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嫁に来てぇぇぇぇっ!
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作業場を出た瞬間、鼻腔を匂いがくすぐった。
何の匂いかはすぐわかった。
味噌汁の匂いだ。
隣の部屋のかな、と思いながらリビングに入ると、壬生がキッチンで洗い物をしていた。
「壬生さん、何してるんですか?」
「あ、永倉さん。」
壬生がシンクから顔を上げて、永倉の方を向く。
「勝手ながら、晩ご飯作らせてもらいました。このリビングで待っていて気がついたんですけど、お昼を食べたような形跡が無かったので、さぞ空腹だろうと思いまして。」
「ご飯作れるんですか?」
「えぇ、高校時代のバイト先が食堂だったんで、そこで仕込まれました。」
「何を作ったんですか?」
「ほうれん草の白和えと五目煮です。食べられるなら、今から照り焼きチキンを焼きます。」
壬生は、冷蔵庫からラップしている大皿を出した。
大皿には、粉をまぶされた鶏肉が入っている。
「粉、まぶしてますけど焼くんですか?揚げるんじゃなくて?」
「片栗粉まぶすと、タレが絡みやすくなるんです。」
壬生さん、料理するんだ。
ひょっとして、結構レベル高くない?
ただ……。
「3人分にしては少なくないですか?」
「いえ、2人分のつもりですけど。」
「壬生さんは?」
「勝手に作っただけでも恐縮なのに、ご一緒なんて。」
「いいですよ、叔母さんもダメと言わないから一緒に食べましょう。」
「いいんですかね。」
「大丈夫です。照り焼きチキン、お願いします。叔母を呼んできますんで。」
30分で作れと言ったから大丈夫だろうと判断する。
「わかりました。」
壬生は、フライパンに油を入れ鶏肉を入れた。
作業場に永倉が戻ると、妙子は受話器を戻していた。
「叔母さん、ご飯出来たけど。」
「ご飯出来たって、もうそんな時間?そんな長話したはずが。」
妙子は、時計に目をやった。
「10分も経って無いじゃない。」
「あの……。」
壬生が料理していることを説明しようとした時、二人の鼻腔を醤油の香りがくすぐった。
「ちょっと、あんた何作っているか知らないけど、火を点けたまま離れたらダメでしょ!」
「いや、あの。」
「どきなさい!」
妙子は、永倉を突き飛ばしてキッチンに向かう。
妙子がリビングに駆け込んだ時、壬生と目が合った。
「すいません、台所お借りしてます。」
「壬生君?何でここに?」
「色々事情がありまして。」
妙子は、火を点けたまま台所を放置していたわけではないと知ってほっとした。
「お昼もとらずに漫画を描いていたようですので、勝手ながら食事を作らさせていただきました。」
壬生の言葉で妙子は、自分のことに気が回った。
確かに昼からずっと、新連載の構想を練ったり、イベント原稿のネームをやり続けていた。
当然、メイクのことなど全く何もしていない。
「イヤァァァ!」
壬生に背を向け、作業場の方に向かう。
「あ、あの。」
そんなに脅かすようなこと何かしちゃったか。
鶏肉を焼きながら、呆然としてしまう壬生だった。
「いたたた。」
突き飛ばされて打った腰をさすりながら、永倉はリビングに向かう。
そこに妙子が迫ってきた。
「有希、一体何があったの!?壬生君がご飯作ったりしてるけど!」
「いや、叔母さんが怖くて言えなかったけど、壬生さん今日ここに泊まりたいって。」
「何!?」
「色々事情があるの。ご飯食べながら説明するから。」
「わかった。何かあったのね。でもね、そういう大事なことは連絡しなさい!」
「ごめんなさい。」
「メイクなおして来るから!」
それだけ言って部屋に妙子は飛び込んだ。
配膳し終えたところに妙子がリビングに入ってきて座る。
皿に五目煮、小鉢にほうれん草の白和えが盛られる。
みそ汁は、豆腐とわかめ。
最後に大皿に食べやすい大きさに切られた照り焼きチキンが出てくる。
「壬生君、ほんとにあなたがこれ作ったの?」
「はい、お口に合うかわかりませんが。」
「妙子お姉さん、壬生さんも一緒に食べていいよね。」
「そりゃ、作ってもらっておいて、食べさせないなんてできないわよ。壬生君も座ってちょうだい。一緒に食べましょ。」
「では、遠慮なく。」
壬生も椅子に座る。
「いただきます。」
永倉は、照り焼きチキンに箸を伸ばす。
「おいしい!」
確かによくタレが絡んでいる。
お茶碗を手にしてご飯を食べる。
「すごい!壬生さんおいしいよ。」
「お口にあったようでよかった。」
妙子は、五目煮の里芋を口にして顔を伏せた。
「叔母さん、どう、おいしいと思うけど。」
返事はない。
「叔母さん?」
急に妙子は顔を上げた。
「壬生君!、いや、あきらちゃん。」
あきらちゃん!?
