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127:『世界の理』攻略の鍵は世界観の考察にあり

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 突如として差し込んできた光明のきざし、それが俺にとってどれほどの朗報をもたらすのか、確固たる証拠がないうちは、ぬかよろこびになる可能性も否定できないけれど。
 それでもそこに、一縷の望みをかけたかった。

 ───あぁ、クソッ!
 全然かんがえがまとまらない。
 なにを基準に、原作からの改変が容認されているのか、その見極めがむずかしすぎる!

 あたまをかきむしりたくなるのをグッとこらえ、くちびるを噛みしめる。
 本来この世界は乙女ゲームの世界であって、推理ものでもなんでもないハズなのに……!!

 でもここがゲームの世界だからこそ、なんらかの法則性があるにちがいない。
 だって『』たちスタッフは、そういう緻密な計算をしたうえで、最初にこのゲームを作ったんだから。

 ちゃんとかんがえろ、かんがえればきっとこたえにたどり着けるハズだ!
 そう己を叱咤して、思考のうずへと没入していく。

 ───さっきも感じたけれど、『世界のことわり』が自ら整合性を取ろうとする意志のようなものは、なかなかに固いものだと思う。
 そう思うからこそ、それに勝負を挑み、なおかつ攻略するためには、その整合性の許容範囲を正しく把握しないといけない。

 だって、攻略対象キャラクターのひとりであるパレルモ様の取りまきにすぎないテイラーが、おなじく───こちらは攻略対象キャラクターだけれども、ブレイン殿下とのハッピーエンドを目指そうとするなんて、『世界の理』に真っ向から勝負を挑むようなものだろ!

 この世界の本懐は、女神の祝福を受けた『星華せいか乙女おとめ』たるヒロインが、攻略対象キャラクターと結ばれるのに尽きるのだから。
 ならば、まず前提となるこの世界の話から整理していくのがいいだろうか?

 もちろんここは、すべての『星華せいかとき』の大元となる世界───つまりは、さまざまなメディアミックスだの二次創作だのと展開を見せる作品の原点にある、乙女ゲームの世界ということになる。

 その大まかなストーリーはといえば、ヒロインが攻略対象となるキャラクターからの好感度をあげ、一定値を越えたところからそれぞれの分岐ルートに入っていくという恋愛シミュレーションゲームお約束のヤツだ。

 そのヒロインは、あまり裕福ではないパプリカ男爵家のご令嬢であり、領地換えを命じられた親の都合で王都近くへ越してきたことで、この学校に転入することになったところからはじまる。
 もちろん田舎者ゆえの不調法なところはあれど、その純粋さや心の美しさにほだされ、各攻略対象キャラクターはベルに惚れていくわけで。

 いくら前提となる父親の領地換えにともなってやってきたからといっても、あんなふうに人を陥れようとするヤツをヒロインとは認められるものか!
 俺たちの前にあらわれて、やりたい放題ヤラカシて懲罰房へと入れられた少年クソガキは、断じてこの世界の『ベル・パプリカ』なんかじゃない!!

 なにより俺が認めないというよりも先に、絶対に『世界の理』が、彼を主人公のベルとは認めないだろう。

 ……というか、ぶっちゃけヒロインの性別変更って、前に一度俺が『世界創造者ワールドクリエイター』の権能で却下しているハズだよな……?
 たしかそのときに、『期限までに修正案を出せ』って意味合いのアナウンスを聞いた気がする。

 はたしてその修正が指定の期限内に間に合ったのかどうか、残念ながらそこはわからないんだけど……。
 修正案の受理をしたってアナウンスは、聞いたおぼえがないし、仮に遠いところにいれば聞こえないみたいだから、なんとも言えない。

 そうかんがえると、ここはまだ本編のゲームがはじまる前のカウントになるんだろうか?
 本来の設定では、あの少年ベルが転校してきたタイミングが本編のスタートするタイミングではあるけれど……。

 でも、たぶん大丈夫だ。
 シナリオ上のイベントは、だいたい今の時期にあっておかしくないものばかりだし、わりと日常に溶け込む内容になっている。

 とりわけ初期はシステム上、選択肢を変えることで出会う順番が異なるものの、必ずといっていいくらいの確率で全部の攻略対象キャラクターとの出会いイベントが発生するようにできているんだから、問題ないに決まってる。

 仮に出会いイベ以降に曜日を指定したものがあったとしても、それが翌週にズレ込んでも問題ないくらいのバッファは取っているハズだし。
 動かしようもない特定の日を指定したイベントになっているのなんて、ラスト近くの分岐後ルートだけだもんな?

 ───つまり、まだ間に合う。

 そうかんがえたなら、やはりあのベル少年には、早めにお引き取り願わねばならない。
 一刻も早く、物語を正常なルートへと引きもどさないと!

「───ラー!ねぇ、テイラーってば!」
「え?」
 腕をつかんでゆさぶられ、ハッと気づいた。
 かんがえこみすぎて、だいぶ時間が経っていたらしい。

「悪りぃ、トイレ行ってくるから、そのあいだにパレルモ様が出てきたら、フォローよろしくな!?」
「あぁ、わかった。行ってこいよジミー、もらすなよ?」
「おう!……って、もらさないよ、バカ!」
 そんなやり取りをして、ジミーはあわてて廊下を走っていった。

「これは、いよいよもってこじらせたかな……」
 じんわりと痛みを訴えてくるかかとと、ふりかえった先にある窓の外のまぶしさを感じる景色とで、時間経過を知る。
 それでもまったく扉の向こうに反応がないということは、パレルモ様の落ち込みが相当なものということなのだろう。

「とりあえずジミーがもどってきたら、もう一度声をかけるか……」
 軽くため息をついた、そのときだった。
「その薄紫のカーディガン、貴様がダグラスだな?」
 ふいに横から声をかけられる。

「ふん、あのブレイン殿下が夢中だという話だから、どんな美少年なのかと思いきや……ハッ、たいした顔ではないではないか」
「あ?」
 あからさまに売られたそのケンカに、俺の機嫌は一気に急降下した。
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