279 / 323
秀頼ルート 黒幕捜査3
羅山との対面(エロ度☆☆☆☆☆)
しおりを挟む
そして、林羅山が俺の前に現れる。
見れば天下人の前だと言うのに涼しい顔で屹然としている。
天下人批判と取れる説を堂々と述べるだけはあると言う事か。
「お前が林羅山だな?」
「はっ! 仰る通りで、お目通りが叶いました事、恐悦至極にございます」
お互いがお互いを観察するように、しばらくは無言で見つめる。
「俺の治世を批判しているとか?」
「いいえ」
俺の質問にはキッパリと否定してくる。その様子に焦りも何もなく、ただ真っすぐに。
「『上下定分の理』は天地の別になぞらえて君臣の別を唱えたもの。それはその生まれから発生いたします。すなわち富貴に産まれた者はそうあり、そうでない者はそうあらねばならない。富めるように努力を怠ってはならないが、君臣の別を越えようとしてはならぬと説いた理にございます」
「その理から行けば、まさに俺はその君臣の別を越えたのではないか?」
そう、俺も元は天皇陛下の配下であったのだ。実質的な意味合いでは逆になったとしてもだ。
「然り。ただし、陛下は生まれつきの天下人にございます。ともすればそれは皇族であるよりも尊い。そして、藤原の姓を持つ関白殿下を父に持つ陛下は、孫を天皇にすることも可能です。つまり、本当の天下人にあらせられます」
孫を天皇に? 確かに摂関家であれば、皇族に嫁を出すことが出来る。それこそお梅を・・・・・・。うん、無い。
「ですが、それではご満足されず、陛下は皇帝と言う新しい御身分に就かれた。・・・・・・ただし、豊臣の姓を捨てぬままに」
豊臣は近衛の猶子となった父上が朝臣として名乗った姓。つまり、これを名乗る以上は表向き俺はまだ朝臣であると言う事、天皇陛下の臣であると言う事だ。
「それを捨てぬから『上下定分の理』に反さぬと?」
「逆でございます。朝廷は数百年も昔から、疾うに実社会と別の世界。有名無実であるなら、それを残すべきではないかと」
「つまり、豊臣の姓を未だ名乗る事には批判がある、と?」
「ははっ!」
言うことが分からないわけではない。二元制を取ってから、俺はずっと天皇と同列と言う形になっている。むしろ、豊臣の姓だけが浮いているのだ。おもむろに立ち上がり、背後の床の間に飾られた刀を見れば、その鞘には金の五七桐が輝いている。
「・・・・・・俺は豊臣が好きなんだよ」
「は?」
「父が農民から少しずつ命を懸け、必死に。そうして上り詰めた立場が豊臣だ。この姓を名乗る時、何時も父上が見守っていてくれる気がする。だからな、この姓を手放すつもりはない。この姓はそれこそ俺が天下人として産まれた証だ」
結局はただの感傷。それでも、必要なことなのだ。
「さて、それについてはもうそれで良い。だが、お前の『上下定分の理』は世の反乱分子達にとってとても都合の良いものだ」
「・・・・・・某を罰しますかな?」
「お前を罰したところで、書いた本は既に出回っている。大した数ではないが、同時に反乱分子どもに火を点けるには十分」
今の時代、印刷技術はないので人力による写本がその全てになる。労力と費用が掛かるが、それでもそれなりの数になると言う事は人気があると言う事だ。
「お前の処に出入りしている者が多くなっているそうだな?」
「皆、学を求めているだけにございます」
此処までは予想していたのか、その表情にはやはり焦りは見えない。
「そういった者にどのような学を与えるのだ?」
「私は朱子学者なれば、やはりそれしかお教えすることは出来ません」
儒学者とは名乗らない、か。正史では羅山は儒学の一体系である朱子学を主導し、他の諸派を非難するような行動を取っている。そして、それが江戸幕府の指針となった。
「それは是非俺も聞いてみたいな。しばらくこの大阪に留まるが良い」
「・・・・・・それは、某を幽閉すると言う事ですかな?」
「いいや、軟禁だ。それに罪を裁こうと言うんじゃない。俺の教師としての滞在だからな」
そうすることで天海たちの動きを速めることが出来るはず。まず間違いなく、羅山は彼等のブレーンとなっているはずなのだ。
「・・・・・・それとな、永田徳本を知っているか?」
「ははっ! かつて某が医の道を目指した際の師であれば」
「此処に呼びたい」
羅山を軟禁する理由は此処にもある。権威を気にしない徳本を呼び出すのに師弟の情を用いるために。
「ふむ、御典医様がおわしますのに何故でございますか?」
「医者を呼ぶ理由など、そう多くはないだろう?」
ギロリと睨みつける。一体何が弱みに取られるか分からない以上は、下手にばらすわけにもいかないのだ。
「どなたを?」
「羅山。好奇心は猫を殺すと言う言葉を知っているか?」
「いえ」
「南蛮の諺だそうだ。覚えておくと良い」
それだけを言い残し、評定の間を出る。次は浪人達を明で役立てるための法整備。中々に忙しい。