壬生は、めんくらった。
そんな呼ばれ方するのは、ひょっとして15年ぶりか。
そう思う壬生の左手を妙子は両手で握った。
「嫁に来てぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
何の匂いかはすぐわかった。
味噌汁の匂いだ。
隣の部屋のかな、と思いながらリビングに入ると、壬生がキッチンで洗い物をしていた。
「壬生さん、何してるんですか?」
「あ、永倉さん。」
壬生がシンクから顔を上げて、永倉の方を向く。
「勝手ながら、晩ご飯作らせてもらいました。このリビングで待っていて気がついたんですけど、お昼を食べたような形跡が無かったので、さぞ空腹だろうと思いまして。」
「ご飯作れるんですか?」
「えぇ、高校時代のバイト先が食堂だったんで、そこで仕込まれました。」
「何を作ったんですか?」
「ほうれん草の白和えと五目煮です。食べられるなら、今から照り焼きチキンを焼きます。」
壬生は、冷蔵庫からラップしている大皿を出した。
大皿には、粉をまぶされた鶏肉が入っている。
「粉、まぶしてますけど焼くんですか?揚げるんじゃなくて?」
「片栗粉まぶすと、タレが絡みやすくなるんです。」
壬生さん、料理するんだ。
ひょっとして、結構レベル高くない?
ただ……。
「3人分にしては少なくないですか?」
「いえ、2人分のつもりですけど。」
「壬生さんは?」
「勝手に作っただけでも恐縮なのに、ご一緒なんて。」
「いいですよ、叔母さんもダメと言わないから一緒に食べましょう。」
「いいんですかね。」
「大丈夫です。照り焼きチキン、お願いします。叔母を呼んできますんで。」
30分で作れと言ったから大丈夫だろうと判断する。
「わかりました。」
壬生は、フライパンに油を入れ鶏肉を入れた。
作業場に永倉が戻ると、妙子は受話器を戻していた。
「叔母さん、ご飯出来たけど。」
「ご飯出来たって、もうそんな時間?そんな長話したはずが。」
妙子は、時計に目をやった。
「10分も経って無いじゃない。」
「あの……。」
壬生が料理していることを説明しようとした時、二人の鼻腔を醤油の香りがくすぐった。
「ちょっと、あんた何作っているか知らないけど、火を点けたまま離れたらダメでしょ!」
「いや、あの。」
「どきなさい!」
妙子は、永倉を突き飛ばしてキッチンに向かう。
妙子がリビングに駆け込んだ時、壬生と目が合った。
「すいません、台所お借りしてます。」
「壬生君?何でここに?」
「色々事情がありまして。」
妙子は、火を点けたまま台所を放置していたわけではないと知ってほっとした。
「お昼もとらずに漫画を描いていたようですので、勝手ながら食事を作らさせていただきました。」
壬生の言葉で妙子は、自分のことに気が回った。
確かに昼からずっと、新連載の構想を練ったり、イベント原稿のネームをやり続けていた。
当然、メイクのことなど全く何もしていない。
「イヤァァァ!」
壬生に背を向け、作業場の方に向かう。
「あ、あの。」
そんなに脅かすようなこと何かしちゃったか。
鶏肉を焼きながら、呆然としてしまう壬生だった。
「いたたた。」
突き飛ばされて打った腰をさすりながら、永倉はリビングに向かう。
そこに妙子が迫ってきた。
「有希、一体何があったの!?壬生君がご飯作ったりしてるけど!」
「いや、叔母さんが怖くて言えなかったけど、壬生さん今日ここに泊まりたいって。」
「何!?」
「色々事情があるの。ご飯食べながら説明するから。」
「わかった。何かあったのね。でもね、そういう大事なことは連絡しなさい!」
「ごめんなさい。」
「メイクなおして来るから!」
それだけ言って部屋に妙子は飛び込んだ。
配膳し終えたところに妙子がリビングに入ってきて座る。
皿に五目煮、小鉢にほうれん草の白和えが盛られる。
みそ汁は、豆腐とわかめ。
最後に大皿に食べやすい大きさに切られた照り焼きチキンが出てくる。
「壬生君、ほんとにあなたがこれ作ったの?」
「はい、お口に合うかわかりませんが。」
「妙子お姉さん、壬生さんも一緒に食べていいよね。」
「そりゃ、作ってもらっておいて、食べさせないなんてできないわよ。壬生君も座ってちょうだい。一緒に食べましょ。」
「では、遠慮なく。」
壬生も椅子に座る。
「いただきます。」
永倉は、照り焼きチキンに箸を伸ばす。
「おいしい!」
確かによくタレが絡んでいる。
お茶碗を手にしてご飯を食べる。
「すごい!壬生さんおいしいよ。」
「お口にあったようでよかった。」
妙子は、五目煮の里芋を口にして顔を伏せた。
「叔母さん、どう、おいしいと思うけど。」
返事はない。
「叔母さん?」
急に妙子は顔を上げた。
「壬生君!、いや、あきらちゃん。」
あきらちゃん!?
壬生は、めんくらった。
そんな呼ばれ方するのは、ひょっとして15年ぶりか。
そう思う壬生の左手を妙子は両手で握った。
「嫁に来てぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
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