関白の息子!

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千姫ルート 上海要塞防衛戦

大和乗船(エロ度☆☆☆☆☆)

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(千姫ルートは三人称(神視点)になります)

 秀頼と別れ、来た道を戻る様にして千姫一行は名護屋港に向かう。
 そうして辿り着いた港には、予定よりも出向を遅らせて待っていてくれた大和が控えている。

「さあ、参りましょう!」

 意気揚々と言うと、やはり語弊があるだろうが、それでも千姫の表情は昨日までのそれとは180度正反対に、その瞳には活力に溢れていた。
 しかし、その隣にいるお麟の方は、逆にこれから始まる苦難を想定して苦々しいものである。

「・・・・・・皇后様、分かっておいでですか? これからの戦、成功する確率は十に一つも無い微かな希望なんですよ?」

 お麟としては、少し気を引き締めろと言うだけのつもりであった。
 だが、同時に彼女は千姫のその姿が酷く不思議に思えていたのだ。
 見た目こそお麟は五歳で、千姫は一四歳と十近くも年が離れている。
 しかし、前世の知識を合わせれば、お麟の経験は四十近くにもなる。

 その小さな肩に家族、いや、一族の命運を背負っているというのに、どうして明るいままでいられるのだろう。
 それが不思議でたまらなかった。

 ここに来るまでの間、失望する千姫を励ますために共に籠に乗ったと言うのに、聞かされたのは秀頼との惚気話ばかり。
 お麟としてはうんざりするばかりで、失望するどころか希望に満ち溢れているといった風な千姫が、現実を直視できていないのではないかと疑ったほどだ。

 なぜなら、お麟はその前世で多くの人々の人生を見てきた。
 人生を見てきたのだ。
 生を受けて、死んでいくのを。
 もっとも、そのほとんどは遊女や、それが産み落とした望まれない者たちだったが・・・・・・。

 遊女の中には落ちぶれた華族の娘が、高級娼婦として家族のために身体を売るという者達もいた。
 彼女達も千姫と大差なく、高貴な身分で上品に育てられてきたのだろう。
 だが、その多くは慣れない体力仕事に、それも娼婦と言う女として忌み嫌われる仕事に就き、心身ともにすり減らし、数年で病を得て死んでいった。

 彼女達を憐れと思ったことは無い。
 何故なら、立場は違えど自分自身も身売りされ、金と引き換えに股を開いてきたからだ。
 良い客もいれば悪い客もいる。
 ただし、わざわざ高額で技術も無い華族の娘を抱きたいという者などは、そのほとんどが歪な欲望を抱いた悪い客。
 その一点だけには少しだけ憐憫は覚えど、同時にただその身分だけで高い金を得られるのだからそれも悪いことばかりではないとも思えた。

 ただ、それでもやはり印象的なのは、彼女達はどこか普通の娘とは違ったこと。
 売られてきた当初の表情がやはり違うのだ。
 普通の娘なら親に売られたという事実に、絶望に染まった表情の中で少しでも長く生きるためにもがく。
 でも、華族の娘達は一族のために稼ぐと、最初は悲壮な決意を固めたような表情だったのだ。
 もっとも、その多くは一月も経たぬうちに普通の娘よりも早く憔悴していくが・・・・・・。

 もちろん、状況は大きく異なる。
 だとしても、一族と言う重すぎる荷を背負いながら、どうしてそこまで明るくいられるのか。

「私ね、昨日までもうダメだって思ってたの」

 その表情のままで、千姫がお麟の戸惑いを察したように話しかけてくる。
 屈みこみ、目線を合わせ、自分を理解してもらおうとするように。

「でも、それが例え僅かだったとしても、可能性が見えたの。陛下と一緒にいられる。しばらく会えてもいないけれど、家族も助けられるかもしれない。希望があるだけで十分だよ。それだけで私は前を見ていられる。だって陛下は天下人なんだよ?」

 ハッキリと断言する千姫に、お麟は眩しいものでも見た心地になり、直視することも出来ずにそっと視線を反らす。

「・・・・・・同じ女とは思えません」

 ポソリと呟いたのは紛れもない本心。
 それは家族に商品として売られ、商品として人間を捨てたお麟自身の嫉妬に近い感情だったのだろう。

 秀頼に買われた今は、一応娼婦ではない。
 請われれば何時でもなんでもするしかないとは言え、たかが五歳。
 おまけに秀頼は今は千姫のことだけしか見えていない。
 千姫に嫌われるかもしれないことは一切しないのではないだろうか。

 だが、お麟をどうしても縛るのは過去の記憶。
 もう終わった話。
 だと言うのに、娼婦としての記憶、その穢れは今もお麟を苦しめる。
 だから、別の事に逃げる様に学を求めるのかもしれない。

「お麟ちゃん?」

「いえ。・・・・・・さ、乗船しましょう」

 気を取り直し、目の前の大和を見上げる。
 ふと見れば同様にして千姫も大和を見上げている。
 その顔つきは何処か先程よりも凛々しく、やはり持って産まれたものが違うのだと実感させられてしまう。

「この船で南京へ――」

「いえ、違います。大和で行くのは上海までです」

 ところが、千姫が決意めいて発した言葉は直ぐにお麟に訂正されてしまう。

 惚気話ばかりで、輿の中で戦略を話せなかったのが悪かったのだ。
 おまけに二人とも前日は徹夜だったので、途中で疲れて寝てしまっていた。

「・・・・・・え?」

「まぁ、どうせ船の中で一日以上話す時間があります。後ほどゆっくりご説明さしあげますが、戦略上先ずは南京の兵力を減らす必要があるのです」

「先に敵に上海を攻めてもらい、敵兵の数を減らす?」

「はい。そうでもしなければ、想定されている十倍以上の兵力を誇る明軍とは戦えません。また、時間を稼がなければ、こちら側の仕込みも上手く機能しません。その仕込みのためにも陛下は大阪に戻られたのですから」

 ただし、その仕込みも果たして明国に通用するかどうか。
 そもそも明国がその気になれば、今上海にいる総兵力のゆうに三十倍は動員できる。
 そうなってしまえば、たとえ技術に優っていたとしても対抗は出来ないだろう。
 先日の黄海での戦勝も含め、そんな出費を明が払えるわけがないと思いつつも、どうしても不安が頭をよぎる。

「信じよう、お麟ちゃん。私達はきっと出来る。陛下が助けてくれる。だからきっと大丈夫! そう思えば最後まで戦えるんだから!」

「・・・・・・はい」

 少しだけはにかみながらお麟も答える。
 しかし、千姫が踏み出した一歩にお麟は続くことが出来なかった。

 何故ならお麟にはそこはまだ高すぎたから。

「はい。お麟ちゃんお手て繋いで」

「・・・・・・うぅ、すいません」

 己の小さな身体を呪いつつ、千姫の差し出した手を握り、大和に乗るための段差を昇る。
 お麟の身体には高すぎる段差を。

「千姫様、私も戦います。この戦いが終わったら、私の戦いを」

 千姫の決意に押され、お麟も誓う。
 お麟の戦いがなんなのか、千姫はもちろん知らない。
 ただ何時もよりもずっと清々しい表情を浮かべたお麟を見て、なにかを吹っ切ったのだろうとは感じられた。

「・・・・・・うん、きっと私も応援するね」

 素直にこの可愛らしい参謀の変化を好ましく思いながら、千姫達は大和に乗り込んだ。

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