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123:たまには逆に、甘やかしたい日もある
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俺にとっては、これから挑むべきはプライドをかけた負けられない戦いだし、やる気に満ちていたけれど、それとは逆にブレイン殿下にとっては落ち込んでしまうことだったらしい。
困ったような笑みをかすかに浮かべたまま、肩の力は抜けて、その姿はどう見ても───あきらかにしょげていた。
それを目にした瞬間、ギュッとわしづかまれたみたいに、胸に痛みが走る。
あぁ、そうだよ!
今の俺にとっては、この人が落ち込むほうがよっぽどダメージを喰らうんだってば!
この人には、いつでも自信に裏打ちされた強気でいてほしい、なんて思うし、なんとかして元気になってもらいたい。
そんな気持ちが、自然とあふれてくる。
「あーもう、本当に気になさらないでください!俺だって、負ける気ないですから!」
だいたい、あらかじめ負ける前提で挑む戦いなんて不毛すぎるだろ。
そう思うからこそ、まっすぐに相手の目を見て口にする。
「しかし……」
なおも言い淀むブレイン殿下の顔には、いつもの強気な色は見えなかった。
己が気軽に選択したことで、だれかの命が脅かされることもあるという事実が突きつけられたのは、相当衝撃だったんだろう。
とはいえ、なんていうかこれは……。
「放っておけないんだよなぁ……」
そんな言葉が、口をついて出る。
だって、こんな風に自分の選択に迷って弱っているブレイン殿下を見たら、ちゃんと年相応なところもあるんだって思えてきて。
その瞬間、胸のなかを愛おしさが満たしていく。
いつもは『王族たるもの迷うな、毅然としていろ』というこの王家の教えのとおりに、己の選択を悔いることがない彼は、つい本当の年齢よりも上に思えていた。
テイラーとしての意識とともにある『俺』の意識のせいで、本来ならこちらのほうが精神的には年上のハズなのに。
それこそ『上が迷えば、下の者たちはもっと迷ってしまうから』という理由で定められたその教えは、原作ゲームのスタッフ内でも共有された公式設定だ。
その教えを忠実に守ってきたブレイン殿下が今、守りきれずにいる理由をかんがえてみれば、まちがいなく俺が絡んでいるからだった。
……うん、なかなか愛されてるじゃん、俺。
それがわかったのなら、こちらがとれる選択肢なんて、決まったようなものだ。
そっと席を立つと、テーブルをはさんで反対側のブレイン殿下のもとへと歩いていく。
「あーもう、あなたは余計なことで悩みすぎなんですよ!」
横に立ったところで腕をのばし、椅子に腰かけ、うつむいて思案しているそのあたまごと、ぎゅっと抱きしめる。
「っ!?えっ?ちょっ……!?」
「はいはい、そこはもっと気を楽にしていきましょう」
とたんにビクッと肩をゆらしておどろくブレイン殿下をなだめるように、己の腕の力をゆるめると、心を満たす愛おしさのままにあたまをなでた。
艶やかな紫の髪は、やはりきちんと手入れをされているだけに、とても手ざわりがいい。
そしてひとしきりあたまをなでたあと、乱れた髪を直したところで、スッと身をかがめておでこに軽くキスをする。
まるで幼い子どもにするようなこれは、本来なら不敬と言われても仕方ないことかもしれないんだけど。
ついでに、おでことはいえ自分からキスをするのも、はずかしくてたまらない。
でもめずらしく相手が弱っている今だからこそ、存分に甘やかしてあげたかった。
「俺はあなたにふりまわされるの、嫌いじゃないですよ?……それに、俺にできることなら、なんでもしてあげたいって思うくらいには好きなつもりですけど」
だから自分がおかれた環境はさておき、恋人のふりをするのは、やぶさかではないのだと告げる。
どうだ、俺からデレるのなんて、めちゃくちゃ貴重なんだからな?!
……って、正直めちゃくちゃはずかしいし、言ってるそばから顔が熱くてたまらないんだけどさ。
「あ~~っ、もうっ!どうしてキミはマジメな顔で、そういう不意打ちみたいなことをするのかな!?」
気がつけば俺以上に顔を真っ赤にしたブレイン殿下に、みぞおちのあたりに顔をうずめて隠すみたいに全力でしがみつかれていた。
う~ん、これって一応、甘えてくれてるってことでいいのかな?
