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90:俺様王子がデレてきた

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 サラリとした短い金髪に、ロイヤルブルーの瞳が涼しげな目もとをいろどる。
 キラキラとした、いかにも王子様然としたリオン殿下は、そのにじみ出るロイヤルオーラとあいまって、どうにも近寄りがたい雰囲気をまとっている。

 さらに原作ゲームではメイン攻略キャラクターであり、わりと正義感が強めだからこそ、ある意味当て馬的立ち位置の腹黒姑息系キャラクターの原作パレルモとは、そりが合わないという設定だった。
 けれど昨夜まではリオン殿下も、パレルモ様が無意識にふりまく魅了の魔法にかかっていたからこそ、無条件にかわいいと愛でていたわけで。

 この世界が整合性を求めた結果なのかわからないけれど、その取りまきのひとりである俺は、これまでその原作パレルモへの嫌悪分もまとめて引き受けているかのように、リオン殿下からは蛇蝎のごとく嫌われていた。

 まさか、そんなリオン殿下からわざわざ俺に話しかけてくるなんて。
 いや、魅了の魔法自体は、ブレイン殿下の誘導もあって昨夜のうちに解けたとは思うけど、俺への嫌悪感がそれで減るわけでもあるまいし……。
 一瞬あまりに予想外のことに呆けそうになり、あわててあたまを下げる。

「おはようございます、リオン殿下。ご心配いただきまして、ありがとうございます」
「……あのあと、兄上が無体を働いたのではないか?ツラかったなら、遠慮なく俺に言え。代わりに抗議してやるから」
 ……しかも、ふつうに心配されるとか、めちゃくちゃ意外だ。

「昨日の様子だと、兄上は相当な惚れ込みようだったからな。正直あんな姿、はじめて見た。だからその……今朝はよく起きられたな?昨晩の兄上はかなりしつこくて大変だったんじゃないか?」
 あ、やっぱりそっちの意味での無事の確認だったか。
 まぁ、朝の時点では、まちがいなく起きあがれなかったですけどね。

 一応ブレイン殿下の寝室には、任意で防音の魔法が発動できるようになっているから、同じフロアとはいえども、昨夜のあれこれは聞こえていないハズ。
 つーか、聞かれてたら俺のメンタルが死ぬ。

「あー……はい、そうですね……」
 一瞬気まずい話題だけにごまかそうかと目が泳ぎかけたけれど、それをしても意味がないと思いなおして肯定すれば、リオン殿下からはかわいそうなものを見る目で見られた。

「やっぱり……これまで相当浮き名を流してきたせいで、うつり気なヤツだと思われがちだけど、ああ見えて兄上はものすごい一途な面もあってだな……」
「それはそうですね、よくわかります」
 それはもう、隠し攻略キャラクターの持つ魅力を目のあたりにして、落とされた側になったからこそ、よくわかる。

「弟である俺の目から見て、貴様を愛でる兄上の執着は、これまでのどんな相手でも見たことがないほどだった」
 と、そこでリオン殿下は言葉を区切る。
 伏し目がちになるせいで、長いまつげがよく見えた。

 あぁ、ブレイン殿下とは種類がちがうけど、まちがいないリオン殿下も美形だよなぁ……。
 さすがは兄弟というべきか、なんてことをふと思う。

「それに……母上も言っていたように、あの場に連れてきた恋人に、紫を身につけさせていたのははじめてだったから、兄上にとって特別な存在だというのは、まちがいようもない事実だと思うぞ───まぁ、それを言うなら今もだが」
 セリフ終わりに薄紫のカーディガンを羽織る俺をジッと見てくるその視線に、微妙な居心地の悪さを感じて目線をはずした。

 やっぱり、リオン殿下を前にすると緊張する。
 そりゃ、めちゃくちゃ嫌ってた相手が自分の兄の恋人だと紹介されたとしたら、相当複雑な心境だっただろうなぁとは思う。
 なんなら、勝手にこっちが気まずくなりそうなくらいには、その気持ちはわかる。

「……昨日みたいに、笑ってはくれないのか……?」
「え……?」
 うつむいたまま黙りこくる俺に、リオン殿下が問いかけてきた。

「いえ、あの、作り笑いが気持ち悪いとおっしゃられたので……」
 だから下手な愛想笑いもしていないのだと、そう言外に告げる。
 いくらなんでも、昨夜に言われた苦情くらいはおぼえている。

 気持ち悪い、と。
 面と向かってそう言われたし、その後にうっかり笑いかけてしまったときにも、微妙な対応をされた。
 相手に不快感をあたえるだけになってしまうくらいなら、無愛想でも真顔のままでいたほうがいいかと思ったのに……。

「っ、その件は本当にすまなかった!あれは俺がおかしかった。別にダグラスが悪いわけでもなんでもないのに、なぜか悪く言わねばならないと思い込んでいた。本当にすまない!」
 だけど思った以上に、大きな声であやまられた。
 しかも、めちゃくちゃお辞儀をされるオプション付きで。

「えぇっ!?そんなリオン殿下、どうぞお顔をあげてください!」
 そんな、王族の方にあやまられるとか、冗談じゃない!
 教室内の視線が、一気に集まるのを感じる。

「それにその件は、昨夜のうちにあやまっていただいておりますので、どうぞお気になさらず……!」
 本当になにがしたいんだよ、リオン殿下は?!

「あれから、ずっとこれまでのことをかんがえていた。本当にパレルモのわりを食うのは、いつも貴様だったが、文句ひとつ口にしていなかったと思って……」
 気むずかしそうな顔をして、リオン殿下がつづける。

 そりゃね、パレルモ様に文句なんて、言えるわけがないですよ。
 身分差ってもんがありますし。
 ついでにもう、このからだには自然と彼のワガママを聞くように刷り込まれてますから。

 ───そう言えたらよかったけれど、あいにくとそんなこと、言えるハズもない。
 結局、あいまいな笑みを浮かべるしかできなかった。
 でも。

「それだ!貴様のその寂しそうなほほえみ、それを見ると俺はこう、胸のあたりがギューッとなるんだ!」
「っ!?」
 顔を真っ赤にしてさけんだリオン殿下に、息を飲む。

 ───デジャヴと言ったらいいんだろうか?
 いや、むしろこれは例のイベントスチルを回収してしまっているだ。
 ヒロインのベルへの好感度があがったときの、そのセリフ。

 原作のほうは『その元気な笑顔』だったから、笑顔の種類はちがうけど、そんなものは些細な差だった。
 いったい、どういうことなんだよ!?
 昨日までのツンから一転して、急激にデレはじめたリオン殿下に、なんと言っていいかわからなかった。
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