上 下
103 / 188

103:証人喚問からの反論スタート……?

しおりを挟む
「ではパレルモ・ポット・ライムホルン、君の意見を聞こう。そこにいるテイラー・ストゥレイン・ダグラスにいじめられていたというのは事実かね?」
「テイラーは、いっつもボクにうるさいことばっかり言ってたもん!今朝もリオンくんにヒドイこと言われたし、ボクは悪くないのに……!!」
 校長からの問いかけに、目にいっぱいの涙をためたパレルモ様が訴える。

 この部屋は対人魔法が効かないハズなのに、それでもなお、『あなたはなにも悪くない』と言ってチヤホヤしたくなるくらいのビジュアルだった。
 事実、何人もの教師たちも、心を動かされたような顔をしている。
 いいよな、公式設定からして『天使のような』と称される外見だけあって、そのかわいらしさは折り紙つきだ。

「では、日常的にいじめられていたと感じていたということですか?」
「わかんないよ!そんなこと言われても!」
 ……うん、これがそこら辺の5歳児の言動ならばあたりまえだけど、パレルモ様は10代なかばって、それなりに分別のつく年齢だもんな?

 それを思うと、さすがにこれは、あたまが痛い。
 しかも学のない平民ならともかく、公爵家の嫡男だぞ?
 あんまりにも分別がなさすぎるだろって、そう思ってしまう。
 まるで空気を読めていない、とも言うべきか。

 だいたい日常的に俺がうるさいことを言うのは、パレルモ様が自ら危険なところに近寄ろうとするからだろ!
 それこそ、あの日不良たちの部屋にお菓子につられて、まんまと連れ込まれた日のような……。
 一応俺がお目付け役としてパレルモ様を見るようにと、ライムホルン公爵から申しつかっているんだぞ?

「───では、次に今名前の出たリオン・ペッパー・スコヴィル殿下、どうぞご発言を」
「今までのベル・パプリカの発言は、聞くに耐えない妄言だらけだ!なにひとつとして、事実ではない!」
 そうしてリオン殿下は、やや早口になりながらも、今朝のパレルモ様が泣き出すまでの顛末を正確に語った。

 内容がやけに詳細なのは事実だからだろうかと思う気持ちに加え、王族であるリオン殿下がウソをつくハズがないという傍聴者たちの妄信的な思い込みがある一方で、ダグラス家という俺の実家にたいする評判の悪さは、ベルの言う『たぶらかされた』状態ゆえにかばおうとしているのだという見解も引き出してしまったらしい。
 おかげで傍聴席側の反応は様々だった。

 リオン殿下につづいて、その横に座るセブンも、俺たちにならって挙手をしてから、今のリオン殿下の発言に相違がない旨と、そして今朝のパレルモ様の発言が『リオンくんがいじめる』と『みんながいじめる』であり、俺の名前を出していないのだと訂正をもとめる発言をする。

 う~ん、ベルとはちがって、それ以外の生徒たちはきちんとまじめに、ウソをつかないという約束を守っているんだよなぁ……。
 さっきからベルは、自らの首を絞めてると気づかないもんかね?

「ベル・パプリカ、君の証言と、証人たちの意見が食いちがっているようだが、それについての弁明はあるか?」
「だから!そこのダグラスが変な色気をふりまいて、みんなをたぶらかしたんですよ!!」
「……なるほど、君の主張は一貫しているね」

 ───鼻白んだようにそう言う校長の口もとには、うっすらとした冷笑が浮かんでいた。
 はたしてそれは、どちらにたいするものなんだろうか?
 そして、いよいよ話は俺のほうへと、もどされた。

「それでは訴えられたテイラー・ストゥレイン・ダグラス、君にも反論や弁明の機会をあたえよう」
「ありがとうございます、それではさっそく反論を。先ほどのベル・パプリカが示した私がパレルモ様をいじめていた理由のひとつとしてあげた寮の部屋の交換にかかる改修の件ですが、すでに今朝にはあらかた作業を終えています」
 まずは、確実に言えるところからスタートする。

「ウソ!?どうやって?!いくら付き人が多くたって、ふつうは何日もかかるものでしょう!?」
 大仰におどろいて見せたベルは、本心からおどろいているように見えた。

「我が家が経営する商会経由で、改修のための職人を派遣してもらい、夜どおし作業してもらいましたから」
 言外に、付き人も少なくて職人も雇えないおまえのような貧乏一家といっしょにするなと、ほんのりと嫌みをかえす。

「なにそれ、ズルしてるじゃん!夜どおしとか超ブラックだし、外部の人を寮内に入れるのはダメじゃなかったっけ?!先生、この人、校則違反してますけどっ!?」
 これもまた、ゲーム内エピソードで出てきた知識だろう。
 俺を指差して校長に訴えるベルは、口調がくずれはじめていることにも気づかず、勝ち誇った顔をしていた。