腰に手をまわしたまま、ぐりぐりと押しつけられるあたまは、きっと照れ隠しなんだと思う。
でも、その照れにしたって、本気で隠そうとしていないのは明らかだった。
だって、もしブレイン殿下がその気なら、きっと己の感情くらいは平然と抑えられる人のハズなんだ。
たとえ内心でどれだけ動揺しようとポーカーフェイスをつらぬけるし、こんな風に耳まで赤くなることなんてないと思う。
少なくとも、原作ゲームのなかでの彼は、王族としてそういう教育を受けてきたキャラクターとして設定されていた。
───つまり、こうやって己の弱いところもすなおに見せてくれるくらいには、俺のこと信頼してくれてるってことだろ?
それがなにより、うれしかった。
「いつもあなたには甘やかされてばかりなので、たまには逆もいいかなって。これでも幼いころからパレルモ様の面倒を見てきたおかげで、ワガママの対応にはなれてるんですから、もっと甘えてくれていいんですよ?」
努めてなんてことないような口調で、笑顔を見せる。
「そんな、『ワガママ』って、キミねぇ!」
ぎゅっと抱きしめていた腕の力を抜きながら、ブレイン殿下が言いかえしてくる。
そのほっぺたは、いまだに赤いままだった。
「んー、でも俺、本来は甘やかされるよりも、甘やかすほうが得意なんですよね……」
苦笑を浮かべつつ、そんな相手の真っ赤なほっぺたにやさしく触れる。
あぁ、こういう時間って、しあわせだなぁって、しみじみと思う。
……これが惚れた弱みってヤツなのかな?
うん、いつも見上げる位置にあるブレイン殿下の顔が俺よりも下に見えるってのも、なんだか新鮮だし。
というか、間近なところからその顔面の良さを浴びて、かえってまぶしさ倍増なだけの気もしなくはないけど。
「一応この件に関しては、まったく勝機が見えないってわけでもないですしね」
「……本当に?」
「えぇ、まぁ……」
疑わしそうに見上げてくるブレイン殿下の視線を受け止め、こっくりとうなずく。
無論、薄氷の上を渡るようなあやうさはあれど、それは『俺』だからこそ抱ける確信のようなものだった。
困ったような笑みをかすかに浮かべたまま、肩の力は抜けて、その姿はどう見ても───あきらかにしょげていた。
それを目にした瞬間、ギュッとわしづかまれたみたいに、胸に痛みが走る。
あぁ、そうだよ!
今の俺にとっては、この人が落ち込むほうがよっぽどダメージを喰らうんだってば!
この人には、いつでも自信に裏打ちされた強気でいてほしい、なんて思うし、なんとかして元気になってもらいたい。
そんな気持ちが、自然とあふれてくる。
「あーもう、本当に気になさらないでください!俺だって、負ける気ないですから!」
だいたい、あらかじめ負ける前提で挑む戦いなんて不毛すぎるだろ。
そう思うからこそ、まっすぐに相手の目を見て口にする。
「しかし……」
なおも言い淀むブレイン殿下の顔には、いつもの強気な色は見えなかった。
己が気軽に選択したことで、だれかの命が脅かされることもあるという事実が突きつけられたのは、相当衝撃だったんだろう。
とはいえ、なんていうかこれは……。
「放っておけないんだよなぁ……」
そんな言葉が、口をついて出る。
だって、こんな風に自分の選択に迷って弱っているブレイン殿下を見たら、ちゃんと年相応なところもあるんだって思えてきて。
その瞬間、胸のなかを愛おしさが満たしていく。
いつもは『王族たるもの迷うな、毅然としていろ』というこの王家の教えのとおりに、己の選択を悔いることがない彼は、つい本当の年齢よりも上に思えていた。
テイラーとしての意識とともにある『俺』の意識のせいで、本来ならこちらのほうが精神的には年上のハズなのに。
それこそ『上が迷えば、下の者たちはもっと迷ってしまうから』という理由で定められたその教えは、原作ゲームのスタッフ内でも共有された公式設定だ。
その教えを忠実に守ってきたブレイン殿下が今、守りきれずにいる理由をかんがえてみれば、まちがいなく俺が絡んでいるからだった。
……うん、なかなか愛されてるじゃん、俺。
それがわかったのなら、こちらがとれる選択肢なんて、決まったようなものだ。