見れば天下人の前だと言うのに涼しい顔で屹然としている。
天下人批判と取れる説を堂々と述べるだけはあると言う事か。
「お前が林羅山だな?」
「はっ! 仰る通りで、お目通りが叶いました事、恐悦至極にございます」
お互いがお互いを観察するように、しばらくは無言で見つめる。
「俺の治世を批判しているとか?」
「いいえ」
俺の質問にはキッパリと否定してくる。その様子に焦りも何もなく、ただ真っすぐに。
「『上下定分の理』は天地の別になぞらえて君臣の別を唱えたもの。それはその生まれから発生いたします。すなわち富貴に産まれた者はそうあり、そうでない者はそうあらねばならない。富めるように努力を怠ってはならないが、君臣の別を越えようとしてはならぬと説いた理にございます」
「その理から行けば、まさに俺はその君臣の別を越えたのではないか?」
そう、俺も元は天皇陛下の配下であったのだ。実質的な意味合いでは逆になったとしてもだ。
「然り。ただし、陛下は生まれつきの天下人にございます。ともすればそれは皇族であるよりも尊い。そして、藤原の姓を持つ関白殿下を父に持つ陛下は、孫を天皇にすることも可能です。つまり、本当の天下人にあらせられます」
孫を天皇に? 確かに摂関家であれば、皇族に嫁を出すことが出来る。それこそお梅を・・・・・・。うん、無い。
「ですが、それではご満足されず、陛下は皇帝と言う新しい御身分に就かれた。・・・・・・ただし、豊臣の姓を捨てぬままに」
豊臣は近衛の猶子となった父上が朝臣として名乗った姓。つまり、これを名乗る以上は表向き俺はまだ朝臣であると言う事、天皇陛下の臣であると言う事だ。
「それを捨てぬから『上下定分の理』に反さぬと?」
「逆でございます。朝廷は数百年も昔から、疾うに実社会と別の世界。有名無実であるなら、それを残すべきではないかと」
「つまり、豊臣の姓を未だ名乗る事には批判がある、と?」
「ははっ!」
言うことが分からないわけではない。二元制を取ってから、俺はずっと天皇と同列と言う形になっている。むしろ、豊臣の姓だけが浮いているのだ。おもむろに立ち上がり、背後の床の間に飾られた刀を見れば、その鞘には金の五七桐が輝いている。
「・・・・・・俺は豊臣が好きなんだよ」
「は?」
「父が農民から少しずつ命を懸け、必死に。そうして上り詰めた立場が豊臣だ。この姓を名乗る時、何時も父上が見守っていてくれる気がする。だからな、この姓を手放すつもりはない。この姓はそれこそ俺が天下人として産まれた証だ」
結局はただの感傷。それでも、必要なことなのだ。
「さて、それについてはもうそれで良い。だが、お前の『上下定分の理』は世の反乱分子達にとってとても都合の良いものだ」
「・・・・・・某を罰しますかな?」
「お前を罰したところで、書いた本は既に出回っている。大した数ではないが、同時に反乱分子どもに火を点けるには十分」
今の時代、印刷技術はないので人力による写本がその全てになる。労力と費用が掛かるが、それでもそれなりの数になると言う事は人気があると言う事だ。
「お前の処に出入りしている者が多くなっているそうだな?」
「皆、学を求めているだけにございます」
此処までは予想していたのか、その表情にはやはり焦りは見えない。
「そういった者にどのような学を与えるのだ?」
「私は朱子学者なれば、やはりそれしかお教えすることは出来ません」
儒学者とは名乗らない、か。正史では羅山は儒学の一体系である朱子学を主導し、他の諸派を非難するような行動を取っている。そして、それが江戸幕府の指針となった。
「それは是非俺も聞いてみたいな。しばらくこの大阪に留まるが良い」
「・・・・・・それは、某を幽閉すると言う事ですかな?」
「いいや、軟禁だ。それに罪を裁こうと言うんじゃない。俺の教師としての滞在だからな」
そうすることで天海たちの動きを速めることが出来るはず。まず間違いなく、羅山は彼等のブレーンとなっているはずなのだ。
「・・・・・・それとな、永田徳本を知っているか?」
「ははっ! かつて某が医の道を目指した際の師であれば」
「此処に呼びたい」
羅山を軟禁する理由は此処にもある。権威を気にしない徳本を呼び出すのに師弟の情を用いるために。
「ふむ、御典医様がおわしますのに何故でございますか?」
「医者を呼ぶ理由など、そう多くはないだろう?」
ギロリと睨みつける。一体何が弱みに取られるか分からない以上は、下手にばらすわけにもいかないのだ。
「どなたを?」
「羅山。好奇心は猫を殺すと言う言葉を知っているか?」
「いえ」
「南蛮の諺だそうだ。覚えておくと良い」
それだけを言い残し、評定の間を出る。次は浪人達を明で役立てるための法整備。中々に忙しい。
0
お気に入りに追加
876
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる