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6.一瞬の油断は、致命的なミスにつながる

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「いきなりなにするんだよっ?!」
 今の障壁にぶち当たった魔力の波は、あきらかにオレの後ろにいる生徒を狙ったものだった。
 見逃すと言った矢先のそれに、オレは抗議の声をあげる。

「さぁ?僕はただ、君との逢瀬をジャマする無粋なものを排除しようとしただけさ。そこの無謀な少年のような、ね」
 その指の差す先にいたのは、剣をかまえたガウディオだった。

「バカ野郎!てめぇらじゃ敵いっこない相手を、うかつに刺激すんじゃねぇ!」
「でも、俺たちは勇者候補生なんだ……!!」
 怒鳴りつければ、ふるえる声がかえってくる。

「そうよ、私たちは勇者になるためにここで学んでいるの!魔王が怖いなんて言ってられるもんですか!」
 ガウディオのセリフに、立ち上がったナタリアまでもが杖をかまえた。
 その姿を見たほかの生徒たちまで、次々と立ち上がってそれぞれの武器をかまえていく。

 たしかに強敵を前にしても、怖いと思う気持ちを抑え込み、立ち向かうことができるのは勇者として適した性質なのかもしれない。
 まして周囲をその言動だけで奮い立たせるなんて、立派な才能だ。
 だけど、この場においては最悪の選択肢だとしか言いようがなかった。

「へぇ、おもしろい。君たちのような羽虫にも、一応のプライドはあるんだね?」
 キュッと目を細めたシエルは実に楽しそうな表情を浮かべると、次々とランダムに稲妻を落としはじめる。

「きゃあ!!」
「うわぁっ!!」
 その雷光は、飲み込まれようものなら、人のからだなどチリひとつ残さずに消してしまえるほどに強いものだ。

 ゴロゴロという雷鳴のとどろきに空気はふるえ、ピシャーンと高い音を立てて落ちるたびに感じる地響きは、いっそ地震のようでもある。
 それによって起こる副次的な突風に、目を開けているのも大変だった。

「くっ……!」
 悲鳴をあげる生徒たちを守るため、オレにできるのは彼らを包む障壁を張りつづけることだけだった。
 けれど生徒たちの人数は多く、さらにそこから逃げまどうものだから、とにかく広範囲に障壁を張るしかなかったせいで、ムダに魔力が消費される。

「うーん……まぁ、こんなものかな?」
「ったく、冗談キツいぜ……また強くなってんじゃねぇか!」
 おかげでシエルが満足するころには、俺の息もすっかりあがっていた。

「そんな僕の攻撃を全部防ぎきるんだから、やっぱり君は最高だよ、リアルト」
「あたりまえだろ、一撃でもかすったら死ぬだろうがっ!」
 さっきまでは鬱蒼とした樹木が生い繁り、薄暗かったはずのライデンの森は焼け焦げ、今やすっかり見とおしのいい更地と化していた。

 一面にただよう落雷により焼けた樹木のにおいと、その余波の熱さに顔をしかめる。
 でも、幸いにしてオレの生徒たちは全員無事だった。
 ……ならばあとは、ここから安全なところに移すだけだ。

「転移方陣、発動!」
「えっ、ぼっちセンセ!?」
 シエルがオレのほうを向き、生徒たちから目を離した一瞬の隙をつき、ひそかに準備していた魔法を発動させれば、障壁内はまばゆい光に満たされる。

 座標は勇者学校の校舎内へと設定して、ここにいる生徒たちを全員強制的に転移させる。
 こうした多人数の転移なんて、本来ならきちんとした呪文の詠唱をして、複数人で行うくらいに大変な術式だったけど、今はそうも言ってられない。

「っ、クソ……」
「……ずいぶんと無茶をするね、君は」
 無事に生徒たちを転移させたところで、ドッと失われる魔力に立ちくらみを起こしかけ、オレは気がつけば空に浮かんだシエルに支えられていた。

「うるせー、あいつらがいたら、ジャマになんだろうが!」
 わざと悪態をつけば、相手がフッと笑いを浮かべるのが見える。
「まったく、君はすなおじゃないな。まぁ、そんなところもふくめて、すべてが愛しいんだけどね?」

 片腕はこちらの背中にまわされたまま、もう片方の手が頬にそえられ、ゆっくりと笑みを浮かべたままの顔が近づいてくる。
 うわ、ヤベェ、キスされる……!
 とっさに目をつむってしまってから、その直後、己の失敗を悟った。

「───ゆっくりとお休み、我が愛しの白百合よ」
 その声を聞いた瞬間、ひざの力は抜け、意識が闇に塗りつぶされる。
「次に目が覚めたときには、きっと…………」
 耳もとでささやくような声を、それ以上聞き取ることはできなかった。
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