「その件については、ここにある許可証のとおり、学校の事務局にたいし造作の申請をしたうえで、正式に許可を得てやったものです」
「ウソッ?!そんな申請、あるなんて知らないしっ!」
 まぁ、ゲームのなかのエピソードには、そこら辺までは描かれてないしな。

「……ふしぎですね、部外者の寮への無断立ち入り禁止は知っているのに、転入してきたばかりなのに、部屋の改修にかかる造作申請のことは知らないなんて?」
 本来なら、校則について書かれた分厚い本のなかで、寮に関する項目として、おなじページに記載されていることのハズなのに。

 まるで最初から、自らの部屋を改修する必要がないと、調べもしなかったみたいだ。
 そんなふくみを持たせた俺からの問いかけに、ベルは思いっきり視線をさまよわせる。

 あぁ、これでこの性別変更済みベルは侵食者、もしくはそれに近い存在であるとの確信を深められた。
 この世界に関する知識はゲームからで、ついでに最初から俺をパレルモ様の部屋から追い出すシナリオに改変したのを、知ってたんだろ?

 と、そのとき。
 ふたたび証人席のセブンが挙手をした。

「証人のセブン・ナガ・スコーピオン、まだなにかあるのかね?」
「はい、今のやり取りでどうしても確認したいことができました。質問の許可を求めます」
「……いいでしょう、どうぞ」
 校長に許可を得たセブンは、キッとベルのほうに向きなおる。

「さっきあんたは、テイラーがパレルモに寮の同室から『追い出された』から『逆恨みした』と言っていたが、もともと同室だったヤツが自分のせいで追い出されるとわかっていて、なぜパレルモとの同室を辞退しなかったんだ?伯爵家のテイラーは男爵家のあんたより、身分も上なのに」

 目の据わった状態のセブンに問いかけられ、ベルがビクッと肩をゆらした。
 それは昨夜の夕食会の席でも、ロイヤルなご兄弟のあいだであがった話題だった。
 それを思い出したのか、リオン殿下もピクリと肩がハネる。

「だって、パレくんがせっかく好意で誘ってくれたのに、断るなんて申し訳ないでしょ!?」
 あくまでもパレルモ様の顔を立てたのだと主張するベルに、セブンは冷笑を浮かべる。

「ほう、それにあんたは、テイラーが部屋の改修を今朝には終えたと告げたとき、『ふつうは何日もかかる』ものだと認識していた。それはつまり、『己のせいでテイラーが何日も寝る部屋がなくなる』可能性を認識していたにもかかわらず、そのまま気づかうこともせずに部屋を代わってもらったということだな?しかも、ろくに感謝もせずに」
「そ、それは……」
 とたんにベルの顔色が悪くなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL
オメガバースBLです。 受けが妊娠しますので、ご注意下さい。 コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。 ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。 アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。 ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。 菊島 華 (きくしま はな)   受 両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。 森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄  森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。 森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟 森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。 健司と裕司は二卵性の双子です。 オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。 男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。 アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。 その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。 この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。 また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。 独自解釈している設定があります。 第二部にて息子達とその恋人達です。 長男 咲也 (さくや) 次男 伊吹 (いぶき) 三男 開斗 (かいと) 咲也の恋人 朝陽 (あさひ) 伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう) 開斗の恋人 アイ・ミイ 本編完結しています。 今後は短編を更新する予定です。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

BL
公爵家の長女、アイリス 国で一番と言われる第一王子の妻で、周りからは“悪女”と呼ばれている それが「私」……いや、 それが今の「僕」 僕は10年前の事故で行方不明になった姉の代わりに、愛する人の元へ嫁ぐ 前世にプレイしていた乙女ゲームの世界のバグになった僕は、僕の2回目の人生を狂わせた実父である公爵へと復讐を決意する 復讐を遂げるまではなんとか男である事を隠して生き延び、そして、僕の死刑の時には公爵を道連れにする そう思った矢先に、夫の弟である第二王子に正体がバレてしまい……⁉︎ 切なく甘い新感覚転生BL! 下記の内容を含みます ・差別表現 ・嘔吐 ・座薬 ・R-18❇︎ 130話少し前のエリーサイド小説も投稿しています。(百合) 《イラスト》黒咲留時(@black_illust) ※流血表現、死ネタを含みます ※誤字脱字は教えて頂けると嬉しいです ※感想なども頂けると跳んで喜びます! ※恋愛描写は少なめですが、終盤に詰め込む予定です ※若干の百合要素を含みます

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

副会長様は平凡を望む

BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー 『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』 …は? 「え、無理です」 丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。

処理中です...