることを悟った。
「僕が、遊びに誘ったのは事実です。ですが、彼女には断ることもできた。」
「そう、そうしないようイサイでしたか。組んでいいところを見せて好感度を上げたうえで誘った。」
「なっ……。」
もう、アキム達と組んでいることを前提に話をしている。
「そうでなくとも、ぜんざい広場に行こうと言ったのは当日です。それを彼女の考えで変更する可能性もある。それに僕も博多や天神にしましょうか、と提案しています。永倉さんに確認してもらってもいい。」
「そうしたところで、スマホ一つでいくらでも連絡できます。仮に天神に行っても店は、あなたが決めるのでは?」
「彼女が、自分の好みの店を言う可能性だってある。衝動的に『ここにする』と言い出すリスクだってあるでしょう。」
言い負かされる訳にはいかない。
「そうかもしれませんが、それでもアキムとかいうリーダーに連絡することはできるでしょう。適当に理由をつけて。」
「できないとは言いませんが……。」
「まぁ、永倉さんはあなたの思う通りに動いた。そしてあなたは、アキム達に襲われる被害者となったわけです。しかも負傷しない。」
「空手家は負傷したのに、と言いたいのですか?」
「昨日、襲撃された方のお一人が脳挫傷で死亡しました。」
「……それは、ご愁傷さまです。」
「そう思うのなら、正直に話して頂けませんか。」
「何を話せと?そもそも、私が空手家襲撃に関与していると言われますが、最初に襲撃された藤堂先生の道場で学んでいただけの間柄にすぎません。」
「つまり、あなたが地元で知る空手家だ。だから、アキムとやらに空手家の名前を聞かれ、最初に教えたのではないですか?」
「そんなことしません!」
さすがにかっとなった。
机を叩き、怒鳴ってしまう。
「もう一つ、空手家襲撃に関し、おかしな証言が被害者より寄せられました。」
「構いません。あの人に助けられたくない。」
断りをドアのところで待機していた刑事に依頼し、聴取は続く。
「おじいさんをあの人呼ばわりですか。それでごまかせると思わないで下さい。さぁ、おじいさんは、何を企んでいるのか教えて下さい。」
「知りません。士道会と僕は無関係です。」
壬生は淡々と答えるだけだ。
「春風組の小倉と話をしてますな、おじいさんの腹心の。パトロールの警官が車を隣り合わせて話しているのを目撃しています。嘘ついて逃げられるなんて思わないで下さい。」
あれ、見られていたのか。
パトロールしてくれているのは、感謝したが、こういう形で返ってくるなんて。
ヤクザと関わりなんて持つもんじゃない。
「そもそも、士道会は何を企んで、それに僕はどう関与しているとおっしゃりたいのですか?」
「まだ、とぼけますか。」
「全くわかりませんので。」
実際何をわからないのだから仕方ない。
「そうか、なら言ってやろう。」
後ろに控えていた山野が口を開いた。
「近年のヤクザには、不逞外国人からの防衛を大義名分に掲げる者がいる。実際、北九州市の方でもそれを掲げて、夜の街を巡視するなどの活動をやったがな。大して盛り上がっちゃいない。」
「警察がいるのに、夜回りやっても無意味ですからね。」
「ほう、よくわかっているじゃないか。だからこそ、君のおじいさんは一計を案じたのさ。」
これからが本題か。
「アキムとか言ったか。一目で外国人とわかる連中を雇い、この福岡市で暴れさせる。窃盗やら空手家襲撃やら。それを士道会が抑えることで、治安維持に一役買っているとアピールするのさ。」
「なるほど、コントロールできる敵を作ることで、自分を正義の味方と主張すると。」
「そうだよ。」
「で、その計画における僕の役割は?」
「被害者役だよ。」
「被害者?」
「ぜんざい広場で襲われましたって中洲幹部交番で言っているじゃないか。」
確かにその通りだ。
「ただ、それを一人で言ってもしょうがない。やはり一般市民の証人が欲しかった。それで永倉さんを利用しようとした。」
「それは違います。」
「違いますか。でもね、貝塚駅前で蹴り倒した相手と翌日、中洲の商店街で出くわすなんてできすぎている。」
「そう、実際は示し合わせたんだろう。」
「違う!」
壬生は、非常に危うい状況にあることを悟った。
「僕が、遊びに誘ったのは事実です。ですが、彼女には断ることもできた。」
「そう、そうしないようイサイでしたか。組んでいいところを見せて好感度を上げたうえで誘った。」
「なっ……。」
もう、アキム達と組んでいることを前提に話をしている。
「そうでなくとも、ぜんざい広場に行こうと言ったのは当日です。それを彼女の考えで変更する可能性もある。それに僕も博多や天神にしましょうか、と提案しています。永倉さんに確認してもらってもいい。」
「そうしたところで、スマホ一つでいくらでも連絡できます。仮に天神に行っても店は、あなたが決めるのでは?」
「彼女が、自分の好みの店を言う可能性だってある。衝動的に『ここにする』と言い出すリスクだってあるでしょう。」
言い負かされる訳にはいかない。
「そうかもしれませんが、それでもアキムとかいうリーダーに連絡することはできるでしょう。適当に理由をつけて。」
「できないとは言いませんが……。」
「まぁ、永倉さんはあなたの思う通りに動いた。そしてあなたは、アキム達に襲われる被害者となったわけです。しかも負傷しない。」
「空手家は負傷したのに、と言いたいのですか?」
「昨日、襲撃された方のお一人が脳挫傷で死亡しました。」
「……それは、ご愁傷さまです。」
「そう思うのなら、正直に話して頂けませんか。」
「何を話せと?そもそも、私が空手家襲撃に関与していると言われますが、最初に襲撃された藤堂先生の道場で学んでいただけの間柄にすぎません。」
「つまり、あなたが地元で知る空手家だ。だから、アキムとやらに空手家の名前を聞かれ、最初に教えたのではないですか?」
「そんなことしません!」
さすがにかっとなった。
机を叩き、怒鳴ってしまう。
「もう一つ、空手家襲撃に関し、おかしな証言が被害者より寄せられました。」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる