上 下
144 / 188

144:うちの子と俺の距離は近いらしい

しおりを挟む
 いや、ちょっとだけ気まずい。
 俺からしてみれば、セブンはかわいい我が子みたいなものだけど、向こうはそんなこと知らないんだもんな?
 あらためて、そこら辺は気をつけなければいけないよな……。

「───本当にいいのか、セブン?」
 必死になってテイラーらしい、無表情に近い顔を取りつくろおうとしたけれど、はたして本当にできていただろうか?

「あぁ、どうせあんたは止めてもムダなんだろ?だったら下手に反対するより、オレがそばについててやったほうが、あんたを守ってやれるからな」
 うっ、うちの子が男前すぎる……!!
 ダメだ、こんなのホレるの不可避だろ!

「ありがとう、セブン……!」
「別に……」
 あふれる感謝をおさえきれずにお礼を言えば、いかにもなこたえがかえされた。
 出た、ツンデレ!
 これぞセブンって感じがするよな~!

 照れたようにかすかにほっぺたを赤くして、そっぽを向くセブンは、あまりにも公式ツンデレ気味設定のとおりで、いとおしさがあふれかえってしまいそうだった。
 あーもう、うちの子最高すぎるだろ!!

「なるほど……そういうことなら俺も付き添おう。これでも王族のひとりだからな、俺がついていれば、たいていの場所は自由に行けるだろう」
「えぇっ!?よろしいんですか?」
「あぁ、かまわん」
 そんなふうにデレデレしていたら、今度はリオン殿下までもが乗ってきた。

「ンー、医者としては体力も回復しきってナイときに、歩きまわルのはオススメできナインだけどネェ……あのネ、さっきは『強めの薬』って言ッタけど、麻痺薬なンて強すぎてほとんど毒に近かッタンだヨ?」
 ひと目で心配しているのがわかるような、そんな顔と口調で説明される。

 でもあのとき『毒じゃない』って、ロコトは言ってたハズなのに……?
 てことは、ロコトもだまされてたってことなのか?

 そうして説明されたのを聞けば、どうやら俺が嗅がされたのは、主に麻痺の効果がある薬品と強めの睡眠薬をまぜたものだったらしい。
 若干言葉は濁されていたけれど、既存のものではなさそうというか、出どころが不明のものみたいだしな。

 そりゃそうか、もし俺の推測があたっているなら、それを用意したのは『魅了香チャーム・パフューム』なんて見知らぬ危険な薬物を、この世界に持ち込みやがった侵食者だもんな?
 既存の薬品類とは、成分構成がちがっていてもあたりまえだ。

 ちなみに、そんな未知の薬品にまぜられていた麻痺薬のほうは、かなり違法瀬戸際な材料で作られていて、放っておけば俺は呼吸困難に陥っていたかもしれないということらしかった。

 ───それ、麻痺薬どころか、もはや神経毒に近いモンなんじゃねぇの!?
 あらためて突きつけられた現実に、背すじがゾッとする。

 あまりのことに血の気が引き、一度はセラーノ先生にからかわれたおかげでもどった顔色も、心なしかふたたび悪くなってしまったような気もする。
 いや、それでも懲罰房には、行かなきゃなんないんだけども。

「安心しろ、テイラーが自分で歩けなかったとしても、オレがかかえて行けばいいだけの話だ」
「えっ……?ちょっと待って!?」
 さらりとなんでもないことのようにかえすセブンの発言は、しかし聞き逃すわけにいかなかった。

「遠慮するな、あんたくらいなら余裕で抱きあげられる。前に一度そうしたことがあったが、まったく問題なかった」
「えっ??はっ??!」
 いや、待てって、かかえて行くってどういうことだよ!?

 それに『前に一度そうしたことがあった』って、たぶん授業中のボールぶつかり事件のときのことだよな!?
 あれってたしか、俺のこと保健室までセブンがお姫さま抱っこで運んだとか言ってなかったか??