そっと席を立つと、テーブルをはさんで反対側のブレイン殿下のもとへと歩いていく。
「あーもう、あなたは余計なことで悩みすぎなんですよ!」
横に立ったところで腕をのばし、椅子に腰かけ、うつむいて思案しているそのあたまごと、ぎゅっと抱きしめる。
「っ!?えっ?ちょっ……!?」
「はいはい、そこはもっと気を楽にしていきましょう」
とたんにビクッと肩をゆらしておどろくブレイン殿下をなだめるように、己の腕の力をゆるめると、心を満たす愛おしさのままにあたまをなでた。
艶やかな紫の髪は、やはりきちんと手入れをされているだけに、とても手ざわりがいい。
そしてひとしきりあたまをなでたあと、乱れた髪を直したところで、スッと身をかがめておでこに軽くキスをする。
まるで幼い子どもにするようなこれは、本来なら不敬と言われても仕方ないことかもしれないんだけど。
ついでに、おでことはいえ自分からキスをするのも、はずかしくてたまらない。
でもめずらしく相手が弱っている今だからこそ、存分に甘やかしてあげたかった。
「俺はあなたにふりまわされるの、嫌いじゃないですよ?……それに、俺にできることなら、なんでもしてあげたいって思うくらいには好きなつもりですけど」
だから自分がおかれた環境はさておき、恋人のふりをするのは、やぶさかではないのだと告げる。
どうだ、俺からデレるのなんて、めちゃくちゃ貴重なんだからな?!
……って、正直めちゃくちゃはずかしいし、言ってるそばから顔が熱くてたまらないんだけどさ。
「あ~~っ、もうっ!どうしてキミはマジメな顔で、そういう不意打ちみたいなことをするのかな!?」
気がつけば俺以上に顔を真っ赤にしたブレイン殿下に、みぞおちのあたりに顔をうずめて隠すみたいに全力でしがみつかれていた。
う~ん、これって一応、甘えてくれてるってことでいいのかな?
腰に手をまわしたまま、ぐりぐりと押しつけられるあたまは、きっと照れ隠しなんだと思う。
でも、その照れにしたって、本気で隠そうとしていないのは明らかだった。
だって、もしブレイン殿下がその気なら、きっと己の感情くらいは平然と抑えられる人のハズなんだ。
たとえ内心でどれだけ動揺しようとポーカーフェイスをつらぬけるし、こんな風に耳まで赤くなることなんてないと思う。
少なくとも、原作ゲームのなかでの彼は、王族としてそういう教育を受けてきたキャラクターとして設定されていた。
───つまり、こうやって己の弱いところもすなおに見せてくれるくらいには、俺のこと信頼してくれてるってことだろ?
それがなにより、うれしかった。
「いつもあなたには甘やかされてばかりなので、たまには逆もいいかなって。これでも幼いころからパレルモ様の面倒を見てきたおかげで、ワガママの対応にはなれてるんですから、もっと甘えてくれていいんですよ?」
努めてなんてことないような口調で、笑顔を見せる。
「そんな、『ワガママ』って、キミねぇ!」
ぎゅっと抱きしめていた腕の力を抜きながら、ブレイン殿下が言いかえしてくる。
そのほっぺたは、いまだに赤いままだった。
「んー、でも俺、本来は甘やかされるよりも、甘やかすほうが得意なんですよね……」
苦笑を浮かべつつ、そんな相手の真っ赤なほっぺたにやさしく触れる。
あぁ、こういう時間って、しあわせだなぁって、しみじみと思う。
……これが惚れた弱みってヤツなのかな?
うん、いつも見上げる位置にあるブレイン殿下の顔が俺よりも下に見えるってのも、なんだか新鮮だし。
というか、間近なところからその顔面の良さを浴びて、かえってまぶしさ倍増なだけの気もしなくはないけど。
「一応この件に関しては、まったく勝機が見えないってわけでもないですしね」
「……本当に?」
「えぇ、まぁ……」
疑わしそうに見上げてくるブレイン殿下の視線を受け止め、こっくりとうなずく。
無論、薄氷の上を渡るようなあやうさはあれど、それは『俺』だからこそ抱ける確信のようなものだった。
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