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147:近くて遠い懲罰房

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 正直、学校の敷地内にこんな建物があるなんて思ってもみなかった。
 いや、建物というか、入り口こそ地上にあるものの、実際の構造は地下に向かって広がっているのだけど。

 ここは、ウワサの懲罰房だ。
 例の温室なんかもある裏庭の端に位置する、生徒の使える校舎の出入り口とは反対側の、教員専用出入り口に隣接する小さな小屋がその入り口だった。

 これなら生徒が見たところで、外見はただの掃除道具入れ程度の倉庫にしか見えないだろう。
 まさか鍵のかかった扉をあけた先に、いきなり地下への階段があるなんて、思うハズもなかった。

 ちなみに、その鍵を借りるのは思った以上に簡単だった。
 今なかにいるブレイン殿下に至急の用事があると言って、リオン殿下が鍵を管理する事務局に立ち寄るだけで、あっさりと手に入るなんて。
 ……さすがは王族と言うべきか。

 おどろいたその気持ちのままに『さすがです、リオン殿下!』と褒め称えれば、『どうだ、ちゃんと役に立っただろう!?』なんて胸を張ってドヤ顔をしてくるから、たまったもんじゃなかった。
 たぶん、ファン垂涎の新たな表情だ。

 ゲーム本編ではいつでも俺様キャラで、たまにデレることはあっても、不遜な態度をくずさないのが、リオン殿下なのに。
 なんていうか、急に弟然としたヤンチャキャラになったみたいに見えてきて。
 しかもこれがまた妙にかわいくて、つい甘やかしてやりたくなるから困るんだよ。

 だって、俺はしがない伯爵家の次男にすぎなくて、相手はこの国の王子様なんだぞ?!
 なんならよしよしと、あたまをなでてやりたくなってしまうけど、実際にするわけにはいかないだろ!
 どうかんがえても、俺のほうこそ不遜になってしまう。

 なのにビミョーな顔をしていたら、うっかりリオン殿下から追及されて、今なにをかんがえていたのかを白状させられてしまった。
 そうしたら、なにが起きたと思う?

 なんとリオン殿下は俺の腕をつかむと、強制的にそのきれいな金髪の上へと持っていったんだ。
 つまり、あたまをなでろ、ということらしい。

 えぇ、そりゃもう、全力でかわいがらせてもらいましたよ!
 毒を食らわば皿まで、だ!!
 ファンから怒られそうな───なんなら呪われてもおかしくないようなその役得の結果得た知見は、ブレイン殿下とリオン殿下の髪質はけっこう似てるということだったのは、ナイショにしておきたいと思う。

 と、それはさておき。
 今は鍵を持つリオン殿下に先導され、懲罰房のなかへと入ってきていた。
 一応魔法のランタンがついているから、足もとが見えないなんてこともなく、それなりに明るくはなっているけれど。

 でも石造りの階段は、一段降りるごとにコツコツと足音がやけに響いてきこえ、ひんやりとした空気は、ほんの少しだけ湿った感じがして、わけもなく怖くなる。
 思わずつかんでいた腕に、ぎゅっとしがみついてしまった。

「大丈夫か?顔色がまた悪くなってきてるが……」
 そのとたんに、立ち止まり、そっと俺のほっぺたに手をのばしてきた相手───『うちの子』セブンから心配される。

「だ、大丈夫!体調は問題ないから心配するなって、セブン!」
「本当にそうか?何度も言っているが、あんたひとりなら、かかえたところで全然問題ないんだからな?」
 あわてて否定したところで、少し下の位置にある相手の目からはジッとこちらを見つめ、探るような気配が伝わってくる。

 うん、さすがはうちの子、男前~!!
 俺はいたって健康な男子なんだし、身長だって平均以上にある。
 ふつうにかんがえたら、それなりに重量はあるだろうに、全然問題ないとかどんだけだよ、もう……っ!

 ───じゃなくて!
 ホント、すぐに脱線しそうになるのは、俺の悪いクセだ。

「おいそこ、もうすぐ兄上のところに行くんだから、そんなイチャついてるんじゃないぞ?!」
 そんなことをしていたら、俺がなにかセブンに言おうとする前に、前を歩くリオン殿下からツッコミが入る。

「そんな、イチャついてなんてないですってば!」
「失礼ながらこれしきのこと、日常のじゃれあいにすぎませんから」
 俺があわてていいわけをする横で、さらりとセブンがマウントを取っているのは気のせいだろうか?

 案の定、リオン殿下の顔がムッとしたようにゆがむ。
 たぶんあれですよね、セブンさんや。
 さっきリオン殿下が、俺に強制的にあたまをなでさせたの、若干根に持ってますよね??

「はいはい、セブンもせっかくリオン殿下が注意喚起してくださったんだから、ありがたく受け取ろうな?」
 ワシワシと横にある黒髪をなでれば、とたんにトケトゲしい空気は消え失せる。

「リオン殿下もフォローありがとうございます。さすがはご兄弟だけに、よくご存じですね」
「ま、まぁな!」
 すかさずリオン殿下にも話を振れば、とたんにそちらも照れたように空気が一変した。

 なんだかなぁ、もう。
 友だちが増えたというよりは、一気に弟が増えたみたいになってんじゃん。
 ……しかも困ったことに、若干ブラコン気味な。

 いや、うん、ちがうな。
 単純に慕われるのは、悪い気はしないんだけど。
 むしろこれで正々堂々とかわいがれるようになるなら、これもアリというか。

 でも、ひとつだけ言わせてほしい。
 君たちのせいで目的の部屋まで、なかなかたどり着けないんですけどもー!?

 懲罰房自体の位置は、思ったよりも遠くはなかったし、なんなら近いくらいに感じたけれど。
 さっきからこんな感じに、ちょいちょいリオン殿下とセブンによるマウントの取り合いみたいになるせいで、そのたびに歩みが止まるんだ。

 ひょっとしたら、俺は自分で思うより具合の悪そうな見た目をしていて、それで休憩を挟ませる目的でわざとそうしてるとかなのかもしれないけど。
 だとしたら、めちゃくちゃやさしいな?!
 ありがとう、うちの子たち!!ってなるけどさ。

 でも俺としては、今は一刻もはやくブレイン殿下のもとへ行きマオトへの誤解を解きたいし、なによりロコトに入れ知恵をした相手についてたずねたかった。
 それこそが、この世界に侵食し、腐った世界に書き換えを行った犯人へと至るための近道なんだから。

 と、そのときだった。
 ふいに遠くから、人の話し声が聞こえてきた。
 それはどこか不穏な空気をはらみ、怒鳴り声のようにも聞こえたのだった。
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