「~~っ、歩いてく!ちゃんと自分で歩けるからな!?」
「あんたを守るのはオレの役目だし、ワガママも言っていい。遠慮なんてするな。オレはあんたよりも背は低いかもしれないが、体力的な意味では、まったくもって余裕だぞ?」
 冗談じゃないと拒否すれば、とんでもないトキメキ爆弾なセリフがかえされる。

「あああ、もうっ!セブンのそういうとこ、男前でカッコいいと思うけどさ!俺にも男としてのプライドってモンがあるんだよ!」
「むぅ、そういうことなら仕方ないが……」
 ちょっとセブンさんや、そこでなんで残念そうにしてんだよ?!

「とにかくっ、心配でも肩貸してくれれば、それだけでいいからっ!」
「承知した。まかせとけ、必ずあんたを紫殿下のもとまで無事に連れていってやるさ」
 うっ、やっぱりうちの子、カッコよすぎだろ!!

 そうして、なんとか自力歩行を勝ち取ったところで、ふとこちらにたいして妙な視線がふりそそいでいることに気がついた。

「ん?どうしたんだ、みんな?」
 視線の主は、ジミーとカイエン、そしてリオン殿下だった。
 それぞれがあっけに取られたような、そんな顔をしている。

「いや……なんていうか、テイラーとセブンて、めっちゃ仲いいんだな?!なんかズルくねぇ!?」
 そんななか、真っ先にジミーが声をあげた。
 えぇっ、ズルいって、どういう意味だ?

「だってさ、こんなかじゃオレがいちばんテイラーとの付き合い長いんだよ?!なのに、これまで全然笑顔とか見たことなかったし、カッコいいとかほめられたこともないし!!セブンばっかり、ズリィよ!」
「なんだよ、それ」
 子どもみたいに、ほっぺたをふくらませて文句を言うジミーに、思わず苦笑がもれる。

「それなっ!!なんとなく最近仲よさげなのは知ってたけど、ふたりでいるとおたがいに自然と表情が豊かになるってか……ぶっちゃけふたりだけの世界になってて妬けるんだよな!」
「カイエンまで、なに言ってんだよ!?」
 ふたりだけの世界なんて、作ったつもりないんだけども??

「だってさぁ、こういう話したとき、前までならセブンは我関せずって顔してたと思うのに、見ろよあの顔!」
「うん……?」
 はてなマークを飛ばしまくる俺を見かねたのか、カイエンが解説をしてくれたものの、その内容はだいぶ想定外なものだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL
オメガバースBLです。 受けが妊娠しますので、ご注意下さい。 コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。 ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。 アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。 ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。 菊島 華 (きくしま はな)   受 両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。 森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄  森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。 森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟 森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。 健司と裕司は二卵性の双子です。 オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。 男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。 アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。 その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。 この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。 また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。 独自解釈している設定があります。 第二部にて息子達とその恋人達です。 長男 咲也 (さくや) 次男 伊吹 (いぶき) 三男 開斗 (かいと) 咲也の恋人 朝陽 (あさひ) 伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう) 開斗の恋人 アイ・ミイ 本編完結しています。 今後は短編を更新する予定です。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

BL
公爵家の長女、アイリス 国で一番と言われる第一王子の妻で、周りからは“悪女”と呼ばれている それが「私」……いや、 それが今の「僕」 僕は10年前の事故で行方不明になった姉の代わりに、愛する人の元へ嫁ぐ 前世にプレイしていた乙女ゲームの世界のバグになった僕は、僕の2回目の人生を狂わせた実父である公爵へと復讐を決意する 復讐を遂げるまではなんとか男である事を隠して生き延び、そして、僕の死刑の時には公爵を道連れにする そう思った矢先に、夫の弟である第二王子に正体がバレてしまい……⁉︎ 切なく甘い新感覚転生BL! 下記の内容を含みます ・差別表現 ・嘔吐 ・座薬 ・R-18❇︎ 130話少し前のエリーサイド小説も投稿しています。(百合) 《イラスト》黒咲留時(@black_illust) ※流血表現、死ネタを含みます ※誤字脱字は教えて頂けると嬉しいです ※感想なども頂けると跳んで喜びます! ※恋愛描写は少なめですが、終盤に詰め込む予定です ※若干の百合要素を含みます

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

副会長様は平凡を望む

BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー 『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』 …は? 「え、無理です」 丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。

処理中です...